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王都へ
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「もう良いであろ? 我と戦う理由ももうなかろう。そろそろアースらも目覚めるでな、我は戻るぞ」
「お待ちください!」
部屋に戻ろうとする我をアルボンが引き止めた。
「この御恩にどのように報いれば!」
「必要ない」
「そういうわけにはまいりません! 魔族は非道で冷酷、無礼だと思われておりますが、本来は違います。魔族ほど律儀な種族はおりますまい! この御恩に報いることが出来なければ、私は魔族として生きていくこともできません!」
随分と大袈裟な男である。
「その分、大切な家族を守り、愛しめば良かろう」
「それとこれとは違います!」
絶対に引かないという意志を感じるが、我としては特に何も望んではいない。
このようなことにならなければ捨て置いた命である。礼などはなから望んでなどいない。
「礼など求めておらんよ」
「今すぐ何かをなすことは不可能なことは分かっております。現状、今すぐ支払える対価も持ち合わせておりませんし」
全く折れそうもないアルボン。どうしたもんか。
「お、そうじゃ、ならば教えて欲しいことがある」
「私が黒龍様に教えられることなどありますでしょうか?」
「我とてこの世界の全てを知っておるわけではない。知らぬことの方がまだまだ多いわ」
「そうなのですか。……それで、何をお知りになりたいと?」
「ふむ……」
黒龍族が知識に長けているとはいえ、魔族だけに伝わる秘技などは知りようがない。
「……それは……」
「やはり難しいか?」
「いえ、そうではなく、なぜお知りになりたいのかと」
「……今後アースに必要になるやもしれんでな」
「あの人間ですか……不思議な魂を持ち合わせているとは感じましたが……」
「身の内に二つの魂が存在しておるからの。並の人間ではないことだけは確かじゃな」
「……本来魔族にのみ知ることが許される秘伝。黒龍様を信じ、お教えいたしましょう」
アルボンの口より聞かされたそれを、我は忘れぬよう脳に刻み込んだ。
出てきた窓より宿の中に入り、部屋に戻った。
アースもギースもまだ気持ち良さそうに寝ており、その寝顔は呆れるほど間抜け面で、思わず笑ってしまった。
本来の卵に戻り網の中に収まる。
もうすっかりここが自分の定位置だと思えることが少し不思議な感じがするが悪くないと思う。
こやつらが完全に起き出すまで我も少し眠ることとしよう。
◇◆◇◆◇◆◇
「ふぁぁぁぁ!」
目が覚めて大きく伸びをする。
窓から差し込む日差しはすっかり明るい。
「おはようございます」
俺の声で起きたのか、ギースが眠そうな目でこちらを見ている。
「おはよう」
いつもならここでシャンテの声が聞こえてきそうなのだが、今日は大人しい。
「寝てるのか?」
声をかけてみたのだが返事はなかった。
「朝食の前に朝風呂行っとくかなー?」
「あ! 僕も行きたいです!」
朝から入る風呂もまた格別で、ギースにいたっては風呂で飲むモモン牛乳にすっかりハマってしまったようで、いつ飲めるのかとキラキラした目で見つめられついつい三杯もやってしまっていた。
あれだ、ペットのおねだりに「しょーがないな」と言いながらついつい追加でおやつを与えてしまう心境と同じ感じだと思う。
風呂でもシャンテはずっと黙っていて、もしかして何かあったのかと心配になったのだが、朝食の時間には起きてきたようでやっと声が聞こえてきた。
『今日の朝食は何かの?』
『起きたのか? 随分寝てたな』
『我とてぐっすり眠る日もあるわ』
朝食は丸パンに美味そうなジャムが三種類。温サラダに目玉焼きに厚切りのベーコンと野菜スープ。
肉厚のベーコンがこんがり焼けていて実に美味そうである。
ジャムは「アポル」と「モモン」、「バロン」のジャムだった。
アポルは前世の林檎に似た果物で、食感は桃のように柔らかい。でも味は林檎である。
バロンはバナナに似たような味の果物だがその実はまん丸い。バナナのように皮はむけるがとにかく丸い果物である。
丸パンはおかわり自由でカゴに山盛りに盛られているため、ジャムは全種類たのしめそうである。
『食うか?』
『食べない選択肢などないわ』
体調でも悪いのかと思ったが元気そうである。
『ベーコンが食べたいぞ』
『はいはい』
厚切りのベーコンをナイフで切ってシャンテにやるとパクッと食い付いて美味そうに食べている。
俺は目玉焼きの黄身部分をナイフで切り、トロリと出てきた黄身をベーコンに付けて口に頬張る。
『何じゃ、その食べ方は! 我にもそれを寄越せ!』
最近食に目覚めてきたシャンテが目ざとく食い付いてきたので、同じように黄身を付けたベーコンを食べさせてみた。
『おぉ、何と! ベーコンの塩気を卵の黄身が実にまろやかにしてくれておる! これは良い!』
気に入ったらしい。
見るとギースも真似して食べている。
各種のジャムパンも二人には好評で、カゴに山盛りだったパンがすっかり空になってしまった。
「さすがに食いすぎたろ」
「美味しかったんです」
テヘッと舌を出し可愛く笑うギース。こいつ、本当に人間の姿をしていると可愛すぎるんだよな。
食堂から部屋に戻ろうとした時、宿泊カウンターとして使われている場所に男性の姿が見えた。
少し影の薄そうな男は黒髪黒目で透けるように白い肌をしていて、一見すると病弱そうに見えるのだが、目だけが妙に生気に溢れている。
長髪を後ろに一つに纏め、白いシャツに黒いズボンという姿である。
「うちの主人です」
コーネルさんが嬉しそうし紹介すると、男はペコッと頭を下げた。
「お客様でしたか」
地の底から響くような声に一瞬ゾワッとした。
「お風呂、凄かったです」
そう言うと男は目を細めて嬉しそうに笑った。
荷物をまとめて宿屋を後にする。
「途中で召し上がってください」
コーネルさんに弁当を手渡され、お礼を言って出発した。
猫になれば王都はもうすぐそこである。
「お待ちください!」
部屋に戻ろうとする我をアルボンが引き止めた。
「この御恩にどのように報いれば!」
「必要ない」
「そういうわけにはまいりません! 魔族は非道で冷酷、無礼だと思われておりますが、本来は違います。魔族ほど律儀な種族はおりますまい! この御恩に報いることが出来なければ、私は魔族として生きていくこともできません!」
随分と大袈裟な男である。
「その分、大切な家族を守り、愛しめば良かろう」
「それとこれとは違います!」
絶対に引かないという意志を感じるが、我としては特に何も望んではいない。
このようなことにならなければ捨て置いた命である。礼などはなから望んでなどいない。
「礼など求めておらんよ」
「今すぐ何かをなすことは不可能なことは分かっております。現状、今すぐ支払える対価も持ち合わせておりませんし」
全く折れそうもないアルボン。どうしたもんか。
「お、そうじゃ、ならば教えて欲しいことがある」
「私が黒龍様に教えられることなどありますでしょうか?」
「我とてこの世界の全てを知っておるわけではない。知らぬことの方がまだまだ多いわ」
「そうなのですか。……それで、何をお知りになりたいと?」
「ふむ……」
黒龍族が知識に長けているとはいえ、魔族だけに伝わる秘技などは知りようがない。
「……それは……」
「やはり難しいか?」
「いえ、そうではなく、なぜお知りになりたいのかと」
「……今後アースに必要になるやもしれんでな」
「あの人間ですか……不思議な魂を持ち合わせているとは感じましたが……」
「身の内に二つの魂が存在しておるからの。並の人間ではないことだけは確かじゃな」
「……本来魔族にのみ知ることが許される秘伝。黒龍様を信じ、お教えいたしましょう」
アルボンの口より聞かされたそれを、我は忘れぬよう脳に刻み込んだ。
出てきた窓より宿の中に入り、部屋に戻った。
アースもギースもまだ気持ち良さそうに寝ており、その寝顔は呆れるほど間抜け面で、思わず笑ってしまった。
本来の卵に戻り網の中に収まる。
もうすっかりここが自分の定位置だと思えることが少し不思議な感じがするが悪くないと思う。
こやつらが完全に起き出すまで我も少し眠ることとしよう。
◇◆◇◆◇◆◇
「ふぁぁぁぁ!」
目が覚めて大きく伸びをする。
窓から差し込む日差しはすっかり明るい。
「おはようございます」
俺の声で起きたのか、ギースが眠そうな目でこちらを見ている。
「おはよう」
いつもならここでシャンテの声が聞こえてきそうなのだが、今日は大人しい。
「寝てるのか?」
声をかけてみたのだが返事はなかった。
「朝食の前に朝風呂行っとくかなー?」
「あ! 僕も行きたいです!」
朝から入る風呂もまた格別で、ギースにいたっては風呂で飲むモモン牛乳にすっかりハマってしまったようで、いつ飲めるのかとキラキラした目で見つめられついつい三杯もやってしまっていた。
あれだ、ペットのおねだりに「しょーがないな」と言いながらついつい追加でおやつを与えてしまう心境と同じ感じだと思う。
風呂でもシャンテはずっと黙っていて、もしかして何かあったのかと心配になったのだが、朝食の時間には起きてきたようでやっと声が聞こえてきた。
『今日の朝食は何かの?』
『起きたのか? 随分寝てたな』
『我とてぐっすり眠る日もあるわ』
朝食は丸パンに美味そうなジャムが三種類。温サラダに目玉焼きに厚切りのベーコンと野菜スープ。
肉厚のベーコンがこんがり焼けていて実に美味そうである。
ジャムは「アポル」と「モモン」、「バロン」のジャムだった。
アポルは前世の林檎に似た果物で、食感は桃のように柔らかい。でも味は林檎である。
バロンはバナナに似たような味の果物だがその実はまん丸い。バナナのように皮はむけるがとにかく丸い果物である。
丸パンはおかわり自由でカゴに山盛りに盛られているため、ジャムは全種類たのしめそうである。
『食うか?』
『食べない選択肢などないわ』
体調でも悪いのかと思ったが元気そうである。
『ベーコンが食べたいぞ』
『はいはい』
厚切りのベーコンをナイフで切ってシャンテにやるとパクッと食い付いて美味そうに食べている。
俺は目玉焼きの黄身部分をナイフで切り、トロリと出てきた黄身をベーコンに付けて口に頬張る。
『何じゃ、その食べ方は! 我にもそれを寄越せ!』
最近食に目覚めてきたシャンテが目ざとく食い付いてきたので、同じように黄身を付けたベーコンを食べさせてみた。
『おぉ、何と! ベーコンの塩気を卵の黄身が実にまろやかにしてくれておる! これは良い!』
気に入ったらしい。
見るとギースも真似して食べている。
各種のジャムパンも二人には好評で、カゴに山盛りだったパンがすっかり空になってしまった。
「さすがに食いすぎたろ」
「美味しかったんです」
テヘッと舌を出し可愛く笑うギース。こいつ、本当に人間の姿をしていると可愛すぎるんだよな。
食堂から部屋に戻ろうとした時、宿泊カウンターとして使われている場所に男性の姿が見えた。
少し影の薄そうな男は黒髪黒目で透けるように白い肌をしていて、一見すると病弱そうに見えるのだが、目だけが妙に生気に溢れている。
長髪を後ろに一つに纏め、白いシャツに黒いズボンという姿である。
「うちの主人です」
コーネルさんが嬉しそうし紹介すると、男はペコッと頭を下げた。
「お客様でしたか」
地の底から響くような声に一瞬ゾワッとした。
「お風呂、凄かったです」
そう言うと男は目を細めて嬉しそうに笑った。
荷物をまとめて宿屋を後にする。
「途中で召し上がってください」
コーネルさんに弁当を手渡され、お礼を言って出発した。
猫になれば王都はもうすぐそこである。
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