18 / 55
旅の始まり
狩り、再び
しおりを挟む
「ところでアースさんはこんなところで、あんな姿で何をなさっていたのですか?」
「狩りをしながら身体強化だな」
「へぇ……それは人間の姿では出来ないことなのですか? 正直申しまして、あのように小さくか弱そうな姿より、今の姿で戦った方が勝機はあるかと思うのですが。魔法もありますし」
「うっ……」
痛いところを突かれてしまった。
『ギースよ、言うてやるな。アースはの、魔法が使えんのじゃ』
「そうだったのですね! これは申し訳ないことを言いました!」
素直に謝罪し、深々と頭を下げるギース。そこいらにいる人間よりも人間が出来ていやしないか!? 中身地龍だぞ!?
「あの姿は猫って言うんだが、あの姿でなら俺は強くなれるみたいなんだよ、魔法がなくても」
「そうなんですね! あの体にしては重い打撃だなとは思いましたが、そういうことでしたか。あの姿はネコと言うのですね」
全く効いていなかったのに……。
「ケルベルースは倒せるようになったんだが、ドスベアーはまだ少しばかり早かったようでなぁ」
「へぇ! あの体でケルベルースを倒せるんですか! それは凄い!」
何だろうか、こいつ、地龍なのに良い奴過ぎないか?
「ケルベルースが倒せるのなら、次は『シシーガ』辺りがいいかもしれませんね。僕より少し小さめの魔物です」
「おぉ、いいね! でも、そんなやつこの辺にはいないからな」
「あっちの方にいましたよ?」
ギースは草原の更に奥の方を指さした。
「ここから数キロほど離れたところにいるのを見掛けましたね」
猫の姿であれば結構近いかもしれない。
ということで猫に変化してギースの指さした方向をひた走った。
空は薄らと明るくなってきており、夜明けが近いようだ。
俺の速度に着いて来れなかったギースは「僕はこの辺りにいますから、どうぞ行ってきてください」と手を振って見送ってくれた。
『あいつ、大丈夫か?』
『この辺りでギースに勝てるものはおらんよ。ガクが来なければ大丈夫じゃろう』
どのくらい走ったのか、空は更に明るさを増し、いよいよ日が上り始めるかという頃、丁度よさそうな魔物を見つけた。
『あれがシシーガか?』
『うむ、あれじゃな』
猪を一回り大きくしたくらいの、土色の皮膚をした魔物が前足と牙を使って土を掘っていた。
口の両端から反り返った牙のような角を生やしており、こめかみにも同様の角が二本生えている。
当然毛はない。
鼻はべチャリと潰れたような形をしていて、何となくずっと見ているとドリスを彷彿としてきてムカムカしてくる。
『腹立たしい顔をしておるの』
どうやらシャンテも同じように感じているようだ。
そいつに狙いを定め、気付かれないように背後を取ると、無防備にさらけ出されている尻にクロス切りをお見舞いしてみた。
「ピギャァァァァァ!!」
尻にはしっかりと切り傷が出来ていて、ドスベアーより皮膚の固さはなくてホッとした。
土に突っ込んでいた顔を上げこちらを振り返ったシシーガを見て、更にムカムカしてきた。
ピンク色の角の取れた三角形のような鼻には土がべっとり付いていて、口の下の肉はタプタプと揺れている。
『好きになれん顔をしておるな』
『魔物版ドリスだな、ありゃ』
『プッ……ククッ……アハハハハ!』
初めてシャンテの笑い声を聞いた。
『似ておる! 似すぎておるわ! あれは駄目じゃ! ドリス、プッ! アハハハハ!』
ツボに入ってしまったのかずっと笑っている。
後ろ足で地面を蹴りながら、頭を下げていたシシーガが一直線にこちらに突進してきたので、それをジャンプでかわしつつ、その背に飛び乗った。
一度走り出すと止まれないのか、大きな木に思い切り激突したシシーガは、背に俺が乗っていることに気付いていないのか、辺りをキョロキョロと忙しなく見渡し始めた。
シシーガに突進された木は激しく揺れ、ボトボトと木の実が落ちてきた。
あの実は『ココッタ』じゃないだろうか? 拾って帰りたい。
『背中に神経走ってないのか?』
『単に知能が足りぬのだろ?』
俺を見失ったと思ったのか、ゆっくりと歩き出したシシーガ。
無抵抗の相手に攻撃を与えるなんてと一瞬思ったが、気付かないシシーガがアホなだけだと、後頭部に猫パンチとクロス切りを打ち込んだ。
さすがに俺に気付いたシシーガは、また醜い叫び声を上げ、ゴロッと寝そべると地面を転がり出した。
既に背中には俺がいないことも気付いていないようだ。本当に色々と残念な魔物である。
ある程度転がると立ち上がって地面を見ているのだが、そこに俺がいるはずもない。
そんなシシーガに駆け寄り腹に猫パンチを連打すると、ドーンと音を立ててシシーガは倒れた。
だが倒れただけでまだ元気はありそうだ。
起き上がるのに時間を取られている間に腹に何度も猫パンチを打ち込みつつ爪を立てる。
最後の爪攻撃で皮膚が大きく避けて血が吹き出し、それを全身に浴びてしまった。
一瞬目に入り視界が染まった。
ブルブルッと身を震わせて血を飛ばし、すぐさま攻撃に移る。
シシーガはフゴフゴと鼻を鳴らしながらも立ち上がろうとしているのだが、腹の傷が効いているようで膝に力が入らないようだ。
『なぁ、ちなみにこいつ、売れる部分はあるのか?』
『シシーガは肉が売れるぞ? 知らんのか?』
うちでは肉として食卓並んでいたのは主にウサータで、たまに野鳥の肉が並んでいたりしていたが、シシーガの肉は出たことがなかった。
貧乏だったから買えなかったのだろうか?
何だか切ない気持ちになってきた。
『睾丸は珍味としても好まれておるらしいな』
『こうっ!?』
切ない気持ちをぶち壊すのには十分すぎる情報だった。
聞かなかったことにしよう。魔物版ドリスの……そんなもんを食べる想像はしたくない!
その後、立ち上がろうと上げた頭を上から猫パンチで何度も叩いていたら、シシーガは事切れた。
それからまたシシーガと戦い、あっさり倒せるようになった頃には朝日が地平線からすっかり顔を出していた。
「狩りをしながら身体強化だな」
「へぇ……それは人間の姿では出来ないことなのですか? 正直申しまして、あのように小さくか弱そうな姿より、今の姿で戦った方が勝機はあるかと思うのですが。魔法もありますし」
「うっ……」
痛いところを突かれてしまった。
『ギースよ、言うてやるな。アースはの、魔法が使えんのじゃ』
「そうだったのですね! これは申し訳ないことを言いました!」
素直に謝罪し、深々と頭を下げるギース。そこいらにいる人間よりも人間が出来ていやしないか!? 中身地龍だぞ!?
「あの姿は猫って言うんだが、あの姿でなら俺は強くなれるみたいなんだよ、魔法がなくても」
「そうなんですね! あの体にしては重い打撃だなとは思いましたが、そういうことでしたか。あの姿はネコと言うのですね」
全く効いていなかったのに……。
「ケルベルースは倒せるようになったんだが、ドスベアーはまだ少しばかり早かったようでなぁ」
「へぇ! あの体でケルベルースを倒せるんですか! それは凄い!」
何だろうか、こいつ、地龍なのに良い奴過ぎないか?
「ケルベルースが倒せるのなら、次は『シシーガ』辺りがいいかもしれませんね。僕より少し小さめの魔物です」
「おぉ、いいね! でも、そんなやつこの辺にはいないからな」
「あっちの方にいましたよ?」
ギースは草原の更に奥の方を指さした。
「ここから数キロほど離れたところにいるのを見掛けましたね」
猫の姿であれば結構近いかもしれない。
ということで猫に変化してギースの指さした方向をひた走った。
空は薄らと明るくなってきており、夜明けが近いようだ。
俺の速度に着いて来れなかったギースは「僕はこの辺りにいますから、どうぞ行ってきてください」と手を振って見送ってくれた。
『あいつ、大丈夫か?』
『この辺りでギースに勝てるものはおらんよ。ガクが来なければ大丈夫じゃろう』
どのくらい走ったのか、空は更に明るさを増し、いよいよ日が上り始めるかという頃、丁度よさそうな魔物を見つけた。
『あれがシシーガか?』
『うむ、あれじゃな』
猪を一回り大きくしたくらいの、土色の皮膚をした魔物が前足と牙を使って土を掘っていた。
口の両端から反り返った牙のような角を生やしており、こめかみにも同様の角が二本生えている。
当然毛はない。
鼻はべチャリと潰れたような形をしていて、何となくずっと見ているとドリスを彷彿としてきてムカムカしてくる。
『腹立たしい顔をしておるの』
どうやらシャンテも同じように感じているようだ。
そいつに狙いを定め、気付かれないように背後を取ると、無防備にさらけ出されている尻にクロス切りをお見舞いしてみた。
「ピギャァァァァァ!!」
尻にはしっかりと切り傷が出来ていて、ドスベアーより皮膚の固さはなくてホッとした。
土に突っ込んでいた顔を上げこちらを振り返ったシシーガを見て、更にムカムカしてきた。
ピンク色の角の取れた三角形のような鼻には土がべっとり付いていて、口の下の肉はタプタプと揺れている。
『好きになれん顔をしておるな』
『魔物版ドリスだな、ありゃ』
『プッ……ククッ……アハハハハ!』
初めてシャンテの笑い声を聞いた。
『似ておる! 似すぎておるわ! あれは駄目じゃ! ドリス、プッ! アハハハハ!』
ツボに入ってしまったのかずっと笑っている。
後ろ足で地面を蹴りながら、頭を下げていたシシーガが一直線にこちらに突進してきたので、それをジャンプでかわしつつ、その背に飛び乗った。
一度走り出すと止まれないのか、大きな木に思い切り激突したシシーガは、背に俺が乗っていることに気付いていないのか、辺りをキョロキョロと忙しなく見渡し始めた。
シシーガに突進された木は激しく揺れ、ボトボトと木の実が落ちてきた。
あの実は『ココッタ』じゃないだろうか? 拾って帰りたい。
『背中に神経走ってないのか?』
『単に知能が足りぬのだろ?』
俺を見失ったと思ったのか、ゆっくりと歩き出したシシーガ。
無抵抗の相手に攻撃を与えるなんてと一瞬思ったが、気付かないシシーガがアホなだけだと、後頭部に猫パンチとクロス切りを打ち込んだ。
さすがに俺に気付いたシシーガは、また醜い叫び声を上げ、ゴロッと寝そべると地面を転がり出した。
既に背中には俺がいないことも気付いていないようだ。本当に色々と残念な魔物である。
ある程度転がると立ち上がって地面を見ているのだが、そこに俺がいるはずもない。
そんなシシーガに駆け寄り腹に猫パンチを連打すると、ドーンと音を立ててシシーガは倒れた。
だが倒れただけでまだ元気はありそうだ。
起き上がるのに時間を取られている間に腹に何度も猫パンチを打ち込みつつ爪を立てる。
最後の爪攻撃で皮膚が大きく避けて血が吹き出し、それを全身に浴びてしまった。
一瞬目に入り視界が染まった。
ブルブルッと身を震わせて血を飛ばし、すぐさま攻撃に移る。
シシーガはフゴフゴと鼻を鳴らしながらも立ち上がろうとしているのだが、腹の傷が効いているようで膝に力が入らないようだ。
『なぁ、ちなみにこいつ、売れる部分はあるのか?』
『シシーガは肉が売れるぞ? 知らんのか?』
うちでは肉として食卓並んでいたのは主にウサータで、たまに野鳥の肉が並んでいたりしていたが、シシーガの肉は出たことがなかった。
貧乏だったから買えなかったのだろうか?
何だか切ない気持ちになってきた。
『睾丸は珍味としても好まれておるらしいな』
『こうっ!?』
切ない気持ちをぶち壊すのには十分すぎる情報だった。
聞かなかったことにしよう。魔物版ドリスの……そんなもんを食べる想像はしたくない!
その後、立ち上がろうと上げた頭を上から猫パンチで何度も叩いていたら、シシーガは事切れた。
それからまたシシーガと戦い、あっさり倒せるようになった頃には朝日が地平線からすっかり顔を出していた。
18
お気に入りに追加
109
あなたにおすすめの小説
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした
葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。
でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。
本編完結済みです。時々番外編を追加します。
【R18】童貞のまま転生し悪魔になったけど、エロ女騎士を救ったら筆下ろしを手伝ってくれる契約をしてくれた。
飼猫タマ
ファンタジー
訳あって、冒険者をしている没落騎士の娘、アナ·アナシア。
ダンジョン探索中、フロアーボスの付き人悪魔Bに捕まり、恥辱を受けていた。
そんな折、そのダンジョンのフロアーボスである、残虐で鬼畜だと巷で噂の悪魔Aが復活してしまい、アナ·アナシアは死を覚悟する。
しかし、その悪魔は違う意味で悪魔らしくなかった。
自分の前世は人間だったと言い張り、自分は童貞で、SEXさせてくれたらアナ·アナシアを殺さないと言う。
アナ·アナシアは殺さない為に、童貞チェリーボーイの悪魔Aの筆下ろしをする契約をしたのだった!
キャンピングカーで往く異世界徒然紀行
タジリユウ
ファンタジー
《第4回次世代ファンタジーカップ 面白スキル賞》
【書籍化!】
コツコツとお金を貯めて念願のキャンピングカーを手に入れた主人公。
早速キャンピングカーで初めてのキャンプをしたのだが、次の日目が覚めるとそこは異世界であった。
そしていつの間にかキャンピングカーにはナビゲーション機能、自動修復機能、燃料補給機能など様々な機能を拡張できるようになっていた。
道中で出会ったもふもふの魔物やちょっと残念なエルフを仲間に加えて、キャンピングカーで異世界をのんびりと旅したいのだが…
※旧題)チートなキャンピングカーで旅する異世界徒然紀行〜もふもふと愉快な仲間を添えて〜
※カクヨム様でも投稿をしております
あの、神様、普通の家庭に転生させてって言いましたよね?なんか、森にいるんですけど.......。
▽空
ファンタジー
テンプレのトラックバーンで転生したよ......
どうしようΣ( ̄□ ̄;)
とりあえず、今世を楽しんでやる~!!!!!!!!!
R指定は念のためです。
マイペースに更新していきます。
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
来訪神に転生させてもらえました。石長姫には不老長寿、宇迦之御魂神には豊穣を授かりました。
克全
ファンタジー
ほのぼのスローライフを目指します。賽銭泥棒を取り押さえようとした氏子の田中一郎は、事もあろうに神域である境内の、それも神殿前で殺されてしまった。情けなく申し訳なく思った氏神様は、田中一郎を異世界に転生させて第二の人生を生きられるようにした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる