5 / 55
旅の始まり
忍び寄る影
しおりを挟む
「そいつを、知ってるのか?」
『知っておるな……あやつは青龍族のお尋ね者よ』
黒龍の話によると、そいつの名前は『ガク』というらしい。
好戦的な青龍の中でも群を抜いて凶暴で、同族殺しをしたことでお尋ね者になったそうだ。
国境を襲ったのもやはりそいつで、その当時はまだお尋ね者になる前だったようだが、国境を襲ったことを自慢気に風潮して回っていたのだとか。
この世界には飛龍と人間が一括りにして呼んでいる龍族という種族がいて、龍族は四つに分かれているらしい。
今、俺の目の前にいる黒い鱗の飛龍は黒龍族、親父を殺した青い鱗の飛龍が青龍族、青龍と同じように好戦的で青龍よりも知能が劣るのが赤い鱗の赤龍族、白い鱗を持ち聖魔法を操れるのが白龍族。
元は龍族として、人間に干渉することなく暮らしていたそうだが、そんなことは遠い昔の話で、今では魔物の頂点のような位置付けになっていることを黒龍は怒っていた。
『叡智の黒龍、癒しの白龍、覇気の赤龍、闘志の青龍などと呼ばれ、崇められておった時代もあったがのぉ』
「飛龍は魔物じゃないのか?」
『あんなものと一緒にするでない! 大まかな感情はあれど、知能の程度が知れているあんなもの達と一緒にされるなど、屈辱以外の何ものでもないわ!』
「いや、すまん……」
話している限り、こいつにはしっかりした知能があるし、きっと俺より博識なのだろうと思う。
何より、頭に直接話し掛けるなんて高等技術は使えるし、よく分からないが俺の体に何かをして記憶を蘇らせてくれたのだ、凄いやつなことには違いない。
見た目は完全に魔物だが……。
『……まずいな……気付かれたか』
一瞬、空気が張り詰めた気がした。
『そなたに頼みがある』
「何だよ?」
『我はこれより、我が身を生まれ変える』
「は? 何だそれ?」
『良いから黙って聞け! 我はこれより卵となり、新たな黒龍として生まれ変わる。そなたには、我が生まれ変わり、卵より孵るその時まで、我を保護してもらいたい』
「保護?」
『簡単なことよ。我を誰にも奪わせなければ良いだけのこと。例えば……ガクに』
「ガクって、あの青い飛龍だろ? あんなが奪いに来たら、俺、即殺されるって! 無理だろ!」
『そなたにはスキルがあるだろう? それを使って我を守れ』
「使い方も知らねぇのに、どうやって」
『発動させる言葉を唱えればいいのよ』
「そんな言葉、知らねぇよ」
『何でも良いのだ、きっかけになれば』
憧れの長ったらしい詠唱を唱えてみたかったが、咄嗟にだと何も浮かばない。
『時間がない。我は卵になるゆえ、そなたはその間にスキルを発動させよ!』
黒龍の体が歪みながら縮んでいく。見る間にグングン縮んでいき、最終的に濃い灰色の卵になった。
「え? これを俺が守るのか?」
卵の大きさは俺の身長(百七十八センチ)と同じくらいはある。
とてもじゃないが腕すら回らない位デカい。
ちょっと持ち上げてみようと思ったが、俺の力ではピクリとも動かせなかった。
「こんなのどうしろって言うんだよ……」
『人間とは本当に非力なのだな。こんな卵一つ動かせないとは……』
卵になっても脳内に語りかけることは出来るようで、頭に声が響いた。
『少し待っておれ』
そう言うと、卵がカタカタと揺れ、その後面白いほど縮んでいった。
『いかに非力とはいえ、この大きさならば他愛もないだろ?』
足元にコロンと転がってきたのは、前世で見たうずらの卵ほどのサイズまで縮んだ卵。
流石の俺でもこれなら造作もなく持ち運べるが、最初からこのサイズになれるならそうして欲しかった。
「潰しちまいそうだな……」
『人間などに我が潰せるわけがなかろう?』
試しに握ってみたが、石のように固かった。
『なぜそなたはスキルを発動させんのだ? 早うせんか! あやつが来る!』
「何焦ってんだよ! まぁ、いいや……んーと……『スキル発動!』」
我ながら情けないほどそのまんまである。
言葉を発した途端に俺の体から淡い光が出て、視界がグングン下がっていった。
「体が……縮んでる?」
光が収まると、地面はすぐ近くで、何より視界にフサフサとした毛の生えた小さな足が見え、驚きのあまり思わず叫んだ。
「ニャァァア!」
『何とも面妖なものへと変化したもんだな。長年生きておるが、そのような姿のものは見たことがない』
「ニャーニャー!」
話そうとしても「ニャー」しか出てこない。
この鳴き声はどう考えても前世で見た猫! え? 俺、猫になったの?
『落ち着け! 頭の中で我に語りかけてみよ』
『ど、ど、どうなってんだよ! 何が起きたんだ!』
『スキルが発動して、変化したのよ』
『い、今、俺、どんな姿になってるんだ!?』
『ほれ、こんな感じだな』
目の前に鏡のようなものが現れた。
そこに写し出されていたのは、前世で俺が見ていたあの猫そっくりな姿だった。
メインクーンを思わせる長毛の猫で、胸元にフサフサしたタテガミのような毛を生やし、長い尻尾のあの猫。
濃いグレーのハチワレで、手足と腹は白く、背は濃いグレー。
目の色だけがあの猫とは違う深い青。
あの猫は黄色っぽい目をしていた。
ラグドールなのかと思ったが、親にワガママを言って買ってもらった猫図鑑を見て、違うと思った。
メインクーンのような大きさではなかったが、その血が入っていたのか、姿形はどう見てもメインクーンだったあの猫。
確かに俺は、前世で死ぬ前に「猫になりたい」と言った。
でもそれは、あの世界での話であり、このファンタジーな世界での話ではない!
『こんな姿でどうしろって言うんだよぉぉお!
』
『その者に不利になるスキルなど発動せん。その姿がそなたにとって必要なものだったのだろうて』
『いやいや、猫だぞ!? 猫に何が出来るって言うんだよ!』
『ほぉ、それは『ネコ』と言うのか。我にもまだまだ知らぬことがあったのだな』
黒龍が妙にしみじみとそんなことを言ったが、俺はそれどころではなかった。
『知っておるな……あやつは青龍族のお尋ね者よ』
黒龍の話によると、そいつの名前は『ガク』というらしい。
好戦的な青龍の中でも群を抜いて凶暴で、同族殺しをしたことでお尋ね者になったそうだ。
国境を襲ったのもやはりそいつで、その当時はまだお尋ね者になる前だったようだが、国境を襲ったことを自慢気に風潮して回っていたのだとか。
この世界には飛龍と人間が一括りにして呼んでいる龍族という種族がいて、龍族は四つに分かれているらしい。
今、俺の目の前にいる黒い鱗の飛龍は黒龍族、親父を殺した青い鱗の飛龍が青龍族、青龍と同じように好戦的で青龍よりも知能が劣るのが赤い鱗の赤龍族、白い鱗を持ち聖魔法を操れるのが白龍族。
元は龍族として、人間に干渉することなく暮らしていたそうだが、そんなことは遠い昔の話で、今では魔物の頂点のような位置付けになっていることを黒龍は怒っていた。
『叡智の黒龍、癒しの白龍、覇気の赤龍、闘志の青龍などと呼ばれ、崇められておった時代もあったがのぉ』
「飛龍は魔物じゃないのか?」
『あんなものと一緒にするでない! 大まかな感情はあれど、知能の程度が知れているあんなもの達と一緒にされるなど、屈辱以外の何ものでもないわ!』
「いや、すまん……」
話している限り、こいつにはしっかりした知能があるし、きっと俺より博識なのだろうと思う。
何より、頭に直接話し掛けるなんて高等技術は使えるし、よく分からないが俺の体に何かをして記憶を蘇らせてくれたのだ、凄いやつなことには違いない。
見た目は完全に魔物だが……。
『……まずいな……気付かれたか』
一瞬、空気が張り詰めた気がした。
『そなたに頼みがある』
「何だよ?」
『我はこれより、我が身を生まれ変える』
「は? 何だそれ?」
『良いから黙って聞け! 我はこれより卵となり、新たな黒龍として生まれ変わる。そなたには、我が生まれ変わり、卵より孵るその時まで、我を保護してもらいたい』
「保護?」
『簡単なことよ。我を誰にも奪わせなければ良いだけのこと。例えば……ガクに』
「ガクって、あの青い飛龍だろ? あんなが奪いに来たら、俺、即殺されるって! 無理だろ!」
『そなたにはスキルがあるだろう? それを使って我を守れ』
「使い方も知らねぇのに、どうやって」
『発動させる言葉を唱えればいいのよ』
「そんな言葉、知らねぇよ」
『何でも良いのだ、きっかけになれば』
憧れの長ったらしい詠唱を唱えてみたかったが、咄嗟にだと何も浮かばない。
『時間がない。我は卵になるゆえ、そなたはその間にスキルを発動させよ!』
黒龍の体が歪みながら縮んでいく。見る間にグングン縮んでいき、最終的に濃い灰色の卵になった。
「え? これを俺が守るのか?」
卵の大きさは俺の身長(百七十八センチ)と同じくらいはある。
とてもじゃないが腕すら回らない位デカい。
ちょっと持ち上げてみようと思ったが、俺の力ではピクリとも動かせなかった。
「こんなのどうしろって言うんだよ……」
『人間とは本当に非力なのだな。こんな卵一つ動かせないとは……』
卵になっても脳内に語りかけることは出来るようで、頭に声が響いた。
『少し待っておれ』
そう言うと、卵がカタカタと揺れ、その後面白いほど縮んでいった。
『いかに非力とはいえ、この大きさならば他愛もないだろ?』
足元にコロンと転がってきたのは、前世で見たうずらの卵ほどのサイズまで縮んだ卵。
流石の俺でもこれなら造作もなく持ち運べるが、最初からこのサイズになれるならそうして欲しかった。
「潰しちまいそうだな……」
『人間などに我が潰せるわけがなかろう?』
試しに握ってみたが、石のように固かった。
『なぜそなたはスキルを発動させんのだ? 早うせんか! あやつが来る!』
「何焦ってんだよ! まぁ、いいや……んーと……『スキル発動!』」
我ながら情けないほどそのまんまである。
言葉を発した途端に俺の体から淡い光が出て、視界がグングン下がっていった。
「体が……縮んでる?」
光が収まると、地面はすぐ近くで、何より視界にフサフサとした毛の生えた小さな足が見え、驚きのあまり思わず叫んだ。
「ニャァァア!」
『何とも面妖なものへと変化したもんだな。長年生きておるが、そのような姿のものは見たことがない』
「ニャーニャー!」
話そうとしても「ニャー」しか出てこない。
この鳴き声はどう考えても前世で見た猫! え? 俺、猫になったの?
『落ち着け! 頭の中で我に語りかけてみよ』
『ど、ど、どうなってんだよ! 何が起きたんだ!』
『スキルが発動して、変化したのよ』
『い、今、俺、どんな姿になってるんだ!?』
『ほれ、こんな感じだな』
目の前に鏡のようなものが現れた。
そこに写し出されていたのは、前世で俺が見ていたあの猫そっくりな姿だった。
メインクーンを思わせる長毛の猫で、胸元にフサフサしたタテガミのような毛を生やし、長い尻尾のあの猫。
濃いグレーのハチワレで、手足と腹は白く、背は濃いグレー。
目の色だけがあの猫とは違う深い青。
あの猫は黄色っぽい目をしていた。
ラグドールなのかと思ったが、親にワガママを言って買ってもらった猫図鑑を見て、違うと思った。
メインクーンのような大きさではなかったが、その血が入っていたのか、姿形はどう見てもメインクーンだったあの猫。
確かに俺は、前世で死ぬ前に「猫になりたい」と言った。
でもそれは、あの世界での話であり、このファンタジーな世界での話ではない!
『こんな姿でどうしろって言うんだよぉぉお!
』
『その者に不利になるスキルなど発動せん。その姿がそなたにとって必要なものだったのだろうて』
『いやいや、猫だぞ!? 猫に何が出来るって言うんだよ!』
『ほぉ、それは『ネコ』と言うのか。我にもまだまだ知らぬことがあったのだな』
黒龍が妙にしみじみとそんなことを言ったが、俺はそれどころではなかった。
35
お気に入りに追加
108
あなたにおすすめの小説
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
異世界母さん〜母は最強(つよし)!肝っ玉母さんの異世界で世直し無双する〜
トンコツマンビックボディ
ファンタジー
馬場香澄49歳 専業主婦
ある日、香澄は買い物をしようと町まで出向いたんだが
突然現れた暴走トラック(高齢者ドライバー)から子供を助けようとして
子供の身代わりに車にはねられてしまう
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
玲子さんは自重しない~これもある種の異世界転生~
やみのよからす
ファンタジー
病院で病死したはずの月島玲子二十五歳大学研究職。目を覚ますと、そこに広がるは広大な森林原野、後ろに控えるは赤いドラゴン(ニヤニヤ)、そんな自分は十歳の体に(材料が足りませんでした?!)。
時は、自分が死んでからなんと三千万年。舞台は太陽系から離れて二百二十五光年の一惑星。新しく作られた超科学なミラクルボディーに生前の記憶を再生され、地球で言うところの中世後半くらいの王国で生きていくことになりました。
べつに、言ってはいけないこと、やってはいけないことは決まっていません。ドラゴンからは、好きに生きて良いよとお墨付き。実現するのは、はたは理想の社会かデストピアか?。
月島玲子、自重はしません!。…とは思いつつ、小市民な私では、そんな世界でも暮らしていく内に周囲にいろいろ絆されていくわけで。スーパー玲子の明日はどっちだ?
カクヨムにて一週間ほど先行投稿しています。
書き溜めは100話越えてます…
家庭菜園物語
コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。
その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。
異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します
桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる
プラス的 異世界の過ごし方
seo
ファンタジー
日本で普通に働いていたわたしは、気がつくと異世界のもうすぐ5歳の幼女だった。田舎の山小屋みたいなところに引っ越してきた。そこがおさめる領地らしい。伯爵令嬢らしいのだが、わたしの多少の知識で知る貴族とはかなり違う。あれ、ひょっとして、うちって貧乏なの? まあ、家族が仲良しみたいだし、楽しければいっか。
呑気で細かいことは気にしない、めんどくさがりズボラ女子が、神様から授けられるギフト「+」に助けられながら、楽しんで生活していきます。
乙女ゲーの脇役家族ということには気づかずに……。
#不定期更新 #物語の進み具合のんびり
#カクヨムさんでも掲載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる