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旅の始まり

分かれ道

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 少し進んでから目を開くと、俺の体は王都への道の方へと進んでいた。

 もう少し目を開けるタイミングが遅ければ、道の脇に生えている木に激突するところだったから、少々驚いた。

「しゃーないな、王都に決定だわ」 

 道の両側はのどかな牧草地が広がっており、放牧されている家畜達が草を食んでいる。

「いつ見てもブッサイクだよな……」

 この世界の動物はほぼ毛がない。

 牧草地に放たれている牛も、産毛程度の毛は生えているが、薄ピンク色の地肌が悲しいほど見えている。

 ぼんやりと覚えている前世の記憶の中で見た、いつも窓の外に姿を見せていた猫のように、柔らかそうな毛に覆われている動物は見たことがない。

 その上非常に不細工である。

 この世界、動物をペットとして愛するということをしないのだが、その理由は毛がなくて不細工だからだと思う。

 牛達を守るために一緒にいる「ドーク」という、垂れ耳の、猫より二回りほど大きな動物も、やはり毛がない。

 毛が生えればきっと黒なのだろう皮膚の色をしているのだが、黒ずんだ皮膚の上に申し訳程度にポヤッと生えた産毛というか、もはや無駄毛のような毛だけしかない。

 毛がなくても可愛い動物がいても良さそうなもんなのに、どうにも顔が化け物じみていて、愛らしさが欠けているのだ。

 牛なんてやたらと腫れぼったい目に皺で埋もれてしまいそうな鼻、大きな口からは舌が三枚ダラリと垂れている。

 それは魔物においても同様で、毛がみっしりと生えていて愛らしい顔をした魔物は存在していない。

 飛龍は鱗に覆われているため、元々毛の生える個体ではないが、巨大化させた牛のような魔物「モーズ」も、人間と同じくらいの大きさで、木登りがやたらと上手く、長く器用に動く尻尾が特徴的な「モンギー」も毛は生えていない。

 猫によく似たシルエットの「ギャッド」という魔物もいるのだが、その大きさは四、五歳の子供が四つん這いになった位のデカさがあり、口が耳付近まで裂けていて、ギザギザの歯が何層にも生えているし、ギョロっと不気味な目が四つもあり、前世の猫とは似ても似つかない見た目をしている。

 魔物なのだから人間に害をなす存在のため、おぞましい姿をしている方が分かりやすいのかもしれないが、それにしてもである。

 代わり映えのしない景色をぼんやりと眺めながら半日ほど歩いていたら、この旅初めての馬車とすれ違った。

 普通は馬に引かせるのが通常だが、大きな商人の荷馬車なのか、馬よりも一回りほどデカイ「ホーラス」という魔物が荷馬車を引いている。

 ホーラスは魔物の中では大人しい種類で、小さい頃から飼育すると馬のように人に慣れる。

 怒らせたりしない限りは従順なので、財力のある商人や貴族はホーラスに馬車を引かせているそうだ。

 魔物なのでいざという時には戦闘も可能で、自然下において人間がホーラスを倒そうとした場合、五人がかりでやっと倒せるかどうかなので、そこそこ強い。

 荷馬車は俺の横で止まり、馭者の男が声を掛けてきた。

「この道を真っ直ぐ進んだら国境で間違いないですかね?」

「そうですよ。この道を真っ直ぐ進んで、山道を行った先が国境です」

 そう答えると、馭者の男はペコリと頭を下げた。

「国境の前に、どこかこいつを休ませられる場所なんて、ありませんかね?」

 馭者はホーラスを指さしながらそう尋ねてきたが、そいつを休ませられるような場所を完備した宿屋はこの辺にはない。

 俺の故郷の町はこの辺りでは一番大きいところだが、さすがにホーラスは受け入れてもらえないだろう。

「この辺りじゃ厳しいと思いますよ」

「やっぱりそうですよね……今日も野宿か」

 馭者の男が困ったように笑っている。

「国境まで行くんですか?」

「えぇ。国境付近に卵を抱えた飛竜の目撃情報があったそうで、物資を届けにね」

「危険じゃないですか!」

「まぁ、そうなんですけどねぇ、これが仕事なんで」

 あわよくば同行させてもらおうかなんて邪な考えが生まれたのだが、飛龍と聞いてそんな考えも吹っ飛んだ。やはり俺の進む先は王都で間違っていなかったようだ。

 馭者の男はお礼を言うと、荷馬車はドカドカと大きな足音を響かせながら去っていった。

「卵を抱えた飛龍か……大丈夫なのか?」

 飛龍が卵を抱えているのを目撃されたなんて話は今まで聞いたことがない。

 産卵期の飛龍は普段よりも動きが緩慢になるが、その分気が荒くなるため、刺激してはいけないというのは常識である。

 その時期の飛龍は産卵に専念するために人気のない静かな場所に移動し、そこでじっとその時を待つため、進んで人里を襲ってくることもしない。

 飛龍は卵生で、卵を産むとそれを放置して飛び去るのが普通で、鳥のように卵を温めるなんてことはしない。

 産むだけ産んで、あとは自力で成長出来たものだけが生き残る。卵から孵る確率は一割に満たないと聞いたことがある。

 飛龍が産んだ卵が全部孵っていたら、きっと今頃、この世界に飛龍以外の生物はいなくなっているだろうから、自然のメカニズムとしては上手く出来ているのだと思う。

「母ちゃん、大丈夫かな?」

 ふと母親の顔が浮かんだが、国境から町までは少し距離もあるし、大丈夫だろう。

「よし、進むか」

 再び王都へ向けて歩き出した。
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