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数日後、ジョバンニ、サイモン、アリアンナの三名と討伐軍は南へと向かう為王都を発った。
長い長い行軍の隊列の中程にある周囲を聖騎士に警護された重厚な馬車に揺られるアリアンナは、これから南の辺境伯アントニオ・エイナウディの屋敷に向かう予定だ。
エイナウディの砦にある建物に討伐軍の上位者が、幕営地に兵士を初めとした一般兵や傭兵、冒険者達が野営をする形になっている。
しかし、この地に来てアリアンナはずっと気持ちが悪く冷や汗が浮かぶ程に体調が悪くなっていた。
そんなアリアンナをジョバンニはエイナウディ辺境伯の屋敷にて休ませて欲しいと頼み込んだ様だ。
その為、隊列から外れてこれからアリアンナはミラと数人の聖騎士達に守られながら砦にある建物からは馬車で約半日程の距離にあるらしいエイナウディ辺境伯の屋敷を訪れていた。
「これはこれは、ようこそいらっしゃいました聖女様」
そう言って現れたのは青黒い顔をしたひょろりと背の高い青年だった。
現在は療養中であるらしい辺境伯の一人息子フラヴィオは筋骨隆々の漢、父アントニオとは真逆に幸の薄そうな儚げな印象を持つ青年だった。
そのフラヴィオの隣には狸の様に腹の出た執事服の中年の男が首元をじっとり濡らす脂汗を拭って立っている。
「何分、急な訪問ですので今、急ぎ部屋の準備を」
不満を声に潜めて言っているが目が苛立ちを隠しきれておらず聖騎士達に殺気が立ち上る。
聖騎士と言えば魔力量の多さと実力派で知られる聖女の騎士である。もれなく執事は殺気が篭ったとんでもない魔力の威圧に顔を青くしてへたりこんだ。
「すまない、長旅故、聖女様のお身体ががまいってしまわれている。部屋に案内して頂けるかな?」
聖騎士のリーダー、頼れるナイスガイなおじ様ディエゴがそう言って執事を睨み付ける。
睨まれた執事はへたりこんでいるまま、不服そうに顔を険しくしたが辺境伯のご令息であるフラヴィオが弱々しく「失礼な態度を取ってはダメだよ」と窘めると渋々引き下がって行った。
とは言っても腰が立たなかったようで侍従に支えられてだが。
「すいません。我が家は執事が取り仕切っていて。態度が横柄なのです。私が不甲斐ないせいで。」
すいません…
そう呟いたフラヴィオは今にも倒れてしまいそうなアリアンナ以上の顔色の悪さだった。
「いえ、お気になさらないで下さい…すいません、こんなご迷惑をかけてしまって」
「いえいえ、何を仰るのですか聖女様。私どもの地に突如現れた魔物を討伐軍を率いて来て頂き本当に感謝しているのです。父が既に二度討伐隊を組んで挑みましたが全く歯が立たず。せめて食い止めようとこの二週間砦に向かったままでして……ゴホッゴホッ─」
そう説明をする間にもフラヴィオは壁に身体を預けてやっと立っている様だ。
「エイナウディご子息。どうぞお部屋にお戻りを。顔色が真っ青だ。私の部下に供をさせましょう。」
「しかし…ゲホッ、ゴホッゴホッ」
フラヴィオの身体を支えた歳若い聖騎士にディエゴが頷く。フラヴィオは息をするのがやっと、といった具合だ。
「申し訳ございません聖女様!申し訳ございません!」
後ろでオロオロしていた使用人の女の一人がアリアンナに何度も詫びるとフラヴィオを心配しつつ、聖騎士に支えられるフラヴィオと屋敷の中へと消えて行った。
「……聖女様、失礼致しました!ですが、坊っちゃまは不治の病に侵され余命いくばくもないお方なのです。お許し下さいませ!代わりにわたくしめがご案内致しますので!どうぞこちらでございます」
中年の女性使用人がフラヴィオと似たような青黒い顔をして頭を下げてくる。
恐れ、恐怖、畏怖。
彼女からは恐々とした感情しか伝わって来なかった。
長い長い行軍の隊列の中程にある周囲を聖騎士に警護された重厚な馬車に揺られるアリアンナは、これから南の辺境伯アントニオ・エイナウディの屋敷に向かう予定だ。
エイナウディの砦にある建物に討伐軍の上位者が、幕営地に兵士を初めとした一般兵や傭兵、冒険者達が野営をする形になっている。
しかし、この地に来てアリアンナはずっと気持ちが悪く冷や汗が浮かぶ程に体調が悪くなっていた。
そんなアリアンナをジョバンニはエイナウディ辺境伯の屋敷にて休ませて欲しいと頼み込んだ様だ。
その為、隊列から外れてこれからアリアンナはミラと数人の聖騎士達に守られながら砦にある建物からは馬車で約半日程の距離にあるらしいエイナウディ辺境伯の屋敷を訪れていた。
「これはこれは、ようこそいらっしゃいました聖女様」
そう言って現れたのは青黒い顔をしたひょろりと背の高い青年だった。
現在は療養中であるらしい辺境伯の一人息子フラヴィオは筋骨隆々の漢、父アントニオとは真逆に幸の薄そうな儚げな印象を持つ青年だった。
そのフラヴィオの隣には狸の様に腹の出た執事服の中年の男が首元をじっとり濡らす脂汗を拭って立っている。
「何分、急な訪問ですので今、急ぎ部屋の準備を」
不満を声に潜めて言っているが目が苛立ちを隠しきれておらず聖騎士達に殺気が立ち上る。
聖騎士と言えば魔力量の多さと実力派で知られる聖女の騎士である。もれなく執事は殺気が篭ったとんでもない魔力の威圧に顔を青くしてへたりこんだ。
「すまない、長旅故、聖女様のお身体ががまいってしまわれている。部屋に案内して頂けるかな?」
聖騎士のリーダー、頼れるナイスガイなおじ様ディエゴがそう言って執事を睨み付ける。
睨まれた執事はへたりこんでいるまま、不服そうに顔を険しくしたが辺境伯のご令息であるフラヴィオが弱々しく「失礼な態度を取ってはダメだよ」と窘めると渋々引き下がって行った。
とは言っても腰が立たなかったようで侍従に支えられてだが。
「すいません。我が家は執事が取り仕切っていて。態度が横柄なのです。私が不甲斐ないせいで。」
すいません…
そう呟いたフラヴィオは今にも倒れてしまいそうなアリアンナ以上の顔色の悪さだった。
「いえ、お気になさらないで下さい…すいません、こんなご迷惑をかけてしまって」
「いえいえ、何を仰るのですか聖女様。私どもの地に突如現れた魔物を討伐軍を率いて来て頂き本当に感謝しているのです。父が既に二度討伐隊を組んで挑みましたが全く歯が立たず。せめて食い止めようとこの二週間砦に向かったままでして……ゴホッゴホッ─」
そう説明をする間にもフラヴィオは壁に身体を預けてやっと立っている様だ。
「エイナウディご子息。どうぞお部屋にお戻りを。顔色が真っ青だ。私の部下に供をさせましょう。」
「しかし…ゲホッ、ゴホッゴホッ」
フラヴィオの身体を支えた歳若い聖騎士にディエゴが頷く。フラヴィオは息をするのがやっと、といった具合だ。
「申し訳ございません聖女様!申し訳ございません!」
後ろでオロオロしていた使用人の女の一人がアリアンナに何度も詫びるとフラヴィオを心配しつつ、聖騎士に支えられるフラヴィオと屋敷の中へと消えて行った。
「……聖女様、失礼致しました!ですが、坊っちゃまは不治の病に侵され余命いくばくもないお方なのです。お許し下さいませ!代わりにわたくしめがご案内致しますので!どうぞこちらでございます」
中年の女性使用人がフラヴィオと似たような青黒い顔をして頭を下げてくる。
恐れ、恐怖、畏怖。
彼女からは恐々とした感情しか伝わって来なかった。
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