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ステンドグラスからのキラキラした光りが射し込む教会で12歳から18歳までのピアノの才能を見出された令嬢達が集まり左右に分かれて並んでいた。

アリアンナは瞳と同じ淡い翠色のドレスを着て、金の巻き毛は演奏の邪魔にならないようにスッキリとアップにしてある。前回の自分とはまるで別人の様に肉付きが良くなった身体が未だに信じられない。

アリアンナの前には少しぽっちゃり系の15歳の令嬢ベアトリーチェ・マイゼッティ子爵令嬢が緊張気味に今演奏しているベアトリーチェの姉ヴィットーリアを祈るように見つめている。

侯爵以上の令嬢達はこの巨大な教会のどこかのお部屋で寛ぎながら自分達の出番を待っているらしく、騎士爵の令嬢から順番に演奏が始まり、男爵、子爵と並んで最後尾にいるのは伯爵家の令嬢達となっている。

「なんだ、情熱のピアニスト、ヴィットーリアも大したこと有りませんのね」

そう言ったのはアリアンナの横に割り込んできたニコーレ・カヴァルロ伯爵令嬢だった。
情熱のピアニストとはなんだとアリアンナは首を傾げるけれどニコーレは怯えて俯いたベアトリーチェを馬鹿にした顔で「まぁ、あのお顔じゃ聖女などまず有り得ませんけど」
と勝ち誇った笑顔を見せて手を口元に当てた。
そうして、ふと隣りに並ぶアリアンナを見た。彼女は首を傾げ眉を寄せると「見ない方ね」なんて言ってくる。
薄情な令嬢だ。散々アリアンナをチビガリと馬鹿にしていたビアンカの友人の一人である。

「アリアンナ・ジュリオですわ。お久しぶりね、ニコーレ様。」

「……アリアンナ…まさか、あなた…あのアリアンナなの?」
アリアンナの顔をまじまじと見てくるニコーレの顔は驚愕の表情から怒りに変じ眉間に深い皺が寄っている。

「アリアンナがなぜここにいるのよ!」
彼女は睨みつける様にアリアンナを見ていた。

「ひとつよろしいかな?レディ」
それまで空気になっていたザカリがアリアンナを背に隠す様にいきなりずいっと現れた。

「なによ」
「先程から君はアリアンナを呼び捨てにしているが。大して仲も良くない相手を一方的に呼び捨てるのはマナー違反では無いか?」

ザカリの指摘にビキビキと音さえ聞こえそうな程顔を赤らめて怒りを堪えるニコーレはかなり、気が強く短気な性格をしている。
「わたくしを誰だと思ってるのよ!アリアンナ!許さないわ!」

案の定、手を振り上げたニコーレはザカリでは無くアリアンナの頬を打とうとしてザカリに腕を取られている。ザカリは呆れた顔をして周囲に控えていた教会側の聖騎士に目配せをした。

聖騎士が焦りを滲ませて駆け付けた事で周囲からの注目を集めたからかニコーレは羞恥と怒りで血管が浮かんでいた。

そしてニコーレがその怒りを向けてくるのはアリアンナである。

そう、このニコーレ。なぜかアリアンナのことを蛇蝎の如く嫌っているのだ。

「さすがビアンカを嵌めたアリアンナね。側付きの男も無礼極まりない礼儀知らずだわ!」

ニコーレはビアンカを自慢の友人だと言っていたし、ビアンカが療養に出された原因にアリアンナが関わっていると確信しているのかいないのか、全てはアリアンナのせいだと抗議する様な内容の嫌がらせの手紙が頻繁に届けられていた。

聖騎士に厳しい態度で元の位置へと追いやられてる時点でニコーレが常識知らずの行いをしたと周囲には認識される事になるのだが。怒りの沸点が低いニコーレは前回はいつもビアンカが彼女を手のひらの上で転がして操縦していたからニコーレの常識の無さはあまり目立つこと無く知られていなかった。

なるほど、ストッパーがいない弊害ね。

「世間知らずが通用する年齢は過ぎている。この事はカヴァルロ伯爵家へ抗議させて頂く。」

「なんですって!?このっ」

「アリアンナちゃん、久しぶりね!!それにしても、随分騒がしかったけどどうかしたのかしら?」
いきなり背後から声がかかりアリアンナは驚いて振り向いた。

「クレパルディ公爵夫人!?」

ニコーレは困惑してクレパルディ公爵夫人を見て後ずさる。彼女は縋るように会場の奥にある席に座る人物を見た。
けれどその人物は我関せずに素知らぬ顔をして主教様と何やら話をされている。

「なっ、なっ………なんで」
狼狽えるニコーレを見たザカリは笑いを堪える様に俯き肩を揺らすがあまり誤魔化せていない。

クックとザカリから聞こえた笑い声にアリアンナは真っ青になりながらザカリの足を踏んずけた。

しかし、ザカリは何事も無かったかのようにクレパルディ公爵夫人に紳士的な礼を取り淀みない挨拶をする。

きっとザカリの心臓には毛が生えているに違いない。
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