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「今日はアリアンナ嬢が演奏をするそうだね。どんな曲を弾くのかな?」
公爵夫人ジョゼファに挨拶して演奏者の控え室までアリアンナは移動していた。その間、なぜかジョバンニはアリアンナの隣を歩いている。

アリアンナは飛んでくる令嬢達からの好奇の視線に辟易していた。

流石にこのお子様アリアンナとジョバンニが二人で並んで歩いていていても嫉妬されたりはしないのだけど、なぜあの子は構われているのだろう?と令嬢達は好奇心旺盛にジョバンニとアリアンナの話に耳を傾けてくる。

「ジョバンニ殿下が気にかけてらっしゃるわ。何故かしら?」
「もしかしたらそれほどの弾き手なのではなくって?」
「それにしても」

「「「羨ましいですわ~」」」

と彼女達は大変、姦しい。

「……『妖精のピクニック』を……」
アリアンナがおずおずと口を開くが果たしてこんなにざわついていて聞こえるものかしら?と言うくらい声が小さくなってしまった。
しかし、顔色悪く拒絶のオーラを醸し出すアリアンナを見てジョバンニは蕩ける様な笑顔を振り撒いてくる。

「「「きゃぁぁ、カッコイイですわ!!」」」

おかげで流れ弾に当たったらしい令嬢達が興奮し過ぎてふらついたり、コルセットの絞めすぎなのか酸欠に陥っている令嬢もいて周囲が俄に騒がしい。いや騒がしすぎる。

恐ろしい。ジョバンニ殿下、相変わらずなのね。

結果的に控え室まで送ってくれたジョバンニが離れて行ったのを確認してアリアンナは控え室の鍵をかけると、はぁー!と一気に緊張を解き、お行儀悪くソファーにボフンと座る。

もうアリアンナには限界だった。

だから、ジョバンニが「この控え室には君のご家族の要望で監視の魔法がかけられている」と、移動中に言っていた言葉を聞いている様で聞いていなかった。

ここ数日アリアンナには伏せているがアリアンナのハンカチや楽譜などアリアンナの持ち物が無くなる、と言う事があってアリアンナが単に無くしただけ、気の所為だったのかもしれないが、心配したザカリと家族により監視の魔法を今回は依頼した。
しかしそんな話は全く右から左へと聞き流してしまっているアリアンナは人に見られる心配は無いからとだらけてソファーに突っ伏した。

失恋したのは前回の時間軸での出来事である。
でも勝手に恋して勝手に失恋して勝手に傷付いたアリアンナの気持ちもどうやら持って来てしまっているらしい。

失恋した相手とどう言う顔をして話せば良いのか。話していて急にツンと鼻が痛くなる時はどう誤魔化せば良いのか。
アリアンナには分からなかった。

「早く帰りたいですわ」


そう呟いた時、コンコンとノックが鳴り「そろそろお時間でございます」とアリアンナの出番を知らせる声が掛かり。アリアンナは慌てて準備に取り掛かった。

何とか準備をして扉を開け、舞台に向かいながら。

そう言えば、演奏が上手くいくか気が気ではなくてずっと緊張していたのだった、と今更ながらに思い出す。

ジョバンニとの対面に比べるとなんだか演奏する事で彼(一番の脅威)から離れられた様に感じ、有難く思ってすらいる今の自分に少しだけ苦笑いしてアリアンナは舞台に向かう。

想像していたよりもたくさんの招待客がいる事に気づいて驚いたが、思ったよりも冷静にアリアンナは会場を見回した。

祖母の祈るような眼差しに気づき大丈夫だと頷くと笑顔で、余裕すら見せてカーテシーをしてアリアンナはピアノの前に座った。

ピアノに向き合ってしまえばこちらの物。

さぁ、頑張りましょうか。
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