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ああ、ついにこの日が来てしまった。
「アリアンナ、落ち着いて演奏して来い。お前の腕前なら余裕だ。」
「ですが。本当に練習曲の第2章で良かったんでしょうか?」
今日はアリアンナの演奏会デビューの日だ。
アリアンナのデビューが遅れていることは知る人ぞ知るといったところで、叔父夫婦はもちろん、ビアンカや彼女のいとこ達にもアリアンナのピアノの腕前が酷く、未だ人前に出せるものでは無いからだと認識されている。
けれどアリアンナは巻き戻った時からこの手のサイズにあったピアノ曲を練習して父や母にたくさん褒めて貰えた為かなり調子に乗って中々難しい曲だって馬鹿みたいに弾きまくった。
だから練習曲以外にだって弾ける曲は増えているのだ。
しかも今日は三ヶ月ぶりに祖母と祖父が私の演奏会デビューを聞きつけて領地から来て下さっている。
「大丈夫だ。アリアンナはあの曲を、練習曲の第2章だと教えられていたようだが。あれは教会の神聖なる賛美歌。聖女のピアノ曲だ。名曲としても知られている。確かに練習曲にするやつ居るが。……まぁ、そんなのは極稀だ。お前は祖母に多大なる期待をされて。更にはそれにきちんとこたえていたんだよ。」
違う、あの曲は前回の生において祖母が領地に帰った後に。謝罪の手紙が届いて、その中に練習曲の楽譜にある、練習曲の第2章『聖女の癒し』を練習してみなさい。今のあなたには物足りないかもしれないけれどアリアンナには一番あった練習曲だから……って。そう書かれてあった曲なのだ。
「ザック先生!ありがとうございます」
「ああ、行ってこい」
ザカリのニヤリと笑った口元を見てアリアンナは嬉しげに頷き。少しばかり逡巡するとザカリに向かい手招きをした。
「……なんだ?」
アリアンナの口元に当てられた手をみて内緒話かと理解したらしいザカリがしゃがむとアリアンナはサッとザカリの頬にキスをした。
「……ザック先生。ありがとう!」
反応の無いザカリを振り返る事無く。アリアンナはやり遂げたとばかりに笑って舞台に向かった。
演奏会デビューのこの舞台に立つのは二度目になるはずなのに全く馴れない。
舞台からはお祖母様やお祖父様、お父様やお母様。
それから叔父夫婦とビアンカ。
そしてビアンカのいとこ達が最前席に座って居るのが見える。
普通の貴族の演奏会デビューは小さなサロンで極々内輪の。身内に毛が生えた程度の人を招いた、比較的小さな物が一般的だ。
でも前回は祖母の見栄で。今回は祖母が気にしないように私が見栄を張ってたくさんの人を招待した。
祖父母や両親の友人達、叔父夫婦の友人達。アリアンナの友人達とその家族を招いた比較的規模の大きな演奏会デビューとなってしまった。
自分で自分の首を絞めにかかるなんてとアリアンナも思ったが。この先ずっと自分のせいで私のデビューが遅れ不名誉な噂を立てたのは自分だと祖母に思われるよりはたった一度、大勢の観客の前で演奏をするくらいなんてことは無い。
やってやろうと思ったのだ。
お祖母様が心配そうに。
けれど期待を込めた眼差しを向けてくれる。
それに気付いて私はよし、頑張ろう!
そう思った。
なんだか祖母だけじゃなく、父も母も、それから祖父までも私が頑張って演奏すると信じてくれている。そう感じられた。そしたら、なんだか嬉しくなって、勇気が湧いてきたのだ。
「アリアンナ、落ち着いて演奏して来い。お前の腕前なら余裕だ。」
「ですが。本当に練習曲の第2章で良かったんでしょうか?」
今日はアリアンナの演奏会デビューの日だ。
アリアンナのデビューが遅れていることは知る人ぞ知るといったところで、叔父夫婦はもちろん、ビアンカや彼女のいとこ達にもアリアンナのピアノの腕前が酷く、未だ人前に出せるものでは無いからだと認識されている。
けれどアリアンナは巻き戻った時からこの手のサイズにあったピアノ曲を練習して父や母にたくさん褒めて貰えた為かなり調子に乗って中々難しい曲だって馬鹿みたいに弾きまくった。
だから練習曲以外にだって弾ける曲は増えているのだ。
しかも今日は三ヶ月ぶりに祖母と祖父が私の演奏会デビューを聞きつけて領地から来て下さっている。
「大丈夫だ。アリアンナはあの曲を、練習曲の第2章だと教えられていたようだが。あれは教会の神聖なる賛美歌。聖女のピアノ曲だ。名曲としても知られている。確かに練習曲にするやつ居るが。……まぁ、そんなのは極稀だ。お前は祖母に多大なる期待をされて。更にはそれにきちんとこたえていたんだよ。」
違う、あの曲は前回の生において祖母が領地に帰った後に。謝罪の手紙が届いて、その中に練習曲の楽譜にある、練習曲の第2章『聖女の癒し』を練習してみなさい。今のあなたには物足りないかもしれないけれどアリアンナには一番あった練習曲だから……って。そう書かれてあった曲なのだ。
「ザック先生!ありがとうございます」
「ああ、行ってこい」
ザカリのニヤリと笑った口元を見てアリアンナは嬉しげに頷き。少しばかり逡巡するとザカリに向かい手招きをした。
「……なんだ?」
アリアンナの口元に当てられた手をみて内緒話かと理解したらしいザカリがしゃがむとアリアンナはサッとザカリの頬にキスをした。
「……ザック先生。ありがとう!」
反応の無いザカリを振り返る事無く。アリアンナはやり遂げたとばかりに笑って舞台に向かった。
演奏会デビューのこの舞台に立つのは二度目になるはずなのに全く馴れない。
舞台からはお祖母様やお祖父様、お父様やお母様。
それから叔父夫婦とビアンカ。
そしてビアンカのいとこ達が最前席に座って居るのが見える。
普通の貴族の演奏会デビューは小さなサロンで極々内輪の。身内に毛が生えた程度の人を招いた、比較的小さな物が一般的だ。
でも前回は祖母の見栄で。今回は祖母が気にしないように私が見栄を張ってたくさんの人を招待した。
祖父母や両親の友人達、叔父夫婦の友人達。アリアンナの友人達とその家族を招いた比較的規模の大きな演奏会デビューとなってしまった。
自分で自分の首を絞めにかかるなんてとアリアンナも思ったが。この先ずっと自分のせいで私のデビューが遅れ不名誉な噂を立てたのは自分だと祖母に思われるよりはたった一度、大勢の観客の前で演奏をするくらいなんてことは無い。
やってやろうと思ったのだ。
お祖母様が心配そうに。
けれど期待を込めた眼差しを向けてくれる。
それに気付いて私はよし、頑張ろう!
そう思った。
なんだか祖母だけじゃなく、父も母も、それから祖父までも私が頑張って演奏すると信じてくれている。そう感じられた。そしたら、なんだか嬉しくなって、勇気が湧いてきたのだ。
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