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聖樹と精霊
しおりを挟む『ねぇ、竜のお兄さん、アナタの花嫁はちゃんと治ったかしら?アナタがあの娘の旦那様でしょ?アナタの魔力はあの娘の番になってた魔力だわ?』
おかしな声を聞いてアレッサンドロは気配を探す。しかし誰も近い位置には居ない。
アレッサンドロはラウラに見つかり反省の為だと父から丸坊主にされた姿を見られない様に細心の注意を払って警備にあたっていた。
常に朝から気配を探って過ごしていたのだから、まさか人の気配が無いのに声をかけられるなんて思ってもいなかった。
魔力と魔法のムダ使いをして気配探知をしていたおかげで気配探知の能力がやたらと上がっていたアレッサンドロである。
『こっちこっち、上よ』
アレッサンドロはハッと上を見上げる。
木だ。それも存在の薄い人の形を模した木の様な模様が入った人形みたいななにか。
そこには、手のひらよりも大きいサイズの何かがいた。
「もしかして、精霊?」
『正解よ~!あのさぁ、君が私に気づいてくれて凄く嬉しいんだけど、まずは、謝らせてくださいー!!』
空中でくるりと回転して精霊はやや大きくなるとそのまま空中でスライディング土下座をして頭を下げた。
『君の番(つがい)の魔力と魔法の繋がる線を壊しちゃったの私なの。本当なら加護を授ける予定だったのに、失敗して大事な線を壊してしまって。だから、危うく助けられ無くてこの娘死んじゃうとこだったの。(いや、正確には1回死んじゃったんだけど…)あ、いいえこっちの話。竜族の番を殺しちゃうなんて世界が滅んじゃうとこだったのよ。本当に何とか成功したし、間に合って良かったわ!』
「何言ってるんだ?つがい?誰のことだ?」
『…嘘っ、あなた竜族の癖に自分の番が分からないの?いいえ?前の時は知ってたわ?だから、あんな事に……でも、なぜ今は分からないなんて、えっと。』
精霊は上を向いてブツブツ呟いてはアレッサンドロを見下ろし首を傾げてる。
『おかしいな…どういう事なの?』
精霊がアレッサンドロの頭に着地した。ふわりふわりとまるで蝶がとまったみたいに重みを感じない。
『なるほど、ラウラが死んじゃう恐怖から輪廻を捻じ曲げても何らかの影響を受けたって事かな?でも、それじゃあ困るの。もう貴方の番は生きてるわ?あなたを残して消えたりしない。消えたりしないのよ?ちゃんと受け入れて?あの娘を受け入れて』
アレッサンドロは何のことだと視線を上に向けた。暖かな春の日差しの様な黄色い光がアレッサンドロの頭上から降り注ぎ、その光を浴びたアレッサンドロはハッと前を向いた。
感じる。
心臓がギシリと音を立てた気がして息苦しくなる。とてつもない不安に襲われ、わけのわからない愛おしさと恐怖にアレッサンドロは物心ついてからはじめて涙を流した。
あの時のアレッサンドロの視線はずっとラウラに固定されていた。
アレッサンドロはその話の、精霊の話した部分のみをラウラに話した。
まさか、君を見て愛おしさと不安で埋め尽くされ自分が泣いただなんて言いたく無かった。
「その、精霊が言ったんだ。自分の番は君だと。俺も君が番だと今ははっきり自覚している。初めの頃は君に婚姻を申し込むなんて冗談じゃないと思っていた。女を側に置くなんて煩わしいだけだと。でも君を本当に娶りたいと剣聖を目指し出したルーカがなぜか目障りで仕方無かった。だから、ルーカが騎士になる前に騎士になり、彼より早く剣聖になる為に力をセーブせず全力をだした。はじめてのことだらけだったよ。俺がまさか本気で練習する日が来るなんてね。ずっと、女に振り回されてる男をバカだと思ってた。だから君を見ているとバカな男と同じ様に囚われてしまうと感じた。その度にイライラして君に当たってたんだ。一番振り回されてるバカな男は俺だったんだよ。ラウラ」
ラウラはぼんやりと話を聞いていた。そして何となく、思い出してしまったのだ。
あの日ことを。
あの日、聖樹巡礼の時にラウラは今日この時でしか全てを治せないからとやる気満々の様子で現れた精霊に捕まり、無理やり魔力と魔法を繋ぐ線を修復すると言って精霊はラウラに術をかけた。
さらに部下の不始末を詫びる豊穣の女神デメルティまでもが現れ、これまでの経緯を話してくれた。
女神は豊満な肉体に足元まで流れる美しい緑の髪を持つ黄金の瞳の美女だった。
彼女は「わたくしはあなたに感謝しているの」と言って話し出した。
でも、かなり衝撃的な内容で10歳のラウラの幼稚な脳ではいまいち理解できなかった。
でも、今ならわかる。
ことの経緯はこのおっちょこちょいの精霊だった。
女神が豊穣の加護を授ける相手を指示し、それを聖樹の精霊が赤子が産まれた瞬間にその魂に加護を授ける。
その加護をラウラに授ける時に精霊は女神の豊穣の加護と指示されていたのを間違えてごく普通の加護を授けてしまったのだ。
加護とは魔力量の調整の役目を果たす物だ。魔力量の多い者に小さな加護を授けると魔力が消費される為の大きな枠に小さな枠が収まらず流れ出てしまうのだ。
その為、間違えた加護を授けられた者は魔法や魔力の循環をする線が壊れたり循環事態が行われなかったりする。
それにすぐに気づき対処していれば良かったのだが、ラウラは竜族と言う特殊な能力を持つ種族の番であり竜族のかけた特殊な守護魔法のおかげでラウラの存在に気づく事ができなかった。
気づいた時にはラウラは魔力の枯渇により死んでしまい、アレッサンドロは番を本当の意味で手にする事が出来ず狂ってしまったのだ。
竜族の場合は伴侶にする為番に自らの逆鱗を体内に入れ逆鱗を番と融合させる。もし、アレッサンドロが早い段階でラウラに鱗を与えていれば竜族であるアレッサンドロの能力ですぐにラウラの身体の歪さに気づいただろうが、全てが遅かった。
ラウラは一度死に女神の力を使い転生させラウラの魂を魔力の無い世界で修復し、再びラウラはこの世界に戻って来たのだ。10歳になり、聖樹巡礼をする様に誘導したのは女神だった。
…あの、ゲームも、実は女神の仕業だったのだ。
女神は地球が気に入り…と言うか、あの世界のゲーム、それもエロエロな恋愛シミュレーションゲームをお気に召したようで、制作会社のシナリオライターの男の夢枕に居着いていたそうだ。
何をしているんだと突っ込んだのは言うまでもない。
そしてこの世界で見てきたリアルな映像を夢としてシナリオライターの男にしつこく見せまくった結果、あのゲームが出来上がったらしい。
何してるの女神様。
「アレッサンドロ、身体…ん、熱い」
ちなみに、この逆鱗を摂取すると竜族は蜜月とやらに入るらしい。
なんだっけ蜜月って…
頭がぼんやりする。
でも無性に抱きしめて欲しくてラウラはアレッサンドロを見上げ縋った。
「ぎゅってして欲しーの。アレッサンドロ、お願いぎゅって抱っこして?」
「あー、ね?降参」
うるうる潤んだラウラの眼差しは最強で最悪な麻薬のようだとアレッサンドロは降参と告げラウラを抱きしめた。
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