上 下
10 / 12

愛人志願者(2)

しおりを挟む
ちょっと待って!と目の前にずらりと並んだ使用人の皆さんの顔ぶれに、ついでに、既に仲良くなっている侍女や執事のロベルトさん達がやたらと生暖かい眼差しを向けてくるのに気付いて。

恥ずかしい!
まさか普通に降りちゃうとは思わなかった。


「ガブリエル様、キャーラ様、ご結婚おめでとうございます。」

そう言って、みんなが祝福してくれたんだけど。
あれ、生暖かい眼差しは未だ健在だけど、余り接点無い使用人達なんか、まるで動じること無くこちらをみているぞ?

え?もしかして。と、私はピンと来た。たぶん、ここの使用人達。
抱っこして帰って来る夫婦を見慣れてるんだ。

そうか、と私もその仲間入りか。と項垂れてると、私達の後ろにいた馬車が到着したようで、「馬車が入ります!」とか聞こえる。
そんで、「ガブリエル様、ちょっとよろしいでしょうか?」と執事さんがガブリエル様に何かを伝えている。

と言うか、私達が乗ってた馬車の後ろって、ガブリエル様のご両親と、私の両親が乗ったリムジンみたいな縦長の馬車だったよね?

チラリと後ろを振り返れば、そこにあったのは品のある、けれど普通の箱馬車で。
御者が扉を開けるとお仕着せのドレスを着た侍女っぽい人が出てきて、御者と二人で中から降りてきた青色のドレスを纏った令嬢に手を貸している。

けれど令嬢が前に目線を向けた瞬間。
「ガブリエル様ぁー!エリー、待てなくて来てしまいましたわぁ……あら?」
と言ったのだ。

「………彼女はまさか、ガブリエル様の恋人ですの?」

私の声って、こんなに低かったかな?って位の低い声が出てしまった。
だって、やっぱりショックだ。

「いや、単なる知り合いだが、挨拶だけはしなくてはいけないから。付き合ってもらえるかな?」
「……それは。まぁ」
なんて頷いてると、令嬢が引き攣った顔で、しかし、物凄い速度で目の前までやって来た。

「アマデーオ嬢。今日はどのようなご要件でしょうか?あぁ、それよりも、先に私の妻を紹介致しましょう。私の愛する妻、キャーラです。アマデーオ嬢とは年が違いますが、どうぞ仲良くしてやって下さいね」
「……………え?つ、ま?え?どえ、どう言う事ですの?ガブリエル様はわたくしの婚約者ですわ?!」

「アマデーオ嬢。さすがにその虚偽の発言は看過できない。私は過去、誰とも婚約をしていなければ、特定の恋人も居ない。発言を撤回してもらえるか?私は妻に在らぬ疑いをかけられ嫌われでもしたら、生きていけないだろうからね。」

あ、それ、物理的に、ですね?なんて思いながら冷気を放つガブリエル様に私は戦いていた。
まるでカンペを読むかの様に澱みなく、平坦な声で淡々と話し出したんだけど。

どちら様かしら?
私の知ってるガブリエル様はもっとこう。優しい感じでしたよね?

それにしても。令嬢からの視線が凄いんですけど?

「キャーラ。誤解の無いように言っておくよ。彼女は私の叔母の遠縁にあたるアマデーオ子爵家の令嬢で、昨年、半年間だったかな?我が家に行儀見習いとして母が預かっていた令嬢なんだ。名は……アマデーオ嬢、すまないが。その、自己紹介を妻にしてくれるかな?」

あ、これ、わかる。
言外に貴女の名を忘れてしまったって言ってるんだよね?

「ちょっと可愛いからって、ちょっと…いえ、だ、だいぶ?可愛いからって、調子に乗って!わたくしのガブリエル様を誑かすなんて許せませんわぁぁ!!」


って、ダメじゃん!逆上したのか魔力貯めだしたよ!

可愛いって褒められた?のは嬉しいんだけど!?
私殺られちゃうパターンじゃない!?と慌てていると強い魔力がこちらに向かって来てしまった。貴方の愛しのガブリエル様(笑)が私の後ろに居ましてよー!?

「『無効』」
ガブリエル様の冷たい声が響き。
その後、パリンとアマデーオ嬢の指が、まるで硝子が落ちて割れたみたいに砕けて、パラパラと落ちていく。

「ひっ!?ひ、ぎゃぁぁぁぁああ!!」

アマデーオ嬢の絶叫が響き渡った。

は?

「精霊か?この術は…」
とかガブリエル様が言ってるけど、私は呆然として精霊達を見ていた。

『無効だけなんて生ぬるい!』
『そうだそうだ!指だけでも生ぬるい!』
『そうよ!腕も足も私が無機物に変えてあげるわ!』
『無機物になったら僕が空気を圧縮して全て粉砕してあげるよ!僕、空気をあつかうの得意なの~!』

「……え?まさか」

怒り心頭の様子で令嬢を指さしてる。精霊達を見た。

今のって、精霊や妖精達がやったって言うの?

びっくりして固まっていると令嬢がふっ、と意識を失い倒れてしまった。

「きゃぁぁぁ!!エリーお嬢様!どうなさったんですか!」

令嬢の侍女らしき女性が駆け寄るとガブリエル様が「彼女は精霊の怒りに触れてしまったようだ。これ以上、精霊の機嫌が悪くなる前にさっさと連れ帰るのだな。」と言った。
侍女らしき女性は真っ青な顔で頷き、令嬢を抱えて馬車に乗り込んでる。

どうしよう。あんな些細な事で、彼女の手が。

私は今まで精霊達が何かイタズラをしてきても怖いなんて一度も思った事は無かった。
でも、今物凄く恐ろしい生き物だと感じてしまった。

「精霊さん、彼女の指は」
『誤解だよ!あれは、幻影なんだ!だから、キャーラ、僕らを怖がらないで!嫌いにならないで!綺麗なキャーラが僕らを嫌いなるなんて耐えられないー!!』
『キャーラ、私達が、恐ろしくなったの!?私達はキャーラに意地悪なことは絶対にしないわ!約束するわ!』
口々にそう言われて少しばかり強ばりは溶けた。良かったぁ。幻影だったんだ。

「キャーラ、もしかして、精霊と対話が出来るのか?」
「え?もちろんできますよ?」

なに?改まって聞かれるなんて。
もしかして、普通の人には精霊と話ができないなんて事は、さすがにないよね?

そろりとガブリエル様を見上げると「普通は出来ないんだよ」と言われてしまった。
「知りませんでした。」と項垂れてるとガブリエル様が可笑しそうに「君らしいね」と笑った。
ガブリエル様はさっきの幻影について、何だか色々と話してくれてるんだけど。

私はそれどころじゃない。
ガブリエル様、笑うとつり目が少し垂れて甘さが出てて。

狐顔で無口な陰キャだと思ってて、でも顔が好みですって密かに思ってて。
ついでに、その胸筋が、腕も凄くて、上腕二頭筋と三頭筋が特に筋張っててヤバいってときめいてたりしてたんだけど。

実は無口じゃなくて、普通に話してくれてるし、優しいし。笑顔が破壊力抜群のカッコ良さで。私が苦手な完璧なオールラウンダーなのに!

旦那様が、カッコよすぎるんですが!!
誰か助けてー!
いや、でも助け無いで!


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

国王陛下、私のことは忘れて幸せになって下さい。

ひかり芽衣
恋愛
同じ年で幼馴染のシュイルツとアンウェイは、小さい頃から将来は国王・王妃となり国を治め、国民の幸せを守り続ける誓いを立て教育を受けて来た。 即位後、穏やかな生活を送っていた2人だったが、婚姻5年が経っても子宝に恵まれなかった。 そこで、跡継ぎを作る為に側室を迎え入れることとなるが、この側室ができた人間だったのだ。 国の未来と皆の幸せを願い、王妃は身を引くことを決意する。 ⭐︎2人の恋の行く末をどうぞ一緒に見守って下さいませ⭐︎ ※初執筆&投稿で拙い点があるとは思いますが頑張ります!

アレが見える繋がりの騎士団長とお嬢様、婚約破棄を目指したのちに溺愛される

蓮恭
恋愛
 伯爵家の一人娘リュシエンヌは、父の再婚で義母と連れ子である妹ポーレットを家族に迎えた。  リュシエンヌには婚約者である騎士マルクがいたが、子リス令嬢とも呼ばれ男好きのするポーレットはマルクを籠絡する。  マルクはポーレットとはただの戯れであり、本命はあくまでも伯爵家の婿養子になるのに必要なリュシエンヌであった。  リュシエンヌにはとある秘密があり、その秘密を共有するイケメン騎士団長と協力してマルクとの婚約破棄を目指すこととなる。 『カクヨム』『なろう』様にも掲載中です。

捨てられ辺境伯令嬢の、幸せマイホーム計画~成金の娘と蔑まれていましたが、理想の騎士様に求婚されました~

古銀貨
恋愛
「リリー・アルシェ嬢。たいへん申し訳ないが、君との婚約は今日をもって破棄とさせてもらう」 はあ、まあ、いいですけど。あなたのお家の借金については、いかがするおつもりですか?侯爵令息様。 私は知りませんよ~~~ ド田舎の辺境伯ながら資産家であるデッケン伯の令嬢、リリー・アルシェは、おととい婚約が成立したばかりの容姿端麗な侯爵令息から、“本当に愛する人と結婚したいから”という理由で大勢の紳士淑女が集まるガーデンパーティーの真っ最中に婚約破棄された。 もともと贅沢な生活による借金に苦しむ侯爵家から持ち掛けられた縁談に、調子のいい父が家柄目当てに飛びついただけの婚約だったから別にいいのだが、わざわざ大勢の前で破棄宣言されるのは腹立つわ~。 おまけに令息が選んだ美貌の男爵令嬢は派手で色っぽくて、地味で痩せててパッとしない外見の自分を嫌い、ポイ捨てしたのは明白。 これじゃしばらく、上流貴族の間で私は笑い者ね……なんて落ち込んでいたら、突然現れた背の高い騎士様が、リリーに求婚してきた!!? パッと見は地味だけど聡明で優しい辺境伯令嬢と、救国の英雄と誉れ高い竜騎士の、求婚から始まる純愛物語。 世間知らずの田舎娘ではありますが、せっかく理想の男性と出会えたので、彼のお家改造計画と手料理もがんばります! ※騎士が戦場で活躍していた関係で、途中ややグロテスクな表現も出てきますのでR15指定かけております、苦手な方はご注意ください。 【1/26完結いたしました】おまけのお話に拙作「転生したら悪役令嬢を断罪・婚約破棄して後でザマァされる乗り換え王子だったので、バッドエンド回避のため田舎貴族の令嬢に求婚してみた」のキャラクターが登場しております。 そちら読んでいなくとも大丈夫なストーリーですが、良かったら目を通してみてくださいませ。

気配消し令嬢の失敗

かな
恋愛
ユリアは公爵家の次女として生まれ、獣人国に攫われた長女エーリアの代わりに第1王子の婚約者候補の筆頭にされてしまう。王妃なんて面倒臭いと思ったユリアは、自分自身に認識阻害と気配消しの魔法を掛け、居るかいないかわからないと言われるほどの地味な令嬢を装った。 15才になり学園に入学すると、編入してきた男爵令嬢が第1王子と有力貴族令息を複数侍らかせることとなり、ユリア以外の婚約者候補と男爵令嬢の揉める事が日常茶飯事に。ユリアは遠くからボーッとそれを眺めながら〘 いつになったら婚約者候補から外してくれるのかな? 〙と思っていた。そんなユリアが失敗する話。 ※王子は曾祖母コンです。 ※ユリアは悪役令嬢ではありません。 ※タグを少し修正しました。 初めての投稿なのでゆる〜く読んでください。ご都合主義はご愛嬌ということで見逃してください( *・ω・)*_ _))ペコリン

【完結】愛しき推し、私の花婿になる

みちはる
恋愛
推しのいる世界に転生し、結婚式の最中に目覚めた主人公。物語はヒロインが逆ハールートを攻略した後の世界線で展開します。 推しは未だにヒロインを思い続け、真の夫婦になれるのかが問われます。 読者は二人の成長と愛の試練に感動し、自分自身の心にも勇気と希望を見いだすでしょう。ファンタジー要素とロマンスが織り交ざった作品です。 【現在、不定期で22時更新】

ゲームの序盤に殺されるモブに転生してしまった

白雲八鈴
恋愛
「お前の様な奴が俺に近づくな!身の程を知れ!」 な····なんて、推しが尊いのでしょう。ぐふっ。わが人生に悔いなし! ここは乙女ゲームの世界。学園の七不思議を興味をもった主人公が7人の男子生徒と共に学園の七不思議を調べていたところに学園内で次々と事件が起こっていくのです。 ある女生徒が何者かに襲われることで、本格的に話が始まるゲーム【ラビリンスは人の夢を喰らう】の世界なのです。 その事件の開始の合図かのように襲われる一番目の犠牲者というのが、なんとこの私なのです。 内容的にはホラーゲームなのですが、それよりも私の推しがいる世界で推しを陰ながら愛でることを堪能したいと思います! *ホラーゲームとありますが、全くホラー要素はありません。 *モブ主人のよくあるお話です。さらりと読んでいただけたらと思っております。 *作者の目は節穴のため、誤字脱字は存在します。 *小説家になろう様にも投稿しております。

初夜をボイコットされたお飾り妻は離婚後に正統派王子に溺愛される

きのと
恋愛
「お前を抱く気がしないだけだ」――初夜、新妻のアビゲイルにそう言い放ち、愛人のもとに出かけた夫ローマン。 それが虚しい結婚生活の始まりだった。借金返済のための政略結婚とはいえ、仲の良い夫婦になりたいと願っていたアビゲイルの思いは打ち砕かれる。 しかし、日々の孤独を紛らわすために再開したアクセサリー作りでジュエリーデザイナーとしての才能を開花させることに。粗暴な夫との離婚、そして第二王子エリオットと運命の出会いをするが……?

【完結】悪役令嬢はゲームに巻き込まれない為に攻略対象者の弟を連れて隣国に逃げます

kana
恋愛
前世の記憶を持って生まれたエリザベートはずっとイヤな予感がしていた。 イヤな予感が確信に変わったのは攻略対象者である王子を見た瞬間だった。 自分が悪役令嬢だと知ったエリザベートは、攻略対象者の弟をゲームに関わらせない為に一緒に隣国に連れて逃げた。 悪役令嬢がいないゲームの事など関係ない! あとは勝手に好きにしてくれ! 設定ゆるゆるでご都合主義です。 毎日一話更新していきます。

処理中です...