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戻ってきた元悪役令嬢
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しおりを挟む「ディー様格好いい!やはり実際目で見てみると違いますね、獲物に向ける冷えた瞳に痺れましたわ、とっても素敵!」
もう大丈夫だよって声をかけたら、キラキラした瞳でコーデリアさんが近づいてきた。
「はは、ご令嬢は普通怖がると思うんだけどね」
「あら、私自分たちが誰に平和を守ってもらっているか理解出来ないお馬鹿さんではありませんのよ?」
「そうみたいだね。うん、リアはいい女だね」
「まあぁ!聞きましてそこのゴリラ様?!いやだわ高貴から愛らしく変貌する瞬間ってとてつもなく胸が高まるのね!」
「ゴリ…うんまぁそこはいいや。最悪だわコイツあっさりディーの懐に入りやがって、オレが何年かかったと思ってんだ」
「––––色で籠絡して公爵の後見を手に入れた下賤な成り上がりが」
わちゃわちゃしたダートとリアの会話を聞いてたら、実力のわりに高価な装備で身を固めていた冒険者の一人がボソッと呟いた。
「あぁ?今なんつったお前」
その通りではあるんだけど。助けられた場で、助けた本人の前で言っちゃ駄目だわな。ダートキレそうだなー。
「グランさん、あの人誰かわかる?」
「ナラカシ王国のサダ伯爵家…ランドール・サダですね」
「ナラカシ王国な?」
大きめの声で口に出すと、ビクッと震えて私を見る。
「く、国は関係…」
「うっわぁ、自分が名前教えといてなんですけど、エグいですね…脅しちゃって」
脅してないし。勝手に怯えただけじゃん。
「勇者なら恩知らずを流して受け止めなきゃなんねぇの?清廉潔白とでも思ってたのかよ」
「お、ついに悪役やっちゃう?いつでも殺すよ」
悪役やる気はあんまりないんだけどなぁ。
「このくらいで殺すとかはねーけど。悪意には悪意で返すよ?当然じゃね」
「…それはそうですね。失礼しました、存分に脅してください」
チラッと横目で見たら、飛び跳ねてわたわた逃げてった。他の二人も慌てて走って追っていく。これはまた遠巻きにされるのが加速しそうだなー。
「名前までバレてんのに逃げたらどーにかなるとでも思ってんのかね?」
「ダート何かする気?もーどーでもいんだけど」
「それじゃ気がすまねぇ」
「……では、情けなくも魔物から逃げ回り、助けてくれた勇者を侮辱した上怯えて這って逃げた事実をちょっと誇張して流すのはどうでしょう?」
「それは…ボコられるより屈辱だな。お前もえげつねぇな」
「弱い者には弱い者の戦い方があるんですよ。僕は平民ですが、色んな方に恩を売ってこの学園でもどうにか生きていけてます」
「波風立たせず生きてけるのはいいね、私には無理みたい」
長年冒険者として暮らしてきた弊害かな、明らかに学園では異質だ。
「……僕ですね、優秀なんですよ」
「ん?ああ、名前パッと出てきて凄かったね。全員覚えてんの?」
「覚えてます、非力なので情報が生命線なんですよ。僕文官目指してるんですけど、試験は余裕でもやっぱり平民じゃ一定以上はあがれないんですよね。なのでまぁ公爵家と勇者伯のコネや情報が手に入ったりしないかな、と班員に立候補したわけですが」
「へぇ、正直だね」
「とってつけたような態度で媚びても意味なさそうですし。あと、お二人には慇懃より正直の方が印象良くなりそうだなと」
「ははっ、わかってんじゃんお前。でも残念、オレら政府にコネねぇよ?流石にお前のために父親使う気にもなれねぇし」
ダート楽しそう。私に付き合ってるせいかこんな軽口叩く男友達も出来てなかったしいいことだな。
「うーん、コネ目的ではあったんですけど。でも勇者伯のブレーンするのも良いなと思ってきて」
「はぁん?」
「お二人とも頭悪くないし立ち回りも下手じゃないですけど、実力がある分謀略には向いてないですよね。高みに行きすぎてるのもあって浮き気味ですし。僕居るとその辺カバー出来ると思いません?」
ブレーンが必要な場面あるかな?遠巻きにされてもそんなに不便ないっちゃないんだけどな。
そんなことを考えながらグランさんの売り込みに耳を傾ける。
「一文官としてそこそこの地位にいくより、勇者伯の懐刀の方が地位もやりがいもありそうです。青田買いしてもらえませんかね」
「ふざけんなディーの懐刀はオレだ」
「パートナーでは?」
「パートナーも懐刀もオレ」
「……えーと、知力の懐刀が僕で、武力の懐刀がダートルド様。如何でしょう、知識でこの学園に僕より勝る人間居ないですし。それぞれのトップがついていれば安心二倍ですよ」
「……一理あるな」
ダートが丸め込まれた。そもそも懐刀って何、上に登り詰める予定もないのに。
「はいはいはーい、私社交担当で!」
今度はリアが手をあげて会話に入ってきた。
「なんでお前まで入ってくんだよ」
「私彼に押し掛け女房したいので近くでチャンスを伺いたいわ。それに私の社交術、結構なものなのよ?」
「押しかけ女房?」
「ええ、理知的でとても素敵!私と婚約してくださらない?」
リアがいきなり求婚した。
「はっ?!」
「ビビッときましたの!」
「いえ、僕平民ですし…王女様のお相手は」
「小国の王族に価値はございませんわ、それに我が国はその辺緩いのです。お姉様も祝福されて商人の方に嫁いでおりますし」
スルド国すごいな、大した混乱もなく平民と王女様がくっついちゃうんだ。
「は、いえ、あの」
リアはグイグイ迫って、グランさんの両手を掴んで離さない。
グランさんは真っ赤な顔でタジタジになってるけど、掴まれた手は振り払う様子もない。これあっという間に落ちそうだなー。こんな可愛いくて良い子に求愛されたら大抵の男はその気になるだろうな。
「おめでとー」
手をパチパチ叩いて祝福しとく。
「ディー様!僕承諾もしてないのに」
「いや、もう陥落寸前な感じだし」
「本当?!ディー様からはそう見える?!」
「見える見える、ちゅーでもかませばメロメロじゃん」
「ちっ…けしかけないでください!」
でも未だに手を振り解く素振りすらないし。
「はっはっは、王女様とくっついたらコイツがディーの下ついても安心だわ」
ダートはちょっと違う意味が入ってるけど同じく応援体制だ。
「私一応淑女ですので自分からキスはちょっと…ですけれど、グラン様がどうしてもと言うのなら」
頬染めて照れるリアかわいーなぁ。
「言ってません言いません!ディー様、ダートルド様、僕のこと検討しておいてくださいね!」
顔真っ赤にして目を瞑って、深呼吸した後ゆっくりとリアの手を振り解いたグランさんはそのまま走って逃げた。
「逃げられちゃったけど、あれって脈アリよね?」
「ふっとい脈だったね」
「よし!ガンガンいくわよー!」
「すげぇな王女様、男に対してもそんなグイグイいくんだ。引くわー」
「うるさいわね、ディー様にしがみついてる猛犬よりマシよ」
「うらやましんだろ」
「そうね、涙が出るほど羨ましくて悔しいわ!」
逃げたグランさんはオリテンテーリングの途中だったのを思い出したのかすぐに戻ってきたけど、すっごい挙動不審でリアの方をあからさまに見ないようにしてた。その後のチェックポイントでは知識を発揮できず、めっちゃ時間かかってのゴールとなった。
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