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逃げ出した悪役令嬢
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しおりを挟む何もない、他に誰もいない森の中で二人で夢中でキスを繰り返す。
「––––––っは、ダート、あの」
「ん~…もうちょっと」
息継ぎの瞬間に声をかけたけど、そのまま舌を絡め取られる。
頭の後ろ抱え込まれて、唇が離れない。
それでもダートの後頭部を掴んで、軽めに雷魔法を発した。
「いぃぃってぇー!何すんのディアナ!」
バチってなった瞬間にダートが後退って、頭を摩りながら涙目で私を見る。
「だってさぁ…まわり見てよダート、日が暮れるんだけど。準備してないのに野宿とかちょっと」
「え、ああ…もうそんなに時間経ってたんか」
そうだよ、何時間キスするつもりだよ。流された私も私だけどさ。
「やっべー、ディアナしか見てねかったから気付かなかったわ。念願成就して浮かれてた、暗くなる前に宿戻るか…んー」
立ち上がったダートが手を差し伸べて、座り込んでた私を立ち上がらせてくれる。
好き好き言われてたけど、こんなことされるのも初めてだな。手のひらに感じるダートの体温はあったかくて、ふわふわする。
ダートはそのまま手を離さず、指を交差させてからぶんぶん腕を振った。
「手の長さ違うから痛いんだけど」
「あ、わり。ひひ、イイね手ぇ繋ぐの。こんまま帰ろーぜ」
「うん。ねぇ学園ってこっちの国にあるんだよね、ここから遠い?」
「首都から近いかなー、こっから馬車で1日くらいか?お前の転移あれば問題ねぇけどどーする拠点移す?」
毎日転移するのダルいし、首都付近あんまり知らないから住んでみるのもアリかなぁ。
「勇者凱旋で顔見られてるからあの辺行ったらお前大変な目に合うけど」
「大変な目ってなに」
「もみくちゃかな。ま、オレが近付かせねぇから関係ないか。こーゆー時強面便利、お前一人で外歩くなよ」
いつもよりゆっくり歩きながら細い目を更に細くして笑って、にこにこご機嫌に言われる。
「勇者様に何かあるとでも」
「いやそらお前強いのはわかってっけど。オレを傍に置いてくれんだろ?四六時中離れちゃダメよ」
「無理でしょ。大体ダート年上じゃん、学年も違う…ん、あれ?そもそもあんた学園行ってなかったの?もうとっくに卒業してる年なんじゃないの」
もう成人してるよねダート。
「あ~…オレ1年目で休学したからまだ1年だな。退学しよーとしてたけど親の言う通り休学にしといてよかったわ」
「休学ぅ?なんで」
「お前と居るために決まってんじゃん。通いながらじゃいろんなとこついてけねーし」
「マジですか。えー、ダート年下の中に混ざるの?」
「あの学園結構年バラバラだぞー、20までに入学すりゃいんだから。いきなり休学するやつは他にいねぇだろーけど同じ19くらい結構居るはず」
へぇ、ゲームじゃ悪役令嬢は何歳で入学してたっけ。もううろ覚えだな。
「隣国の王子様は?」
「わかんね、聞いとく。そいつに会っても惚れないでな?」
何言ってんのこいつ。さっきまで散々キスしといて。
「だって夢じゃ人殺そーとするぐらい惚れてたわけだろ。会ったら一目惚れとかさ」
「ないない、一回会ったことあるし。別に何とも思わなかったし」
「子供の頃だろ?わっかんねぇじゃん。超美形らしいぜ、オレお前に釣り合ってない自覚あるしなー」
顔の話?ものすごい美形なわけじゃないけど別に不細工じゃないし…そりゃ乙女ゲームのメイン攻略対象者と比べちゃ分が悪いけどさ。
「結構その細いつり目悪くないよ?」
「マジ?お前も中々趣味わりぃな」
そんなこと言いながらさらにニコニコご機嫌になるダート。厳つい顔台無しになってて可愛いな。
宿の部屋まで着いた時、ダートが振り向いて手が離れたと思ったらそのまま抱き上げられて、二人とも同じ目の高さになった。
「わっ」
「なー、顔じゃ敵わないけどオレほどディアナ愛しちゃってる男居ないからな。お前のためならその王子様だって抹殺してやるよ」
「…物騒」
「物騒上等!処刑なんかさせるもんか。あの平和ボケた国潰してでも助けてやる、そもそもそんなことあるわけねぇけど、それでも万が一でも、ディアナが死ぬことはない。萎縮とか警戒とかすんなよ?お前はオレの横で面白楽しく学園生活送りゃいい」
「楽しい生活…」
そんなこと考えもしなかった。とにかく死にたくないってだけで、必死で逃げてここまできたから。
「国から逃げても、運命から逃げても、ディアナは戦ってたよ。こんな細くて軽いのに…子供の時から凛として強かった」
「………」
「ずっと見てた。なんで目が行くのかわかんなかったけど、追いかけて捕まえたかった。血反吐吐いてついてって良かった、やっと並べた…まだまだお前のが強いけど、お前が無理して気ぃ張る必要ないくらいには役に立てるから」
視界が滲んでいく。
いくらスペック高かろうが、戦うことに慣れるまでは子供が一人で生き抜いていくのはキツかった。雨水だって平気で口にして、吐きながら動物捌いて。
「好きだ、愛してるディアナ。何でもするし、全部あげる。オレはお前が居れば幸せだから、ディアナの幸せを作るためなら何だって出来る。ディアナが安心して寄り掛かれる存在になりたい」
「それは…もうなってる」
背中を預けて戦えるのはダートだけだ。怖くて夜眠れないなんてこともなかった。
「公私共にだ、これからがっつりディアナの私生活にも介入してくからな」
「––––ふふっ」
「は、そんな顔も初めて見た。ディアナは泣いても笑っても可愛い」
ぽろぽろ流れてく涙を拭われながら、また長いキスがはじまる。
「んぅ」
「全部かわいー……オレのディアナ」
悲しいのか嬉しいのかよく分からないけど、家を出て初めて人前で泣いた。泣き疲れて、その日はそのままダートの腕の中で眠ってしまった。
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