11 / 47
第11話 領主の依頼
しおりを挟む
扉の左右で警護をしている、剣を持った兵士は、案内役の男を確認する。
そして、念のためと言ってガドランドとクリスが、武器になるものを持っていないか確認して、ようやく扉が開かれた。
部屋の中は広くはあるが、いたって質素であった。
目の前に書類が積まれた大きな机。その向こうに小太りの男が、何やら書類を読んでいる。
その隣には白髪の秘書らしき細身の老人が控えている。
机とガドランドたちの間には、テーブルとソファーが置かれている。
特に飾り気はないが落ち着いた雰囲気のその部屋は、この街カールスバーグの領主バイエルン・カールスバーグの執務室である。
「やあ、ガド。よく来てくれた。区切りがいいところまで終わらせてしまうから、そこに腰かけて待っていてくれないか。ああ、そうだ。なにか飲み物でも用意させよう」
金色の髪がだいぶ薄くなっている男が書類を確認しながら、友人に話しかけるように声をかける。
「いえいえ、お構いなく。カールスバーグ公もお忙しいでしょうから」
ガドランドとクリスはソファーに腰を掛けてくつろぐ。
しばらくすると、カールスバーグは隣に控えている白髪の男性に書類を渡す。
「よし、ヴァイツェン。こっちは承認分、こちらは再考が必要だ」
「承知いたしました」
そう言ってヴァイツェンと呼ばれた秘書は書類を持って、静かに部屋を出て行った。
「待たせたね。ガドにクリス君、元気そうで何よりだ。ほかの子たちも元気かね」
「ありがとうございます。ほかの三人も元気が余りすぎて困っております。公もお元気そうで何よりです。それで私に相談したいというのは何でしょうか?」
領主バイエルン・カールスバーグは決して卓越した施政者というわけではない。かといって悪政や恐怖政治を行うような悪政者でもない。ごくごく善良な、それでいて平凡な能力の持ち主である。それは本人もよく知るところであり、そのため人の意見をよく聞き、最良ではないが、最悪にならない選択を取り続けるように心がけている善良なる凡人の領主である。ゆえに数多い仕事を要領よく片づけられるわけではなく、いつも多忙なのである。それを十分知っているガドランドは呼び出されたうえ、目の前で待たされたりしても怒るわけでもなく、素直に用件に切り込む。
「そうだった。わざわざ、おぬしに来てもらったのは、北のフリート火山のことだ。最近、あの火山が活発になっているのを知っているか? もしかしたらイ・フリートの魔法に不具合が生じておるのかもしてない。万が一あの火山が昔のように活動を再開したら、この街まで被害が及びかねない」
フリート火山はその昔、違う名前の活火山だった。その地熱によって今でも、この平地は一大農地となっている。しかし、昔は数年ごとに大噴火を引き起こし、周囲に甚大な被害を起こしていた。それを、当時の魔法使いイ・フリートが火山を治め、なおかつ地熱の恩恵を受けられる魔法装置を取り付けた。それ以来、一度も噴火することなく安定している。フリートはその功績から、火山内を自分の領土にすることを認められ、自分の魔法の研究をするために、ダンジョンを作ってしまった。そのような経緯で、この火山はフリート火山と呼ばれるようになっていた。すでに百年以上、昔の話である。フリートの魔具や秘宝を狙ってダンジョンを探索する冒険者も少なからずいるが、誰も最深部にいると言われるフリートとフリートの魔法装置を見つけられた者はいない。
「それはフリートダンジョンを探索して、誰も見つけられていないという魔法装置を確認してくるっていう依頼ですか?」
「簡単に言うとそういうことだ。わしの騎士団を出すと領民に変な不安を与えかねない。こんな依頼をこなしてくれそうな冒険者は、おぬしくらいしか思い浮かばないからな。やってくれるよな」
ガドランドは煙草に火をつけて、少し考える。フリートダンジョンはガドランドも入ったことがある。魔法使いのロレンツを助けたのが、フリートダンジョンの中だった。当時、別の冒険者パーティにいたロレンツはフリートダンジョンを攻略しようとしていた。そして彼以外、全滅した上に魔力も尽きるという絶体絶命の危機に陥った。その時に、たまたま通りかかり、その命を救ったのだった。そのまま命の恩人に弟子入りしたのが約五年前だった。それ以来、ガドランドもロレンツもフリートダンジョンには入っていないのだった。
そして、念のためと言ってガドランドとクリスが、武器になるものを持っていないか確認して、ようやく扉が開かれた。
部屋の中は広くはあるが、いたって質素であった。
目の前に書類が積まれた大きな机。その向こうに小太りの男が、何やら書類を読んでいる。
その隣には白髪の秘書らしき細身の老人が控えている。
机とガドランドたちの間には、テーブルとソファーが置かれている。
特に飾り気はないが落ち着いた雰囲気のその部屋は、この街カールスバーグの領主バイエルン・カールスバーグの執務室である。
「やあ、ガド。よく来てくれた。区切りがいいところまで終わらせてしまうから、そこに腰かけて待っていてくれないか。ああ、そうだ。なにか飲み物でも用意させよう」
金色の髪がだいぶ薄くなっている男が書類を確認しながら、友人に話しかけるように声をかける。
「いえいえ、お構いなく。カールスバーグ公もお忙しいでしょうから」
ガドランドとクリスはソファーに腰を掛けてくつろぐ。
しばらくすると、カールスバーグは隣に控えている白髪の男性に書類を渡す。
「よし、ヴァイツェン。こっちは承認分、こちらは再考が必要だ」
「承知いたしました」
そう言ってヴァイツェンと呼ばれた秘書は書類を持って、静かに部屋を出て行った。
「待たせたね。ガドにクリス君、元気そうで何よりだ。ほかの子たちも元気かね」
「ありがとうございます。ほかの三人も元気が余りすぎて困っております。公もお元気そうで何よりです。それで私に相談したいというのは何でしょうか?」
領主バイエルン・カールスバーグは決して卓越した施政者というわけではない。かといって悪政や恐怖政治を行うような悪政者でもない。ごくごく善良な、それでいて平凡な能力の持ち主である。それは本人もよく知るところであり、そのため人の意見をよく聞き、最良ではないが、最悪にならない選択を取り続けるように心がけている善良なる凡人の領主である。ゆえに数多い仕事を要領よく片づけられるわけではなく、いつも多忙なのである。それを十分知っているガドランドは呼び出されたうえ、目の前で待たされたりしても怒るわけでもなく、素直に用件に切り込む。
「そうだった。わざわざ、おぬしに来てもらったのは、北のフリート火山のことだ。最近、あの火山が活発になっているのを知っているか? もしかしたらイ・フリートの魔法に不具合が生じておるのかもしてない。万が一あの火山が昔のように活動を再開したら、この街まで被害が及びかねない」
フリート火山はその昔、違う名前の活火山だった。その地熱によって今でも、この平地は一大農地となっている。しかし、昔は数年ごとに大噴火を引き起こし、周囲に甚大な被害を起こしていた。それを、当時の魔法使いイ・フリートが火山を治め、なおかつ地熱の恩恵を受けられる魔法装置を取り付けた。それ以来、一度も噴火することなく安定している。フリートはその功績から、火山内を自分の領土にすることを認められ、自分の魔法の研究をするために、ダンジョンを作ってしまった。そのような経緯で、この火山はフリート火山と呼ばれるようになっていた。すでに百年以上、昔の話である。フリートの魔具や秘宝を狙ってダンジョンを探索する冒険者も少なからずいるが、誰も最深部にいると言われるフリートとフリートの魔法装置を見つけられた者はいない。
「それはフリートダンジョンを探索して、誰も見つけられていないという魔法装置を確認してくるっていう依頼ですか?」
「簡単に言うとそういうことだ。わしの騎士団を出すと領民に変な不安を与えかねない。こんな依頼をこなしてくれそうな冒険者は、おぬしくらいしか思い浮かばないからな。やってくれるよな」
ガドランドは煙草に火をつけて、少し考える。フリートダンジョンはガドランドも入ったことがある。魔法使いのロレンツを助けたのが、フリートダンジョンの中だった。当時、別の冒険者パーティにいたロレンツはフリートダンジョンを攻略しようとしていた。そして彼以外、全滅した上に魔力も尽きるという絶体絶命の危機に陥った。その時に、たまたま通りかかり、その命を救ったのだった。そのまま命の恩人に弟子入りしたのが約五年前だった。それ以来、ガドランドもロレンツもフリートダンジョンには入っていないのだった。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
目が覚めたら異世界でした!~病弱だけど、心優しい人達に出会えました。なので現代の知識で恩返ししながら元気に頑張って生きていきます!〜
楠ノ木雫
恋愛
病院に入院中だった私、奥村菖は知らず知らずに異世界へ続く穴に落っこちていたらしく、目が覚めたら知らない屋敷のベッドにいた。倒れていた菖を保護してくれたのはこの国の公爵家。彼女達からは、地球には帰れないと言われてしまった。
病気を患っている私はこのままでは死んでしまうのではないだろうかと悟ってしまったその時、いきなり目の前に〝妖精〟が現れた。その妖精達が持っていたものは幻の薬草と呼ばれるもので、自分の病気が治る事が発覚。治療を始めてどんどん元気になった。
元気になり、この国の公爵家にも歓迎されて。だから、恩返しの為に現代の知識をフル活用して頑張って元気に生きたいと思います!
でも、あれ? この世界には私の知る食材はないはずなのに、どうして食事にこの四角くて白い〝コレ〟が出てきたの……!?
※他の投稿サイトにも掲載しています。
辻ヒーラー、謎のもふもふを拾う。社畜俺、ダンジョンから出てきたソレに懐かれたので配信をはじめます。
月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中
ファンタジー
ブラック企業で働く社畜の辻風ハヤテは、ある日超人気ダンジョン配信者のひかるんがイレギュラーモンスターに襲われているところに遭遇する。
ひかるんに辻ヒールをして助けたハヤテは、偶然にもひかるんの配信に顔が映り込んでしまう。
ひかるんを助けた英雄であるハヤテは、辻ヒールのおじさんとして有名になってしまう。
ダンジョンから帰宅したハヤテは、後ろから謎のもふもふがついてきていることに気づく。
なんと、謎のもふもふの正体はダンジョンから出てきたモンスターだった。
もふもふは怪我をしていて、ハヤテに助けを求めてきた。
もふもふの怪我を治すと、懐いてきたので飼うことに。
モンスターをペットにしている動画を配信するハヤテ。
なんとペット動画に自分の顔が映り込んでしまう。
顔バレしたことで、世間に辻ヒールのおじさんだとバレてしまい……。
辻ヒールのおじさんがペット動画を出しているということで、またたくまに動画はバズっていくのだった。
他のサイトにも掲載
なろう日間1位
カクヨムブクマ7000
異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します
桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる
屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。
彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。
父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。
わー、凄いテンプレ展開ですね!
ふふふ、私はこの時を待っていた!
いざ行かん、正義の旅へ!
え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。
でも……美味しいは正義、ですよね?
2021/02/19 第一部完結
2021/02/21 第二部連載開始
2021/05/05 第二部完結
外れスキルと馬鹿にされた【経験値固定】は実はチートスキルだった件
霜月雹花
ファンタジー
15歳を迎えた者は神よりスキルを授かる。
どんなスキルを得られたのか神殿で確認した少年、アルフレッドは【経験値固定】という訳の分からないスキルだけを授かり、無能として扱われた。
そして一年後、一つ下の妹が才能がある者だと分かるとアルフレッドは家から追放処分となった。
しかし、一年という歳月があったおかげで覚悟が決まっていたアルフレッドは動揺する事なく、今後の生活基盤として冒険者になろうと考えていた。
「スキルが一つですか? それも攻撃系でも魔法系のスキルでもないスキル……すみませんが、それでは冒険者として務まらないと思うので登録は出来ません」
だがそこで待っていたのは、無能なアルフレッドは冒険者にすらなれないという現実だった。
受付との会話を聞いていた冒険者達から逃げるようにギルドを出ていき、これからどうしようと悩んでいると目の前で苦しんでいる老人が目に入った。
アルフレッドとその老人、この出会いにより無能な少年として終わるはずだったアルフレッドの人生は大きく変わる事となった。
2024/10/05 HOT男性向けランキング一位。
結婚しても別居して私は楽しくくらしたいので、どうぞ好きな女性を作ってください
シンさん
ファンタジー
サナス伯爵の娘、ニーナは隣国のアルデーテ王国の王太子との婚約が決まる。
国に行ったはいいけど、王都から程遠い別邸に放置され、1度も会いに来る事はない。
溺愛する女性がいるとの噂も!
それって最高!好きでもない男の子供をつくらなくていいかもしれないし。
それに私は、最初から別居して楽しく暮らしたかったんだから!
そんな別居願望たっぷりの伯爵令嬢と王子の恋愛ストーリー
最後まで書きあがっていますので、随時更新します。
表紙はエブリスタでBeeさんに描いて頂きました!綺麗なイラストが沢山ございます。リンク貼らせていただきました。
小さな大魔法使いの自分探しの旅 親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします
藤なごみ
ファンタジー
※2024年10月下旬に、第2巻刊行予定です
2024年6月中旬に第一巻が発売されます
2024年6月16日出荷、19日販売となります
発売に伴い、題名を「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、元気いっぱいに無自覚チートで街の人を笑顔にします~」→「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします~」
中世ヨーロッパに似ているようで少し違う世界。
数少ないですが魔法使いがが存在し、様々な魔導具も生産され、人々の生活を支えています。
また、未開発の土地も多く、数多くの冒険者が活動しています
この世界のとある地域では、シェルフィード王国とタターランド帝国という二つの国が争いを続けています
戦争を行る理由は様ながら長年戦争をしては停戦を繰り返していて、今は辛うじて平和な時が訪れています
そんな世界の田舎で、男の子は産まれました
男の子の両親は浪費家で、親の資産を一気に食いつぶしてしまい、あろうことかお金を得るために両親は行商人に幼い男の子を売ってしまいました
男の子は行商人に連れていかれながら街道を進んでいくが、ここで行商人一行が盗賊に襲われます
そして盗賊により行商人一行が殺害される中、男の子にも命の危険が迫ります
絶体絶命の中、男の子の中に眠っていた力が目覚めて……
この物語は、男の子が各地を旅しながら自分というものを探すものです
各地で出会う人との繋がりを通じて、男の子は少しずつ成長していきます
そして、自分の中にある魔法の力と向かいながら、色々な事を覚えていきます
カクヨム様と小説家になろう様にも投稿しております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる