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第11話 領主の依頼

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 扉の左右で警護をしている、剣を持った兵士は、案内役の男を確認する。
 そして、念のためと言ってガドランドとクリスが、武器になるものを持っていないか確認して、ようやく扉が開かれた。

 部屋の中は広くはあるが、いたって質素であった。
 目の前に書類が積まれた大きな机。その向こうに小太りの男が、何やら書類を読んでいる。
 その隣には白髪の秘書らしき細身の老人が控えている。
 机とガドランドたちの間には、テーブルとソファーが置かれている。
 特に飾り気はないが落ち着いた雰囲気のその部屋は、この街カールスバーグの領主バイエルン・カールスバーグの執務室である。

「やあ、ガド。よく来てくれた。区切りがいいところまで終わらせてしまうから、そこに腰かけて待っていてくれないか。ああ、そうだ。なにか飲み物でも用意させよう」

 金色の髪がだいぶ薄くなっている男が書類を確認しながら、友人に話しかけるように声をかける。

「いえいえ、お構いなく。カールスバーグ公もお忙しいでしょうから」

 ガドランドとクリスはソファーに腰を掛けてくつろぐ。
 しばらくすると、カールスバーグは隣に控えている白髪の男性に書類を渡す。

「よし、ヴァイツェン。こっちは承認分、こちらは再考が必要だ」
「承知いたしました」

 そう言ってヴァイツェンと呼ばれた秘書は書類を持って、静かに部屋を出て行った。

「待たせたね。ガドにクリス君、元気そうで何よりだ。ほかの子たちも元気かね」
「ありがとうございます。ほかの三人も元気が余りすぎて困っております。公もお元気そうで何よりです。それで私に相談したいというのは何でしょうか?」

 領主バイエルン・カールスバーグは決して卓越した施政者というわけではない。かといって悪政や恐怖政治を行うような悪政者でもない。ごくごく善良な、それでいて平凡な能力の持ち主である。それは本人もよく知るところであり、そのため人の意見をよく聞き、最良ではないが、最悪にならない選択を取り続けるように心がけている善良なる凡人の領主である。ゆえに数多い仕事を要領よく片づけられるわけではなく、いつも多忙なのである。それを十分知っているガドランドは呼び出されたうえ、目の前で待たされたりしても怒るわけでもなく、素直に用件に切り込む。

「そうだった。わざわざ、おぬしに来てもらったのは、北のフリート火山のことだ。最近、あの火山が活発になっているのを知っているか? もしかしたらイ・フリートの魔法に不具合が生じておるのかもしてない。万が一あの火山が昔のように活動を再開したら、この街まで被害が及びかねない」

 フリート火山はその昔、違う名前の活火山だった。その地熱によって今でも、この平地は一大農地となっている。しかし、昔は数年ごとに大噴火を引き起こし、周囲に甚大な被害を起こしていた。それを、当時の魔法使いイ・フリートが火山を治め、なおかつ地熱の恩恵を受けられる魔法装置を取り付けた。それ以来、一度も噴火することなく安定している。フリートはその功績から、火山内を自分の領土にすることを認められ、自分の魔法の研究をするために、ダンジョンを作ってしまった。そのような経緯で、この火山はフリート火山と呼ばれるようになっていた。すでに百年以上、昔の話である。フリートの魔具や秘宝を狙ってダンジョンを探索する冒険者も少なからずいるが、誰も最深部にいると言われるフリートとフリートの魔法装置を見つけられた者はいない。

「それはフリートダンジョンを探索して、誰も見つけられていないという魔法装置を確認してくるっていう依頼ですか?」
「簡単に言うとそういうことだ。わしの騎士団を出すと領民に変な不安を与えかねない。こんな依頼をこなしてくれそうな冒険者は、おぬしくらいしか思い浮かばないからな。やってくれるよな」

 ガドランドは煙草に火をつけて、少し考える。フリートダンジョンはガドランドも入ったことがある。魔法使いのロレンツを助けたのが、フリートダンジョンの中だった。当時、別の冒険者パーティにいたロレンツはフリートダンジョンを攻略しようとしていた。そして彼以外、全滅した上に魔力も尽きるという絶体絶命の危機に陥った。その時に、たまたま通りかかり、その命を救ったのだった。そのまま命の恩人に弟子入りしたのが約五年前だった。それ以来、ガドランドもロレンツもフリートダンジョンには入っていないのだった。
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