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第二章

第57話 駆け出し冒険者の話し合いの結果

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「やっと、寝たわよ」

 食事の後、みんなでお風呂に入った子供達をエルシーは寝かしつけてた。
 小説も書いているエルシーのお話は、外の世界を知らない子供達には刺激的な話だった。そのため、エルシーが来るたびに何度も何度もお話をせがむのだった。
 みんなで夕飯を食べた長テーブルにはアイル夫妻と平和の鐘のメンバーが集まっていた。

「大変だったわね。ありがとうね、エルシー。みんな、エルシーが来るの楽しみにしてるのよ」
「みんな元気で良かったわ。あ、そうそう、オルコットちゃん、アレを出してくれる?」

 椅子に座り、アイルの淹れたコーヒーを一口飲むと、エルシーはオルコットに預けてあった革袋を渡すようにお願いした。
 オルコットは黙って、エルシーが家を出るときに忘れかけていた革袋を渡した。エルシーはそれを受け取るとそっくりそのまま、アイルに渡したのだった。

「アイル姉さん、ワイズ兄さん。これを受け取って」
「エルシー。いつも、ありがとう。でも無理しないでね」

 アイルはお礼を言うと、革袋の中のお金を数え始めた。

「今回、臨時収入があったから大丈夫よ。わたしは、みんなが頑張ってくれたおこぼれを貰っただけだから、気にせず使って」
「そうなの。え!? こんなに?」

 アイルは思いのほか多いお金に驚いた。これだけあれば、一年は子供達に十分栄養のある食事を食べさせる位の額はあった。
 そしてその額にエルシー自身も驚いた。それはエルシーが入れていた額よりも倍以上あったからだ。

「え!? あたし、こんなに入れてなかったけど……あ! オルちゃん!」

 革袋のお金をどうにか出来るなら、ここに来るまで革袋を持っていたオルコットにしか出来ないと、エルシーは気が付いた。
 でも、今回のオルコットの分を全部入れても、増えた額は多すぎる。

「みんなで、話し合ったの。エル姉ちゃんのお姉ちゃんなら、あたし達にとってもお姉ちゃんみたいな人じゃない。だったら、助け合わなきゃって」
「でも、トリ君もオルちゃんも買いたかった物があったんじゃないの?」
「大丈夫だよ。ちゃんと、自分達の無理のない範囲でっみんなで決めたんだから……それに」
「それに?」
「わたくしたちは家族なんでしょう。お姉様」

 そう言う三人をスティーブンはただ静かに微笑んでいた。その様子を見てスティーブンも今回の件に関わっていることは明らかだった。

「みんな……ありがとう」
「エルシー、それは、私から言わせて、みんな本当にありがとう。このお金は大事に使わせて貰うわ」

 アイルはエルシーの言葉を遮ってエルシーを含んだ平和の鐘のメンバーにお礼を言った。
 その隣でワイズは黙って頭を下げていた。テーブルに小さな水たまりを作りながら。

 次の日、オルコットはアイルと一緒に家事をこなし、トリステンはワイズと共に畑仕事に向かった。
 スティーブンは朝一、乗り合い馬車に予定変更を伝え、返金交渉と次回の乗合馬車の確認を行った。
 そして、エルシーとマリアーヌは子供達の世話をする事になったのだった。
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