178 / 186
第三章
モナ母さん
しおりを挟む
アレックスに手伝ってもらい、火酒の入ったタルを一つおろす。
タルを開けると、熟成されたアルコールの香りが広がる。
美しい黄金色の液体がタルの中に広がる
モナに毒が入っていないことを示すために、俺は先にひとすくいする。
そこでハタと気がつく。
この酒、アルコール度数が非常に高く、水やジュースで割って飲むのが前提だった。
しかし今更引き下がれない。
俺は意を決して一気に飲む。
鼻から抜けるアルコールとタルの木の香り。
気を張っているせいか、意外と酔いが回ってこない。
いける!
大きなジョッキに酒を取り、モナに渡すとまるでお猪口だ。
『ほう、なかなか美味だな。もう一杯頂こう』
「どうぞどうぞ、あと二タル用意していますので、お好きなだけ飲んでください。つまみにマナ石はいかがですか?」
俺はマナ石も差し出す。
モナはマナ石を口で転がしながら酒を飲む。
俺にも勧めるため、一緒に酒を飲む。
「それでモナ様は普段はどの辺りにいらっしゃるのですか?」
『私か? 今はここから西に行った山の上にいるよ』
「そこに家があるんですか?」
『まあそうだな。今はな』
少し機嫌良さそうな口調だ。
酒を飲んで気分が良くなるのは、人もバハムートも一緒か。
兼光と接していたせいか、モナも悪いバハムートじゃ無い気がしていた。
「今は、と言うことはあちこちに移動してるのですか?」
『まあな、特に子育ての期間は特にあちこちに移動してるな。子供たちの食事の量が多いから、あちこちに移動しないと獲物を食い尽くしてしまうからな』
そういえば兼光も大食らいだな。
初めて姫鶴が野菜泥棒をして捕まったのも、兼光のためだった。
「それは大変ですね」
『大変よ! わかる!? そういえば、あなたは子供はいるの?』
「いえ、子供どころか結婚もまだです」
モナは酒臭いため息をつく。
『人間の年ってわからないけど、あなた若いんでしょうね。子育てって大変よ。食事の準備に排泄物の処理……こちらの言うことはちっとも聞かないくせに、お腹すいたやら遊んでやら要求ばっかり。ちょっと目を離すとその辺をうろうろするし、困ったものよ』
「それは大変ですね。近所の人を見るとすごいなって思いますよ。まあ、酒をどうぞ」
『そうなのよ。大変なのよ。わかってくれる? あなたたち人間は大勢でコミュニティーを作って、お互い助け合いながら子育てしてるでしょう。いいわよね~。こっちはワンオペよ。もう、やってられないわよ』
モナは良い感じに脱力しながら愚痴をこぼす。
『でもね可愛いのよ、子供って。大人になるとこんな真っ黒な鱗になるけど、生まれたばっかりの子は真っ白な羽毛に包まれててね。おとなしくスヤスヤ眠る姿を見てるだけで、疲れが吹き飛ぶのよ。わかる?』
「ええ、わかります。子供はみんな可愛いですもんね」
『わかってくれる! じゃあ、貴方も早く子供作っちゃいなさいよ。相手はいるの? どうなの?』
トロ~ンとしかけたモナの目がきらりと大きく見開く。
「一応……います」
『だったらグズグズしないで、さっさと孕ませちゃいなさいよ。どんな子? いい子? 元気な赤ちゃんを産んでくれそう?』
「可愛い……いい子ですよ」
『だったら早くしないと、ほかの男に取られちゃうわよ。例えばさっきから馬車の上にいる男とか……』
「あいつは……」
危うく、あいつは女だと言いそうになった。
いかん、話がおかしな方向に進んでいる。
このまま、アレックスまで話に加わったら収拾がつかなくなりそうだ。
でも心を開いてくれている感触はある。
「いや、私のことはいいんですよ。それよりも、盗まれた物と犯人の特徴を教えてもらえますか?」
『おお、そうだったわ。大事なことを忘れていたわ』
そう言って酒を口に運ぶ。
俺はタルを覗くと中身が空になっていた。
「もうひとタル持ってきますね」
『ああ、そうね』
俺はアレックスの待つ馬車の荷台に酒を取りに行く。
『犯人は人間の女だったわよ。あなたと同じ黒い髪だったわ』
荷台の下で待機しているアレックスの方へタルを転がす。
思った以上に酒が回っていたらしく、俺はふらついて別のタルにぶつかる。
そのタルは転がり、荷台から落ちる。
『盗まれたのは、私の大事な子供よ』
落ちたタルのフタが開き、中から兼光の抜け殻が地面に落ちる。
タルを開けると、熟成されたアルコールの香りが広がる。
美しい黄金色の液体がタルの中に広がる
モナに毒が入っていないことを示すために、俺は先にひとすくいする。
そこでハタと気がつく。
この酒、アルコール度数が非常に高く、水やジュースで割って飲むのが前提だった。
しかし今更引き下がれない。
俺は意を決して一気に飲む。
鼻から抜けるアルコールとタルの木の香り。
気を張っているせいか、意外と酔いが回ってこない。
いける!
大きなジョッキに酒を取り、モナに渡すとまるでお猪口だ。
『ほう、なかなか美味だな。もう一杯頂こう』
「どうぞどうぞ、あと二タル用意していますので、お好きなだけ飲んでください。つまみにマナ石はいかがですか?」
俺はマナ石も差し出す。
モナはマナ石を口で転がしながら酒を飲む。
俺にも勧めるため、一緒に酒を飲む。
「それでモナ様は普段はどの辺りにいらっしゃるのですか?」
『私か? 今はここから西に行った山の上にいるよ』
「そこに家があるんですか?」
『まあそうだな。今はな』
少し機嫌良さそうな口調だ。
酒を飲んで気分が良くなるのは、人もバハムートも一緒か。
兼光と接していたせいか、モナも悪いバハムートじゃ無い気がしていた。
「今は、と言うことはあちこちに移動してるのですか?」
『まあな、特に子育ての期間は特にあちこちに移動してるな。子供たちの食事の量が多いから、あちこちに移動しないと獲物を食い尽くしてしまうからな』
そういえば兼光も大食らいだな。
初めて姫鶴が野菜泥棒をして捕まったのも、兼光のためだった。
「それは大変ですね」
『大変よ! わかる!? そういえば、あなたは子供はいるの?』
「いえ、子供どころか結婚もまだです」
モナは酒臭いため息をつく。
『人間の年ってわからないけど、あなた若いんでしょうね。子育てって大変よ。食事の準備に排泄物の処理……こちらの言うことはちっとも聞かないくせに、お腹すいたやら遊んでやら要求ばっかり。ちょっと目を離すとその辺をうろうろするし、困ったものよ』
「それは大変ですね。近所の人を見るとすごいなって思いますよ。まあ、酒をどうぞ」
『そうなのよ。大変なのよ。わかってくれる? あなたたち人間は大勢でコミュニティーを作って、お互い助け合いながら子育てしてるでしょう。いいわよね~。こっちはワンオペよ。もう、やってられないわよ』
モナは良い感じに脱力しながら愚痴をこぼす。
『でもね可愛いのよ、子供って。大人になるとこんな真っ黒な鱗になるけど、生まれたばっかりの子は真っ白な羽毛に包まれててね。おとなしくスヤスヤ眠る姿を見てるだけで、疲れが吹き飛ぶのよ。わかる?』
「ええ、わかります。子供はみんな可愛いですもんね」
『わかってくれる! じゃあ、貴方も早く子供作っちゃいなさいよ。相手はいるの? どうなの?』
トロ~ンとしかけたモナの目がきらりと大きく見開く。
「一応……います」
『だったらグズグズしないで、さっさと孕ませちゃいなさいよ。どんな子? いい子? 元気な赤ちゃんを産んでくれそう?』
「可愛い……いい子ですよ」
『だったら早くしないと、ほかの男に取られちゃうわよ。例えばさっきから馬車の上にいる男とか……』
「あいつは……」
危うく、あいつは女だと言いそうになった。
いかん、話がおかしな方向に進んでいる。
このまま、アレックスまで話に加わったら収拾がつかなくなりそうだ。
でも心を開いてくれている感触はある。
「いや、私のことはいいんですよ。それよりも、盗まれた物と犯人の特徴を教えてもらえますか?」
『おお、そうだったわ。大事なことを忘れていたわ』
そう言って酒を口に運ぶ。
俺はタルを覗くと中身が空になっていた。
「もうひとタル持ってきますね」
『ああ、そうね』
俺はアレックスの待つ馬車の荷台に酒を取りに行く。
『犯人は人間の女だったわよ。あなたと同じ黒い髪だったわ』
荷台の下で待機しているアレックスの方へタルを転がす。
思った以上に酒が回っていたらしく、俺はふらついて別のタルにぶつかる。
そのタルは転がり、荷台から落ちる。
『盗まれたのは、私の大事な子供よ』
落ちたタルのフタが開き、中から兼光の抜け殻が地面に落ちる。
0
お気に入りに追加
61
あなたにおすすめの小説
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います
騙道みりあ
ファンタジー
魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。
その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。
仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。
なので、全員殺すことにした。
1話完結ですが、続編も考えています。
他国から来た王妃ですが、冷遇? 私にとっては厚遇すぎます!
七辻ゆゆ
ファンタジー
人質同然でやってきたというのに、出されるご飯は母国より美味しいし、嫌味な上司もいないから掃除洗濯毎日楽しいのですが!?
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
虐げられた令嬢、ペネロペの場合
キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。
幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。
父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。
まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。
可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。
1話完結のショートショートです。
虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい……
という願望から生まれたお話です。
ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。
R15は念のため。
(完結)足手まといだと言われパーティーをクビになった補助魔法師だけど、足手まといになった覚えは無い!
ちゃむふー
ファンタジー
今までこのパーティーで上手くやってきたと思っていた。
なのに突然のパーティークビ宣言!!
確かに俺は直接の攻撃タイプでは無い。
補助魔法師だ。
俺のお陰で皆の攻撃力防御力回復力は約3倍にはなっていた筈だ。
足手まといだから今日でパーティーはクビ??
そんな理由認められない!!!
俺がいなくなったら攻撃力も防御力も回復力も3分の1になるからな??
分かってるのか?
俺を追い出した事、絶対後悔するからな!!!
ファンタジー初心者です。
温かい目で見てください(*'▽'*)
一万文字以下の短編の予定です!
勇者に闇討ちされ婚約者を寝取られた俺がざまあするまで。
飴色玉葱
ファンタジー
王都にて結成された魔王討伐隊はその任を全うした。
隊を率いたのは勇者として名を挙げたキサラギ、英雄として誉れ高いジークバルト、さらにその二人を支えるようにその婚約者や凄腕の魔法使いが名を連ねた。
だがあろうことに勇者キサラギはジークバルトを闇討ちし行方知れずとなってしまう。
そして、恐るものがいなくなった勇者はその本性を現す……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる