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第三章

モナ母さん

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 アレックスに手伝ってもらい、火酒の入ったタルを一つおろす。
 タルを開けると、熟成されたアルコールの香りが広がる。
 美しい黄金色の液体がタルの中に広がる

 モナに毒が入っていないことを示すために、俺は先にひとすくいする。

 そこでハタと気がつく。

 この酒、アルコール度数が非常に高く、水やジュースで割って飲むのが前提だった。
 しかし今更引き下がれない。

 俺は意を決して一気に飲む。
 鼻から抜けるアルコールとタルの木の香り。
 気を張っているせいか、意外と酔いが回ってこない。

 いける!

 大きなジョッキに酒を取り、モナに渡すとまるでお猪口だ。

『ほう、なかなか美味だな。もう一杯頂こう』
「どうぞどうぞ、あと二タル用意していますので、お好きなだけ飲んでください。つまみにマナ石はいかがですか?」

 俺はマナ石も差し出す。
 モナはマナ石を口で転がしながら酒を飲む。
 俺にも勧めるため、一緒に酒を飲む。

「それでモナ様は普段はどの辺りにいらっしゃるのですか?」
『私か? 今はここから西に行った山の上にいるよ』
「そこに家があるんですか?」
『まあそうだな。今はな』

 少し機嫌良さそうな口調だ。
 酒を飲んで気分が良くなるのは、人もバハムートも一緒か。
 兼光と接していたせいか、モナも悪いバハムートじゃ無い気がしていた。

「今は、と言うことはあちこちに移動してるのですか?」
『まあな、特に子育ての期間は特にあちこちに移動してるな。子供たちの食事の量が多いから、あちこちに移動しないと獲物を食い尽くしてしまうからな』

 そういえば兼光も大食らいだな。
 初めて姫鶴が野菜泥棒をして捕まったのも、兼光のためだった。

「それは大変ですね」
『大変よ! わかる!? そういえば、あなたは子供はいるの?』
「いえ、子供どころか結婚もまだです」

 モナは酒臭いため息をつく。

『人間の年ってわからないけど、あなた若いんでしょうね。子育てって大変よ。食事の準備に排泄物の処理……こちらの言うことはちっとも聞かないくせに、お腹すいたやら遊んでやら要求ばっかり。ちょっと目を離すとその辺をうろうろするし、困ったものよ』
「それは大変ですね。近所の人を見るとすごいなって思いますよ。まあ、酒をどうぞ」
『そうなのよ。大変なのよ。わかってくれる? あなたたち人間は大勢でコミュニティーを作って、お互い助け合いながら子育てしてるでしょう。いいわよね~。こっちはワンオペよ。もう、やってられないわよ』

 モナは良い感じに脱力しながら愚痴をこぼす。
 
『でもね可愛いのよ、子供って。大人になるとこんな真っ黒な鱗になるけど、生まれたばっかりの子は真っ白な羽毛に包まれててね。おとなしくスヤスヤ眠る姿を見てるだけで、疲れが吹き飛ぶのよ。わかる?』 
「ええ、わかります。子供はみんな可愛いですもんね」
『わかってくれる! じゃあ、貴方も早く子供作っちゃいなさいよ。相手はいるの? どうなの?』

 トロ~ンとしかけたモナの目がきらりと大きく見開く。

「一応……います」
『だったらグズグズしないで、さっさと孕ませちゃいなさいよ。どんな子? いい子? 元気な赤ちゃんを産んでくれそう?』
「可愛い……いい子ですよ」
『だったら早くしないと、ほかの男に取られちゃうわよ。例えばさっきから馬車の上にいる男とか……』
「あいつは……」

 危うく、あいつは女だと言いそうになった。
 いかん、話がおかしな方向に進んでいる。
 このまま、アレックスまで話に加わったら収拾がつかなくなりそうだ。
 でも心を開いてくれている感触はある。

「いや、私のことはいいんですよ。それよりも、盗まれた物と犯人の特徴を教えてもらえますか?」
『おお、そうだったわ。大事なことを忘れていたわ』

 そう言って酒を口に運ぶ。
 俺はタルを覗くと中身が空になっていた。

「もうひとタル持ってきますね」
『ああ、そうね』

 俺はアレックスの待つ馬車の荷台に酒を取りに行く。

『犯人は人間の女だったわよ。あなたと同じ黒い髪だったわ』

 荷台の下で待機しているアレックスの方へタルを転がす。
 思った以上に酒が回っていたらしく、俺はふらついて別のタルにぶつかる。
 そのタルは転がり、荷台から落ちる。

『盗まれたのは、私の大事な子供よ』

 落ちたタルのフタが開き、中から兼光の抜け殻が地面に落ちる。
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