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第三章
街道警備
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この街道も二回目になると慣れてきたものだ。
あの丘を越えれば街まではもう、目と鼻の先のはずだ。
昼食を取り、少し涼しくなった人気のない街道を、のんびりと馬車を歩ませる。
街に戻ったら、まずはシルビアのところに行ってマナ石と武具を引き取ってもらい、それから兼光の抜け殻の査定をしてもらおう。
マナ石が減ったとはいえ、俺の目論見ではマナ石と武具で二千五百万マルにはなるだろう。それで次の行商資金とレイティアたちの給料を払おう。兼光の抜け殻は最低でも三千万マルで引き取ってもらいこれで借金を完済したい。
それ以上になれば、信頼できる人を雇ってミクス村とドワーフ村の定期便をやらせよう。そして俺は海へ行商に行くのもいいな。
魚介類、塩、海の向こうの特産品など行商人の手はいくらあっても足りないくらいだろう。
「なに、にやにやしてるの? さてはあの泥棒猫のこと考えてたんでしょう」
隣で手綱を握っているレイティアが可愛いほっぺを膨らませて、俺の足を蹴っ飛ばす。
「いたた、違うよ。街に帰ってから今後の商売について考えてたんだよ。レイティアは海に行ったことがあるか? 今度は海の方に販路を広げようかと思ってるんだ」
「なんだ、そうなの。ごめんね。わたしは行ったことないわよ。そもそもあの街を初めて出たのがあなたとが初めてよ」
両親を早くに亡くし、姉のアリシアとともに警備隊に勤めていれば、街から離れるなんてことはほとんどなかったのだろう。
「海ねえ。アータルからは話を聞いたことがあるわ。湖より大きくて、しょっぱいのよね。魚の種類も豊富で、大きな波がきたりするけど、朝日や夕日に照らされてキラキラして綺麗って聞いたわよ。行ってみるのも悪くないわね。ところで、キヨ。もうすぐ街につくから、それは服の中に隠しておいた方がいいわよ」
レイティアが言うそれとは、兼光の鱗でつくった首飾りだ。
鱗に穴をあけて、飾り組糸を通した簡単な物なのだが、飾り組糸はドワーフ族のお守りのようなものらしい。
ドラゴンの鱗には幸運が宿るという事で、ガンドが俺のためにつくってくれたのだ。
「なんか幸運のお守りって服の外に出しておいた方が、周りから幸運が寄ってきそうでよくないか?」
「そういう考えもあるかもしれないけど、それがドラゴンの鱗だと知れたら、おかしな輩が寄ってくるかもしれないわよ。あなた、そんな輩から身を守れるの? ……あら?」
丘の頂上付近に差し掛かると、十数名の人間が道をふさいでいる。
盗賊とは思えない手入れの整った武具をつけている。
「街の警備隊か?」
「いえ、わたしがいた時にはあんな人たちは見たことないわよ」
レイティアは自分の脇に置いてある剣を手にする。
俺は荷台に移り、後ろのソフィアに警戒するように手で合図をする。
「どうかしましたか?」
俺も念のため、剣と盾を手にレイティアの隣に戻る。
「どうも、失礼します。いま、特別警戒中なのでいくつかご質問してよろしいですか?」
十数名いる彼女たちは皆、同じ装備に身を包んでいる。
街道をふさぐように長槍を持っているものが二人、そのほかは剣を持ち、全て女性のようだ。
ようだ、というのも全員、顔を覆い隠すタイプの兜をつけていたからはっきりとは判別できない。
その統率の取れた装備と動きから警備隊などのきちんと訓練を受けた者たちのように感じる。
マリアーヌのための特別警戒なのか、ドラゴン、盗賊対策の特別警戒なのか、はたまた俺たちの知らない何かが起こっているのだろうか?
とりあえず話を聞いて情報を収集するしかない。
「どうぞ、なんでも聞いてください。ただの行商人で答えられることがあれば」
「ご協力感謝いたします。ではまず、お荷物は何ですか?」
隊長らしき、背の高い女性は緑の長い髪が兜からこぼれ落ちていた。
「マナ石と武具ですよ。ドワーフの村に行っていたもので」
「そうですか、ドワーフの村まで行かれていたのですね。それはお疲れ様でした」
丁寧な口調のまま、裏に回り込み荷台を覗き込む。
兼光の抜け殻が見つかると厄介な事になりかねないので、俺は隊長の側へと移動する。
「それで街道に異常はありませんでしたか?」
「異常と言いますと?」
隊長は後ろのソフィアの乗っている馬車へと移動する。
樽の中に隠してあるが、そっちには兼光の抜け殻を置いている。
俺は隊長の後ろをついて行く。
「そうですね。例えば盗賊団とか」
「いいえ」
最近現れた盗賊団は解散済みだ。
俺は首を横に振る。
「あと、ドラゴンはいましたか?」
「ッ!」
そう言うと同時に隊長は俺が盾になるように、俺の右腕を後ろに捻じ上げ、首元に剣を突き立てる。
「ご主人様!」
「キヨ!」
レイティアとソフィアが同時に悲鳴に近い声を上げる。
「動かないでください。マリアーヌ様」
あの丘を越えれば街まではもう、目と鼻の先のはずだ。
昼食を取り、少し涼しくなった人気のない街道を、のんびりと馬車を歩ませる。
街に戻ったら、まずはシルビアのところに行ってマナ石と武具を引き取ってもらい、それから兼光の抜け殻の査定をしてもらおう。
マナ石が減ったとはいえ、俺の目論見ではマナ石と武具で二千五百万マルにはなるだろう。それで次の行商資金とレイティアたちの給料を払おう。兼光の抜け殻は最低でも三千万マルで引き取ってもらいこれで借金を完済したい。
それ以上になれば、信頼できる人を雇ってミクス村とドワーフ村の定期便をやらせよう。そして俺は海へ行商に行くのもいいな。
魚介類、塩、海の向こうの特産品など行商人の手はいくらあっても足りないくらいだろう。
「なに、にやにやしてるの? さてはあの泥棒猫のこと考えてたんでしょう」
隣で手綱を握っているレイティアが可愛いほっぺを膨らませて、俺の足を蹴っ飛ばす。
「いたた、違うよ。街に帰ってから今後の商売について考えてたんだよ。レイティアは海に行ったことがあるか? 今度は海の方に販路を広げようかと思ってるんだ」
「なんだ、そうなの。ごめんね。わたしは行ったことないわよ。そもそもあの街を初めて出たのがあなたとが初めてよ」
両親を早くに亡くし、姉のアリシアとともに警備隊に勤めていれば、街から離れるなんてことはほとんどなかったのだろう。
「海ねえ。アータルからは話を聞いたことがあるわ。湖より大きくて、しょっぱいのよね。魚の種類も豊富で、大きな波がきたりするけど、朝日や夕日に照らされてキラキラして綺麗って聞いたわよ。行ってみるのも悪くないわね。ところで、キヨ。もうすぐ街につくから、それは服の中に隠しておいた方がいいわよ」
レイティアが言うそれとは、兼光の鱗でつくった首飾りだ。
鱗に穴をあけて、飾り組糸を通した簡単な物なのだが、飾り組糸はドワーフ族のお守りのようなものらしい。
ドラゴンの鱗には幸運が宿るという事で、ガンドが俺のためにつくってくれたのだ。
「なんか幸運のお守りって服の外に出しておいた方が、周りから幸運が寄ってきそうでよくないか?」
「そういう考えもあるかもしれないけど、それがドラゴンの鱗だと知れたら、おかしな輩が寄ってくるかもしれないわよ。あなた、そんな輩から身を守れるの? ……あら?」
丘の頂上付近に差し掛かると、十数名の人間が道をふさいでいる。
盗賊とは思えない手入れの整った武具をつけている。
「街の警備隊か?」
「いえ、わたしがいた時にはあんな人たちは見たことないわよ」
レイティアは自分の脇に置いてある剣を手にする。
俺は荷台に移り、後ろのソフィアに警戒するように手で合図をする。
「どうかしましたか?」
俺も念のため、剣と盾を手にレイティアの隣に戻る。
「どうも、失礼します。いま、特別警戒中なのでいくつかご質問してよろしいですか?」
十数名いる彼女たちは皆、同じ装備に身を包んでいる。
街道をふさぐように長槍を持っているものが二人、そのほかは剣を持ち、全て女性のようだ。
ようだ、というのも全員、顔を覆い隠すタイプの兜をつけていたからはっきりとは判別できない。
その統率の取れた装備と動きから警備隊などのきちんと訓練を受けた者たちのように感じる。
マリアーヌのための特別警戒なのか、ドラゴン、盗賊対策の特別警戒なのか、はたまた俺たちの知らない何かが起こっているのだろうか?
とりあえず話を聞いて情報を収集するしかない。
「どうぞ、なんでも聞いてください。ただの行商人で答えられることがあれば」
「ご協力感謝いたします。ではまず、お荷物は何ですか?」
隊長らしき、背の高い女性は緑の長い髪が兜からこぼれ落ちていた。
「マナ石と武具ですよ。ドワーフの村に行っていたもので」
「そうですか、ドワーフの村まで行かれていたのですね。それはお疲れ様でした」
丁寧な口調のまま、裏に回り込み荷台を覗き込む。
兼光の抜け殻が見つかると厄介な事になりかねないので、俺は隊長の側へと移動する。
「それで街道に異常はありませんでしたか?」
「異常と言いますと?」
隊長は後ろのソフィアの乗っている馬車へと移動する。
樽の中に隠してあるが、そっちには兼光の抜け殻を置いている。
俺は隊長の後ろをついて行く。
「そうですね。例えば盗賊団とか」
「いいえ」
最近現れた盗賊団は解散済みだ。
俺は首を横に振る。
「あと、ドラゴンはいましたか?」
「ッ!」
そう言うと同時に隊長は俺が盾になるように、俺の右腕を後ろに捻じ上げ、首元に剣を突き立てる。
「ご主人様!」
「キヨ!」
レイティアとソフィアが同時に悲鳴に近い声を上げる。
「動かないでください。マリアーヌ様」
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