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第三章
ガンドとシャーロッド
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「タマラ、ガンドたちが来てるって聞いたが、どこにいる?」
俺は気にしていたことを聞いた。
彼らの今後について俺が責任を負うつもりはないが、ここまでかかわった以上、動向が気になる。ガンドには依頼していたこともある。
元々ドワーフの村とは交流はあるはずだが、ドワーフがこの村に移り住むのは初めてだろう。それもドワーフの村に居づらくなってここに来るのは、色々と苦労があるのではないかと心配になる。いくらマルゴットたちにあらかじめ話をしていたとしても。
「ドワーフの人たちなら村外れの山に自分たちの家を作ってますよ。キヨたちが来ること話はしておきましたので、そのうちこちらに来ると思います」
その言葉を聞いてひと安心して作業を続ける。
一時間もかからずに食料庫に運び終えたが、その間にガンドたちが姿を見せることはなかった。
「みんな、運び込みありがとう。俺はガンドのところに行って来るから休んでいてくれ」
そう言って俺は村外れの山に向かって歩き始めた。
ガンドにはドワーフの村にいるときに燻製器(くんせいき)を作ってもらうように依頼してたのだ。そんなに難しい物じゃないはずだ。
ここに来るまで、マリアーヌやアータルの問題など予想できないことが続いている。
何か嫌な予感がする。
山に穴を掘って出入口が崩れ落ちたとか、またシャーロッドの魔法が暴走したとか、村人と揉めているなど、ほかに俺が想像できない何かトラブルに巻き込まれているのかもしれない。
そう思うと自然と早足になる。
「こっちですよ」
いつの間にか後ろからついてきていたタマラが声をかけて案内をしてくれる。
「ありがとう」
俺は言葉短めに礼を言い、タマラの後ろを追いかける。
村はずれの里山へ少し入ると人工の洞窟がぽっかり口を開けていた。
とりあえず穴が崩れていたりはしていないのを確認してホッとする。
俺は洞窟の中に入ると声が奥の方で聞こえる。
慎重に進むとドアの奥から声が聞こえる。
耳をすませると、かろうじて言葉が聞き取れた。何か言い合っているようだ。
「シャーロッド、そろそろ行かないとキヨさんが待ってるよ」
「え~もうちょっといいじゃない。せっかく二人っきりなんですもの。それともわたしとこうしているの嫌なの?」
「嫌じゃないよ。僕だってずっとこうしていたいよ。愛してるよ」
「わたしも愛しているわ」
愛のささやきがドアの向こうからピンクの空気と一緒に漏れている。
俺は黙って、洞窟の外に出た。
とりあえず、トラブルがあったわけではないことが分かってホッとした。
「パカップル~! 夜まで我慢しろ~~~!」
俺は里山を急いで登ると誰にも聞こえないように叫ぶと、そっと後ろから抱きしめられた。
「タマラとする?」
「いやいやいや、こんな昼間っからしないから」
とりあえず、タマラを引き剥がして、村長のマルゴットの家へ逃げ込んだ。
「動物たちは村に来なくなったか?」
「以前に比べると減りましたが、一度畑で簡単に食べ物が手に入ることがわかった奴らは何度も来ますね」
マルゴットはコーヒーを俺に渡して自分も椅子に腰掛ける。
「ちょうどいい。そいつを捕まえて燻製を作ろう。今夜、捕まえに行くから、レイティア手伝ってくれるか?」
「いいわよ」
「ご主人様、あたしも手伝います」
「じゃあ、ソフィアにもお願いするか。マルゴット、悪いけど夜まで休ませてもらうぞ。師匠、明日でもいいので蕎麦の方を見てもらっていいか?」
すでに一杯やり始めたムサシマルに声をかけた。
「ああ、そっちは任せておけ」
「そぱって何だ? ブラザー」
なぜかムサシマルと仲良く酒を飲んでいるアータルが初めて聞く単語に反応する。
「そぱじゃなくてそばな。ざっくり言うと小麦に似た穀物だよ。小麦粉と混ぜて食べるんだが、詳しい話は師匠に聞いてくれ。俺は夜に備えてもう寝る。レイティアたちも手伝ってくれるなら今のうちに休んでおけよ」
そう言って部屋に戻るとベッドに潜り込んだ。
食糧を届けられた。これでシリルの働きに応えられただろうか。
張っていた気持ちが少し緩んだ気がした。
コンコン
ノックの音で目が覚めた。
ぐっすりと眠っていたようだ。
「キヨ、食事の用意が出来ましたよ」
タマラが起こしに来てくれたようだ。
「ああ、今行く」
俺が食堂に行くと焼きたてのパンと野菜の入ったスープ、そして焼いた肉が用意されていた。
「師匠たちはどこ行った?」
「ムサシマルさんなら村長とどこかへ行きました。アータルさんはサリアと出ていかれました」
タマラは席につきながら答える。
「キヨにぃはいつまで居れるんや?」
「とりあえず、二、三日いて食料品の加工を見守ったら、ドワーフの村に行くよ」
「ドワーフといえばキヨが寝てる間にガンドさんが来て、これを渡してくれって言ってましたよ」
そう言って玄関先に置いてある燻製器を指差した。
一見ただのドラム缶のように見えるが、横に蓋が付いており、中には網が四段つけてあり、一番下は鉄板になっている。
一度に大量に燻製を作るためと高さによって香りや品質に違いが出るか確かめるためだ。
あの二人がイチャイチャしながらこれを作ったと想像すると何とも言えない気分になるが、ちゃんと俺の注文通りの出来だった。
「よし、これで肉が手に入れば燻製が作れるぞ。木片(チップ)は用意してくれていたよな」
「はい、言われた通り、サクラ、リンゴ、クルミ、ナラの木を砕いておきましたよ」
「ありがとう。そうだ、姫鶴、食事が終わったらシリルの墓に案内してくれ」
タマラからは事前にシリルの墓を作ったことは聞いていた。
「わたしも行くわ」
レイティアとソフィアも一緒に行くことになった。
俺は気にしていたことを聞いた。
彼らの今後について俺が責任を負うつもりはないが、ここまでかかわった以上、動向が気になる。ガンドには依頼していたこともある。
元々ドワーフの村とは交流はあるはずだが、ドワーフがこの村に移り住むのは初めてだろう。それもドワーフの村に居づらくなってここに来るのは、色々と苦労があるのではないかと心配になる。いくらマルゴットたちにあらかじめ話をしていたとしても。
「ドワーフの人たちなら村外れの山に自分たちの家を作ってますよ。キヨたちが来ること話はしておきましたので、そのうちこちらに来ると思います」
その言葉を聞いてひと安心して作業を続ける。
一時間もかからずに食料庫に運び終えたが、その間にガンドたちが姿を見せることはなかった。
「みんな、運び込みありがとう。俺はガンドのところに行って来るから休んでいてくれ」
そう言って俺は村外れの山に向かって歩き始めた。
ガンドにはドワーフの村にいるときに燻製器(くんせいき)を作ってもらうように依頼してたのだ。そんなに難しい物じゃないはずだ。
ここに来るまで、マリアーヌやアータルの問題など予想できないことが続いている。
何か嫌な予感がする。
山に穴を掘って出入口が崩れ落ちたとか、またシャーロッドの魔法が暴走したとか、村人と揉めているなど、ほかに俺が想像できない何かトラブルに巻き込まれているのかもしれない。
そう思うと自然と早足になる。
「こっちですよ」
いつの間にか後ろからついてきていたタマラが声をかけて案内をしてくれる。
「ありがとう」
俺は言葉短めに礼を言い、タマラの後ろを追いかける。
村はずれの里山へ少し入ると人工の洞窟がぽっかり口を開けていた。
とりあえず穴が崩れていたりはしていないのを確認してホッとする。
俺は洞窟の中に入ると声が奥の方で聞こえる。
慎重に進むとドアの奥から声が聞こえる。
耳をすませると、かろうじて言葉が聞き取れた。何か言い合っているようだ。
「シャーロッド、そろそろ行かないとキヨさんが待ってるよ」
「え~もうちょっといいじゃない。せっかく二人っきりなんですもの。それともわたしとこうしているの嫌なの?」
「嫌じゃないよ。僕だってずっとこうしていたいよ。愛してるよ」
「わたしも愛しているわ」
愛のささやきがドアの向こうからピンクの空気と一緒に漏れている。
俺は黙って、洞窟の外に出た。
とりあえず、トラブルがあったわけではないことが分かってホッとした。
「パカップル~! 夜まで我慢しろ~~~!」
俺は里山を急いで登ると誰にも聞こえないように叫ぶと、そっと後ろから抱きしめられた。
「タマラとする?」
「いやいやいや、こんな昼間っからしないから」
とりあえず、タマラを引き剥がして、村長のマルゴットの家へ逃げ込んだ。
「動物たちは村に来なくなったか?」
「以前に比べると減りましたが、一度畑で簡単に食べ物が手に入ることがわかった奴らは何度も来ますね」
マルゴットはコーヒーを俺に渡して自分も椅子に腰掛ける。
「ちょうどいい。そいつを捕まえて燻製を作ろう。今夜、捕まえに行くから、レイティア手伝ってくれるか?」
「いいわよ」
「ご主人様、あたしも手伝います」
「じゃあ、ソフィアにもお願いするか。マルゴット、悪いけど夜まで休ませてもらうぞ。師匠、明日でもいいので蕎麦の方を見てもらっていいか?」
すでに一杯やり始めたムサシマルに声をかけた。
「ああ、そっちは任せておけ」
「そぱって何だ? ブラザー」
なぜかムサシマルと仲良く酒を飲んでいるアータルが初めて聞く単語に反応する。
「そぱじゃなくてそばな。ざっくり言うと小麦に似た穀物だよ。小麦粉と混ぜて食べるんだが、詳しい話は師匠に聞いてくれ。俺は夜に備えてもう寝る。レイティアたちも手伝ってくれるなら今のうちに休んでおけよ」
そう言って部屋に戻るとベッドに潜り込んだ。
食糧を届けられた。これでシリルの働きに応えられただろうか。
張っていた気持ちが少し緩んだ気がした。
コンコン
ノックの音で目が覚めた。
ぐっすりと眠っていたようだ。
「キヨ、食事の用意が出来ましたよ」
タマラが起こしに来てくれたようだ。
「ああ、今行く」
俺が食堂に行くと焼きたてのパンと野菜の入ったスープ、そして焼いた肉が用意されていた。
「師匠たちはどこ行った?」
「ムサシマルさんなら村長とどこかへ行きました。アータルさんはサリアと出ていかれました」
タマラは席につきながら答える。
「キヨにぃはいつまで居れるんや?」
「とりあえず、二、三日いて食料品の加工を見守ったら、ドワーフの村に行くよ」
「ドワーフといえばキヨが寝てる間にガンドさんが来て、これを渡してくれって言ってましたよ」
そう言って玄関先に置いてある燻製器を指差した。
一見ただのドラム缶のように見えるが、横に蓋が付いており、中には網が四段つけてあり、一番下は鉄板になっている。
一度に大量に燻製を作るためと高さによって香りや品質に違いが出るか確かめるためだ。
あの二人がイチャイチャしながらこれを作ったと想像すると何とも言えない気分になるが、ちゃんと俺の注文通りの出来だった。
「よし、これで肉が手に入れば燻製が作れるぞ。木片(チップ)は用意してくれていたよな」
「はい、言われた通り、サクラ、リンゴ、クルミ、ナラの木を砕いておきましたよ」
「ありがとう。そうだ、姫鶴、食事が終わったらシリルの墓に案内してくれ」
タマラからは事前にシリルの墓を作ったことは聞いていた。
「わたしも行くわ」
レイティアとソフィアも一緒に行くことになった。
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