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第二章
帰還者
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他に生き物の気配のしない深夜の村はずれの広場。
月明かりに霞む星々瞬く夜空。
風にそよぐ木々の深緑の葉。
俺たちは円になり話し合う。
「俺の意見を言わせてもらうが、姫鶴が元の世界に帰った方が良いと思う。強いとは言え若い女の子だ。師匠なら姫鶴の相手でも問題ないく倒せるだろう」
「しかし儂は帰りたいんじゃよ。こっちにもう四年もおって、やっと帰れる機会が来たんじゃ。また数年かけて姫鶴の相手を探すのか? 勘弁して欲しいんじゃがな」
ムサシマルはあぐらを組んで草むらに座り込み、不満を漏らす。
「マルゴットたちやグランドマスターの件はいいのか?」
「そいつは帰らん理由にはならんぞ。そもそも今回はわしの権利じゃろう」
確かにコーディネーターはそう言っていた。
「キヨにぃ、うちは残るよ。兼光を一人前にするまでは帰れへんよ。タマラねぇたちにも何も返せてへん」
「しかし……」
「うちは三人のうち一人が帰るんやったら、キヨにぃがええんやないの? キヨにぃ危なっかしいやないか。はよ安全な元の世界に帰ったほうがええんやないの?」
俺たち三人話し合いは平行線だった。
三人が三人の意見を譲らない。長い長い話の平行線。
「そろそろ決めりんこ。あ~しの筋トレの時間がなくなるにゃん」
アツシはそう言いながら、両手を前で押したり引いたり、筋トレをしながら待っていた。
「よし! わかった。元の世界に帰るのは……」
「儂じゃ」
「キヨにぃや」
「姫鶴だ」
俺たちは三人同時に答える。
「ありえんてぃ~。とりまジベタリアンでけって~」
コーディネーターのアツシは唯一地べたに座り込んでいるムサシマルを指差す。ウインクをしながら。
「そいぎ、行くにゃん」
「ちょっと待つんじゃ!」
両手を天高く上げて門を開こうとしたアツシをムサシマルが止める。
「儂は帰りたい。帰りたいが、もう少しだけ待ってくれ。ふた月、いやひと月だけ待ってくれんか? この世界の後片付けをする時間が欲しいんじゃ」
「う~ん。おケマル畜産! 帰る準備が出来たら『アタリステラシメリアソミニアテラルシちゃんカモン!』って叫んでにゅ」
「わかった『アタリメタベタラオイシカッタちゃんかもめ!』じゃな」
おい! またこのくだりか? いい加減にしろ!
「ああ、もう面倒くさい! 『アツシちゃんカモン!』でいいか?」
「おケマル畜産~」
だから指でハートを作るな!
「それじゃ~ま~たね~ちゅっ(はあと)」
俺たちが目をそらしたその瞬間、月光が星明かりを連れて消え去った。
二度目の真の闇。
俺は下手に動かず、闇が晴れるのをじっと待つ。
自分が目を開けているのか、閉じているのかわからなくなりそうになる直前、明かりが戻る。
柔らかな月明かりに遠くでフクロウが鳴く。
虫の音が響き、かすかに狼の遠吠えが聞こえる。
最後まで気持ち悪いままコーディネーターは闇夜に溶けていた。
「しかし、なんじゃったんじゃ、あいつは? キヨはよく、奴の言葉が分かったのう。儂にはさっぱりじゃ」
呆れ果てているムサシマルに俺は、かの有名な言葉を送った。
「考えるな! 感じろ! (Don't thing! Feel!)」
月明かりに霞む星々瞬く夜空。
風にそよぐ木々の深緑の葉。
俺たちは円になり話し合う。
「俺の意見を言わせてもらうが、姫鶴が元の世界に帰った方が良いと思う。強いとは言え若い女の子だ。師匠なら姫鶴の相手でも問題ないく倒せるだろう」
「しかし儂は帰りたいんじゃよ。こっちにもう四年もおって、やっと帰れる機会が来たんじゃ。また数年かけて姫鶴の相手を探すのか? 勘弁して欲しいんじゃがな」
ムサシマルはあぐらを組んで草むらに座り込み、不満を漏らす。
「マルゴットたちやグランドマスターの件はいいのか?」
「そいつは帰らん理由にはならんぞ。そもそも今回はわしの権利じゃろう」
確かにコーディネーターはそう言っていた。
「キヨにぃ、うちは残るよ。兼光を一人前にするまでは帰れへんよ。タマラねぇたちにも何も返せてへん」
「しかし……」
「うちは三人のうち一人が帰るんやったら、キヨにぃがええんやないの? キヨにぃ危なっかしいやないか。はよ安全な元の世界に帰ったほうがええんやないの?」
俺たち三人話し合いは平行線だった。
三人が三人の意見を譲らない。長い長い話の平行線。
「そろそろ決めりんこ。あ~しの筋トレの時間がなくなるにゃん」
アツシはそう言いながら、両手を前で押したり引いたり、筋トレをしながら待っていた。
「よし! わかった。元の世界に帰るのは……」
「儂じゃ」
「キヨにぃや」
「姫鶴だ」
俺たちは三人同時に答える。
「ありえんてぃ~。とりまジベタリアンでけって~」
コーディネーターのアツシは唯一地べたに座り込んでいるムサシマルを指差す。ウインクをしながら。
「そいぎ、行くにゃん」
「ちょっと待つんじゃ!」
両手を天高く上げて門を開こうとしたアツシをムサシマルが止める。
「儂は帰りたい。帰りたいが、もう少しだけ待ってくれ。ふた月、いやひと月だけ待ってくれんか? この世界の後片付けをする時間が欲しいんじゃ」
「う~ん。おケマル畜産! 帰る準備が出来たら『アタリステラシメリアソミニアテラルシちゃんカモン!』って叫んでにゅ」
「わかった『アタリメタベタラオイシカッタちゃんかもめ!』じゃな」
おい! またこのくだりか? いい加減にしろ!
「ああ、もう面倒くさい! 『アツシちゃんカモン!』でいいか?」
「おケマル畜産~」
だから指でハートを作るな!
「それじゃ~ま~たね~ちゅっ(はあと)」
俺たちが目をそらしたその瞬間、月光が星明かりを連れて消え去った。
二度目の真の闇。
俺は下手に動かず、闇が晴れるのをじっと待つ。
自分が目を開けているのか、閉じているのかわからなくなりそうになる直前、明かりが戻る。
柔らかな月明かりに遠くでフクロウが鳴く。
虫の音が響き、かすかに狼の遠吠えが聞こえる。
最後まで気持ち悪いままコーディネーターは闇夜に溶けていた。
「しかし、なんじゃったんじゃ、あいつは? キヨはよく、奴の言葉が分かったのう。儂にはさっぱりじゃ」
呆れ果てているムサシマルに俺は、かの有名な言葉を送った。
「考えるな! 感じろ! (Don't thing! Feel!)」
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