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第二章
姫鶴への提案
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ソフィアに出発する準備を、マルゴットたちを起こすのはレイティアに任せて、俺はムサシマルを探して宿屋に行く。案の定、三人は宿に泊まっていた。宿代の支払いをして三人の部屋を聞く。
部屋の前に来ると俺はワザと大きくドアをノックする。
「師匠。出発するぞ! 準備してくれ」
しばらく待っていると、ドアが開き、白と黒の鱗が見える腕がにょっと現れる。
「あら、キヨさん。早いんですね。ムサシマルさん、まだ寝てますよ」
パンツとノースリーブの下着だけをつけたサリアが出てきた。
「マルゴットも一緒か? 宿の支払いはしておいたから、師匠へ一時間後に出発すると伝えてくれ」
「親方も一緒ですよ。わかりました……まだ一時間あるなら、もう一回くらいできるかしら」
好きにしてくれ。途中の馬車で寝ててくれてもいいんだが、馬車にだけは乗ってくれさえすればいい。
酒を奢ったドワーフたちに惜しまれながら、俺たちは村を出発する。
まだシャーロッドの体力が戻っていないため、ガンドと二人は自分たちの”意思”とタイミングでミクス村に移住することになった。
マナ石を乗せた馬車はソフィアが、それ以外を乗せた馬車をコンタが御してミクス村を目指す。
街道には魔物が出るでも無く、盗賊が出るでも無く、貴族が出るでも無く、ごくごく穏やかにミクス村に到着する。
道中、マルゴットにガンドたちのこと、姫鶴たちのことを相談する。
マルゴットは本人たちが移住したければ、断る理由がないと快く引き受けてくれた。
「キヨにぃ、お帰り」
「お帰りなさい」
俺たちがミクス村に戻ると姫鶴とタマラが出迎えてくれた。
二日ほどで二人はすっかり仲が良くなったようで、姫鶴も元気が出てきたようで、ホッとする。
「タマラ、村に変わったことはあったかい?」
「二日で変わるようなことはありませんよ。親方様」
ただ、タマラの言葉にほんの少しトゲがあるように思えるのは俺の気のせいだろうか?
うん! 気のせいだ。
俺は考えないことにした。
「なあ、姫鶴。兼光と一緒にこの村で暮らさないか?」
「……どう言うことや?」
姫鶴は明らかに不満を抱えている顔をしているが、とりあえず最後まで話を聞こうと我慢しているのが手に取るようにわかる。
大人になったな。
俺はマルゴットの家で夕飯を食べながら、感心する。
硬いパンをちぎり、玉ねぎとじゃがいものみのクリームシチューに浸しながら、姫鶴は俺の言葉を待つ。
姫鶴と決闘した夜とは違い、パンとシチューのみの簡素な食卓を七人で囲む。
「どうやらドラゴンのことが噂になって、都市から討伐隊が派遣されて来ている。俺とマルゴットが偶然会った」
「え!? 討伐隊って兼光が何した言うねん」
「ドラゴン……それだけで討伐隊を出すのには十分な理由だろう」
「そんなこと言うたかて、兼光が好きでドラゴンに生まれて来た訳やないんやで!」
力任せにパンを引きちぎり、口に運ぶ。
「その上、討伐隊にはグランドマスターが来ているのよ、姫鶴ちゃん」
「グランドマスターが! 本当に? 私、一目でいいからお顔を拝見したいわ」
マルゴットの言葉に目を輝かせて反応したのはレイティアだった。
「グランドマスターってなんやねん? どっかのスターかいな?」
「魔法を五個を持っている、世界に十人いるかどうかわからない、最強魔法使いの称号だそうだ」
「現在、魔法技術院で確認されているグランドマスターは十二人ですわ、ご主人様」
そっとソフィアが訂正する。
さすが魔法に関する知識は豊富だな。と言うことは……もしかして。
「ソフィア、マリアーヌと言う名前のグランドマスターを知っているか?」
「マリアーヌ様ですか? 輝ける金の奇跡の聖女マリアーヌ様ですね。回復、解毒、解呪などを得意とされ、マナの扱いが優れたグランドマスターです。確か、現存するグランドマスターの中で最年少です。十歳の初めての魔法習得の儀で五つ持ちになった天才です。それなのにそれを鼻にかけない心優しい方と聞いております」
「ほう、グランドマスターか。わしも噂では聞いたことがあったんじゃが、近くにいるのじゃったら、一度手合わせをしてみたいのう。世界最高峰か。楽しそうじゃのう」
さすがソフィアだな。詳しいな。
ソフィアの説明に戦闘狂の血が騒ぐのか、ムサシマルがどう考えても厄介事になりそうな、不穏な言葉をつぶやいていた。
冗談じゃない。やめてくれよ、師匠。
「それでキヨたちはグランドマスターのお顔を拝見したの?」
レイティアがえらく食いついてくる。
俺はレイティアと瓜二つと教えて良いものなのかと考えこんていると、マルゴットが助け舟を出してくれる。
「ずっと馬車の中にいたみたいで見れなかったけど、お付きの護衛がマリアーヌ様の名前を出してたから来ているんだろう。あたしも拝見してみたかったよ」
そうか、マリアーヌが馬車から出て来た時は、マルゴットたちは鳥型の魔物と戦っていて、気が付いていなかったのか。
「とにかく、今はそう言う危険な状態だ。魔物の増加やサイゾウのせいで余計にこの辺りが危険な地域だと認識されているみたいなんだ。ただし、サイゾウがいなくなった今、しばらくすれば魔物もいなくなるはずだ。そうすればマリアーヌたちも都市へ帰ると思うんだ」
「キヨ! マリアーヌ“様”」
「ああ、マリアーヌ様たちが、帰ればまた自由に動き回れると思うんだ」
グランドマスターの凄さのわからない俺にとっては、マリアーヌはどうでもいいが、真剣な顔のレイティアには従っておいた方がいいだろう。
「ひとつ確認させてや。うちと兼光が邪魔になったり、不要になった訳やないんよね」
姫鶴は不安そうな顔を浮かべる。いつも自信満々なのにこんな時だけ、そんな顔をするのはずるいぞ。
「何言ってるの姫鶴ちゃん。お姉ちゃんたちがそんなこと思うわけないじゃない」
レイティアが立ち上がって、即座に否定する。
「あのな、お前らが邪魔なら、上手く言いくるめて討伐隊に引き渡して、報奨金でも貰うぞ」
そう言って俺は姫鶴に笑いかける。
「そういえば、キヨにぃはそう言う人やったわ。……安心した。ただ、少し考えさせてや」
それから俺たちはドワーフの村でのダニエルとの交渉の話、ガンドたちがこの村に移住することなどを話した。ゼロになったシャーロッドがドワーフの村に居づらくなり、この村に移住すると言う理由にした。
「そうかいな。まあ、命あっての物種やさかいな」
部屋の前に来ると俺はワザと大きくドアをノックする。
「師匠。出発するぞ! 準備してくれ」
しばらく待っていると、ドアが開き、白と黒の鱗が見える腕がにょっと現れる。
「あら、キヨさん。早いんですね。ムサシマルさん、まだ寝てますよ」
パンツとノースリーブの下着だけをつけたサリアが出てきた。
「マルゴットも一緒か? 宿の支払いはしておいたから、師匠へ一時間後に出発すると伝えてくれ」
「親方も一緒ですよ。わかりました……まだ一時間あるなら、もう一回くらいできるかしら」
好きにしてくれ。途中の馬車で寝ててくれてもいいんだが、馬車にだけは乗ってくれさえすればいい。
酒を奢ったドワーフたちに惜しまれながら、俺たちは村を出発する。
まだシャーロッドの体力が戻っていないため、ガンドと二人は自分たちの”意思”とタイミングでミクス村に移住することになった。
マナ石を乗せた馬車はソフィアが、それ以外を乗せた馬車をコンタが御してミクス村を目指す。
街道には魔物が出るでも無く、盗賊が出るでも無く、貴族が出るでも無く、ごくごく穏やかにミクス村に到着する。
道中、マルゴットにガンドたちのこと、姫鶴たちのことを相談する。
マルゴットは本人たちが移住したければ、断る理由がないと快く引き受けてくれた。
「キヨにぃ、お帰り」
「お帰りなさい」
俺たちがミクス村に戻ると姫鶴とタマラが出迎えてくれた。
二日ほどで二人はすっかり仲が良くなったようで、姫鶴も元気が出てきたようで、ホッとする。
「タマラ、村に変わったことはあったかい?」
「二日で変わるようなことはありませんよ。親方様」
ただ、タマラの言葉にほんの少しトゲがあるように思えるのは俺の気のせいだろうか?
うん! 気のせいだ。
俺は考えないことにした。
「なあ、姫鶴。兼光と一緒にこの村で暮らさないか?」
「……どう言うことや?」
姫鶴は明らかに不満を抱えている顔をしているが、とりあえず最後まで話を聞こうと我慢しているのが手に取るようにわかる。
大人になったな。
俺はマルゴットの家で夕飯を食べながら、感心する。
硬いパンをちぎり、玉ねぎとじゃがいものみのクリームシチューに浸しながら、姫鶴は俺の言葉を待つ。
姫鶴と決闘した夜とは違い、パンとシチューのみの簡素な食卓を七人で囲む。
「どうやらドラゴンのことが噂になって、都市から討伐隊が派遣されて来ている。俺とマルゴットが偶然会った」
「え!? 討伐隊って兼光が何した言うねん」
「ドラゴン……それだけで討伐隊を出すのには十分な理由だろう」
「そんなこと言うたかて、兼光が好きでドラゴンに生まれて来た訳やないんやで!」
力任せにパンを引きちぎり、口に運ぶ。
「その上、討伐隊にはグランドマスターが来ているのよ、姫鶴ちゃん」
「グランドマスターが! 本当に? 私、一目でいいからお顔を拝見したいわ」
マルゴットの言葉に目を輝かせて反応したのはレイティアだった。
「グランドマスターってなんやねん? どっかのスターかいな?」
「魔法を五個を持っている、世界に十人いるかどうかわからない、最強魔法使いの称号だそうだ」
「現在、魔法技術院で確認されているグランドマスターは十二人ですわ、ご主人様」
そっとソフィアが訂正する。
さすが魔法に関する知識は豊富だな。と言うことは……もしかして。
「ソフィア、マリアーヌと言う名前のグランドマスターを知っているか?」
「マリアーヌ様ですか? 輝ける金の奇跡の聖女マリアーヌ様ですね。回復、解毒、解呪などを得意とされ、マナの扱いが優れたグランドマスターです。確か、現存するグランドマスターの中で最年少です。十歳の初めての魔法習得の儀で五つ持ちになった天才です。それなのにそれを鼻にかけない心優しい方と聞いております」
「ほう、グランドマスターか。わしも噂では聞いたことがあったんじゃが、近くにいるのじゃったら、一度手合わせをしてみたいのう。世界最高峰か。楽しそうじゃのう」
さすがソフィアだな。詳しいな。
ソフィアの説明に戦闘狂の血が騒ぐのか、ムサシマルがどう考えても厄介事になりそうな、不穏な言葉をつぶやいていた。
冗談じゃない。やめてくれよ、師匠。
「それでキヨたちはグランドマスターのお顔を拝見したの?」
レイティアがえらく食いついてくる。
俺はレイティアと瓜二つと教えて良いものなのかと考えこんていると、マルゴットが助け舟を出してくれる。
「ずっと馬車の中にいたみたいで見れなかったけど、お付きの護衛がマリアーヌ様の名前を出してたから来ているんだろう。あたしも拝見してみたかったよ」
そうか、マリアーヌが馬車から出て来た時は、マルゴットたちは鳥型の魔物と戦っていて、気が付いていなかったのか。
「とにかく、今はそう言う危険な状態だ。魔物の増加やサイゾウのせいで余計にこの辺りが危険な地域だと認識されているみたいなんだ。ただし、サイゾウがいなくなった今、しばらくすれば魔物もいなくなるはずだ。そうすればマリアーヌたちも都市へ帰ると思うんだ」
「キヨ! マリアーヌ“様”」
「ああ、マリアーヌ様たちが、帰ればまた自由に動き回れると思うんだ」
グランドマスターの凄さのわからない俺にとっては、マリアーヌはどうでもいいが、真剣な顔のレイティアには従っておいた方がいいだろう。
「ひとつ確認させてや。うちと兼光が邪魔になったり、不要になった訳やないんよね」
姫鶴は不安そうな顔を浮かべる。いつも自信満々なのにこんな時だけ、そんな顔をするのはずるいぞ。
「何言ってるの姫鶴ちゃん。お姉ちゃんたちがそんなこと思うわけないじゃない」
レイティアが立ち上がって、即座に否定する。
「あのな、お前らが邪魔なら、上手く言いくるめて討伐隊に引き渡して、報奨金でも貰うぞ」
そう言って俺は姫鶴に笑いかける。
「そういえば、キヨにぃはそう言う人やったわ。……安心した。ただ、少し考えさせてや」
それから俺たちはドワーフの村でのダニエルとの交渉の話、ガンドたちがこの村に移住することなどを話した。ゼロになったシャーロッドがドワーフの村に居づらくなり、この村に移住すると言う理由にした。
「そうかいな。まあ、命あっての物種やさかいな」
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