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第二章

シャーロッドの告白

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 ダニエルとマルゴットに荷物を任せて、俺とガンドは宿にレイティアたちを迎えに行く。

「おかえり、キヨ! どうしたのその左手は? え、どうしたの? そんなにじっと見て」

 レイティアは俺の左手を見るなり、心配の声を上げる。
 心配そうな顔をするレイティアを俺はまじまじと見てしまう。上から下まで。

 やはり、そっくりだ。胸がささやかなところまで。

「なあ、レイティア。アリシアさん以外に姉妹はいないよな。例えば双子の姉か妹とか」
「は? 何言ってるの? 私にはお姉ちゃんしか姉妹はいないわよ」
「そうだよな」

 たった一人の姉妹にして、たった一人の家族だったアリシアを助けに行ったゴブリンの巣。
 レイティアの必死の叫びでアリシアを助けられた。
 ということは、他人の空似か? それにしては似すぎている。
 まあ、しかし考えてもしょうがない。
 
 ムサシマルとソフィアとも合流して、シャーロッドの待つ村長の家へと向かう。
 同じ洞窟内とは思えない重厚な扉の向こうにある広い応接室を抜けて、シャーロッドの部屋へと入る。
 石に囲まれた大きな部屋の真ん中に天蓋付きのベッドがどんと置かれている。
 その大きなベッドにシャーロッドが横たわる。
 二日見ない間にシャーロッドの顔色は良くなっていた。
 良くなっているどころか、全体的にふっくらとしていた。

 二日で太った!?

 よく見るとベッド横の大きなテーブルの上には空になった大きな皿やボールが幾つも積み重なっていた。

「だいぶ、顔色が良くなったな」
「はい、おかげさまで」

 ガンドが大きなクッションをシャーロッドの背に入れ、上半身を起こすのを手助けした。

「この度はわたしのわがままに、あなたたちを巻き込んでしまって申し訳ありませんでした」

 そう言ってシャーロッドは頭を下げた。

「言いたいことはいくつがあるが、なぜ君はサイゾウについていった?」
「え、この子は誘拐されたんでしょう!?」
「……」

 俺の言葉にシャーロッドは俯いて黙っていた。

「レイティア、シャーロッドはもともと四つ持ちなんだぞ。アリシアさんと同じ。それが魔法を持たなかったサイゾウに誘拐されるということがおかしい。シャーロッドがいた部屋には鍵どころかドアすらなかったんだ。逃げ出そうと思えはいつでも出来たはずだ」
「でも、魔法が暴走してマナ切れをおこしてたんでしょう?」
「ああ、そうだ。さっき言ったようにシャーロッドは四つ持ちだ。それを六つ持ちにして魔法を暴走させた人物がいる」
「え、もしかして」
「それがサイゾウだよな。シャーロッド」

 シャーロッドは静かに頷いた。

「はい……その通りです。あの人がわたしをグランドマスターにしてくれると言うので付いて行ったのです」
「それで魔法習得の儀が失敗したのか?」
「……習得の儀自体は成功したのです。ただ、わたしにその素質がなかっただけです」
「失敗の原因がどちらにあるかは俺には興味がない。聞きたいのはなぜ無理をしてグランドマスターを目指した。四つ持ちでも十分強いだろう。なぜそんな危険を冒した。失敗すればゼロになるか暴走するか知っていただろう」

 俺の言葉にシャーロッドは顔を上げ、ガンドを見る。

「……母が、反対したからです」
「何を」
「ガンドとの結婚をです。髭一つ生えない、半人前との結婚は許さないと。それであれば、わたしがグランドマスターになれば、誰にも文句を言わせず一緒になれるのです」

 俺にはグランドマスターがどれほどの力を持つものかはわからない。
 世界に十人ほどしかいないのであれば、結婚相手を選ぶことくらい簡単なのかもしれない。
 しかし……。

「たかだか……たかだか、そんな理由で今回の騒動を起こしたのか?」
「たかだかとあなたにとってはそうかもしれませんが、わたしには! わたしたちには十分すぎる理由です!」
「その結果! どれだけの人々に迷惑をかけたと思っている!」
「村に迷惑をかけたことは聞いています。しかしそれもわたしたちの仲を認めなかった母のせいではないですか!」
「……このっ!!」

 パン!

「シャーロッド!」

 ガンドが愛しい恋人の頬を平手打ちした。今にも泣きだしそうな悲しい顔で。

「え、なんで? なぜ? あなたのためだったのよ」
「シャーロッド、落ち着いて聞いてほしい。君がした行動の影響を……」

 ガンドは俺が話したミクス村の話、街道の話、そして最後にシリルの話をした。

「そんな、わたしはそんなつもりじゃ……ごめんなさい」
「結果として君の行動は村一つ潰しかねない行動だったんだ。それだけじゃない。ガンドも君を救出するために俺と奴隷契約をした。ただ、君が生きていてさえすればいいと言って。それにもしかしたら死んでいたのはガンドだったのかもしれないんだぞ」
「……わ、わたし、死んでお詫びを」

 シャーロッドはテーブルに置いてあったナイフを取り、自分の首に当てようとする。
 ムサシマルは剣に手をかける。俺との約束通り。

「ストップ!」

 しかし、俺の気持ちをわかってくれているレイティアが即座に動く。
 レイティアの魔法の隙にナイフを取り上げて、テーブルを遠ざける。

 泣き崩れるシャーロッド。

「僕に相談してくれれば……」

 ガンドはシャーロッドの肩をそっと抱きしめた。

「ガンド、シャーロッドはお前に相談することを忘れるほど追い詰められていたんだよ」

 もしくは相談してもどうしようもないと思ったか。

 嗚咽だけが響く部屋で俺たちはシャーロッドが落ち着くのを待った。

「シャーロッド、ガンド、二人に俺から提案がある」
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