117 / 186
第二章
ガンドの策
しおりを挟む
俺はレイティアに二人を任せて、戦いの後片付けをする。
「師匠、周りに人はいたか?」
「儂は感じんかったのう。気をつけておったのじゃが、遠すぎたか……それとも儂では感じられない相手だったか」
ムサシマルは自分の魔剣の手入れをしながら首を振った。
やはりムサシマルも魔物を操っている奴が近くにいると思っていたか。
魔物を操る魔王。奴を倒せばそれでこの依頼は終わると思っていたのだが、遠距離からでも魔物を操れるのかもしれない。厄介な相手だな。
しかし、さっきは危なかった。兼光が飛べるようになっていなければ人質にされていたか、最悪は落とされて殺されていた。
落下自体はレイティアの魔法で落下スピードを落とせることがわかっていたが、魔法がどこまで届くかが問題だ。
それにしても先ほどの兼光の姿はなんだ。
今までは白い羽毛に包まれた姿だったのが羽毛は首の周り以外、全て抜け落ち黒光りする鱗が現れている。
まるでひよこから鶏に変化するように成龍へと変態している途中なのか?
しかし、こんなに急激に変化するものなのか?
『ママ~もうあの黒い玉なぁ~い? 火を吐いたらお腹すいちゃった』
以前は白い羽毛のおかげで愛嬌のある体だったのが、今はふた回りほど大きくなり威圧感さえ感じる。
魔物の玉を大量に取り込んだため、成長したのだろうか?
そんな思いを巡らせながら、雑草が深くなる山道で俺たちは山頂を目指す。
「ここです」
ガンドが指差した先には洞窟の入口が開けていた。
集落のそれとは違い、茶色い岩肌にまとわりつく蔓で隠された洞窟の入口は人が出入りしているためか、雑草が軽く踏みしめられ、簡単に見つけることができた。
ガンドは迷うことなく奥へと進む。
俺たちも後に続く。
中は薄暗く、人工の洞穴には木の櫓(やぐら)で崩落を防いでおり、外の暑さを忘れるようにひんやりとして湿度が高く、ところどころ屋根から水滴が落ちている場所もある。
床に設置されたトロッコ用のレールがマナ石鉱山の面影を残していた。
そのため、体の大きくなった兼光でも洞窟の奥に進むのに問題ない大きさだった。
ガンドはライトを持ち、先頭をしばらく歩くと、立ち止まってこちらを振り向く。
「この先が食料の引き渡し場所です」
通路の先に大きく開けた場所に出た。
これまでの通路とは違いどこまで続いているのかわからないほど高い天井、兼光が暴れ回っても問題無さそうは広さ。ところどころに火が燃えて、その広い空間を照らす。床には木の板が引きつめられている。
「ここはもともとマナ石の集積所なのです。山から噴き出すガスをここまで引いて明かりに使用しているんです。大きな縦穴にこの足場を作っているので、足場が腐っているところは気をつけてくださいね。万が一落ちるとどこまで行くかわかりません」
ガンドは背中に背負っていた荷物を降ろしながら説明する。
古くなったトロッコやスコップなどの廃材が端に捨てられていた。
「それでこれからどうするつもりだ?」
「奴が食料を受け取りに奥から現れるはずです。奴が中央に来たら注意を引きつけてください。その隙に僕が奥に侵入してシャーロッドを救出します」
ムサシマルの左目が歪むように上がる。
「儂らは囮か?」
「いえいえ、戦っていただく必要はありません。ちょっと姿を見せて気を引いていただくだけで結構です。僕が奥に侵入できれば、ここを出て山を下っていただいて結構です」
重そうな兜を横に振り、ガンドが慌てて説明する。
「まあ、兼光が顔出したら、それだけで十分じゃないか? 相手もびっくりするだろう」
『おじさん、今僕の悪口言った?』
ちょっとやめろ、俺の頭を咥えるな! よだれがつく!
「悪口なんて言ってないぞ。 兼光の愛くるしい姿を見たら相手が見惚れるって意味だからな! だから、離れろ!」
大きなクチバシを外し、爬虫類のような瞳をジト目で俺を見る。
『……まあ、いいや』
黒い鱗と白い羽毛を持つドラゴンはそう言って母親の方へ歩いて行った。
ガンドは奥側のライトのバルブを閉め、影を作り、廃材に埋もれて息をひそめる。
「師匠、周りに人はいたか?」
「儂は感じんかったのう。気をつけておったのじゃが、遠すぎたか……それとも儂では感じられない相手だったか」
ムサシマルは自分の魔剣の手入れをしながら首を振った。
やはりムサシマルも魔物を操っている奴が近くにいると思っていたか。
魔物を操る魔王。奴を倒せばそれでこの依頼は終わると思っていたのだが、遠距離からでも魔物を操れるのかもしれない。厄介な相手だな。
しかし、さっきは危なかった。兼光が飛べるようになっていなければ人質にされていたか、最悪は落とされて殺されていた。
落下自体はレイティアの魔法で落下スピードを落とせることがわかっていたが、魔法がどこまで届くかが問題だ。
それにしても先ほどの兼光の姿はなんだ。
今までは白い羽毛に包まれた姿だったのが羽毛は首の周り以外、全て抜け落ち黒光りする鱗が現れている。
まるでひよこから鶏に変化するように成龍へと変態している途中なのか?
しかし、こんなに急激に変化するものなのか?
『ママ~もうあの黒い玉なぁ~い? 火を吐いたらお腹すいちゃった』
以前は白い羽毛のおかげで愛嬌のある体だったのが、今はふた回りほど大きくなり威圧感さえ感じる。
魔物の玉を大量に取り込んだため、成長したのだろうか?
そんな思いを巡らせながら、雑草が深くなる山道で俺たちは山頂を目指す。
「ここです」
ガンドが指差した先には洞窟の入口が開けていた。
集落のそれとは違い、茶色い岩肌にまとわりつく蔓で隠された洞窟の入口は人が出入りしているためか、雑草が軽く踏みしめられ、簡単に見つけることができた。
ガンドは迷うことなく奥へと進む。
俺たちも後に続く。
中は薄暗く、人工の洞穴には木の櫓(やぐら)で崩落を防いでおり、外の暑さを忘れるようにひんやりとして湿度が高く、ところどころ屋根から水滴が落ちている場所もある。
床に設置されたトロッコ用のレールがマナ石鉱山の面影を残していた。
そのため、体の大きくなった兼光でも洞窟の奥に進むのに問題ない大きさだった。
ガンドはライトを持ち、先頭をしばらく歩くと、立ち止まってこちらを振り向く。
「この先が食料の引き渡し場所です」
通路の先に大きく開けた場所に出た。
これまでの通路とは違いどこまで続いているのかわからないほど高い天井、兼光が暴れ回っても問題無さそうは広さ。ところどころに火が燃えて、その広い空間を照らす。床には木の板が引きつめられている。
「ここはもともとマナ石の集積所なのです。山から噴き出すガスをここまで引いて明かりに使用しているんです。大きな縦穴にこの足場を作っているので、足場が腐っているところは気をつけてくださいね。万が一落ちるとどこまで行くかわかりません」
ガンドは背中に背負っていた荷物を降ろしながら説明する。
古くなったトロッコやスコップなどの廃材が端に捨てられていた。
「それでこれからどうするつもりだ?」
「奴が食料を受け取りに奥から現れるはずです。奴が中央に来たら注意を引きつけてください。その隙に僕が奥に侵入してシャーロッドを救出します」
ムサシマルの左目が歪むように上がる。
「儂らは囮か?」
「いえいえ、戦っていただく必要はありません。ちょっと姿を見せて気を引いていただくだけで結構です。僕が奥に侵入できれば、ここを出て山を下っていただいて結構です」
重そうな兜を横に振り、ガンドが慌てて説明する。
「まあ、兼光が顔出したら、それだけで十分じゃないか? 相手もびっくりするだろう」
『おじさん、今僕の悪口言った?』
ちょっとやめろ、俺の頭を咥えるな! よだれがつく!
「悪口なんて言ってないぞ。 兼光の愛くるしい姿を見たら相手が見惚れるって意味だからな! だから、離れろ!」
大きなクチバシを外し、爬虫類のような瞳をジト目で俺を見る。
『……まあ、いいや』
黒い鱗と白い羽毛を持つドラゴンはそう言って母親の方へ歩いて行った。
ガンドは奥側のライトのバルブを閉め、影を作り、廃材に埋もれて息をひそめる。
0
お気に入りに追加
61
あなたにおすすめの小説
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います
騙道みりあ
ファンタジー
魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。
その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。
仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。
なので、全員殺すことにした。
1話完結ですが、続編も考えています。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
虐げられた令嬢、ペネロペの場合
キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。
幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。
父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。
まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。
可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。
1話完結のショートショートです。
虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい……
という願望から生まれたお話です。
ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。
R15は念のため。
(完結)足手まといだと言われパーティーをクビになった補助魔法師だけど、足手まといになった覚えは無い!
ちゃむふー
ファンタジー
今までこのパーティーで上手くやってきたと思っていた。
なのに突然のパーティークビ宣言!!
確かに俺は直接の攻撃タイプでは無い。
補助魔法師だ。
俺のお陰で皆の攻撃力防御力回復力は約3倍にはなっていた筈だ。
足手まといだから今日でパーティーはクビ??
そんな理由認められない!!!
俺がいなくなったら攻撃力も防御力も回復力も3分の1になるからな??
分かってるのか?
俺を追い出した事、絶対後悔するからな!!!
ファンタジー初心者です。
温かい目で見てください(*'▽'*)
一万文字以下の短編の予定です!
勇者に闇討ちされ婚約者を寝取られた俺がざまあするまで。
飴色玉葱
ファンタジー
王都にて結成された魔王討伐隊はその任を全うした。
隊を率いたのは勇者として名を挙げたキサラギ、英雄として誉れ高いジークバルト、さらにその二人を支えるようにその婚約者や凄腕の魔法使いが名を連ねた。
だがあろうことに勇者キサラギはジークバルトを闇討ちし行方知れずとなってしまう。
そして、恐るものがいなくなった勇者はその本性を現す……。
【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた
杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。
なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。
婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。
勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。
「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」
その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺!
◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。
婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。
◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。
◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます!
10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる