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第二章

姫鶴の魔法

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「少し時間をくれ」

 俺はそう言って姫鶴のもとへ行く。

「姫鶴、ちょっと来てくれ」

 俺は姫鶴を引っ張ってここまで運んできた木製の馬車で二人きりになる。

「出発前に魔法を覚えてもらう。時間もないからどんな魔法を覚えるかは成り行きにさせてもらう」

 切れ長の瞳はキョトンとした後、俺の言葉の意味を理解したようだ。

「でもうちには催眠術は効かへんで」
「お前がミクス村で暴れた時、自己催眠状態だったんだよ。そもそも、催眠術は身内にはかけづらい性質があるんだよ。時間がないから詳細は省く。だからお前にも催眠術はかかる。あとはお前が魔法を覚えたいかどうかだ。これから通常武器の通じない魔物が出る可能性が高い。俺としてはお前のためにもぜひ覚えて欲しいんだが、こればっかりはお前の意思次第だ」
「うちは魔法を覚えてみたいって前に言っとったよね。いい機会やお願いするわ。それでうちは何したらええの?」

 薄暗い馬車の中で素直に俺の話を聞く黒髪の少女は軽く首をかしげながら何を当たり前のことを聞いてるんだろうか? とこっちを見ている。
 俺はいつものように姫鶴を催眠状態へと導き、魔法習得の儀を終える。
 この間、およそ十分。あまりにもあっさりと催眠状態になる姫鶴を見て軽く笑みさえ浮かんでしまう。

「どうだ?」

 その小さいながらもしなやかな体を軽く伸びをしている姫鶴に問いかける。

「……そやね。二つ覚えたっぽいね」
「どんな魔法だ?」
「一つは武器に魔法属性を与える魔法見たいやね。ってこれガンちゃんが言っとった魔具とおんなじちゃうの?」

 そう言って面白くないな~と頭を抱える姫鶴にもう一つの魔法について尋ねた。

「もう一つは……あ、え? ……ああ使いようがない魔法やね」

 そう言う姫鶴は何か恥ずかしそうにしている。
 魔法は道具と同じだ。一見、使いようがなさそうに見えても、使い方一つで大きな戦力になりうる可能性がある。

「使い方は考えてやるから、どんな魔法か教えてくれ!」
「……いやや。こんな魔法絶対使わへんからええやろ。それよりみんな待っとるさかい」

 迫る俺から視線を外し、ささっと外に出て行ってしまった。

「……なんだ、あいつ? そんなに人に話せない魔法ってあるのか?」

 まあ、ああ言っていたが武器に魔法属性を与えるだけでも姫鶴の剣術と組み合わせれば大きな戦力アップになる。
 俺たちは必要な道具のみリュックに移し、馬車をガンドの工房に隠した。
 ガンドの工房は集落に行く途中の洞穴の一つにあり、集落から少し離れていた。魔具の研究のためいつ事故が起こっても周囲に損害を与えないためらしい。
 その分、空間は大きく取られ、出入りのドアも頑丈になってる。中にはレンガで作られた炉やマナ石を加工するためだと言うよくわからない器具などが揃えられていた。
 そこに馬車ごと荷物を置き、鍵をかける。そしてガンドは鍵の一つを俺に渡す。

「この工房も含めて貴方の物になります。ギヨ様」
「なあ、なんで俺たちの名前を必ず濁音で間違えるんだ? 俺はキヨだ」

 俺は太く無骨な鉄の鍵を受け取りながら、ガンドに尋ねる。

「申し訳ありません。僕たちドワーフ族は名前に必ず濁音が入るので、そのくせでつい……気をつけます」

 ガンド、シャーロッド、ダニエルそしてシド。確かに濁音が入っている。なんかおかしな風習だな。

「まあ、これから長い付き合いになるんだから気をつけてくれ」
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