上 下
83 / 186
第二章

リー先生再び

しおりを挟む
 出発までまだ時間が必要だ。
 その間、兼光をどうするかが一番の問題になる。
 一応、森に隠れて交代で一緒にいるということになるが、森にいるということは彼女たちに話しを通しておかないと、とんでもない事になりかねない。

 エルフ族だ。

 彼女たちの集落は森の奥深いところにあるが、多少なりとも街と交流があるため、いつこの辺りに現れてもおかしくない。
 ムサシマルはジョージ爺さんに話をした後、姫鶴達がいるあたりで野営をしてもらった。
 俺は眠い目をこすりながら、ソフィアと二人でエルフの狩猟小屋を探す。
 弓で打たれそうになりながら見つけたエルフに、ユリさんとリリスの名前を出してリリスに取りついでもらった。

「よう、久しぶり! で何の用? こっちは引越しの準備で忙しいんだけど」
「なあ、リーって呼んだ方がいい? リリスって呼んだ方がいい?」

 矢じりが俺の額にピタッとつくほどの位置で弓がかまえられた。
 リリスはニコッと笑った。しかしその青い瞳は全く笑っていない。

「はじめに名乗ったよな。オレ! そんなくだらないことのためにオレを呼び出したのか?」
「いやいや、大事な相談があるんだ、リー」
「……オッケー。話を聞こうか、キヨ」

 俺は子ドラゴンの兼光について話した。

「ちょっ、ちょっと待て! なんて話を持って来たんだよ、お前さん。それがどんな話かわかってるのか?」
「わかっているが姫鶴って子に懐いていて、その子の言うことはちゃんと聞くから危険はないんだ。ただ、数日森にいる許可が欲しいだけだ」

 リーは悲しそうにシルバーの髪を揺らしてその首を横に振る。

「キヨ、お前は事の重要性を全く理解していない。いいかよく聞けよ! まずドラゴンは百年に一回数個の卵を産むと言われている。これだけでドラゴンが子を大事にする理由がわかるだろう。盗まれた親は必死にその子ドラゴンを探しているだろう。それがこの森にいてエルフ族がかくまっているとなると全面戦争になりかねない。これが第一で最大の脅威だ」

 ドラゴンがつがいで卵を産むのかはわからないが、最低でも二匹以上大人にならない限り、ドラゴンという種は滅びてしまう。数個のうちの一個を結果として盗んでしまった姫鶴は、ドラゴンにとって許しがたい存在だろう。今はまだ他の子ドラゴンの育成をしていて捜索に回れないにしても、落ち着いたら当然ながら兼光を探しに来るだろう。
 アレに追い回されるのか? 想像すらしたくない。

「もう一つはそのドラゴン自身だ。ドラゴンって希少なだけあって、その生き血はあらゆる病気を治すだとか、その牙で作った剣は魔法さえ切り裂くとか、生きた心臓を食らうと不老不死になるとか、その体はあらゆる希少な素材に使えるとお前たち人間が狙ってるんだよ。当然大人のドラゴンに太刀打ちなど出来ないから、寿命が尽きたドラゴンやさっきキヨが言ってたドラゴンのように生まれたてが狙われるんだよ」

 兼光が人間に危害を加えないと分かると逆に兼光が狙われるのか。そういえば冒険者ギルドの依頼にもそういうのがあったな。

「エルフ族もドラゴンの体を狙ってるのか?」
「オレたちもドラゴンも同じ長寿命種でね。基本的に不干渉だ。触らない神になんとやらだな。ドラゴンもよほどのことがない限りオレたちには手を出さないよ。それにその話自体検証した者もいない、おとぎ話だからな」
「ということはだ」
「ああ、オレたちはドラゴンを見かけても基本的に見て見ぬ振りをする」
「二日だけあのあたりにエルフ族を寄せ付けないでくれるか?」
「……オッケー。二日だけオレの知り合いが、あのあたりでキャンプをするので近寄らないように言っとく」

 リーはその細い親指を立てて、了承してくれた。
 そして真剣な顔で一言付け加えた。

「ただし森を汚すなよ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います

騙道みりあ
ファンタジー
 魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。  その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。  仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。  なので、全員殺すことにした。  1話完結ですが、続編も考えています。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

虐げられた令嬢、ペネロペの場合

キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。 幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。 父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。 まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。 可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。 1話完結のショートショートです。 虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい…… という願望から生まれたお話です。 ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。 R15は念のため。

婚約していたのに、第二王子は妹と浮気しました~捨てられた私は、王太子殿下に拾われます~

マルローネ
ファンタジー
「ごめんなさいね、姉さん。王子殿下は私の物だから」 「そういうことだ、ルアナ。スッキリと婚約破棄といこうじゃないか」 公爵令嬢のルアナ・インクルーダは婚約者の第二王子に婚約破棄をされた。 しかも、信用していた妹との浮気という最悪な形で。 ルアナは国を出ようかと考えるほどに傷ついてしまう。どこか遠い地で静かに暮らそうかと……。 その状態を救ったのは王太子殿下だった。第二王子の不始末について彼は誠心誠意謝罪した。 最初こそ戸惑うルアナだが、王太子殿下の誠意は次第に彼女の心を溶かしていくことになる。 まんまと姉から第二王子を奪った妹だったが、王太子殿下がルアナを選んだことによりアドバンテージはなくなり、さらに第二王子との関係も悪化していき……。

処理中です...