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第一章
第八話 初日・狩
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森の中はこの時期、木陰は涼しく気持ちの良い。
しかし、ピクニックが目的で森に来た訳では無い。
森まで早歩きで約一時間。
その間、ムサシマルは今日の予定を話してくれた。
俺をこの世界に慣らすために今回狙う動物は小動物であること。
次に大物動物を狙うための情報集めを行うこと。
大物を仕留めても運ぶ手段を用意してないため、見つけてもそっとしておく。警戒させないように姿を見せるなと念を押されたが、簡単に言うが素人には無理じゃねえ?
今回は森の奥には入らない予定なので会う可能性が少ないが、敵性亜人や魔物に会ったら速やかに逃げる事。これも理想は相手よりも先に見つけ、見つかる前に逃げろと言われた。
「悪いがお主のために命を賭けるつもりは無いんでのう。まずそうな時は見捨てて逃げさせてもらうんで、お主も儂に気にせず一目散に逃げるんじゃぞ」
同じ異世界人とは言え、昨日知り合っただけの他人だ。ここまでしてくれているのは、この世界に来た時にムサシマルが経験した苦労からの親切心だけからだろう。当然、お互い命を投げ打ってまで助けるいわれはない……が、それを直球で確認するムサシマルに優しさを感じた。人は不意打ちに弱い。覚悟をするだけで対処が変わる。
服は昨日のままだが、靴だけはこの世界の頑丈な靴を買ってくれた。足首まであるブーツタイプのもので重さはあるが、少々の小枝や小石では足に痛みがなく、通常の蛇に噛み付かれても牙が通らないらしい。
「あとな、今日はお主が何が出来て、何が出来ないかも見ておきたいのう」
「任せてくださいよ」
記憶も知識も体力もない俺に、何が出来るって言うんだよ。前の世界の知識って思い出せないのか?
森に入ってからムサシマルは無駄口を叩かない。なるべく手と視線で合図して、必要な時のみ小声で指示を出す。
周囲を常に警戒しながら動物の糞や獣道を探すムサシマル。その後をなんとかついて行くだけの俺。
分かっちゃいたけど、体力が違いすぎる。恐らく体力だけでなく、無駄の無い体の使い方で体力の減りも少ないんだろうな。
そう言えば、ムサシマルが森に入る前に変なことを言ってたな。
「人間の体で一番使える所はどこだと思う?」
イタズラっ子のような顔で聞いてきた。
「頭?」
「まあ、間違いじゃ無いが。体重じゃよ。これをどう効率よく運用するか。これがすべての体捌きの基本で奥義じゃよ」
足や手にある意識を自分の体重移動に移し、ムサシマルを追いかける。ムサシマルの体の使い方を注視しながら。
お! 少し楽になった? それとも気のせいか?
ムサシマルが何か発見したのか、頭を下げて止まれと、視線を前に向けたまま俺に手で合図をした。
鳩のような鳥が木の枝に止まっていた。
幸いなことに枝までの高さは低い。
事前の打ち合わせ通り、弓と狩猟用の矢をムサシマルに渡す。
音が出にくく、直進性の高い特別製の矢だそうだ。
ムサシマルは慎重に弦を引く。
獲物に当たれば、それを取りに行くのが俺の役目だ。目を凝らしてムサシマルが矢を射るのを待つ。
弦拍子が聞こえ、矢が鳥の胸に刺さる。
ムサシマルは行っていいと俺に合図をした。
鳥が落ちたところの目算はついていた。
足元に気を付けながら、進むと地面に矢の刺さった鳥がバタついている。
矢尻に気を付けながら鳥の首をつかんだ。
生暖かい。
落とさないようにしっかりと掴んで、ムサシマルのところに戻った。
「ちゃんと見つかったのう。血抜きをするんで足を持って、逆さにしてくれ。暴れんように体もしっかり持っとくんじゃぞ」
矢を抜きながら、次の作業を指示するムサシマル。
言われたように逆さにすると、ムサシマルは片手で鳥の頭を覆うようにつかみ、一気に首を切り落とした。
赤い血がしたたり落ち、生臭い匂いが仄かに漂った。
「しばらく暴れるから、そのまましっかり持っとくんじゃぞ」
そう言って、ムサシマルは短剣と矢についた血を洗っていた。
転職しようかな?
まだ動こうとする生暖かい肉をつかんだまま、考えてしまった。
矢傷から出た血が手に付き、固まっていた。
しばらくすると、血もほとんど出てこなくなり、肉が冷たくなってきた。
その後、肛門から指を突っ込み内臓を引きずり出した。
もちろん、ムサシマルが。
これ、そのうち俺もやるようになるのかな?
「よし、いいぞ。それを袋に詰めたら、内臓と血を埋めるのを忘れるんじゃないぞ」
そのままにしておくと、肉食動物や魔物が集まってくる恐れがあるらしい。
ムサシマルは次の獲物を探し始めた。
次に端切れのキャベツを餌に兎をおびき出す。
兎は耳がよく、基本高い方に向かって逃げるらしく、矢を射るときは兎が一歩逃げそうなところを狙うのがコツらしい。
ムサシマルが見本で兎を射る。
見事に射抜かれた兎はなお、逃げようとするが、素早く追いかけて捕まえる。
兎も内臓を取る必要があり、両手で兎の首のあたりを持ち片手で腹へ搾り取るようにすると、肛門からベロっと内臓が出てきた。
出た瞬間は面白いと思ったが、内臓は内蔵。グロいね。ムサシマルは慣れた手つきで簡単そうにしていたが、力も必要そうだ。
その後も順調に、鳥を二羽、兎を三羽捕まえる。
血抜きと内蔵抜きを一人でやってみたが、なかなか難しい。慣れるしかないんだろうな。
そんな事を考えていると、川のせせらぎが聞こえてきた。
手や服に付いた血もしっかり洗いたいし、何より一休みしたい。
ムサシマルもその考えに賛成し、水の音が聞こえる方へ移動する。
魚がいそうな大きな川が見えた。
ホッとして、走って行こうとする俺をムサシマルが制した。
しかし、ピクニックが目的で森に来た訳では無い。
森まで早歩きで約一時間。
その間、ムサシマルは今日の予定を話してくれた。
俺をこの世界に慣らすために今回狙う動物は小動物であること。
次に大物動物を狙うための情報集めを行うこと。
大物を仕留めても運ぶ手段を用意してないため、見つけてもそっとしておく。警戒させないように姿を見せるなと念を押されたが、簡単に言うが素人には無理じゃねえ?
今回は森の奥には入らない予定なので会う可能性が少ないが、敵性亜人や魔物に会ったら速やかに逃げる事。これも理想は相手よりも先に見つけ、見つかる前に逃げろと言われた。
「悪いがお主のために命を賭けるつもりは無いんでのう。まずそうな時は見捨てて逃げさせてもらうんで、お主も儂に気にせず一目散に逃げるんじゃぞ」
同じ異世界人とは言え、昨日知り合っただけの他人だ。ここまでしてくれているのは、この世界に来た時にムサシマルが経験した苦労からの親切心だけからだろう。当然、お互い命を投げ打ってまで助けるいわれはない……が、それを直球で確認するムサシマルに優しさを感じた。人は不意打ちに弱い。覚悟をするだけで対処が変わる。
服は昨日のままだが、靴だけはこの世界の頑丈な靴を買ってくれた。足首まであるブーツタイプのもので重さはあるが、少々の小枝や小石では足に痛みがなく、通常の蛇に噛み付かれても牙が通らないらしい。
「あとな、今日はお主が何が出来て、何が出来ないかも見ておきたいのう」
「任せてくださいよ」
記憶も知識も体力もない俺に、何が出来るって言うんだよ。前の世界の知識って思い出せないのか?
森に入ってからムサシマルは無駄口を叩かない。なるべく手と視線で合図して、必要な時のみ小声で指示を出す。
周囲を常に警戒しながら動物の糞や獣道を探すムサシマル。その後をなんとかついて行くだけの俺。
分かっちゃいたけど、体力が違いすぎる。恐らく体力だけでなく、無駄の無い体の使い方で体力の減りも少ないんだろうな。
そう言えば、ムサシマルが森に入る前に変なことを言ってたな。
「人間の体で一番使える所はどこだと思う?」
イタズラっ子のような顔で聞いてきた。
「頭?」
「まあ、間違いじゃ無いが。体重じゃよ。これをどう効率よく運用するか。これがすべての体捌きの基本で奥義じゃよ」
足や手にある意識を自分の体重移動に移し、ムサシマルを追いかける。ムサシマルの体の使い方を注視しながら。
お! 少し楽になった? それとも気のせいか?
ムサシマルが何か発見したのか、頭を下げて止まれと、視線を前に向けたまま俺に手で合図をした。
鳩のような鳥が木の枝に止まっていた。
幸いなことに枝までの高さは低い。
事前の打ち合わせ通り、弓と狩猟用の矢をムサシマルに渡す。
音が出にくく、直進性の高い特別製の矢だそうだ。
ムサシマルは慎重に弦を引く。
獲物に当たれば、それを取りに行くのが俺の役目だ。目を凝らしてムサシマルが矢を射るのを待つ。
弦拍子が聞こえ、矢が鳥の胸に刺さる。
ムサシマルは行っていいと俺に合図をした。
鳥が落ちたところの目算はついていた。
足元に気を付けながら、進むと地面に矢の刺さった鳥がバタついている。
矢尻に気を付けながら鳥の首をつかんだ。
生暖かい。
落とさないようにしっかりと掴んで、ムサシマルのところに戻った。
「ちゃんと見つかったのう。血抜きをするんで足を持って、逆さにしてくれ。暴れんように体もしっかり持っとくんじゃぞ」
矢を抜きながら、次の作業を指示するムサシマル。
言われたように逆さにすると、ムサシマルは片手で鳥の頭を覆うようにつかみ、一気に首を切り落とした。
赤い血がしたたり落ち、生臭い匂いが仄かに漂った。
「しばらく暴れるから、そのまましっかり持っとくんじゃぞ」
そう言って、ムサシマルは短剣と矢についた血を洗っていた。
転職しようかな?
まだ動こうとする生暖かい肉をつかんだまま、考えてしまった。
矢傷から出た血が手に付き、固まっていた。
しばらくすると、血もほとんど出てこなくなり、肉が冷たくなってきた。
その後、肛門から指を突っ込み内臓を引きずり出した。
もちろん、ムサシマルが。
これ、そのうち俺もやるようになるのかな?
「よし、いいぞ。それを袋に詰めたら、内臓と血を埋めるのを忘れるんじゃないぞ」
そのままにしておくと、肉食動物や魔物が集まってくる恐れがあるらしい。
ムサシマルは次の獲物を探し始めた。
次に端切れのキャベツを餌に兎をおびき出す。
兎は耳がよく、基本高い方に向かって逃げるらしく、矢を射るときは兎が一歩逃げそうなところを狙うのがコツらしい。
ムサシマルが見本で兎を射る。
見事に射抜かれた兎はなお、逃げようとするが、素早く追いかけて捕まえる。
兎も内臓を取る必要があり、両手で兎の首のあたりを持ち片手で腹へ搾り取るようにすると、肛門からベロっと内臓が出てきた。
出た瞬間は面白いと思ったが、内臓は内蔵。グロいね。ムサシマルは慣れた手つきで簡単そうにしていたが、力も必要そうだ。
その後も順調に、鳥を二羽、兎を三羽捕まえる。
血抜きと内蔵抜きを一人でやってみたが、なかなか難しい。慣れるしかないんだろうな。
そんな事を考えていると、川のせせらぎが聞こえてきた。
手や服に付いた血もしっかり洗いたいし、何より一休みしたい。
ムサシマルもその考えに賛成し、水の音が聞こえる方へ移動する。
魚がいそうな大きな川が見えた。
ホッとして、走って行こうとする俺をムサシマルが制した。
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