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第一章

第六話 嫁取りの儀・女性

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「ごめんなさいね」

 レイティアを二階の部屋に寝かせてから、リタが帰って来た。

「レイティア殿は大丈夫か?」
「大丈夫よ。あの子お酒弱いのに、アリシアさんが変に絡むとああなっちゃうの。お酒の量も大したことないから大丈夫でしょう。

 リタはレイティアに飲まれた酒を注文し直しながら答えた。

「あの子の姉アリシアさんはいい人なんだけど、出来の良すぎる姉といつも比べられる妹って、はたから見ててもちょっと可哀想でね」

 それで、姉と間違えられてカッとなったのか。生まれた時から比べられてたのだろうな。
 出来の良い身内がコンプレックスになる人は多い。

「なあ、リタさん」
「リタで良いわよ。キヨ」
「じゃあ、リタ。一つ聞きたいんだが、女性にとって嫁取りの儀ってどう言う意味合いなの?」

 再度、運ばれて来た酒を一口飲み、リタは少し考えて口を開いた。

「嫁取りの儀ってね。要は男からの告白でしょう。それも命懸けの。魔法無しが魔法持ちに勝てるわけがないのに。それでもお前が欲しい! と挑んでくれる訳よ。嫌な気持ちはしないわ。嫌な相手だと勝っちゃえば良いだけだし、好きな相手から挑まれたらもう、心の中では小躍りものよ。気に入った相手なら、面子を潰さない程度に戦って、最後は負けてあげるのが女側の作法よ。まあ、嫁取りの儀自体、一生挑まれ無い人がほとんどだからね」

 と言うことは、初めから女の手のひらで踊らされていると。勝つためにはもともと女性にその気が無いと無理だという事か。

「でも、レイティアぐらい可愛いとこれまでも挑まれたことがあるだろう」
「……うーん。レイティアは可愛いし、世話焼きの良い子よ。でもさっき言ってたようにあの子一つ持ちなのよ。やっぱり男だって、一つ持ちより二つ、三つ持ちが良いでしょう?」

 この世界では性格や姿よりも魔法の数で決めるのか?

「ちなみに、初対面で挑んでしもうた儂はレイティア殿にとってどうだったんじゃろう?」

 ムサシマル。無頓着の風体でその実、気になってたのか。

「まあ、初対面でいきなり嫁取りの儀とか、普通なら全力でお断りね」

 やっぱりそうだろうよ。逆で考えて見ろよ、ムサシマル。知らない女性がいきなり結婚してくださいって来ても困るだろう。

「まあ、それでも一目惚れでそのまま嫁取りの儀になった例もあるし、決闘自体お互いを知るって意味もあるのよ」
「えっと、成り行きで私が嫁取りの儀に勝ってしまったことはどうなります?」

 リタは木の皿の上で湯気を上げている鳥の唐揚げを頬張りながら、少し考えた。

「わかんない!」

 ちょっと待て! 見届け人!

「嫁取りの儀って一般的な風習だけど、法的拘束力って無いのよね。過去にも負けた女の子が逃げちゃったケースもあるし。最終的にはお互いの気持ちだからね。それでキヨはどうしたい?」
 
 俺の気持ち? レイティアの顔を思い浮かべて見る。心配そうにこちらを見たレイティア。超可愛い! 正直、見た目はどストライクだ! だけどレイティアの事はほとんど何も知らない。

「知りたい。俺、レイティアの事をもっと知りたい」

 思わず俺はリタの手を握り、大きな声を出していた。

「分かったわ。キヨ。じゃあ、一つ大事な事を教えてあげる。レイティアはけっこう嫉妬深いからこういうことはちょっとね」

 俺は慌ててすぐにリタの手を離した。
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