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いざ決戦のジャングルへ
マリー隊長
しおりを挟む俺らが部屋を出て、2階に上がる階段の傍に来た時に銃声が。
それも複数の銃声が聞こえた。
最初に単発の銃声が聞こえた後に、時間を置かず複数の銃声が一斉に聞こえた。
「やばい、何が起こった」
俺は焦り、叫んでいた。
アプリコットも最悪の事態を考えているようだった。
「中尉、急ぎましょう」
そう言われ、俺らは階段を走りあがり、銃声の聞こえた部屋になだれ込んだ。
部屋には銃による硝煙の匂いに交じって、何度嗅いでも好きになれない人の血の匂いが充満していた。
部屋の中には多数の女性兵士が呆然と立っている。
状況がおぼろげながら見えてきた。
とりあえず、良かった……か?
とにかく、この部屋は我々側が占拠しているようだ。
となると……どういうことだ。
銃を手にしたメーリカさんが俺を見つけ傍までやってくる。
「隊長、ごめんなさい。捕虜にはできなかったよ」と言って指さす方向を見ると、そこにはお約束の黒い軍服を着た兵士の死体が3つある。
その死体を踏みつけ蹴飛ばしている現地勢力の女性兵士が数人いた。
さらに部屋の奥には全裸の女性を介抱している山猫さんたち二人の兵士がいる。
ここまで状況を確認でき、俺はやっとほっとした。
とりあえず仲間には被害がなさそうだ。
どうも、そこに倒れている黒服の連中が裸に剥かれた女性を盾にとって逃げようとしていたところを、最初にメーリカさんが黒服の男の手から銃を射撃ではじき飛ばしたようだ。
それとさほど時間を置かずに、部屋に入ってきた現地兵士が、黒服の連中を射殺していった。
ほんの一瞬の出来事だったようだ。
「メーリカさんが無事なら大丈夫だ。みんなも無事の様で、俺としては大成功だとみんなをほめてやりたい」
俺はメーリカさんを気遣いながら、部屋の隅でうずくまっている女性の傍に寄った。
上着を脱ぎながら近づいたものだから、その女性から悲鳴が上がった。
「ひぃ~~」
彼女の傍に寄ってきた、彼女の部下だろうか、その女性から強い口調で叱責を受けた。
「き、貴様。隊長に何をする気だ」
「ごめん、怖がらせたようだな。他意は無い。いや、あるか」
「な、何を」
「誤解しているようだな。俺の上着を彼女に羽織らせてくれ」
俺は彼女の傍で介抱をしている山猫の兵士に上着を渡してお願いをした。
「いや、何、いくら俺がヘタレだと言っても、さすがに彼女のような魅力的な女性が、それも官能的な姿でいつまでもいれば、俺の方の理性が持たない。悪いが、俺の上着でも羽織ってくれ。それともう一つ。そこの君。彼女の服を調達できないかな。俺の上着を羽織った姿も、非常に魅力的なんだよな。これじゃあ、彼女と交渉もできない。彼女は君たちの隊長なのだろう。少し交渉をしたいのだが」
先ほど俺に食って掛かった女性兵士はきまり悪そうに
「分かった、すぐに戻る。それまでに隊長に何かしていたら承知しないからな」と言い残して、部屋を出た。
彼女の他にも数人の現地兵士がこの部屋にいる。
その兵士たちは、彼女が出て行ったあたりから、俺のことを相当気にしている。
銃こそ向けてこないが、いつでも俺に向かって発砲できる態勢は取っている。
あまりうれしい状況じゃないな。
そんなことを思っていると、先ほど悲鳴を上げた女性が俺に向かって詫びを入れてきた。
「すまない。助けてもらったようだが、部下があのような態度を取って申し訳ない」
まだ、声に力はないが、部隊を率いる隊長だけはあって、きちんと状況を把握している。
「何、俺の方こそ、このような目にあっている女性に対して配慮が足りなかったな。こちらこそお詫びします。また、これは個人的な責任において、あなたたち町人全員に対してお詫びします」
「お詫び?」
「帝国が、共和国との紛争に、何ら関わり合いの無いあなたたちまで巻き込んでしまい、また、状況がひっ迫していることが分かっていながら、なかなか君たちを助けに来ることがかなわなかったことを個人的にお詫びします」
「個人的?」
「事は外交に関する事柄なので、私にはその件について何ら発言する権限が与えられていません。私に与えられているのは、あなたたちとの交渉ができるように友好的に接触するまでなのです。ここで改めて、あなたにお願いすることがあります」
「それが、あなたが先ほど言っておられた交渉事ですか」
「まずは、自己紹介からさせて頂きます。私はこの辺りのジャングルの探索を命じられている中隊の指揮を任されている帝国軍人、グラスと申します。階級は中尉です。差し支えなければ、あなたのお名前をお教え願えないでしょうか」
いきなり交渉に入ることになったが、なかなかシュールな絵面だ。
帝国軍人だけでなく、共和国の軍人を連れた男性が、部屋の隅で先ほどまで全裸だった女性に、しかも彼女は男物の上着を羽織っただけの姿で地べたに座り込んでいる女性に話しかけているのだ。
さらに、男性は上着を脱ぎ棄てた姿で、その男性に寄り添う形で傍にいる共和国の女性は官能的に破られた軍服をまとっているのだ。
どこのAV撮影だと言いたいが、これもやむを得ない。
これもそれもみんな、そこでくたばっている黒い軍服を着た連中のせいだ。
流石に今回ばかりはズボンをはいている姿で死んでいたが、多くの同類たちは皆下半身をさらけ出しているので、凌辱もののAV撮影の様だった。
女性は、軍人らしくきちんと立ち上がり自己紹介を始めようとしたので、俺は慌ててそれを制した。
「どうか座ったままでお願いします。俺の下半身が反応してしまいますから、俺の理性の為にもそのままで」
「中尉~~」
アプリコットが俺に怒鳴ってきた。
俺の正直な感想だったが、流石にデリカシーが足りない言動だったらしい。
件の女性も、俺の言葉を聞いて恥ずかしくなったのか、体をさらに縮めて顔を赤らめていた。
「隊長、言い方ってもんがあるだろう、言い方」
流石にメーリカさんも俺に苦情を言ってくる。
彼女の横で介抱している山猫さんは件の女性に対してフォローを入れている。
「大丈夫ですよ。うちの隊長、口では偉そうなことを言いますが、てんでヘタレなので、何もできませんから」
「そうそう、うちらが裸で迫っても逃げるだけだからね。気にするだけ損ですよ」
あいつら、それでフォローしているつもりか。
いいように言いやがって、あとで覚えていろよ。
落ち着いたのか、女性は名前を教えてくれた。
「マリー、この辺りの女だけで作られている部隊の頭をしているマリーだ。我々をあいつらから助けてもらってことで良いのかな」と言って、傍で倒れている死体を指さした。
「一応、この町にいるあいつらの制圧は成功したものと考えている。まだ、全体を把握した訳じゃ無いが、朝にでもなればはっきりするだろう。この町を占領していた共和国軍から解放できたと思っている」
「あいつら戦車なども持ち込んで来ていたが、それでも解放できたのか。銃撃戦などの音は聞こえなかったが」
「直接確認した訳じゃ無いが、伝令から戦車を含む車両全ては、すべて我々が鹵獲してある。
また、付近にいる黒服の連中はかなりの部分制圧に成功している。今は、残党狩りの最中だ」
そこまで話し込んでいたら、先ほど部屋から出て行った兵士が服をもって帰ってきた。
俺が成り行きを見ていると、横から肘鉄が入った。
「中尉、いつまで見ているおつもりですか」
「あ、これは気が付きませんで、申し訳ありません。その姿も名残惜しいですが、一度私は部屋から出ております。ですが、そこにいる兵士は残しますが了解ください」
いちいち俺の言葉に反応して顔を赤らめながら答えてくれた。
「すまないな、でも、いくら私が男勝りの兵士だとしても、男の前で着替える勇気は持ち合わせていない。貴殿の気遣い感謝する。また、貴殿の部下が残るのはもっともだ。直ぐに着替えるから待ってくれ」
俺はアプリコットと一緒に部屋を出た。
何故アプリコットが付いてきたかというと、これは俺の護衛だ。
流石に制圧したと思われる屋敷でも、まだ完全に制圧された保証が無い。
どんなヘボ兵士だとしても、襲われたら簡単に死ねる自信が俺にはある。
非常に情けない話だが、そもそも、俺はこんな場所に居て良い人間でない。
マリーといった女性は、彼女の部下と何やら話しながら着替えをしているようだ。
後で、中での様子は部屋にいる山猫さんから聞けるから問題ないが、どうも今回の救出劇の顛末を部下から聞いているようだ。
それほど時間をかけずに中から声がかかった。
「グラス中尉、お待たせしました」
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