上 下
156 / 336
グラス中隊、始動す

出動命令

しおりを挟む

 俺の中隊が発足して新兵が配属されてから、かれこれ1週間が経った。
 この1週間はほとんど代わり映えしない生活が続いていた。
 平和な時間だとも言えるが、時々メーリカさんからは、なんで服務経験が1年以上の兵たちに新兵訓練をさせなければならんのか、との愚痴を聞かされた。
 彼女たちも今では整列がきちんとできるようになり、どうにか行進も見られるレベルにまでなってきたのだ……オイオイ1週間も掛かって行進しかできなかったのかよ、と言いたくなってきた。
 君たちこれまでの軍人として何をしてきたの? とじっくり問いたいが、時間の無駄なのでそのまま訓練を山猫さんたちに任せている……苦労をかけて申し訳ない。
 今では交代で例の訓練施設を使っての訓練に入っている。
 残りは、営舎の建設をやらせている。
 当然彼女たちだけでは何もできないし、危なっかしくて見ていられないので元の部下たちが彼女たちの面倒を見ている。……こちらも面倒をおかけしてごめんなさい。
 そんな俺らの様子を師団司令部に詰めている幕僚たちがちょくちょく確認しに来る。
 サクラ閣下がしびれをきらしているのだとか。
 要は早くジャングルに入って仕事をしろよお前らって感じらしい。
 部下の訓練の様子を見て何も言わずに帰っていくのだからプレッシャーは感じるが、俺としても言えることはない。
 営舎の建設は何も俺らだけではなく旧花園連隊の皆さんも手分けして行っていた。
 こっちも徐々にではあるが新兵を中心に配属されているようだ。
 なので現場では一緒に作業することも多く、今では俺が現場の総監督のような位置づけで建設現場の調整を行っているのだ。
 外交官のアンリさんから文句が出ないかって? ……それは大丈夫なのだ。
 これに関しては俺自身を褒めてやりたい。
 最初こそ不満をぶつけてこられたが、俺らが今後ジャングル内を移動するときにもついてくるようなので、アプリコットと一緒に例の訓練施設で訓練をしてもらっているのだ。
 もともと幼少の頃からの知り合いだったのかアプリコットと仲良く一緒にいるようだ。
 今の基地全体の様子はとにかく騒がしいの一言だ。
 サクラ閣下が初めてこの基地に赴任してきた当時もかなり慌ただしかったそうだが、今ではそれ以上に騒々しい。
 とにかく施設が足りないので建設ラッシュが始まっているのだ。
 それもおやっさん率いる工兵隊の主力を欠いてだ。
 本来ならば素人工事でとんでもないことになっているはずなのだが、以前にやったこともあり問題なく工事は続いているのだ。
 ではおやっさんたちはどこに行ったかって? ……おやっさんは殿下から直々の命令で旧場外発着場の拡張とそれに伴う関連施設の工事に加え、飛行場に併設して連隊の駐屯地も作るのだとかで俺以上にとんでもないことになっている。
 本当にここはブラックの見本市みたいに仕事が途切れない場所だな。
 軍隊なんか戦闘がなければ、それこそ日がな一日訓練でもしていればそれ以外は暇なはずじゃなかったっけ(すみませんこれは筆者の偏見です。)
 大体工兵でもなければ工事なんか早々やらないはずなのだが、ここではそれが本業のように工事仕事が舞い込んでくる。
 絶対におかしな職場だ。
 俺がここで愚痴ってもしょうがないか。
 仕事がひっきりなしに舞い込んでくるんだよ。
 ヤレ木材が足らないとか、場所が邪魔だからここでないところで作り直せとかといった調整作業がそれこそ立て続けに舞い込んでくる。
 なので忙しそうに現場を走り回っていたら、今日は珍しくアプリコットが俺のところにやってきた。
「中尉、サクラ閣下がお呼です。私と一緒に出頭してください」
「へ?何で、まだとてもじゃないが俺の隊は外には出せないぞ」
「わかっていますが、至急呼んで来いとの命令ですので四の五の言わずに行きますよ」
「分かりましたよ。シバ中尉、俺閣下に呼ばれたので現場を頼みます~」
「わかった。任されたから行っておいで」
「ありがとうございます」
 俺はアプリコットに引きずられるように師団司令部の置かれている建家に向かった。
 司令部建家の最上階で一番日当たりの良い場所にある師団長室に通されサクラ閣下と対面している。
 本当にここは場違いなくらい立派な部屋だな。
  尤も調度品は情けないがそれもしょうがないか。
 ほとんどの物が前の連隊長が置いていった物の再利用なのだからってそんなことはどうでもいいか。
「急に呼び出してすみませんね、グラス中尉」
「いえ、構いません……が、私の隊はまだ使い物にはなりませんよ」
 俺は早速予防線を張って構えた。
「あなた方の部隊の様子はよく理解しております。とてもじゃないが軍隊とは呼べるレベルにないことは理解をしています……が、あいにく敵は待ってくれなかったようなのですよ」
「は???どういうことなのでしょうか?」
 するといつものようにサクラ閣下の横でレイラ大佐が解説をしてくれた。
 先ほど帝都から情報が入り、また敵がジャングル内で精力的に活動を開始したというのだ。
 ジャングル内で少なくともこのあたりの警戒を強化しなければならないのだが、この基地では動かせる部隊などひとつも存在しない。
 なので、いつものように面倒事はグラスへという感じで命令が下された。
 『直ぐにジャングルに行って警戒せよ』
 そんなの無理じゃん……ってダダをこねたら、行ける人だけ連れてでも行けと無理やりケツを叩かれた。
 本当に勘弁して欲しい。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

パワハラ女上司からのラッキースケベが止まらない

セカイ
ライト文芸
新入社員の『俺』草野新一は入社して半年以上の間、上司である椿原麗香からの執拗なパワハラに苦しめられていた。 しかしそんな屈辱的な時間の中で毎回発生するラッキースケベな展開が、パワハラによる苦しみを相殺させている。 高身長でスタイルのいい超美人。おまけにすごく巨乳。性格以外は最高に魅力的な美人上司が、パワハラ中に引き起こす無自覚ラッキースケベの数々。 パワハラはしんどくて嫌だけれど、ムフフが美味しすぎて堪らない。そんな彼の日常の中のとある日の物語。 ※他サイト(小説家になろう・カクヨム・ノベルアッププラス)でも掲載。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...