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グラス小隊のお仕事
物騒なお茶会
しおりを挟む「レイラ、みんなを座らせろ……悪い、レイラ・フジバヤシ中佐、この場を仕切って下さい」
「少佐、この場では、いつものままでお願いします。なんだか慣れないので気持ちが悪い。それに、ブルだって、サカキさんに『おじ様』で呼んでいるので、大丈夫です。それより、ブル、いいからそこに座って、お茶を頂きましょう。みんなも座って、とりあえず、落ち着きましょう」
「分かりました、クリリンも座って、せっかく入れてもらったコーヒーを頂きましょう」
「あら、本当にこのクッキー美味しいわ。旅団長も食べてみてはいかがでしょうか」
「なら、いただきます。本当に、紅茶もこのクッキーも美味しいわね。そろそろ、私は落ち着きましたので、まず、おじ様から説明をお願いしますわ」
「何を話せばいいんだ? そもそも、ここの建家の話が入った時に、俺は言ったぞ、『ここは、絶対に溜まり場になる』と。それ以外の何を話せばいいんだ?」
「その話は、聞いたかもしれませんが、あの状況でしたので、記憶がありません。しかし、なぜここに多くの工兵がいるのでしょうか? まず、そこを知りたいのですが」
「その件につきましては、私からご説明させていただきます」
声を上げたのが、俺の横で図版に向かっていたシノブ大尉であった。
「あら、シノブさんもいらしたの。いいわ、私にわかるように説明してください」
「はい、まず、ここのレンガハウスはグラス少尉のご提案によりレンガ作りから始まり、ハウスを作ることになったことは旅団長も承諾いただいているかと思います」
「え~、その件は私も覚えていますよ」
「それで、いざ作ることになった時に我々には、今まで知らなかったノウハウを習得できる絶好のチャンスに映りました。そこで、少尉に無理を言って、一緒に建築に加わらせていただき、技術の習得に努め、その後のために使おうと考えていました。次に、我々の技術の向上のため、我々だけで建築をすることになり、設計だけはグラス少尉の協力をいただきましたが、比較的簡単で、万が一失敗しても多勢に影響が出ない建家をと考え、風呂の建設を行いました。これは、大成功に終わり、続いて、基地の重要建家に取り掛かろうとなり、今その準備にあたっています」
「まず、今の説明でわからない事が2つありました。一つは、最初の建家が、何故、風呂だったのかということと、なぜこの場所で今もあなた方がいるのかということです。そのことについて詳しく説明願います」
「はい、分かりました。まず、最初の建家ですが、指導してくれているグラス少尉がもっとも理解している建築物だったとのことです。彼が、入隊前まで、その関連の仕事をしていたそうで、この建物については、かなり詳しかったので、成功の確率を上げるために選びました。次に、我々のいる件ですが、今も次につくる建家の設計に当たってますが、この件で、色々とグラス少尉にアドバイスを頂いております。それに、ここが溜まり場になりそうだとおやっさんに言われた時に、同時に自分たちに都合が良いようにここに色々と準備しておくように云われ、この場所に製図板等の建築関連で必要なものも設置しました。今も、ここで、指令部建家の設計をしておりました。いわば、ここは基地リニューアルプロジェクトのプロジェクトルームになっております。電話の設置もあり、今は、関連情報がここに集約されています」と言って、壁の方を指さした。
そこには、コルクボードが有り、色々なメモ類が貼られていた。
どう見ても、前線で活躍する小隊に必要なものとは見えず、まるで補給ベースの事務所のようだった。
「わかったわ、あなたたちの件は理解したわ。ここに集まる事を許可します。でも、まだわからないことがあるわね。なぜ、サリーがここでお茶を入れているのよ」
「あ、でも……、ダメですか?」
「サリー、俺から旅団長にお願いしておく。旅団長、その件は俺から、説明します」
「わかったわ、グラス少尉、あなたからの説明を聞きたいわね、お願いするわ」
「この建家ができ、かなりの数の工兵の方がここに来ていました。多分、レンガハウスの作りの確認を兼ねてきてたのだろうと想像しますが。その頃には、サリーの体調も回復し、リハビリを兼ねて衛生兵に付き添われてここによく遊びに来ており、俺の横で、飽きずに俺の仕事を見ていました。そんな彼女を見たマキアさん、彼女は特殊行工兵大隊に所属して、俺らの隊によく同行しており、サリーを保護した時も一緒だった二等兵ですが、彼女がサリーのためにクッキーを焼いてくれました。これがとても美味しく、ここに来ているみんなにおすそ分けをしているうちに、サリーがみんなに何かしてあげたいと言うので、お茶を入れてもらっていました。それが、今までの経緯です。お茶、コーヒー、クッキーの材料も全て、書類を司令部に上げて承認を頂いた上で使用しております」
「クッキーはどこで焼いているのよ」
「この部屋の続き部屋にキッチンも作ってあり、そこで焼いています。お茶やコーヒーもここで入れております」
「な、なんて贅沢な作りなの、この建家は」
「俺が以前いた事務所に近づけた間取になっています。軍での施設については、俺には知識がなかったもので、もし、この間取りが軍の規則に抵触するようなら、改築しますが。最もすぐには難しいとは思いますが……」
「軍の規則に、間取りの善し悪しについてはありませんので、改築の必要はありません」
かなり、苦虫を噛んだ表情でサクラは答えた。
そのやり取りを聞いていたドック少佐が、いい加減我慢ができなくなってきたように、「オイオイ、それ位にしてくれ、日が暮れる。俺が来たのは、ここの査察が目的ではない。あの、訓練施設が使いたいだけだ。あの施設はどうしたら俺らにも使えるようになるんだ」
「ブル、とりあえず、ここは納得したわよね。私も思うところはたくさんあるけれど、サクラが望むように営倉に繋がる規則違反はないし、とりあえず、先に話を進めましょう」
「営倉……えらく物騒なことをいいますね」
「それは、いいから、訓練施設なんだけれど、現状はどうなっているの」
「現状もなにも昨日できたばかりで、好きに使っています。本来の目的は、我々のところに来た新兵の訓練用にメーリカさんからお願いされてとりあえず、ジャングルに出せることを目的に作ったもので、大きなものではありません」
「見てきたから、それくらいはわかるわ」
「しかし、昨日、訓練の様子を見に来たアート少佐とナターシャ少佐が自分たちの部下にも使いたいと言われたので、直ぐに手狭であると理解し、ナターシャ少佐の提案で現在拡張について詰めていたところでした」
ここまで、説明していたところにアート少佐が入ってきた。
「サリーちゃん、私にコーヒーをお願いね。あ、ブル隊長、隊長もここにいらしたのですか」
「今来たところよ。それで、色々とここのことを聞いていたところなのよ。あなたは何を?」
「あ~、そうだ、グラス少尉、やっぱり、200mは欲しいそうよ、普通の訓練は100mあれば良さそうだけれど、しっかり射撃訓練するなら50m×200mくらいは必要なのよね。現場の意見はそれでほぼ同じだったわよ」
「?、なんのこと?」
「拡張工事に当たって、射撃の訓練場も欲しいとの要望もあり、その検討をしていました。
そのため、アート少佐には部下の方々と意見の集約をお願いしておりましたので。
で、サカキ中佐がいらしたので、ちょうど良かった。射撃の訓練場の施設に当たり、申請などどのようにすれば良いかわからなかったので、教えてください」
「オイオイ、脱線するなよ。とりあえず、あの訓練施設は使えるのだな」
「え~、現場でもめないように順番でも決めていただけたら、大丈夫だと思います。
それに、許可が出しだい、徐々に拡張を始めていきますので、そのうち、全員が訓練できるようになるかもしれません。で、その許可はどうすればいいのでしょう」
「だ、そうよ。どうするのブル。このまま、ほっとくの。それとも、訓練施設は我々指令部で用意する?」
「レイラ~、無茶言わないで、司令部で用意なんかできないわよ。そうね~、この件は、おじ様に一任していいかしら」
「構わんがね、もともと、そうするつもりだったから。訓練施設の利用については、とりあえず、そのままとし、ある程度拡張がなった時点で、訓練計画も含め、司令部で調整が必要になるな。訓練計画は俺じゃ弱いから、その時までドック少佐の方で準備してくれ。最終的にはドック少佐辺りを頭に司令部で訓練計画も含め面倒を見ないとな」
「わかっています。お願いできますか、ドック少佐」
「もちろん異存はない。早速、俺の隊で試して、基地全体の訓練計画を練るとしよう。俺のところにはサクラ大佐から預けてもらった優秀な士官がいるし、一緒に頑張るとしよう。俺は、目的が済んだから、早速隊を連れて訓練に行くが、大佐たちはまだここで査察の続きでもするのか?」
「査察とは、人聞きの悪い。もう、私たちも用件は済んだわ。あとはおじ様に預けるわね。さて、帰りますか。サリー、お茶、美味しかったわよ、ごちそうさま」と言って、サクラたちは司令部に戻っていった。
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