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グラス小隊のお仕事

喫茶サリーのおうち

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「では、少佐、現場訓練施設のところまで案内してくださるわよね」
「案内もなにもないが、ま~、俺としては施設が使えればいいだけだから。連れて行けばいいんだな?」
「ブルあなた、顔が怖くなっているよ。まだ、あいつが何かしでかしたと決まったわけじゃないのだから、もう少し落ち着いて」
「レイラこそ、何甘いこと言っているの。今まで何度もやらかされてきたじゃないの。今から対策を考えておいても、多分手遅れのような気もするけれど、何もしないよりはましでしょ。今度こそ、あいつを捕まえて営倉にぶち込んでやるんだから」
「「…………」」
 最近特に酷くなってきているサクラの言動に、いつもそばで控えているマーガレットとクリリンが、かなり引き気味であったのを、レイラが見て苦笑いを浮かべていた。
 周りに独特の雰囲気を振りまきながら、マーガレットが今までの経緯などをヤールセン少佐に説明しつつ、訓練施設の傍まで来ていた。
 既に訓練施設では、兵士たちがキャーキャーワイワイと姦しく楽しそうに訓練していた。
 アザミ大隊の兵士たちは、既に訓練施設での訓練を済ませ、端で休憩していた。
 今からは、山猫をはじめとするグラス小隊のメンバーが、ちょうど訓練を始めようとしていた。
「お前ら~、何楽しようとしているんだ。お前らは、ガチ装備でやるんだよ。それじゃ~、お前らの訓練にならんだろ。新兵は、そのままさっさと始めて」
 大声で、メーリカが小隊の兵士たちに向かって、訓練の指示を飛ばしていた。
「随分、楽しそうなことしてるわね」
「サクラ大佐、見てればわかるが、ガチ装備でやるととんでもない訓練になるんだ。昨日見ていて、俺も驚いたんだ」
「ブル、今から、山猫がガチ装備でやるみたいだから見てみなよ」
「それじゃ~、始めるよ」
「「「は~い」」」
 ガチ装備の山猫分隊が訓練施設に飛びかかった。
 まだ、慣れていないためか、最初の壁からかなり苦労していた。
「な、ガチ装備では、ベテランの兵士でも簡単に攻略はできないんだよ。装備の重量を変えるだけで、難易度が変わる訓練施設だから、新兵の訓練にもってこいなんだ。この訓練施設は凄い。これを考えた奴は天才じゃないか」
「なんとなく、誰が始めたかはわかったわよ。それじゃ~、ここに来た本来の目的を片付けようかしらね。軍曹、メーリカ軍曹だったかしら」
「あ、旅団長閣下」
 急に現れたサクラたち一行に声をかけられ、びっくりしながらも、きちんと敬礼をした。
「閣下、何か御用ですか?」
「閣下……、閣下はやめてちょうだい。ま~、今はいいか。それより、あなたたちの隊長、グラス小隊長は、ここにいないのかしら?」
「ハイ、隊長は今、詰所にいます」
「詰所?一人詰所でサボっているのかしら」
「ハイ、いいえ、隊長は花園連隊の首脳の方と、施設の増設について打ち合わせをしているはずです。昨日から、かなり根を詰めて、取り組んでいましたから。私も昨晩付き合わされましたし、工兵を交えて設計している頃かと思います」
「そ~なの。わかったわ、詰所にいるのね」
「それにしても、この件に花園連隊も噛んでいたのか。ブルはなにも聞いてなかったのか?」
「なんだか、この基地についた頃から、アートもナターシャもあいつらと仲がいいんだよね。時々、あいつらとつるんでいることは知っていたけれど、この件は聞いていないわ。でも、いいわ、詰所に行って聞けば分かることだから、行きましょ。マーガレット、サカキ中佐を詰所まで呼んできてちょうだい。そこで、施設について話がしたいから」
 マーガレットが走って司令部に向かうのを見送り、サクラたち一行はここからさほど離れていない小隊詰所に向かった。
 真新しいレンガ作りの詰所には、これも真新しい、立派な木製の表札がつけてあった。
「でも、納得がいかないわね。なんで指令部が、今にも崩れそうな木造の建家なのに、小隊詰所が立派なレンガの新築なのよ。彼らが作ったのだけれど、なぜか納得がいかないのよね」といって、出来たばかりの真新しい立派な表札を見たレイラは急に顔をしかめた。
「この表札は何?」
 サクラは、詰所に掲げられている表札を見て声を挙げた。
 その声を聞いて、クリリンはサクラが見て驚いた表札を確認した。
 その真新しく、それでいて立派な木製の表札には『勅任特別小隊』とあり、これも分不相応な出来ではあるが、問題は、その上にある可愛らしい表札であった。
 そこには芸術品かと思うような透かし彫りで『喫茶サリーのおうち』とあった。
 それを確認したクリリンも声を揃えて「なに、これ?」と唸った。
 サクラは、頭を抑えながら怒ったように中に入っていった。
「いらっしゃいませ」
 サクラたち一行が詰所に入ると、絶対に軍隊の基地には似つかわしくない可愛らしい声で挨拶された。
 それを聞いたサクラは更に怖い顔をして、詰所正面にある立派な机で作業している人に向けて怒鳴り声を上げた。
「あなたたち、何を考えているのよ!」
「へ??、あ、旅団長」
 正面の机で作業をしていたアプリコットが、その場で起立し敬礼をした。
 それに合わせて、横で作業をしていたジーナたち数名が彼女に続いた。
「へ?……、あなたたち、……なぜ、隊長席にあなたたちがいるのよ。隊長はどこにいるの?」と、アプリコットに聞いた。
 クリリンが、机の上に席札が乗っているのを発見し確認したら、そこには 『小隊長の副官とその仲間たちの席』と、わけのわからないようなふざけた文面が載っていた。
 クリリンは、この席札がサクラに見つからないことを祈った。
 幸い、サクラは頭に血が上っているのか、席札なんかには気づかなかったが、それよりまずい、火に油を注ぐような声が聞こえてきた。
「初めての方ですよね、何を飲みますか?テーブルにあるクッキーはご自由におたべください」と、サリーがエプロン姿でサクラたちに声をかけた。
 サクラがわなわな体を震わせていると、
「あ、旅団長。サリー、この方とは一度は会っているだろう。この基地で一番偉い方だよ」
「あ、そうでした。助けていただきありがとうございました。私は、このように元気になりましたので、皆さんにお礼を兼ねてお茶を入れています。それで、何をお飲みになりますか?」 
 サクラたち一行はどうしていいかわからず、その場で呆然としていた。
 そこへ、呼び出されたサカキ中佐が入って来た。
「あ、サカキさん、こんにちわ。今日もコーヒーでいいですか?」
「あ~、お邪魔するよ。今日もコーヒーを頼むわ。で、お嬢は何の用だ?」
「なんで??、なんで普通に接しているのよ、おかしいでしょ、これ。おじ様はなんで驚かないのよ、絶対におかしいでしょ、これ」
「あ、ブル隊長、いらっしゃい」
「あ、あ、あなたたちもいて、どうして何も言ってないのよ」
「ま、ブル隊長もそこに座って、お茶しましょ。サリー、ブル隊長には紅茶を出してあげてね。ほかの人はコーヒーでいいかな」
「分かりました。紅茶ですね。ほかの方はコーヒーでいいですか。あ、これ、美味しいですよ、マキアさんの手作りクッキーです。お好きにお食べ下さい」
「俺はそれで構わないけど、とりあえず、落ち着いて話をしようか。サクラも、いいから座って落ち着け」
 どうにか、詰所の空気も変わり、落ち着いてきた。
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