38 / 336
サクラ旅団の始動
帰りの苦行
しおりを挟む帰りの車内で、少女は先程より状態が持ち直したようで、いくらか良くなってきたように感じた。
疲れているのか、やがて少女は眠りに就いた。
ここから基地までは、どうしても2日は掛かる。
途中で、野営をしなければならない。
野営そのものは、さすがに数日経験しているので、問題なく準備できるが、今回は、往きにはいなかった、それもかなり衰弱している少女がいるので、それなりに気を遣う。
少女とは、言葉が通じるので、コミュニケーションには問題がない。
しかし、彼女はかなり衰弱しているので、思考力が低下しているようだった。
まだ、こちらの隊員たちのうち、誰ともまともな会話に成功していなかった。
こちらから話しかける内容は理解しているようで、指示には問題なく従ってくれている。
皆が起こした火の回りに集まり、食事の用意をしている。
皆が食する食事をそのまま少女に渡したものか考えていたが、少女の体調がまだ思わしくなく、とても食べられそうにないため、サバイバルキットに付属している非常食(ビスケットのような物)を細かく砕いて水に溶き、煮込んでスープ状のものを作った。
乳幼児の離乳食をさらに薄めた様なものが出来上がった。
多少、塩などで味は整えたけれど、決して美味しいものではないのだが、我慢してもらった。
少女はコップに入ったそれを受け取り、ゆっくり飲むようにして食べた。
味の方は、そこまで問題なかったようで、嫌な顔もせずに完食した。
食後に、少女を火のそばで休ませた。
その時間を使って、少女とコミュニケーションをとるべく、会話を試みた。
やはり言葉は通じたようで、少女はここから、徒歩で3日離れた場所にある村の出身で、名前は、姓はなく『サリー』ということまでわかった。
それ以上の情報は、少女の話すことが要領を得ず、引き出せなかった。
会話で疲れたのか、少女が眠そうにしていたので、少女を車の中に作った簡易ベッドに寝かせ、兵士一人を介護兼見張りにつけた。
残りのみんなと、火の回りに集まり、明日の予定などを確認していった。
一通りの確認が済み、三々五々解散といった雰囲気になった時に、ジーナが、また際どいことを聞いてきた。
「小隊長、彼女を裸にしないのですか?」
「君は、俺をどういう人間だと思っているのかな。する必要がないのに、女性を裸にしたりしないよ。そもそも俺は今まで、嫌がる女性を無理に裸にしたいと考えたこともないよ」
「え~、私の裸を見たじゃないですか。私、男性に自分の裸を見せたいと考えたこともないのに、少尉に見られましたし、捕虜の方も、裸にしていたと聞いたものですから、てっきり、そういうこと好きな方と…」
すると、横で聞いていたアプリコットが「ジーナも、裸を見られたの?」
「『も』ってな~に、もしかして、アプリコットも見られたの?」
「基地の風呂で、しっかり見られた」
「少尉、もしかして、この小隊の女性全員の裸を見たとかありませんよね」
「そんなわけ、あるわけないだろ。まだ、全員の裸を見たわけないよ」
すると、周りの空気が固まった。
「「「『まだ』なのですか」」」
「今のは言葉の綾だ。見ない。今後は、見ないよ。見るつもりも、微塵もない。本当だ、誓ってもいい」
……
すると、山猫の兵士の一人がおもむろに、
「私たちの裸は、見る価値もないのですか?」
周りの空気が完全に凍っている。
周りに居た女性全員の目が冷たい。
どうにかしてくれ。
俺は、頑張って抵抗を試みた。
いろいろ言い訳をしました。
しかし、すればするほどドツボに嵌っていく自分が見えた。
何を言ってもダメなやつだ。コレ。
助けてくれ~。
「それくらいで、勘弁してあげたら。男なんてみんな同じこと考えているから。それに、さっきも言ったけど、風呂の件は私たちが後から乗り込んだことだし、少尉はスケベだけど、ヘタレなんだから、そんなことは絶対にしないよ、私が保証する。ここいらで許してあげなよ」
この時のメーリカさんが天使に見えた。
どうにか、メーリカさんの取りなしで、その場から逃げることを許された俺は、車に少女の様子を見に行き、そこで一晩を明かした。
ほとんど寝つけなかった。
今、基地に向け走っている車の中だが、非常に眠い。眠いが我慢。俺は出来る子だから頑張っている。
先程、レイラ中佐と連絡が取れた。
レイラ中佐は、現地人の保護を非常に重要視しているようで、調査隊の指揮をサカキ中佐に預け、一足先に基地に帰投したそうだ。
なので、レイラ中佐は基地から、無線を飛ばしていた。
中佐には、少女に関して得られた本当に少ない情報を伝えた。
すると、中佐は、無理に情報を聞き出さなくても良いから、少女の心象だけは下げないよう厳重に注意された。
よっぽど、今回の件を重要視しているようだった。
先程、調査隊の調査ポイントに着き、サカキ中佐に一言報告を上げ、再度、車を走らせた。
ここから基地まではあと半日かかりそうだった。
車内では、少女が起きている間は、少女が疲れない範囲で、自分たちのことについて、わかりやすく話して聞かせた。
少女は、それらを好意的に捉えてくれているようだった。
ジーナはあれ以降、問題発言を控え、車内の空気を凍らせることはなかったが、俺は針のむしろに座らされている心境だった。
少女を見つけてから、基地までは2日かかった。
ブラック職場でのきつい仕事も多々経験したが、今までの人生で、これほどきつい2日はなかったと断言できる。
基地までの2日は、本当に疲れた。
帰りの2日の苦行がなければ楽だったのに、本当に疲れた。
0
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語
六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。


美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる