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のらしろ少尉 転移?する
ブル連隊長の苦難 帝都の状況
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ここで話の時間を蒼草改めグラス少尉たちが墜落した時間よりも少し戻し、場所も帝都に変えて本編の重要な登場人物であるブル連隊長ことブリリアント・サクラ大佐について話してみたい。
神聖標準歴384年 ドゥラスノ帝国
雨季も終わりに近づきつつあったが、昨日から小雨が降ったり止んだりの天気の中、帝都ターロンの官庁街を颯爽と歩く一人の女性士官がいる。
ややきつい感じのある美人、年齢はまだ20代半ばといったところだ。
官庁街にある一際威圧感を与える建物の前にきて、彼女は、立ち止まり、やや不安げに大きくため息をついた。
そして、軽く気合を入れ、その建物の中に入っていった。
すぐ後ろに、不安げな表情を隠さない彼女の副官と思しき女性も彼女につづき建物の中に入っていった。
入口には大きく「ドゥラスノ帝国 人事院」と書かれた看板が掲げられている。
今、軍内部の急進攻勢派以外の人間で不安を感じない者はいない。
それというのも、数ヶ月前から、軍の実権を握った急進攻勢派による軍人事の大幅な変更が行われているためである。
そもそも急進攻勢派とは如何なるものか。
帝国の政治体制は貴族政であることは既に説明したが、一口に貴族政と言っても一枚岩のように結束している訳ではなく、現状大きく分けて、3つの勢力に分かれ、うち2つが帝都で主導権をかけ抗争を繰り返してきた。
3つの勢力とは
●穏健内政派:王族に連なるゴット公爵ほか上級貴族が多く集う
●急進攻勢派:トラピスト伯爵などを中心として中流以下の貴族が集う
●中道中立派:サクラ侯爵を中心に帝国の良心と言われている
最近の十年ほど権勢を誇っていた穏健内政派が皇帝の交代に伴う混乱に政治スキャンダルも重なり、権勢に陰りを見せてきた。
その隙に乗じて、あれよあれよと言う間に急進攻勢派が軍部の実権を握り、軍事方針を膠着状態の『現状維持』から、帝国が持ちうる全ての力を投入して一挙に共和国に対して攻め込もうとする『一大攻勢』に変え、それに伴い、軍内部の人事を大幅に変更している。
急進攻勢派は、今まで抑えられてきた鬱憤《うっぷん》もあり、この政治的クーデターとも言える軍の主導権奪取に成功したのを機に、かなり無茶苦茶なことを色々としてきている。
今まで、ことあるたびに衝突してきた穏健内政派に属する高級武官を当然の如く皆閑職に飛ばし、更に、目の上のたんこぶにあたる、帝国の良心と言わしめる中道中立派の行動に制限をかけるべく、ウルトラCとも言える離れ業を放った。
それは、中道中立派の重鎮である陸軍上級大将であり、同時に統合作戦本部の本部長でもあったサクラ侯爵をまず陸軍元帥に昇進させた。
そして、すぐに彼を元老院議長に据えた。
元老院議長就任と同時に陸軍元帥職は、慣例に伴い予備役となった。
サクラ侯爵としては、国内での政治的発言力はやや強化され、栄転のように見えるが、軍から離れたことにより、当然、今まで彼が持っていた軍内部での影響力を大幅に弱体化させられた。
サクラ侯爵の軍内部での影響力低下はそのまま、中道中立派の弱体化に繋がり、軍内部は急進攻勢派の独壇場となっている。
現状の帝国内は、サクラ侯爵が新たに得た政治的影響力をフルに活用し、また、近衛侍従隊と協力して皇帝を補佐し、かろうじて軍の暴走を抑えている状況である。
先ほどの登場した女性士官であるが、名前をブルリアント・サクラといい前出のサクラ侯爵の四女で、階級は大佐、年齢は今年で27歳になる。
この国の慣例と比較しても異例の若さでの昇進であるが、彼女の出自(中道中立派の重鎮、サクラ侯爵の四女)、また、現職に足る実力、実績を備えた万人が認めるスーパーレディーである。
帝国は半世紀もの間「戦争」を続けてきており、人材の枯渇を理由に、軍は十年ほど前から女性も登用してきている。
もっとも、敵側の共和国は、開戦直後あたりから女性の登用を積極的にしているため、この面で帝国は共和国に対してかなり遅れている。
昨今、共和国では、女性の将官が幾人も輩出されているのに対して、帝国での女性最高位は彼女サクラ大佐がただ一人であり、その下に中佐が数人といったレベルである。
まだまだ帝国の軍部は女性の扱いに迷いがあり、とても前向きに取り組んでいるとは言い難い状況である。
そのような情勢下においてスーパーレディーの登場には、軍はその扱いに非常に困り彼女の大佐昇進と同時に、中道中立派の牙城である近衛侍従隊旗下の近衛師団に新たに女性だけで構成される第七連隊を新設し、彼女を初代連隊長に据た。
また同時に、軍内部にいる男性士官や兵士立ちにとって目障りな存在になってきた『できる女性』達を集め、困っていた女性軍人の扱い問題の解決策に当てようとしていた。
この彼女が率いる近衛第二師団 第七連隊は、女性で非常に優秀な者が上から順に放り込まれた為、帝国内きっての精鋭部隊となっている。
近衛師団の性質上、皇室関係者の出陣に伴い一緒に行動してきており、幾多の戦闘にも参加し、また、参加した戦闘では、間違いなく全てにおいて、他を圧倒するくらいの軍功を上げてきている。
この第七連隊は、戦歴、軍功共に帝国内随一で、今や、帝国内全ての女性のあこがれである。
また、その華やかさからも、花園連隊と呼ばれ、帝国軍の全ての女性士官、兵士にかかわりなく垂涎の存在である。
そのために、ここに所属することが女性士官や兵士を問わずにステータスとなっている。
前出のサクラ大佐は、その人柄、能力、実績において他者の追随を許さず、花園連隊の隊員全員から敬意と親愛の思いを込めて強気のブルこと「ブル連隊長」の愛称で呼ばれている。
サクラ大佐は、男性女性を問わず、今最も将官に近い存在として注目されている。
もし近日中に昇進したならば、間違いなく、帝国史上最年少の閣下の誕生である。
神聖標準歴384年 ドゥラスノ帝国
雨季も終わりに近づきつつあったが、昨日から小雨が降ったり止んだりの天気の中、帝都ターロンの官庁街を颯爽と歩く一人の女性士官がいる。
ややきつい感じのある美人、年齢はまだ20代半ばといったところだ。
官庁街にある一際威圧感を与える建物の前にきて、彼女は、立ち止まり、やや不安げに大きくため息をついた。
そして、軽く気合を入れ、その建物の中に入っていった。
すぐ後ろに、不安げな表情を隠さない彼女の副官と思しき女性も彼女につづき建物の中に入っていった。
入口には大きく「ドゥラスノ帝国 人事院」と書かれた看板が掲げられている。
今、軍内部の急進攻勢派以外の人間で不安を感じない者はいない。
それというのも、数ヶ月前から、軍の実権を握った急進攻勢派による軍人事の大幅な変更が行われているためである。
そもそも急進攻勢派とは如何なるものか。
帝国の政治体制は貴族政であることは既に説明したが、一口に貴族政と言っても一枚岩のように結束している訳ではなく、現状大きく分けて、3つの勢力に分かれ、うち2つが帝都で主導権をかけ抗争を繰り返してきた。
3つの勢力とは
●穏健内政派:王族に連なるゴット公爵ほか上級貴族が多く集う
●急進攻勢派:トラピスト伯爵などを中心として中流以下の貴族が集う
●中道中立派:サクラ侯爵を中心に帝国の良心と言われている
最近の十年ほど権勢を誇っていた穏健内政派が皇帝の交代に伴う混乱に政治スキャンダルも重なり、権勢に陰りを見せてきた。
その隙に乗じて、あれよあれよと言う間に急進攻勢派が軍部の実権を握り、軍事方針を膠着状態の『現状維持』から、帝国が持ちうる全ての力を投入して一挙に共和国に対して攻め込もうとする『一大攻勢』に変え、それに伴い、軍内部の人事を大幅に変更している。
急進攻勢派は、今まで抑えられてきた鬱憤《うっぷん》もあり、この政治的クーデターとも言える軍の主導権奪取に成功したのを機に、かなり無茶苦茶なことを色々としてきている。
今まで、ことあるたびに衝突してきた穏健内政派に属する高級武官を当然の如く皆閑職に飛ばし、更に、目の上のたんこぶにあたる、帝国の良心と言わしめる中道中立派の行動に制限をかけるべく、ウルトラCとも言える離れ業を放った。
それは、中道中立派の重鎮である陸軍上級大将であり、同時に統合作戦本部の本部長でもあったサクラ侯爵をまず陸軍元帥に昇進させた。
そして、すぐに彼を元老院議長に据えた。
元老院議長就任と同時に陸軍元帥職は、慣例に伴い予備役となった。
サクラ侯爵としては、国内での政治的発言力はやや強化され、栄転のように見えるが、軍から離れたことにより、当然、今まで彼が持っていた軍内部での影響力を大幅に弱体化させられた。
サクラ侯爵の軍内部での影響力低下はそのまま、中道中立派の弱体化に繋がり、軍内部は急進攻勢派の独壇場となっている。
現状の帝国内は、サクラ侯爵が新たに得た政治的影響力をフルに活用し、また、近衛侍従隊と協力して皇帝を補佐し、かろうじて軍の暴走を抑えている状況である。
先ほどの登場した女性士官であるが、名前をブルリアント・サクラといい前出のサクラ侯爵の四女で、階級は大佐、年齢は今年で27歳になる。
この国の慣例と比較しても異例の若さでの昇進であるが、彼女の出自(中道中立派の重鎮、サクラ侯爵の四女)、また、現職に足る実力、実績を備えた万人が認めるスーパーレディーである。
帝国は半世紀もの間「戦争」を続けてきており、人材の枯渇を理由に、軍は十年ほど前から女性も登用してきている。
もっとも、敵側の共和国は、開戦直後あたりから女性の登用を積極的にしているため、この面で帝国は共和国に対してかなり遅れている。
昨今、共和国では、女性の将官が幾人も輩出されているのに対して、帝国での女性最高位は彼女サクラ大佐がただ一人であり、その下に中佐が数人といったレベルである。
まだまだ帝国の軍部は女性の扱いに迷いがあり、とても前向きに取り組んでいるとは言い難い状況である。
そのような情勢下においてスーパーレディーの登場には、軍はその扱いに非常に困り彼女の大佐昇進と同時に、中道中立派の牙城である近衛侍従隊旗下の近衛師団に新たに女性だけで構成される第七連隊を新設し、彼女を初代連隊長に据た。
また同時に、軍内部にいる男性士官や兵士立ちにとって目障りな存在になってきた『できる女性』達を集め、困っていた女性軍人の扱い問題の解決策に当てようとしていた。
この彼女が率いる近衛第二師団 第七連隊は、女性で非常に優秀な者が上から順に放り込まれた為、帝国内きっての精鋭部隊となっている。
近衛師団の性質上、皇室関係者の出陣に伴い一緒に行動してきており、幾多の戦闘にも参加し、また、参加した戦闘では、間違いなく全てにおいて、他を圧倒するくらいの軍功を上げてきている。
この第七連隊は、戦歴、軍功共に帝国内随一で、今や、帝国内全ての女性のあこがれである。
また、その華やかさからも、花園連隊と呼ばれ、帝国軍の全ての女性士官、兵士にかかわりなく垂涎の存在である。
そのために、ここに所属することが女性士官や兵士を問わずにステータスとなっている。
前出のサクラ大佐は、その人柄、能力、実績において他者の追随を許さず、花園連隊の隊員全員から敬意と親愛の思いを込めて強気のブルこと「ブル連隊長」の愛称で呼ばれている。
サクラ大佐は、男性女性を問わず、今最も将官に近い存在として注目されている。
もし近日中に昇進したならば、間違いなく、帝国史上最年少の閣下の誕生である。
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