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第107話 ペトロからのアクション

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 コロンビア合衆国のマークさんの話では、俺らとの付き合いで色々と儲けさせてもらっているので、ここらあたりで俺らとの関係も見直そうという意見も出始めたようだ。

 尤も、コロンビア政府の統一した意見では無く、どちらかというと断然少数意見のようだが、それでもマークさんに俺らとのパイプを維持させるという話だ。

 今までもコロンビア合衆国とはギブアンドテイクの関係で、今のところ貸し借りの無い状態であるが、それでも彼らの勢力圏にあるヨーロッパで恩を売ろうと俺らに近づいてきたと正直に話してくれた。

 彼らしい対応といえるが、俺らに勘繰られてはせっかくの行為も逆効果になるので、手持ちの札を明かしてサポートすると言う。

 その根底には、ここヨーロッパは彼らのライバル国であるペトロ共和国もかなりの勢力を持っており、ロンドンはましだが、ヨーロッパ本土は東に行くほど彼らの方が勢力的に勝るということも教えてくれた。

 そこまで言われれば、俺としても一旦スレイマン王国のことは置いておいて、純粋に俺らのビジネスのために協力を仰いだ。
 放っておいてもろくなことは無い。
 ありがたく協力を仰いで、ロンドンでの短い滞在を楽しんだ。

 ホテルに帰り一休みしていると、ロンドン駐在の大使館職員が英国の外交官を伴って訪ねて来たので、夕食を一緒に取る羽目になった。
 ここでもちゃっかりマーク達二人もなぜかしら同席だったので、明らかに英国の彼は情報系の関係者だろう。

 まあ、英国とは今のところ俺らもスレイマン王国もましてやボルネオも敵対していないので、穏やかに時間が過ぎて行った。
 最後にデザートをという時になって、英国の外交官とマークさんに緊張が走る。

 彼らの視線先を見ると、一組のアベックがいる。
 男の方は全くの隙の無い紳士風で、特筆すべきはその連れている女性だ。
 ミスワールドにでもというくらいのロシア美人。
 しかもスタイルが完璧と言えるくらいボッキュッボンだ。
 俺の周りには美女、美少女しかいないが、それでも目を惹く女性だった。

 なぜかしら俺の方を見て軽く会釈をしてくる。

「くそ、もう奴らに感づかれた。
 防諜はどうなっているんだ」

「完全に排除は無理ですよ、マークさん。
 それにしても、早耳ですね。
 そろそろ、あちらも直人さんを取り込みにかかってきたのでしょうかね」

 二人の会話から、敵対グループに所属した関係者のようだ。
 明らかに白人のアベックなので、大明共和国は考えにくい。
 多分ペトロ共和国の情報関係者なのだろう。

 今のところ彼らとはビジネス上の付き合いはない。
 となるとスレイマン王国の王位継承問題に限られてくるから余計に厄介だ。

 まあ、今の俺は英国とコロンビア合衆国の二国にしっかりと護衛されている状態なので、直接の接触はないだろうが、それでも二人は警戒を解かない。

「あれが彼らのやり口なのですよ。
 まず顔を見せてから徐々に近づいてくる。
 最後は、ハニートラップという訳です。
 お気を付けください」

「忠告ありがとう。
 でも俺らは明日帰国するから……」

「でも、またすぐにヨーロッパに来るでしょう。
 まあ、その時も私がしっかり守りますから安心してくださいね。
 あ、そうだ、いっそのことキャサリンを傍に置きませんか。
 彼女が、直人様の傍にいれば私も安心できますから」

「さらっと、そっちもトラップを掛けてこないでくださいね。
 何度も言いますが、そういうのは間に合っていますから」

 俺とマークさんとの会話に完全においていかれた日本の大使館職員は俺の方を見てきょとんとしている。
 あとで本国にどんな報告が行くのかちょっとばかり心配になった。

 なにせ、今回はアリアさんを甘えさせる目的もあって、外務省から俺に付けられた明日香さんを日本に置いてきている。
 あとで彼女からも文句が出そう。

 まあ、とにかくその日はその後も何事も無く食事も終わり部屋に戻った。
 翌日は、市内観光もせずに戻ることにした。
 ペトロからのちょっかいを掛けられても面白くない。

 マークさんに守られたって、借りができるだけだし、翌日はホテルから直接ヒースロー空港に向かい、ボルネオ経由で日本に帰っていった。

 一泊三日の弾丸旅行になったが、機内でも目的のことはできるので、今回のヨーロッパ訪問はひとまず成功と言えよう。

 しかし、肝心の投資案件は見つけられなかった。
 そうそう魅力的な投資案件があればどこも苦労はしないといえるのだが、それにしても何も無いのは正直考え物だ。

 一週空けて翌々週に今度はパリに向けて出発した。
 やはりというか、日本国政府もかなり危機感を持ったのか、今度のパリ行には外務省だけでなく経産省からも人が派遣された。

 何のことは無い、明日香さんと仁美さんが付いてきたのだ。
 今度も同行者はアリアさんだ。
 他に数名が付いてきた。

 前回で懲りた訳では無く、ボルネオに余裕が出てきていることと、そろそろ新たな投資案件を探さないといけない切実な理由があるほかに、アリアさんは前回でかなり満足したのか、それともボルネオに置いてきた他のメンバーから突き上げを食らったのか分からないが、そんな事情もあるようだ。

 ボルネオからパリに向けた機内は明らかにその目的の解消になっていた。
 そこに政府役人の二人も加わるもんだから俺に休みなんか全く無い。

 正直、久しぶりに死ぬかと思った。
 パリに着くと予測通りにマークさんがキャサリンと俺のことを待っていた。

 流石に真剣に投資先を探さないといけないこともあり、俺の女性たちは分かれて調査に向かった。
 フランスでは、農産品くらいしか魅力的な投資先が考えられないこともあり、今回はそれに絞って調査することにしている。

 俺も政府役人の二人の他に、キャサリンを連れて日系の商社を回って歩いた。
 しかし驚いたのは、その回った先の日系商社の事務所内に前にロンドンのホテルで見かけた女性を見つけたことだ。

 商談中に、早速彼女から接触があったのには驚いた。
 流暢な日本語で、商談を進めながらやたらに体に接触したがる。
 そして耳元で囁くようにトラップを掛けて来る。
 日系なので、接待を伴う商談だが、酒が入ると一段とアクションを掛けて来る。

 とりあえず俺の方は、彼女に向けて、どこの所属か聞いてみた。
 当然彼女はとぼけるから、俺はロンドンで会った情報関係者から聞いていると話すと、観念したのか、アクションは止めた。

 当然の話だが、最後まで所属は明かさなかった。
 どこでどう立ち回ればそんなことができるのか分からないが、その後にそこの会社との取引の窓口に彼女はなっていた。

 翌日には彼女の案内で、パリ近郊の農場を回り、ワインと、オリーブオイルの先物にいくつかの投資することになった。
 予想利回り7%前後でそれほど魅力的でないが、日本円で5千万円の投資することになった。

 この規模なら俺一人の判断でしても良いことになっているので、というよりアリアさんが言うには、そろそろ俺独自で判断してもらわないと困るということを前に言われていたのでその場で契約を結んだ。

 なんだか納得がいかないが、今回の契約では彼女の成績になってしまう。
 敵に塩を送った気分でパリの訪問も終えた。
 帰りも俺は機内で俺は休みなく働いた。

 皮肉なことに今回の訪問では、敵である彼女に付いてあっちこっちと回った時が一番安らいだ。
 当然美人の案内だが、全くそんな気は起らなかった。

 これは俺のハニートラップ除けの計略だったのかと、日本に帰ってから明日香さんに聞いてはみたものの、彼女は顔を赤らめるだけで何も教えてくれなかった。

 違ったな。

 実は彼女も、本当は好き者だっただけの話か。
 今度はドイツのハンブルグを考えている。
 明日香さんも帰ってからその準備に忙しく動いている。

 当然、俺の動きを完全にとらえているだろうコロンビア合衆国のマークさんに対しても今のところ敵対関係に無いので、一応知らせようと、同じ建物内のキャサリンさんを訪ねて、予定を知らせておいた。

 すると彼女は、一々本国に帰ってからの移動は面倒なので、今度は一緒にできないかと俺に聞いてきた。

 最近ではすっかり彼女とも仲良くはなっているが、所詮情報系の人間だ。
 完全に信用も信頼もしていないが、俺は検討するとだけ答えて事務所に戻った。

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