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第74話 吉井会長の秘書

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 俺がヘリポートにつくと、すでに吉井会長を乗せたヘリは着陸寸前だった。
 ギリギリ感が半端なかったが、俺が呼び出した重要人物の出迎えに間に合った。

 少なくともこれ以降の交渉で会長に対しての気持ちで後れを取ることが無いだろう。
 ……本当か……
 まあ、こちらからお願いがあるので、下手には出るが、彼も早々無理は言ってこないだろう。
 今のところ吉井会長たちとの関係は良好だともいえる。
 なにせ愛人を世話されたり、セフレを沢山紹介されたりしていたのだし、こちらとしても彼との交渉では幾分かの譲歩も覚悟してはいる。

 ただ、今後のことを考えると、今彼との交渉は少々まずいかもしれない。
 なにせこの後大型の案件が控えている。
 こちらのお願いをした後に、この交渉をしないといけないかおりさんには大変申し訳ないが、俺としても彼女たちのことがあるので、今を外す訳にはいかなかったのだ。

 ヘリが無事に船屋上にあるヘリポートに着陸し、ヘリから吉井会長が下りてきた。
 ヘリからは吉井会長だけでなく彼の後から数人降りてきた。
 大型案件の相談もあるし、会長の会社から担当者も連れてきたのだろう。
 最後に女性が下りてきたのだが、俺は彼女を見た時に背筋に寒いものを感じた。
 絶対に関わってはいけない部類の人だと一目で見て取れたのだが、関わらないわけにはいかなそうだ。

 なにせ俺を見つけると、ものすごい眼力で睨んできた。
 少々、いや、かなり怖い。
 誰だ、あの人は……
 おっと、いかん挨拶をしないといけないよな。
 なにせこちらが招待した人たちだ。
 それに何より会長の方が人生経験の豊富な年長者だ。
 長幼の序とかいうやつだな。
 こればかりは孤児院でしっかり仕込まれていたので、今では遺伝子レベルまで昇華され自然にふるまえる。

「お久しぶりです、吉井会長」

「本郷様、お久しぶりです。
 直接お会いするのは事務所開き以来ですか。
 ご無沙汰しておりました」

「はい、お久しぶりです、本郷様。
 前にお会いしたのは、多分そうなりますね」

「まずは、お礼を述べさせてくださいませんか。
 こちらからの要請をお聞き下さり、あまつさえ、ここまでご足労頂き感謝の念に堪えません。
 本日は、お越し頂きありがとうございます。
 出来得るばかりのおもてなしをさせて頂きます」

「本郷様。
 そこまでかしこまらずに、事務所開きの時と同じように自然にお願いします。
 今回は、こちらとしても渡りに船でしたので、そればかりか、大事なお話し合いの席にご招待までさせて頂き感謝しております」

「会長」

 俺と会長との話が長くなりそうなのを察した先の女傑、いや綺麗な女性が会長に声をかけた。
 『こんなところでグタグタせずに、さっさと次に案内させろ』と言下に言っているようだ。

「お~お~、そうだな。
 紹介しよう。
 彼女は私の秘書を長くしてくれている黒岩だ。
 今後も一緒にビジネスをするようなら何かと接触もあるだろう。
 よろしく頼む」

「黒岩様ですか。
 自己紹介が遅れましたが、私はスレイマン王国とボルネオ王国の両国で貴族のようなものをしております本郷直人と言います。
 まだ大学に入ったばかりで、実務はそこにいる女性たちに任せきりです。
 彼女たちの紹介は、夕食の時にでもさせて頂きますので、皆さんをご案内いたします」

「それもそうだな。
 こっちも実務と担当する役員連中は後で紹介させよう」

「では、皆さま。
 こちらにどうぞ」 とかおりさんが皆を案内して船内に連れて行く。

 まずは各部屋に案内するようだ。
 俺は一旦ここで別れて、自室に向かった。
 自室に戻り、一息を入れた。

「いったい誰なんだ、あの人は」

 俺の独り言に、近くにいたラナが相手をしてくれた。

「バニーガールずの吉井会長の隣にいた秘書の方ですか。
 確か黒岩様と言いましたね」

「そうだよ。
 彼女、唯者じゃないよね」

「はい、日本にいた時に調べさせて貰いました折に触れ何度もお名前は上がっておりましたから、業界でしたっけ、芸能界ではかなり有名な方だと理解しております」

「え?
 知っていたの」

「それほどではありませんが、一応直人様の周辺の方の身元くらいは調べております。
 その……今日子様の件もございましたし、かおりさんは直接お会いしてお話をしているはずです。
 私もかおりさんから聞きましたから」

「そうなんだ。
 かおりさんは何と言っていたの?」

 ラナからかおりさんから聞いたという黒岩さんの話を聞いた。
 彼女が聞いた話だと、今のバニーガールずがあるのは彼女の尽力あってこのことだと。 
 相当なやり手で通っており、業界では彼女に面と向かって逆らえる人はいないとまで言われている。
 なんと吉井会長も含めてだそうだ。

 そうなるとバニーガールずの実質的TOPじゃないかと思われるのだが、凄腕の彼女は決して吉井会長をおろそかにしていない。
 お釈迦様が上手に悟空をあしらったように、会長を彼女の手のひらで泳がせているようなものだと、かおりさんは言っていた。

 仕事一筋で、男っ気を感じない。
 相当の美人なのだがもったいないような気がした。
 とにかく美人だ。
 凛として、かっこが良いともいえる。
 それに何よりスタイルがそこらのモデルもはだしで逃げ出すくらい良い。
 年齢は明らかに榊さん達よりは10歳くらい上だろうが、年齢を感じさせない所謂美魔女とかいうやつ。
 そんな感じだ。
 尤も、彼女くらいになると、男の方が委縮して傍にすら寄れない。
 彼女の方も、そこらの男なら小物に見えて魅力すら感じなかったのだろう。

 最後にかおりさんは非常に気になることをこぼしていたとも聞いた。
『あれほどのやり手は早々居ない。
 後10年もすれば花園さんや榊さんもあの域に達したかもしれないが、直人様が彼女たちを仕事地獄から救ったので、ああはならないだろう』と言っていた。

 え?

 確かに榊さんや花園さんは非常に美人だったけど男っ気なかったな。
 なにせ俺が頂いた時には処女だったし。
 そうなると、俺は彼女たちを救った?
 ありえないでしょう。

 まあ、とにかく、彼女は最重要人物だということを俺は理解した。
 あまりゆっくりもできずに夕食の時間となった。
 今日は新たなお客様を迎えての夕食だが、梓たちとはあまりに毛色の違う人たちも参加しての夕食会なので、立食でのおもてなしだ。

 これなら梓たち学生には負担がかからない。
 近寄らなければ済むだけだから、梓たちだって好き好んで生き馬の目を抜くビジネス街の戦士たちには近寄らないだろう。
 夕食での顔お合わせも問題なく終わり、あとはラウンジでの歓談の時間だ。
 本来ならば、殿下や王子、それにボルネオの有力者と事業主体である我々に、新たな芸能関係者も交えて親睦を図る場となる筈であった。
 確かにそういう面もあるにはあるのだが、吉井会長と黒岩女史だけは俺に付き合って、歓談の場から離れた。

 俺はかおりさんを伴って、吉井会長たちを、船の奥にある秘密のホールに案内した。
 ここは先日儀式を行った場所だ。
 俺のたっての願いで呼び出した目的を説明するためだ。

「吉井会長、それに黒岩様。
 本来ならラウンジでごゆっくり過ごしてもらう時間ですが、このようなめんどくさいことにお付き合いくださり、感謝しております」

 すると、少しばかり表情が緩んだ黒岩さんが俺に答えてくれた。

「連れてきた連中もそうですが、私なんかと一緒にいてもつまらないでしょうから、お気になさらないでください。
 それより、本郷様が、吉井を頼ってくださったことが私にはうれしく思います」

「そうですよ、本郷さん。
 最初の出会った時にも申しました通り、困ったらいつだって私を頼ってください。
 私にできることならなんでも致します。
 なにせ、本郷様は、私の恩人であるボルネオ王室の恩人ですから、私にとっても恩人です。
 それより、今回の件は相当難しそうですね」

「いえ、秘密という面では会長の処の芸能人ほどじゃありません。
 だた、私には女性のケアという面では全くの無知であります。
 こういった女性のケアについて、たくさんの女性を扱ってのお仕事をしている吉井会長ならばと、連絡させて頂きました。
 つきました。
 中にお入りください」

 ホールの中では、ガウンを羽織った水着姿の女性が10人ばかりいる。
 俺が部屋に入ると、かおりさんは、彼女たちが羽織っているガウンを取らせ、彼女たちの実情を露わにした。

「ひい~~」

 思わず黒岩女史が声を上げた。
 確かに改めてみても酷い有様だ。
 洋服を着ている部分には目立たないが、このように肌をさらすと問題が顕著になる。
 流石に吉井会長は声を上げないが、それでも驚いていた。

「彼女たちですね。
 私も、芸能人をスカウトする際に、DV被害にあった女性を見たこともありますが、これほど美人が、それもこれほどの人数集まって被害を受けた場面には出会ったことがありません。
 聞くところによると、このほかにもいるとか。
 でも、ご安心ください。
 これくらいならすぐにでも医者を手配します。
 任せてください」

「待ってください。
 お願いしたいのは確かに彼女たちの治療ですが、十分なケアをしてやりたいと考えております。
 ですので、医者は確かにお願いしたいのですが、そのほかにスキンケアの専門家、エステ関係の人などもお願いできないでしょうか。
 きれいな肌を取り戻させてから、彼女たちに十分に働いてもらおうと考えております」

「分かりました。
 そちらも我々にとって専門分野です。
 本郷様にご満足いただけるようなことをお約束いたします」

 会長から直ぐに対応してくださるという約束を頂いた。

「かおり様。
 ここから日本へ連絡を取りたいのですが」

「この船にある電話からでも国際電話を掛けられますが、この船から携帯も使えますよ。
 契約の形態にもよりますが、あなたの携帯からでも繋がります」

 黒岩女史は早速仕事にかかりたかったようで、かおりさんに日本への電話のかけ方を聞いていた。
 俺も聞いたが、この船からでも携帯が使えるので、忙しいビジネスマンには朗報だろう。
 ……朗報か?
 遊びに来ていても仕事ができる環境って、果たして朗報なのか疑問に思わないでもないが、とりあえず、会長たちは遊びにこの船に来た訳じゃないので、朗報なのだろう。

 黒岩女史は、早速あちこちに電話をかけている。
 吉井会長は、傷ついた彼女たち一人一人に話しかけ、必死にコミュニケーションをとっている。

 俺が事前に肌の治療を先に進めることを説明しているので、彼女たちも会長の質問にきちんと答えていた。
 これなら、治療も安心だ。
 俺はこの様子に、一仕事を終えた達成感を感じていた。

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