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第45話 事務所開き
しおりを挟む既に事務所の方は招待客で賑わっていた。
これといって日本での知人が多くいるわけじゃないのでそんなに招待はしていなかったのだが、それでも海賊興産関係だけでも本社だけでなくここインペリアルヒルズでお世話になっている投資部門や不動産会社の方も招待していた。
また、ボルネオで王様から紹介された芸能事務所の吉井会長も日本で活動していく上でご厄介にならないとも限らないので招待だけはしておいた。
お忙しい方なので、どうせ花だけで来ないだろうと睨んでいたのだが、事務所のタレント数人を連れてお祝いにかけつけてくれた。
「本日は、このようなおめでたい席にご招待頂きありがとうございます。
不躾とは思いましたが、事務所の者を連れて大人数で押しかけましたことお許しください」
その挨拶を受け、ここの代表となっているイレーヌさんが吉井会長に対して見事なまでの返事を返していた。
「いえ、わざわざお越しいただきありがとうございます。
また立派なお祝いのお花を頂き感謝に堪えません。
それにしても、今回お連れ頂いた方たちは、お忙しい方ばかりですね。
私どもの所なんかに来てもらって、お仕事の方に差しさわりがありませんか。
私たちはそちらの方が心配です」
さすがイレーヌさん。
大人の会話で会長の挨拶攻撃から見事救われたと思ったのだが、そこは海千山千の世界で頂点を極めてきた会長、簡単には引き下がらない。
別に会長の新たなお財布扱いされても構わないけど、主導権だけは握っておきたいようなイレーヌさんは、次の手を出してきた。
必殺、王族の登場だ。
「吉井会長はボルネオ王国の陛下とは親しい間柄とお聞きしておりますが、皇太子殿下とはどうですか。
まだ、お目見えをされていないようでしたら、私が紹介しますのでご一緒されますか」
「皇太子殿下ですか。
晩餐の席などでは何度かご一緒させて頂きましたが、きちんとした形での挨拶はしておりません。
しかしなぜ、この場で皇太子殿下が出てくるのですか」
「公式ではありませんが、私どものエニス王子と一緒に皇太子殿下もご招待しておきましたら、今朝お忍びでこちらにお祝いに駆けつけて下さいました。
もうすでにあちらにいらしたようですので、私は挨拶に伺いますが、ご一緒されますか」
「え?え?
そうなのですか。
ご一緒させていただけるのなら、是非ご一緒させてください」
「非公式の席ですので、ボルネオ王国内では記録に残りませんがそれでもよろしければこちらに」
「それでもかまいません。
本郷様。
私はイレーヌ様と一緒に殿下に挨拶に行ってきますので、一旦ここを離れます。
後程お時間が許しましたら、ご相談したいことがありますので、お時間をください」
「はい、話をお聞きする時間だけは用意しますが、必ずしも会長のご希望に添えるかまではお約束できませんが、それでもいいですか」
「構いません。
では後程」
何やら、日本でも仕掛けてきそうな会長の話を考えながら、俺は他の招待客に挨拶に回っていった。
イレーヌさんは此処の代表と言う事で今日は俺と一緒にいる時間がほとんどないが、かおりさんは常に俺の傍で些かの隙もなく対処していた。
尤も、今回招待した人たちは海賊興産の関係者がほとんどで、それ以外では外務省の特殊な部署にいる人たちだけだ。
なので、俺に対してややこしい問題を持ってくる人など吉井会長だけだと言ってもいい。
その会長との挨拶も無事済ませれば、大学生が社会人に対して持っている一般的な常識での対応で充分だ。
かおりさんは俺が挨拶をする人に漏れが無いかの確認と、談笑中に軽はずみな約束事が無いかの確認だけをしていればよく、それもすぐに終わった。
イレーヌさんが殿下たちの挨拶を済ませると、部屋の奥に用意してあるスピーチステージに向かった。
ほとんどの方がくつろげたのを確認して、事務所開きの挨拶を始めた。
本当に簡単な挨拶で、すぐに軽食を用意してある多目的ホールに皆を案内した。
この多目的ホールは、ここ羽根木インペリアルヒルズのオフィス棟の最上階にあるスカイラウンジに併設されているホールだ。
こういったパーティーなども簡単に開けるように食事や応接などのスタッフもインペリアル内のホテルから派遣される。
この多目的ホールでこういったパーティーを開くのは今回が初めての様で、派遣されるスタッフに交じって、サービスなどの検証するチームの人たちまで来ていた。
尤も、この会社のお偉いさんもご招待されているので、いやが上でもお偉いさん達にチェックされるのだが、ある意味こけら落としとは気持ちがいい。
多少の失敗も笑って済ませることができそうだ。
ここでもイレーヌさんは前方でマイクを使って簡単に挨拶をした後、俺たちの総取りまとめ役であるアリアさんを紹介して、アリアさんの乾杯の発声とともにパーティーは始まった。
立食形式のパーティーなので、先ほど度雰囲気はほとんど変わらず、俺は、里中さんや新たに担当となった藤村さん達と談笑していた。
途中で、吉井会長からの申し出で、余興として、彼が連れてきたアイドルグループの談合坂32のうち5人のユニットによるミニコンサートが前方で始まった。
これは最近の日本ではかなり贅沢なことで、彼女たちは本当に多忙を極め、こういった私的な集まりには参加したことが無かったそうだ。
財界などからの要請は、それこそ毎日のようにあるそうだが、多忙を理由に吉井会長は一切受けていないと、藤村さんが教えてくれた。
吉井会長はボルネオの人脈はそれこそ最重要事項としており、絶対にやらないはずの枕営業も俺に仕掛けてきたくらいだ。
里中さんや藤村さんがミニコンサートに気がとられたこともあり、お礼も兼ねて吉井会長のところに向かった。
相談があると言っていたので、かおりさんが気を聞かせてラウンジの別室を押さえてくれたので、その別室にて吉井会長を待った。
吉井会長が別室に入ってきたときに、一人の女性もつれてきた。
これも先のアイドルたちに引けを取ることのない美人だ。
「早速、お時間を頂きありがとうございます。」
「いえ、イレーヌさんからもお礼を言われているでしょうが、改めて僕からもお礼を言わせてください。
開所に当たりミニコンサートまでして貰いありがとうございます。
先ほど相談事があると言う事ですが、できる限り意に沿うよう考えていきますので、お話をお聞かせください。」
そういって始まった吉井会長との会合だが、最初にされたのが、連れてきた女性の紹介だ。
彼女は北海今日子さんと言って、今では朝の情報番組でお天気コーナーを受け持っているちょっとした有名人だとか。
確かに美人だが、その彼女についての相談だった。
彼女は、家族関係でちょっとした借金ができ、その件と、今後の売り出しについての俺が持っている人脈や資金面での援助を求めてきたのだ。
彼女の借金と言っても数千万円くらいで、それこそ吉井会長のポケットマネーでどうとでもなるくらいだったのだが、どうやら本命はボルネオ関係の人脈を利用してのプロモーション関係についての協力の様だ。
ただ、ややこしいことに、この件について吉井会長は我々に借りは作りたくはないようで、驚くべき提案をしてきたのだ。
なんと彼女を俺の愛人としてどうかと言う提案だった。
しかし、俺の方でも女性関係には全く困っていない。
唯でさえ、まだ全員とやっていないので待機組からせっつかれている状況なのに、ここで新たな愛人など囲うものなら彼女たちからの攻撃が怖い。
すぐにでも話を断ろうかとしたら、かおりさんから止められた。
既にかおりさんやイレーヌさんには話がつていた様だ。
かおりさんからの提案で、会長からの話をすべて受け入れた。
彼女の持つ借金もこちらで引き受け、また、住まいもこちらで準備することになった。
幸い、日本で暮らす奴隷たち用に確保している住居が現在全く使われていない。
そこを利用して、そのマンションスペースの一室にシェアするように住んでもらうことですぐにでも話がついた。
その後については、かおりさんの指示で葵が動いて今日子さんと一緒に住まいの準備に走っていった。
俺は会場に戻りアイドルのミニコンサートを楽しみ、会は終わった。
その後は三々五々に解散となり、俺たちは事務所に戻っていった。
殿下たちは俺の住まいとなるペントハウスで休んでもらっている。
で、俺はと言うと現在事務所にある俺の部屋にいる。
それもイレーヌさんが計画したように事務所を使っている状況だ。
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