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第19話 ボルネオ王国内の汚染調査
しおりを挟む俺は、ヨーロッパ旅行から時々感じていることだが、なんだかスパイ映画の一幕に自分が入り込んでいるような錯覚を感じている。
その上で、無性にウキウキとした感情が湧いてくるのを、不謹慎とは理解しているので理性でかろうじて抑えている。
その日の夕食の時に俺はかおりさんを伴って皇太子府本館の食堂で殿下と食事を楽しんでいた。
食事中の会話で俺が日本に一時的な帰国した時の様子を殿下は楽しそうに聞いていた。
途中かおりさんも所々で会話に加わって本当に和やかに食事を楽しんでいた。
そろそろ食事も終わろうかというタイミングで、俺が殿下をお茶に招待した。
「殿下、まだまだ祖国の良いところを紹介しきれていません。
どうでしょうか、この後ご予定がなければエニス王子とともに西館のラウンジでお茶をご一緒できませんか。
今回同行した女性たちの多くが初めての来日で、私の見た日本とは違う日本を彼女たちからもご紹介したいのですが」
「ぜひ、いっらっしゃってください。
奴隷の身分ではありますが、彼女たちも殿下とのお話が出来ることを楽しみにしていることでしょう。
殿下のお許しがあればの話ですが」
「公式の席じゃあるまいし、仲間の話ならぜひ直接聞きたいものだ。
そちらに迷惑がかからないのなら邪魔するよ」
「ハリー、いつもありがと。
異国の話だし、私一人で聞くのももったいない気がしていたので、うれしいよ」
「ありがとうございます。
早速ご案内いたします」
俺たちは殿下を伴って西館のラウンジに移動していった。
ラウンジの片隅ではアイさんが自身のパソコンを持ち込んで東京にいる里中さんからのメールを受信していた。
ラウンジ内は穏やかなお茶を楽しむ雰囲気じゃなく、野戦司令部のような一種独特な緊張感があった。
「今から気を張っていたらもたないよ。
もう少し肩の力をぬこうよ」
俺は一生懸命に情報を集め整理してくれてる女性たちに声をかけた。
パソコンを操作していたアイさんが俺に報告をくれた。
「直人様。日本にいる里中様という方からメールで日本政府の対応についてご連絡が入りました」と言って俺にメールを見せてくれた。
え?アイさん、日本語読めるの、これって日本語でのメールだよね。
と思っていたら、隣にいたかおりさんが尚子に英語に訳してもらっていましたよとこっそり教えてくれた。
そういえば3つ作ったチームにはそれぞれ日本人を一人ずつ配置していたのを思い出した。
アイさんはウサギさんチームのリーダーだった。
それでかと俺は納得していた。
「殿下、いまお茶を入れますが、最新情報が入りましたのでご報告いたします。
殿下に送っていただいたサマリーの内容ですが、日本国政府としてはその様な事実は無いそうです。
総理自らか外相に確認を取られたと、現地で私たちに協力を申し出てくれた外務官僚の里中氏から先ほど連絡を受けました。
ここからが、少々厄介な話になりますが、日本国政府としてはこの件を秘密裏に重要案件として調査対応することを決め、官邸の危機管理センター内に特別部署を本日付けで立ち上げたそうです。
この国にある日本国大使館がまるまる大明共和国によって汚染されている可能性が有ると判断され、慎重に調査することを決めたともあります」
「そうか、そんな大事になってしまったか。
我国においても、この件の扱いには慎重を期さないといけないな。
少なくとも本格的にこのプロジェクトが発足する前で助かったが、私の汚点は消えることはないな」
「すみません。
私が余計なことをしたために、殿下の足を引っ張るようなことになってしまって」
「直人、気にするな。
むしろ感謝している。
でないとプロジェクトは遅くとも来月には発足する運びとなっていたのだから。
プロジェクト発足後では、受けるダメージに雲泥の差がある。
正直ギリギリのタイミングで露見したことを喜んですらある。
しかし、このままじゃ気が済まないな。
どうしてくれよう」
「まずは、この企ての背後関係を探るのが先決かと。
それと、ボルネオ王国にとって一番ダメージのかからない方法とタイミングでプロジェクト計画の破棄をしませんと」
「正しくその通りだ。
プロジェクトはまだ、発足していない。
あるのは計画だけだ。
その計画も来週あたりから政府に持ち込まれる運びとなっているだけで、関係者の数は少ない。
その数少ない関係者のほとんどはここ皇太子府の職員だから、それ以外となると驚く程少なくなるので、どのタイミングで破棄してもさほど変わりはないとは思っている。
ここでの俺の株が下がるだけだな」
「となると、日本側の受けるダメージについて検討してもよろしいでしょうか。
できればこの件で日本に貸しでも作れればとも考えておりますが」
「ハハハ、油断のならないメンバーを揃えているな、直人のスタッフは」
「恐れ入ります。
日本と歩調を合わせることができればあの国に報復も可能かとも考えておりましたので」
「報復か。
それはいいな。
やられっぱなしで終わりたくないしな。
できるのなら小国の意地を見せ『舐めるな』と言ってやりたいよ。
日本と歩調を合わせようじゃないか。
そうなるとどうするつもりだ」
「失礼な言い回しになることを予めお許し下さい。
問題はボルネオ王国の政府内の汚染度合いにもよります。
現在非公式な情報交換ルートは直人様の日本訪問で里中様という方を通すルートが1本だけあります。
今後はボルネオ政府と日本政府との間の公式なルートの開設ですが、ボルネオ国駐在の日本国大使館を使うのは、ご法度です。
汚染の確認が済みましたのなら、日本にあるボルネオ大使館を使うのが最良かと思いますが、全ては汚染されていないという前提条件によります」
「わかった。
私がすぐに取り掛からなければならないのは、その政府内の汚染調査だということだな」
「はい、それもあまり猶予は無いと考えております。
もし間に合いそうにない場合には、殿下かそれに近い要人の秘密裏の日本訪問しか手がなくなることを理解ください」
「すべて理解した。
しかし、それにしてもこういった謀略に対する対応は見事としか言えない手腕だな。
理由を聞いても構わないか」
「構いませんよね、エニス王子」
「ハリー、分かっているだろ。
我々がなぜここにいるかということが。
スレイマン王国内は謀略のデパートのようなところだ。
政府内はコロンビアやペトロに汚染されている。
最近では大明共和国の汚染がものすごいことになっている。
汚染していない場所は本当に数える程しかない。
嫌な話だが、慣れだよ」
「我が国はそんなのに慣れたくはないな」
「私だって慣れたくて慣れたのではない。
自分の命を張って得た経験なので、すぐに慣れたが、できれば無縁の世界で生きたかった。
ま~愚痴はそれぐらいにして、このあとはどうする」
「そうだな、叔母の病気を利用しよう。
不謹慎なのは承知しているがそんなことは政治を司る者には当たり前のことだから叔母も許してくれるだろう。
まず、叔母の病気を俺がひどく気にしているという話を国内に流して、プロジェクトのスタートを遅らせよう。
その間に公安警察を使って汚染の調査を行うとするよ」
「使う公安警察の汚染は大丈夫なのか」
「仕事柄常にチェックされている。
この国でもあちこちの勢力から我が国の富を狙って色々とあるからね。
もし公安も汚染されているようなら、俺は諦めるしかないよな。
しかし、ここでも時間はある程度覚悟しないといけないな。
なにせ目立つ行動は取れないからね。
私が秘密裏に日本訪問を考えたほうがいいかもしれないな」
「では、そちらも準備をしておきます。
毎日とは行きませんがここの消毒が済むまでは定期的なお茶会を開くとしましょうか。
理由の方は私たちの方で考えますから」
「そうだな、既に私とエニスとの間の関係は周知ではあったのだが、直人との関係については周りからいろいろと言われるかもしれないしな。
そうだ、今の友人関係をもう少し周りに周知しよう。
直人も今では友人のエニス王子の国の貴族でもあることだし、家柄などのくだらないことを言い出す奴でも日本人でもある直人との交友関係については、文句も言いづらくなるだろうからな」
「友人関係と周知してくださるのなら、日本訪問の理由も簡単につきます。
友人の卒業祝いや大学の入学に伴うしばしの別れなどが理由として挙げられますから。
それならお忍びでの日本訪問を消毒前の駐日本ボルネオ大使館を使って通達を出しても問題ないかと思います。
宿泊先も皇国ホテルでも利用すればもろもろの問題も簡単に解決しますしね。
お忍びで個人的理由での日本訪問ですから日本滞在中には報告こそいれ、大使館の人間を近づけなくとも言い訳が立ちますから」
「そうだな、その線で進めてくれ。
俺も一度はゆっくり日本に行ってみたかったんだ。
日本国政府の役人との面会はホテルで行えば問題ないだろう」
「その辺も、日本国政府と話し合ってみます」
その後は、毎日とはいかないが二日と開けずに西館のラウンジで殿下を招いてお茶会をしている。
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