141 / 177
第二部 第一章
28 忘れていたこと。
しおりを挟む
帰りにノーラのいる病室に寄り、挨拶をしようと思った佐知子だが、ノーラはいなく、どうしたのかと心配になったが、難民課で受付を済ませた者は皆、日没の鐘の後、役場前に集まって下さいとズハンが言っていたのを思い出し、そこに行っているのだろうと安心し、佐知子は病室で待とうかと思いながらも疲労の限界を感じたので、ノーラの帰りがいつになるかわからないのもあり、今日はもう帰ろうと、ふらふらと使用人小屋に戻り、布をめくった。
「わっ!」
しかし急に、ガッ! と、両肩を掴まれ驚く。
「サッちゃん! やっと帰ってきた!! ていうか元の世界戻ってなかった!! 生きてた! 無事だった!! どこ行ってたの!?」
それはセロだった。
「え……いや……どこって……」
佐知子が驚きながら返答しようとすると、
「今日、勉強会来なかったでしょ? いくら待っても来ないし、何かあったのかなってちょっと心配したけど、そのうち休憩時間にヨウが来て、サッちゃん来ないって話したらあいつ……血相変えて出て行って……まさかと思ったけど、案の定仕事の時間になってもサッちゃん探し回ってたみたいで、部下がヨウ探してて……その後汗だくになったヨウがサッちゃん来たかって戻って来たから、とりあえず休ませて仕事には出ろって言ったけど……荷物はあるのにどこにもいない……また元の世界に帰ったんじゃ……って頭抱えてて……」
セロは気の毒そうな表情で顔を少し伏せる。
「っ……」
セロの様子に、佐知子は次第に事の重大さを感じ始めた。
(そうだ……私、夢中で気付かなかったけど、何も言わずに勉強会すっぽかしてたんだ……今、何時? 日没だよね? だからセロさんとヨウが……心配して……)
どうしよう……と、佐知子は疲労感も吹っ飛んでいた。
「とりあえず落ち着かせたら仕事には出たけど、あいつ休み時間中、ずっと街中探して、俺も探して……今は俺がここで帰ってくるかもしれないから待機して、ヨウが街と近辺必死に探してるよ……」
セロは言い終わると、するっと掴んでいた佐知子の両肩の手を放した。
「……すみません……黙って勉強会休んで……ちょっと……事情があって……」
二人がそんなに心配しているとは思わずに、佐知子は申し訳なさでいっぱいになった。
「うん……俺はまぁ……いいけど……早くヨウに顔見せてあげて……」
はぁー! と、盛大に息を吐きながら、共有スペースの絨毯の上にドスンと座り、前髪をかきあげるセロ。
「セロさん! ヨウは今どこに!」
佐知子は大声で問う。
「んー! わからん! あっちこっち馬で駆け回ってるから! あ! サッちゃんはここから動いちゃダメだよ! 行き違いになるからね! だから俺がここで待機してたんだから!」
「っ……」
セロの忠告に佐知子はしゅんとしながら、それでもじっとしていられなく、
「そ、外でヨウ待ってたらダメですか? 入口で……」
と、おずおずと問う。
「んー……すぐそこに居てよ! 遠く行っちゃダメだからね!」
「はい!」
セロに了解を貰い、佐知子は布をめくり外に出る。辺りは暗くなりはじめていた。涼しい風が佐知子の頬を撫でた。
「わっ!」
しかし急に、ガッ! と、両肩を掴まれ驚く。
「サッちゃん! やっと帰ってきた!! ていうか元の世界戻ってなかった!! 生きてた! 無事だった!! どこ行ってたの!?」
それはセロだった。
「え……いや……どこって……」
佐知子が驚きながら返答しようとすると、
「今日、勉強会来なかったでしょ? いくら待っても来ないし、何かあったのかなってちょっと心配したけど、そのうち休憩時間にヨウが来て、サッちゃん来ないって話したらあいつ……血相変えて出て行って……まさかと思ったけど、案の定仕事の時間になってもサッちゃん探し回ってたみたいで、部下がヨウ探してて……その後汗だくになったヨウがサッちゃん来たかって戻って来たから、とりあえず休ませて仕事には出ろって言ったけど……荷物はあるのにどこにもいない……また元の世界に帰ったんじゃ……って頭抱えてて……」
セロは気の毒そうな表情で顔を少し伏せる。
「っ……」
セロの様子に、佐知子は次第に事の重大さを感じ始めた。
(そうだ……私、夢中で気付かなかったけど、何も言わずに勉強会すっぽかしてたんだ……今、何時? 日没だよね? だからセロさんとヨウが……心配して……)
どうしよう……と、佐知子は疲労感も吹っ飛んでいた。
「とりあえず落ち着かせたら仕事には出たけど、あいつ休み時間中、ずっと街中探して、俺も探して……今は俺がここで帰ってくるかもしれないから待機して、ヨウが街と近辺必死に探してるよ……」
セロは言い終わると、するっと掴んでいた佐知子の両肩の手を放した。
「……すみません……黙って勉強会休んで……ちょっと……事情があって……」
二人がそんなに心配しているとは思わずに、佐知子は申し訳なさでいっぱいになった。
「うん……俺はまぁ……いいけど……早くヨウに顔見せてあげて……」
はぁー! と、盛大に息を吐きながら、共有スペースの絨毯の上にドスンと座り、前髪をかきあげるセロ。
「セロさん! ヨウは今どこに!」
佐知子は大声で問う。
「んー! わからん! あっちこっち馬で駆け回ってるから! あ! サッちゃんはここから動いちゃダメだよ! 行き違いになるからね! だから俺がここで待機してたんだから!」
「っ……」
セロの忠告に佐知子はしゅんとしながら、それでもじっとしていられなく、
「そ、外でヨウ待ってたらダメですか? 入口で……」
と、おずおずと問う。
「んー……すぐそこに居てよ! 遠く行っちゃダメだからね!」
「はい!」
セロに了解を貰い、佐知子は布をめくり外に出る。辺りは暗くなりはじめていた。涼しい風が佐知子の頬を撫でた。
0
お気に入りに追加
21
あなたにおすすめの小説
囚われの姫〜異世界でヴァンパイアたちに溺愛されて〜
月嶋ゆのん
恋愛
志木 茉莉愛(しき まりあ)は図書館で司書として働いている二十七歳。
ある日の帰り道、見慣れない建物を見かけた茉莉愛は導かれるように店内へ。
そこは雑貨屋のようで、様々な雑貨が所狭しと並んでいる中、見つけた小さいオルゴールが気になり、音色を聞こうとゼンマイを回し音を鳴らすと、突然強い揺れが起き、驚いた茉莉愛は手にしていたオルゴールを落としてしまう。
すると、辺り一面白い光に包まれ、眩しさで目を瞑った茉莉愛はそのまま意識を失った。
茉莉愛が目覚めると森の中で、酷く困惑する。
そこへ現れたのは三人の青年だった。
行くあてのない茉莉愛は彼らに促されるまま森を抜け彼らの住む屋敷へやって来て詳しい話を聞くと、ここは自分が住んでいた世界とは別世界だという事を知る事になる。
そして、暫く屋敷で世話になる事になった茉莉愛だが、そこでさらなる事実を知る事になる。
――助けてくれた青年たちは皆、人間ではなくヴァンパイアだったのだ。
前世軍医だった傷物令嬢は、幸せな花嫁を夢見る
花雨宮琵
恋愛
侯爵令嬢のローズは、10歳のある日、背中に刀傷を負い生死の境をさまよう。
その時に見た夢で、軍医として生き、結婚式の直前に婚約者を亡くした前世が蘇る。
何とか一命を取り留めたものの、ローズの背中には大きな傷が残った。
“傷物令嬢”として揶揄される中、ローズは早々に貴族女性として生きることを諦め、隣国の帝国医学校へ入学する。
背中の傷を理由に六回も婚約を破棄されるも、18歳で隣国の医師資格を取得。自立しようとした矢先に王命による7回目の婚約が結ばれ、帰国を余儀なくされる。
7人目となる婚約者は、弱冠25歳で東の将軍となった、ヴァンドゥール公爵家次男のフェルディナンだった。
長年行方不明の想い人がいるフェルディナンと、義務ではなく愛ある結婚を夢見るローズ。そんな二人は、期間限定の条件付き婚約関係を結ぶことに同意する。
守られるだけの存在でいたくない! と思うローズは、一人の医師として自立し、同時に、今世こそは愛する人と結ばれて幸せな家庭を築きたいと願うのであったが――。
この小説は、人生の理不尽さ・不条理さに傷つき悩みながらも、幸せを求めて奮闘する女性の物語です。
※この作品は2年前に掲載していたものを大幅に改稿したものです。
(C)Elegance 2025 All Rights Reserved.無断転載・無断翻訳を固く禁じます。
イッシンジョウノツゴウニヨリ ~逆ハーレムを築いていますが身を守るためであって本意ではありません!~
やなぎ怜
恋愛
さる名家の美少女編入生を前にしてレンは気づいた。突然異世界からやってきてイケメン逆ハーレム(ふたりしかいないが)を築いている平凡な自分ってざまぁされる人間の特徴に当てはまっているのでは――と。
なんらかの因果によって突如異世界へ迷い込んでしまったオタク大学生のレン。三時間でクビになったバイトくらいしか社会経験もスキルもないレンは、心優しい保護者の経営するハイスクールでこの世界について学べばいいという勧めに異論はなかった。
しかしこの世界では男女比のバランスが崩壊して久しく、女性は複数の男性を侍らせるのが当たり前。数少ない女子生徒たちももれなく逆ハーレムを築いている。当初は逆ハーレムなんて自分とは関係ないと思っていたレンだが、貴重な女というだけで男に迫られる迫られる! 貞操の危機に晒されたレンは、気心知れた男友達の提案で彼を逆ハーレムの成員ということにして、なりゆきで助けた先輩も表向きはレンの恋人のひとりというフリをしてもらうことに……。これで万事解決! と思いきや、なぜか男友達や先輩が本気になってしまって――?!
※舞台設定と展開の都合上、同性愛の話題がほんの少しだけ登場します。ざまぁの予兆までが遠い上、ざまぁ(というか成敗)されるのは編入生の親です。
二度目の人生は異世界で溺愛されています
ノッポ
恋愛
私はブラック企業で働く彼氏ナシのおひとりさまアラフォー会社員だった。
ある日 信号で轢かれそうな男の子を助けたことがキッカケで異世界に行くことに。
加護とチート有りな上に超絶美少女にまでしてもらったけど……中身は今まで喪女の地味女だったので周りの環境変化にタジタジ。
おまけに女性が少ない世界のため
夫をたくさん持つことになりー……
周りに流されて愛されてつつ たまに前世の知識で少しだけ生活を改善しながら異世界で生きていくお話。
転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?
モブはモブらしく生きたいのですっ!
このの
恋愛
公爵令嬢のローゼリアはある日前世の記憶を思い出す
そして自分は友人が好きだった乙女ゲームのたった一文しか出てこないモブだと知る!
「私は死にたくない!そして、ヒロインちゃんの恋愛を影から見ていたい!」
死亡フラグを無事折って、身分、容姿を隠し、学園に行こう!
そんなモブライフをするはずが…?
「あれ?攻略対象者の皆様、ナゼ私の所に?」
ご都合主義です。初めての投稿なので、修正バンバンします!
感想めっちゃ募集中です!
他の作品も是非見てね!
交換された花嫁
秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
「お姉さんなんだから我慢なさい」
お姉さんなんだから…お姉さんなんだから…
我儘で自由奔放な妹の所為で昔からそればかり言われ続けてきた。ずっと我慢してきたが。公爵令嬢のヒロインは16歳になり婚約者が妹と共に出来きたが…まさかの展開が。
「お姉様の婚約者頂戴」
妹がヒロインの婚約者を寝取ってしまい、終いには頂戴と言う始末。両親に話すが…。
「お姉さんなのだから、交換して上げなさい」
流石に婚約者を交換するのは…不味いのでは…。
結局ヒロインは妹の要求通りに婚約者を交換した。
そしてヒロインは仕方無しに嫁いで行くが、夫である第2王子にはどうやら想い人がいるらしく…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる