神様の外交官

rita

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第一部 第六章

21 ハンムでの自己対話。

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(今日もハンムが気持ちいい……)

 小屋に入り、荷物を置くと、早々にハンムへと佐知子は向かい、泡だらけに体中を洗ってもらい、今日もまた大理石の上に寝転がった。

 今日は街中お祭り騒ぎのため、ほぼ貸切状態だった。

(……メリルさん……嬉しそうだったなぁ……)

 佐知子は瞳を閉じて、先程のメリルとアイヤールを思い出す。自分も素直に喜べたら楽なんだけど……と、思いながら瞳を開く。

 なぜ、素直に喜べないのか……佐知子は湯気が立ち込める、薄暗いハンムの天井を見つめ、少し考えてみた。

 それはやはり、ヨウのあの姿を見てしまったから。
 返り血にまみれ、血のついた剣を持ち、人を殺していたという事実をまざまざと突きつけられた。

(全然そんなこと考えなかったからなぁ……)

 能天気だったなぁ……と、佐知子はため息をつく。

 思えば、最初に神様に大戦争を回避してほしいと言われたこと、最初にこの世界に来た時に見た野犬駆除……この世界の状況的に、大きくなったヨウに出会った時に剣を携えていたことや、軍の副長官だということを知った時点で、戦に行き、敵対する兵士と戦って、殺していることに気づけたはずだ……。

(これが平和ボケってやつか……)

 佐知子は元の世界でよく聞いていた言葉を思い出す。

(でも……)

 佐知子は体を横にする。

 人を殺していたことは確かにショックだ。そしていけないこと、酷いことだとは思う。だが、戦という状況で相手を殺さなければどうなる。

 自分が死ぬのだ。

 そもそも何かを、国を、町を、村を、自分の大切な人を守るために戦に出ている。それならば相手を殺すしかないじゃないか。

 殺さなれば、殺される。
 滅ぼさなければ、滅ぼされるのだ。

(常識が違うんだよなぁ……)

 佐知子は体を仰向けに戻す。

 自分のいた世界とは常識が違う。と、佐知子は改めて思う。
 いけないこと、酷いこと……先程そう思ったが、果たしてこの世界……この状況では、本当にそうなのだろうか……と、佐知子は疑問に思った。

(だって、殺さないと自分が死んじゃうし……)

 佐知子はぼんやりとした瞳で思う。

 戦で人を殺すのは、酷いことだとは思うが、いけないことではないのではないか……しかたがないのではないか……。

(常識って……世界とか……国とか……状況次第で変わるのかもなぁ……)

 そう思うと、ヨウのあの姿を見て、目を見開いて後退りし、急いで去ったのは……

(なんか……ヨウに……悪いことしたなぁ……)

 あの時の、狼狽えて瞳を泳がせ、俯いたヨウの顔を思い出す。見られたくなかった……という感じだった。

「はぁ……」

 佐知子は大きくため息をついた。

 傷つけたかもしれない……と、佐知子は重い気分に襲われる。

「……よしっ!」

 佐知子は勢いをつけ、起き上がる。

(謝ろう! いや、謝るのも気まずいから……ん~~……とりあえず! もう一度ちゃんと会おう!)

 いつ会えるかわからないけど! と、思いながら、少しのぼせた頭で、佐知子はふらふらとハンムを後にしたのだった。
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