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第一部 第四章
5 書記官の訪問。
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その後、食器を炊事場の洗い場に、他の女性たちと一緒に持って行き、部屋に戻った佐知子は、少し棚の荷物を整頓したりもしたが、なにをするでもなく、書記官が来るのを絨毯の上に座り、畳んだ布団によりかかりながら待っていた。正直、暇だった。そして、暑かった。
(暑いなー……昨日、こんな暑かったかな……でも……)
そう、暑いが、たいした暑さではない。蒸し暑くないのだ。ここは室内で日陰のためそんなに暑くない。
さきほど少し陽のあたる場所に出たら、日差しがとんでもなかったが、日陰にいるぶんにはしのげる暑さだ。これなら屋内の仕事ならできるだろうに。と、思ってしまう。
(今、何時だろう……時計、出そうかな……やめとこうかな……セロさんのところに十二時から三時まで行くんだよね……今、何時だろ。私もいろいろ教えて欲しいことがあるから行きたいんだけどなー……まぁ、まずは書記官さんがきてくれないとでかけられないんだけど……)
佐知子がそんなことを思いながら、ぼーっとしていると、
「失礼します」
男性の声がした。
「新しい使用人の、タカハシサチコ様いらっしゃいますか」
布をまくって入ってきたのは、真っ白いカンラに黒い短髪の髪をした、生真面目そうな褐色肌の男性だった。
「は、はい! 私です!」
佐知子は名前を呼ばれ、あわてて立ち上がる。
「国事部の書記官の者です。お仕事のことについて、お伝えに上がりました」
「あ、はい!」
サンダルを履き、向かいあったが、いたく真面目な調子に、佐知子は何だか緊張してしまう。
「とりあえず見習いということで、朝番を三ヶ月ということになりました。使用人小屋使用の食事付きで、月の給金は6ディナ。分割して週払いいたします。明細書はこちらに。基本的に週五日勤務ですが、休みが必要な場合は国事部までご連絡下さい。こちらが当番表です。何かご質問は?」
給金の明細書と、当番表が書かれている読めない文字の書かれた目の粗い紙のようなものをもらい、問われる。
「いえ……特には……」
早口にそう聞かれても、急には浮かばない。
「では、何かありましたら、国事部までいらしてください。失礼いたします」
男性は軽くおじぎをすると、颯爽と去っていった。
佐知子が紙のようなものを二枚持ったまま、その場に立ち尽くしていると、
「まったく! 相変わらず国事部のやつは愛想がないわねー! やんなっちゃう!」
「ねー! まぁ、長官が長官だからねぇ~」
背後からそんな会話が聞こえてきた。佐知子はあわてて気を取り戻し、自分のスペースに戻る。
「あのハーシム長官の下で働こうってやつらだもんね~。そりゃ、類友か!」
また、大きな笑いが起きた。
(ハーシム長官……ハーシムさんか……国事部……あの人ハーシムさんの部下なんだ……)
そんなことを考えながら、自分のスペースに戻った佐知子は、渡された二枚の紙のようなものを見る。紙も文字も、健康診断の時に見たものと同じだった。
その紙は『紙』というには少し異なり、質のいい麻の布といったほうが近いものだった。それに、黒のインクで右から左に文字が書いてあるようだった。文字はアラビア文字に似ているが少し違っていた。
(……読めないな)
給金の明細書も、当番表もわからない。当番表は固定シフトらしく、三ヶ月分が書いてあるわけではないが、何曜日が当番なのかわからないと困る。
(……セロさんの所に行って聞くしかないな……)
佐知子は荷物の中からそっと腕時計を取り出し、見た。時刻は十時半過ぎだった。
(十二時になったらセロさんのとこに行こう……)
佐知子はそう思いながら腕時計をすばやくカンラのポケットに閉まったのだった。
(暑いなー……昨日、こんな暑かったかな……でも……)
そう、暑いが、たいした暑さではない。蒸し暑くないのだ。ここは室内で日陰のためそんなに暑くない。
さきほど少し陽のあたる場所に出たら、日差しがとんでもなかったが、日陰にいるぶんにはしのげる暑さだ。これなら屋内の仕事ならできるだろうに。と、思ってしまう。
(今、何時だろう……時計、出そうかな……やめとこうかな……セロさんのところに十二時から三時まで行くんだよね……今、何時だろ。私もいろいろ教えて欲しいことがあるから行きたいんだけどなー……まぁ、まずは書記官さんがきてくれないとでかけられないんだけど……)
佐知子がそんなことを思いながら、ぼーっとしていると、
「失礼します」
男性の声がした。
「新しい使用人の、タカハシサチコ様いらっしゃいますか」
布をまくって入ってきたのは、真っ白いカンラに黒い短髪の髪をした、生真面目そうな褐色肌の男性だった。
「は、はい! 私です!」
佐知子は名前を呼ばれ、あわてて立ち上がる。
「国事部の書記官の者です。お仕事のことについて、お伝えに上がりました」
「あ、はい!」
サンダルを履き、向かいあったが、いたく真面目な調子に、佐知子は何だか緊張してしまう。
「とりあえず見習いということで、朝番を三ヶ月ということになりました。使用人小屋使用の食事付きで、月の給金は6ディナ。分割して週払いいたします。明細書はこちらに。基本的に週五日勤務ですが、休みが必要な場合は国事部までご連絡下さい。こちらが当番表です。何かご質問は?」
給金の明細書と、当番表が書かれている読めない文字の書かれた目の粗い紙のようなものをもらい、問われる。
「いえ……特には……」
早口にそう聞かれても、急には浮かばない。
「では、何かありましたら、国事部までいらしてください。失礼いたします」
男性は軽くおじぎをすると、颯爽と去っていった。
佐知子が紙のようなものを二枚持ったまま、その場に立ち尽くしていると、
「まったく! 相変わらず国事部のやつは愛想がないわねー! やんなっちゃう!」
「ねー! まぁ、長官が長官だからねぇ~」
背後からそんな会話が聞こえてきた。佐知子はあわてて気を取り戻し、自分のスペースに戻る。
「あのハーシム長官の下で働こうってやつらだもんね~。そりゃ、類友か!」
また、大きな笑いが起きた。
(ハーシム長官……ハーシムさんか……国事部……あの人ハーシムさんの部下なんだ……)
そんなことを考えながら、自分のスペースに戻った佐知子は、渡された二枚の紙のようなものを見る。紙も文字も、健康診断の時に見たものと同じだった。
その紙は『紙』というには少し異なり、質のいい麻の布といったほうが近いものだった。それに、黒のインクで右から左に文字が書いてあるようだった。文字はアラビア文字に似ているが少し違っていた。
(……読めないな)
給金の明細書も、当番表もわからない。当番表は固定シフトらしく、三ヶ月分が書いてあるわけではないが、何曜日が当番なのかわからないと困る。
(……セロさんの所に行って聞くしかないな……)
佐知子は荷物の中からそっと腕時計を取り出し、見た。時刻は十時半過ぎだった。
(十二時になったらセロさんのとこに行こう……)
佐知子はそう思いながら腕時計をすばやくカンラのポケットに閉まったのだった。
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