上 下
120 / 143
第13話:宇宙の果て

Cパート(2)

しおりを挟む
 アイラが個室でガードロボットに襲われているその時、ディビットとケイイチは人が一人ようやく通れそうな狭い通路を進んでいた。

「しかし、こんな経路で本当に見つからずにコントロールルームまでいけるのか?」

「この経路はステーション建造時、作業員が移動するために作った隠し通路なんだ。本来ならステーションの建造が終わった後閉鎖されるはずだったんだが、なぜか残っている。だから監視カメラもセンサーもないから、AIにも見つからずにいけると思うぞ」

「そんな経路、どうしてお前が知っているんだよ」

「そりゃ、連邦宇宙軍のデータベースをハッキングして、ステーションの設計図データをダウンロードしたからだよ」

「それって、犯罪だろ…」

「俺が入れるようなセキュリティしか設定していない宇宙軍が間抜けなんだよ。大体公開されているデータと実際の建造時の設計図が異なるとか、宇宙軍も後ろ暗いことがあると言っているような物だ。管理AIすらその事実を知らないというのが凄いな」

 ディビットがこの通路を見つけたのは、正式公開されているデータとの差異を見つけたからである。

「…このステーション大丈夫なのか?」

 ディビットの説明を聞いたケイイチは、不安そうに辺りを見回すのだった。

「ケイイチ、何しているんだ。こうしている間にもアイラちゃんは一人でがんばってるんだ、とにかく急ぐぞ」

「分かったよ。それにしてもあんな手でAIをだませるって、魔法って凄いな」

イリュージョン幻影の魔法と言うらしいが、カメラもセンサーもごまかせるとかチート過ぎるわ」

 二人が話しているように、アイラと一緒に個室にいるディビットとケイイチはイリュージョン幻影の魔法で作り出された偽物であった。
 最初は三人と一匹でこの経路を使って進むつもりだったが、通路はガオガオが通るには狭すぎることが分かり、そこでアイラが囮となって個室に残ることになった。そして二人が居なくなったことをどうやって誤魔化すか悩んでいた時、ガオガオが見せたのがイリュージョン幻影の魔法だった。
 イリュージョン幻影の魔法で作り出された幻影は、誰かに触られない限り見破られない。そしてシールド魔法を使用しているガオガオに触れる物はいない。後はアイラとガオガオの魔力マナがどれだけ持つかだが、

「二人がコントロールルームに行くまでは持つ、いや持たせてみせるよ」

 とアイラに言われててはディビットとケイイチは黙るしかなかった。


 ◇


《これで破壊されたガードロボットは百二十三体目になります》

 ガオガオにより破壊されたガードロボットの残骸が、個室の前から運び出される映像を映し、AIはある・・存在にお伺いを立てた。

『当たり前だ。シールドの魔法で亀のように護りを固めているが、いつかは魔力マナは切れる。そうなるまで攻撃を続けろ』

 しかし、ある・・存在は攻撃を続けるように命令を下す。

《しかし、これ以上ガードロボを消耗すると、次の定期船の補給を受けてもステーションの管理体勢に支障が出ますが》

『ふん、そんな事、儂は知らん。それにどうせ次は無いのだ。儂の命令に従え!』

《了解しました》

 AIはガードロボットに攻撃続行を命じる。

 しかし、AIもある・・存在も、ガオガオの側にいるケイイチとディビットがほとんど動いていないことに気付いていなかった。


 ◇


 隠し通路を進んでいたディビットとケイイチは、コントロールルームの上に辿り着いてた。

「この下がコントロールルームだな」

「下には誰もいない。ディビット、コントロールルームに降りるか?」

 天井パネルの隙間からコントロールルームの様子を確認したケイイチがそう提案したが、

「いや下に降りるのは止めよう。降りた途端ガードロボットが押し寄せるだろう。それより、この辺りにAIの制御コアに直結・・している通信ケーブルがあるはずなんだ、それを見つけて何とかAIと接触する方が良いだろう」

 ディビットは首を横に振ると、隠し通路の周囲のケーブルを物色し始めた。

「なるほどね。俺にはどのケーブルがそうか分からないから、ディビットお前に任せるよ」

 ケイイチはお手上げというポーズを取って、腰の拳銃を抜いて点検を始めた。

「…これも違う。アレは電力だし、これか!」

 数分ほどケーブルを物色していたディビットは、ついにAIの制御コアに直結しているケーブルを見つけ出した。

「見つかったか。それでどうやってこれに繋げるんだ? ケーブルをぶった切るのか?」

 ケイイチが何処から取り出したのか、サバイバルナイフを手にする。

「光ファイバーケーブルを切ってどうするんだよ。このケーブルをたどっていくと中継機がある。そこに細工をするんだ」

 配線を追いかけていくと、ディビットの言う中継機にケーブルは吸い込まれていた。ディビットは鼻歌交じりに手なれた様子で中継機の外版を外していく。

「意外と簡単だな~」

 ディビットの手際を見てケイイチはそんな感想を漏らす。

「簡単そうに見えるだろ。実際はそう簡単にはいかないんだよな~」

 そう言いながらもディビットは光ファイバー接続端子が見える所まで中継機を分解していった。
 そしてランドセルから大量の光ファイバーの束を取り出したディビットは、接続端子に合う物を選ぶと自分の端末に接続する。

「いつもそんな物光ファイバーを持ち歩いているのか?」

「まあ、ハード・クラックするなら準備しておくのは当然だろ。後はこっちの端子をここに接続してこのツールを立ち上げれば、AIに繋がるって寸法さ」

 ディビットはにやりと笑い、端末に彼が自作したツールを立ち上げると、光ファイバーを接続端子に突き刺した。

「さて、AIちゃんとお話ししようか」

 ディビットの手が流れるように端末の入力インターフェイスの上を舞い始めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

俺は善人にはなれない

気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

悠久の機甲歩兵

竹氏
ファンタジー
文明が崩壊してから800年。文化や技術がリセットされた世界に、その理由を知っている人間は居なくなっていた。 彼はその世界で目覚めた。綻びだらけの太古の文明の記憶と機甲歩兵マキナを操る技術を持って。 文明が崩壊し変わり果てた世界で彼は生きる。今は放浪者として。 ※現在毎日更新中

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

高校生とUFO

廣瀬純一
SF
UFOと遭遇した高校生の男女の体が入れ替わる話

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

処理中です...