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第一章 魔王様の贈物
最終話 死闘、その先へ
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「瓦礫だ、避けろ!」
「任せてくださいッス!」
俺達は崩れていく建物を進んでいた。カスミが剣で瓦礫を破壊しながら前を進んでくれるので、なんとか圧死せずに済んでいたが、このままではまずい。
そして、恐れていたことが起こってしまった。行き止まりが現れた。元は扉があったところがひしゃげていた。これでは扉が開かない。
絶体絶命だ。俺達はもう助からない。
「諦めちゃダメッスよ!」
カスミが前方を壁ごと切り付けた。しかし、瓦礫を砕くため欠けていた剣は折れてしまった。
「なっ、クソッ!」
空から降ってきた瓦礫を壊す剣はもう無い。はずだった。その時、カスミのマッドレイブが鳴り響いた。
「新スキルを獲得しました」
その音と同時に瓦礫が俺達を押しつぶす……その瓦礫が十メートルほどもある大剣に変化した。
「これなら……勝てるッス」
カスミは真上にぽっかり空いた穴から覗いてきた怪物に大剣を振った。
「グォォォォォォォ!!」
それでも、怪物には効かなかった。怪物はその大剣をまるで煎餅かのように真っ二つに折った。
「嘘……」
それはカスミの心を折るのに十分だった。そして、カスミは怪物の攻撃を避けようとする気概すらも失ってしまっていた。
「カスミ、危ない!」
「カスミはやらせない! ウィンド!」
凛が、目の前を物凄いスピードで飛び抜け、カスミを抱えてそのまま怪物の目の前に降り立った。
「姉……さん」
「諦めちゃダメって、自分で言ってたよね。自分の言葉に責任を持って!」
「ごめんなさいッス……」
「この怪物、倒すわよ」
「了解ッスよ!」
二人はまるで初めからそうであるのが自然だったかのように最高のコンビネーションで怪物を翻弄していた。それでも、怪物に大した攻撃は浴びせられていなかった。
「何ぼーっとしてるッスか!」
「あなたが私達の主人公よ。逃げて!」
数分前の言葉とは矛盾して、あいつらは逃げてと言った。
「何が逃げてだ。お前らの方が馬鹿じゃねぇか、ははっ……やるしかねぇよな」
俺は先程来た道を引き返して走った。
「お前ら、死ぬんじゃねぇぞ!」
「あなたに殺されるまでは絶対に死なないわ」
「それいいッスね、センパイ、カスミを殺してくださいッス」
「残念ながらその願いは叶えられないなぁ!」
俺は先程見たあの動物を見つけた。瓦礫に巻き込まれて巣が落ちていた。
「俺のために、死んでもらうぞ」
近くにあった瓦礫の破片でその巣を破壊し、すぐさまカスミと凛の所まで走った。手には巣を破壊した時のブチブチっという嫌な感触が残っていた。
「間に合え!」
俺は蜂を大量に召喚し、怪物を襲わせた。幸運なことに、俺のネクロマンサーとしてのレベルも、蜂を大量に殺したため上がっていた。
怪物はその身をボロボロにし、倒れた。
「今だ、カスミ! 凛!」
「はいッス!」
「いけぇ!」
「グォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!」
バタッという爆音を立て、怪物は倒れた。
「やった、やったぞカスミ! 凛!」
しかし、俺が二人を視界に入れた時、怪物に勝ったはずのその瞳に先程までの希望は灯っていなかった。
その瞳には魔王が映っていた。
「ここまでよくやったな貴様ら、少し面白かったぞ。だが、もう貴様らがいる必要が無くなった。七十億の人間を全て駆逐してしまったからなぁ!」
「嘘だろ……」
「最後にいい物を見せてくれよ?」
魔王はそう言って、カスミと凛に何かをした。
「えっ……」
「嘘っ……」
カスミが剣を構え、凛が呪文を詠唱しだした。俺に向かって。
カスミと凛の目には涙が映っていた。俺は、どうすることも出来なかった。
「姉さん……」
「うん、仕方ないね……」
「ごめんなさいッス、センパイ、こんなカスミのことを許してほしいッス」
「ごめん、新庄君、大好きだったよ」
カスミは魔王に抗うように、手を震わせながら、自分の首を切り飛ばした。それに続くようにして、凛は自分に全ての魔力を込めたであろう呪文を打ち込んだ。
「さようならッス」
「あなたは、生きて……」
俺はその場で崩れ落ちた。
「ふはははは! 楽しい余興だったぞ!」
殺す
殺す
殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺すコロス、ゼッタイニ……。
俺は自分の腕を引きちぎり、踏みつけ、潰した。
「シネ」
魔王を囲むようにして腕が大量に召喚される。俺にはもう意識などなかった。意地が、殺意がそうさせた。
「それがなんだと言うのだ!」
魔王は腕を吹き飛ばした。だが、その先には腕があった。魔王は吹き飛ばし、吹き飛ばし、吹き飛ばした。それでもその先には腕があった。血が魔王を取り囲んだ。白血球が、赤血球が、細胞全てが魔王を取り囲んだ。
「何故だ!」
答えは返ってこなかった。当たり前だ。そこには俺はいるが、俺はいないから。俺という物体がそこにいるだけ。
理由は単純だった。無限に、それこそ地球というものを爆破出来るほどの力があってもその腕に最後がないほど召喚されていたからだ。
「認めん! 認めん! 認めんぞ!!」
魔王は足掻いた。だが、もうどうしようもなかった。いくら魔王と言えども栄養というものが必要だった。しかし、それを調達出来る術を全て失ってしまっていた。次第に魔王の声は聞こえなくなっていった。
最後の微かな自我が途切れる瞬間、俺とカスミと凛はみんなで、ずっと笑っているような気がした。
「任せてくださいッス!」
俺達は崩れていく建物を進んでいた。カスミが剣で瓦礫を破壊しながら前を進んでくれるので、なんとか圧死せずに済んでいたが、このままではまずい。
そして、恐れていたことが起こってしまった。行き止まりが現れた。元は扉があったところがひしゃげていた。これでは扉が開かない。
絶体絶命だ。俺達はもう助からない。
「諦めちゃダメッスよ!」
カスミが前方を壁ごと切り付けた。しかし、瓦礫を砕くため欠けていた剣は折れてしまった。
「なっ、クソッ!」
空から降ってきた瓦礫を壊す剣はもう無い。はずだった。その時、カスミのマッドレイブが鳴り響いた。
「新スキルを獲得しました」
その音と同時に瓦礫が俺達を押しつぶす……その瓦礫が十メートルほどもある大剣に変化した。
「これなら……勝てるッス」
カスミは真上にぽっかり空いた穴から覗いてきた怪物に大剣を振った。
「グォォォォォォォ!!」
それでも、怪物には効かなかった。怪物はその大剣をまるで煎餅かのように真っ二つに折った。
「嘘……」
それはカスミの心を折るのに十分だった。そして、カスミは怪物の攻撃を避けようとする気概すらも失ってしまっていた。
「カスミ、危ない!」
「カスミはやらせない! ウィンド!」
凛が、目の前を物凄いスピードで飛び抜け、カスミを抱えてそのまま怪物の目の前に降り立った。
「姉……さん」
「諦めちゃダメって、自分で言ってたよね。自分の言葉に責任を持って!」
「ごめんなさいッス……」
「この怪物、倒すわよ」
「了解ッスよ!」
二人はまるで初めからそうであるのが自然だったかのように最高のコンビネーションで怪物を翻弄していた。それでも、怪物に大した攻撃は浴びせられていなかった。
「何ぼーっとしてるッスか!」
「あなたが私達の主人公よ。逃げて!」
数分前の言葉とは矛盾して、あいつらは逃げてと言った。
「何が逃げてだ。お前らの方が馬鹿じゃねぇか、ははっ……やるしかねぇよな」
俺は先程来た道を引き返して走った。
「お前ら、死ぬんじゃねぇぞ!」
「あなたに殺されるまでは絶対に死なないわ」
「それいいッスね、センパイ、カスミを殺してくださいッス」
「残念ながらその願いは叶えられないなぁ!」
俺は先程見たあの動物を見つけた。瓦礫に巻き込まれて巣が落ちていた。
「俺のために、死んでもらうぞ」
近くにあった瓦礫の破片でその巣を破壊し、すぐさまカスミと凛の所まで走った。手には巣を破壊した時のブチブチっという嫌な感触が残っていた。
「間に合え!」
俺は蜂を大量に召喚し、怪物を襲わせた。幸運なことに、俺のネクロマンサーとしてのレベルも、蜂を大量に殺したため上がっていた。
怪物はその身をボロボロにし、倒れた。
「今だ、カスミ! 凛!」
「はいッス!」
「いけぇ!」
「グォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!」
バタッという爆音を立て、怪物は倒れた。
「やった、やったぞカスミ! 凛!」
しかし、俺が二人を視界に入れた時、怪物に勝ったはずのその瞳に先程までの希望は灯っていなかった。
その瞳には魔王が映っていた。
「ここまでよくやったな貴様ら、少し面白かったぞ。だが、もう貴様らがいる必要が無くなった。七十億の人間を全て駆逐してしまったからなぁ!」
「嘘だろ……」
「最後にいい物を見せてくれよ?」
魔王はそう言って、カスミと凛に何かをした。
「えっ……」
「嘘っ……」
カスミが剣を構え、凛が呪文を詠唱しだした。俺に向かって。
カスミと凛の目には涙が映っていた。俺は、どうすることも出来なかった。
「姉さん……」
「うん、仕方ないね……」
「ごめんなさいッス、センパイ、こんなカスミのことを許してほしいッス」
「ごめん、新庄君、大好きだったよ」
カスミは魔王に抗うように、手を震わせながら、自分の首を切り飛ばした。それに続くようにして、凛は自分に全ての魔力を込めたであろう呪文を打ち込んだ。
「さようならッス」
「あなたは、生きて……」
俺はその場で崩れ落ちた。
「ふはははは! 楽しい余興だったぞ!」
殺す
殺す
殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺すコロス、ゼッタイニ……。
俺は自分の腕を引きちぎり、踏みつけ、潰した。
「シネ」
魔王を囲むようにして腕が大量に召喚される。俺にはもう意識などなかった。意地が、殺意がそうさせた。
「それがなんだと言うのだ!」
魔王は腕を吹き飛ばした。だが、その先には腕があった。魔王は吹き飛ばし、吹き飛ばし、吹き飛ばした。それでもその先には腕があった。血が魔王を取り囲んだ。白血球が、赤血球が、細胞全てが魔王を取り囲んだ。
「何故だ!」
答えは返ってこなかった。当たり前だ。そこには俺はいるが、俺はいないから。俺という物体がそこにいるだけ。
理由は単純だった。無限に、それこそ地球というものを爆破出来るほどの力があってもその腕に最後がないほど召喚されていたからだ。
「認めん! 認めん! 認めんぞ!!」
魔王は足掻いた。だが、もうどうしようもなかった。いくら魔王と言えども栄養というものが必要だった。しかし、それを調達出来る術を全て失ってしまっていた。次第に魔王の声は聞こえなくなっていった。
最後の微かな自我が途切れる瞬間、俺とカスミと凛はみんなで、ずっと笑っているような気がした。
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