上 下
14 / 14
第一章 魔王様の贈物

最終話 死闘、その先へ

しおりを挟む
「瓦礫だ、避けろ!」
「任せてくださいッス!」

 俺達は崩れていく建物を進んでいた。カスミが剣で瓦礫を破壊しながら前を進んでくれるので、なんとか圧死せずに済んでいたが、このままではまずい。
 そして、恐れていたことが起こってしまった。行き止まりが現れた。元は扉があったところがひしゃげていた。これでは扉が開かない。
 絶体絶命だ。俺達はもう助からない。

「諦めちゃダメッスよ!」

 カスミが前方を壁ごと切り付けた。しかし、瓦礫を砕くため欠けていた剣は折れてしまった。

「なっ、クソッ!」

 空から降ってきた瓦礫を壊す剣はもう無い。はずだった。その時、カスミのマッドレイブが鳴り響いた。

「新スキルを獲得しました」

 その音と同時に瓦礫が俺達を押しつぶす……その瓦礫が十メートルほどもある大剣に変化した。

「これなら……勝てるッス」

 カスミは真上にぽっかり空いた穴から覗いてきた怪物に大剣を振った。

「グォォォォォォォ!!」

 それでも、怪物には効かなかった。怪物はその大剣をまるで煎餅かのように真っ二つに折った。

「嘘……」

 それはカスミの心を折るのに十分だった。そして、カスミは怪物の攻撃を避けようとする気概すらも失ってしまっていた。

「カスミ、危ない!」
「カスミはやらせない! ウィンド!」

 凛が、目の前を物凄いスピードで飛び抜け、カスミを抱えてそのまま怪物の目の前に降り立った。

「姉……さん」
「諦めちゃダメって、自分で言ってたよね。自分の言葉に責任を持って!」
「ごめんなさいッス……」
「この怪物、倒すわよ」
「了解ッスよ!」

 二人はまるで初めからそうであるのが自然だったかのように最高のコンビネーションで怪物を翻弄していた。それでも、怪物に大した攻撃は浴びせられていなかった。

「何ぼーっとしてるッスか!」
「あなたが私達の主人公よ。逃げて!」

 数分前の言葉とは矛盾して、あいつらは逃げてと言った。

「何が逃げてだ。お前らの方が馬鹿じゃねぇか、ははっ……やるしかねぇよな」

 俺は先程来た道を引き返して走った。

「お前ら、死ぬんじゃねぇぞ!」
「あなたに殺されるまでは絶対に死なないわ」
「それいいッスね、センパイ、カスミを殺してくださいッス」
「残念ながらその願いは叶えられないなぁ!」

 俺は先程見たあの動物を見つけた。瓦礫に巻き込まれて巣が落ちていた。

「俺のために、死んでもらうぞ」

 近くにあった瓦礫の破片でその巣を破壊し、すぐさまカスミと凛の所まで走った。手には巣を破壊した時のブチブチっという嫌な感触が残っていた。

「間に合え!」

 俺は蜂を大量に召喚し、怪物を襲わせた。幸運なことに、俺のネクロマンサーとしてのレベルも、蜂を大量に殺したため上がっていた。
 怪物はその身をボロボロにし、倒れた。

「今だ、カスミ! 凛!」
「はいッス!」
「いけぇ!」
「グォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!」

 バタッという爆音を立て、怪物は倒れた。

「やった、やったぞカスミ! 凛!」

 しかし、俺が二人を視界に入れた時、怪物に勝ったはずのその瞳に先程までの希望は灯っていなかった。
 その瞳には魔王が映っていた。

「ここまでよくやったな貴様ら、少し面白かったぞ。だが、もう貴様らがいる必要が無くなった。七十億の人間を全て駆逐してしまったからなぁ!」
「嘘だろ……」
「最後にいい物を見せてくれよ?」

 魔王はそう言って、カスミと凛に何かをした。

「えっ……」
「嘘っ……」

 カスミが剣を構え、凛が呪文を詠唱しだした。俺に向かって。
 カスミと凛の目には涙が映っていた。俺は、どうすることも出来なかった。

「姉さん……」
「うん、仕方ないね……」
「ごめんなさいッス、センパイ、こんなカスミのことを許してほしいッス」
「ごめん、新庄君、大好きだったよ」

 カスミは魔王に抗うように、手を震わせながら、自分の首を切り飛ばした。それに続くようにして、凛は自分に全ての魔力を込めたであろう呪文を打ち込んだ。

「さようならッス」
「あなたは、生きて……」

 俺はその場で崩れ落ちた。

「ふはははは! 楽しい余興だったぞ!」

 殺す
 殺す
 殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺すコロス、ゼッタイニ……。

 俺は自分の腕を引きちぎり、踏みつけ、潰した。

「シネ」

 魔王を囲むようにして腕が大量に召喚される。俺にはもう意識などなかった。意地が、殺意がそうさせた。

「それがなんだと言うのだ!」

 魔王は腕を吹き飛ばした。だが、その先には腕があった。魔王は吹き飛ばし、吹き飛ばし、吹き飛ばした。それでもその先には腕があった。血が魔王を取り囲んだ。白血球が、赤血球が、細胞全てが魔王を取り囲んだ。

「何故だ!」

 答えは返ってこなかった。当たり前だ。そこには俺はいるが、俺はいないから。俺という物体がそこにいるだけ。
 理由は単純だった。無限に、それこそ地球というものを爆破出来るほどの力があってもその腕に最後がないほど召喚されていたからだ。

「認めん! 認めん! 認めんぞ!!」

 魔王は足掻いた。だが、もうどうしようもなかった。いくら魔王と言えども栄養というものが必要だった。しかし、それを調達出来る術を全て失ってしまっていた。次第に魔王の声は聞こえなくなっていった。
 最後の微かな自我が途切れる瞬間、俺とカスミと凛はみんなで、ずっと笑っているような気がした。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

×一夜の過ち→◎毎晩大正解!

名乃坂
恋愛
一夜の過ちを犯した相手が不幸にもたまたまヤンデレストーカー男だったヒロインのお話です。

ドグラマ ―超科学犯罪組織 ヤゴスの三怪人―

小松菜
ファンタジー
*プロローグ追加しました。 狼型改造人間 唯桜。 水牛型改造人間 牛嶋。 蛇型改造人間 美紅。 『悪の秘密組織 ヤゴス』の三大幹部が荒廃した未来で甦った。その目的とは? 悪党が跳梁跋扈する荒廃した未来のデストピア日本で、三大怪人大暴れ。 モンスターとも闘いは繰り広げられる。 勝つのはどっちだ! 長くなって来たので続編へと移っております。形としての一応の完結です。 一回辺りの量は千文字強程度と大変読みやすくなっております。

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

国家魔術師をリストラされた俺。かわいい少女と共同生活をする事になった件。寝るとき、毎日抱きついてくるわけだが 

静内燕
ファンタジー
かわいい少女が、寝るとき毎日抱きついてくる。寝……れない かわいい少女が、寝るとき毎日抱きついてくる。 居場所を追い出された二人の、不器用な恋物語── Aランクの国家魔術師であった男、ガルドは国の財政難を理由に国家魔術師を首になった。 その後も一人で冒険者として暮らしていると、とある雨の日にボロボロの奴隷少女を見つける。 一度家に泊めて、奴隷商人に突っ返そうとするも「こいつの居場所なんてない」と言われ、見捨てるわけにもいかず一緒に生活することとなる羽目に──。 17歳という年齢ながらスタイルだけは一人前に良い彼女は「お礼に私の身体、あげます」と尽くそうとするも、ガルドは理性を総動員し彼女の誘惑を断ち切り、共同生活を行う。 そんな二人が共に尽くしあい、理解し合って恋に落ちていく──。 街自体が衰退の兆しを見せる中での、居場所を失った二人の恋愛物語。

転生彫り師の無双物語 〜最弱紋など書き換えればいいじゃない〜

Josse.T
ファンタジー
暴力団の組長に刺青の出来でクレームをつけられた刺青師・千堂淳は、そのまま組長に射殺されてしまう。 淳が転生した先の世界は、生まれつきの紋章で魔力や成長限界が決まってしまう世界だった。 冒険者ギルドで生活魔法しか使えない「最弱紋」と判定されてしまった淳だったが、刺青の知識を活用して紋章をアレンジ、魔神の紋章を手に入れる。 これは、神話級の紋章を手に入れた淳が伝説の魔法を使い倒し、瞬く間に英雄として祀り上げられる物語である── ※最初は一般人感のある主人公ですが、みるみるうちに最強を自覚した感性を身につけていきます。ご期待ください。 ※言うまでもなく主人公最強モノです。好きな方だけ楽しんでいってください!

処理中です...