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第八章【時の最果て】

第三幕『タイムリープを悟る』

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 「――長岡親方はタイムリーパーじゃないのか!?」

村さんが驚きの声を上げると同時にシルフィさんが割って入った。

「小僧っ! さっきから話が脱線してないか!? お前の提示する交換条件、タイムスパイラルを抜け出した秘密とはなんなんだ! 管理者全員が注目しているんだ、さっさと言え!」

「シルフィさん、さっき私は亜空間《このせかい》の根本的な秘密と言いましたよね? 亜空間の強制労働から抜け出せる糸口になるかもしれないとも言いました」

「だから、その方法を言え!それが条件だろっ!」



 私は立ち上がって、ベンチや遊具に座っている管理者三人の前を歩き出した。

「実は……、私自身はなんの秘密も持ってません。タイムスパイラルをなぜ抜け出せたのかも解ってません」

そう言うと、シルフィさんの顔は小鬼のような形相に変化した。

「おいっ! 小僧っ! ふざけるのも大概にしろっ!」

「ねえ、君……、どういうことぉ? 騙していたのぉ?」

「親方がタイムリーパーじゃねえって言ったり、交換条件の秘密が実はないって言ったり……、お前はいったいなにがしたいんだ? なにか意図があるんじゃないのか?」

サリーさんも村さんも声が上擦《うわず》っている、かなり動揺している様子だ。

それは無理もない。今この地点は、おそらく全世界の管理者たちの監視下にあるからだ。









 「シルフィさん、サリーさん、村さん、皆さん今から無線機を出して、この地点から半径一キロ圏内の反応をしっかり見てくれませんか? どんな微小な反応も見逃さず、反応があればすぐ私に教えてください!」

私の言葉になにかの意図を感じたのか、サリーさんと村さんは即座に無線機を取り出して反応をチェックし始めたが……。

「納得できんな! 交換条件を満たしてないお前の指示に従う理由はないっ!」

シルフィさんはたいそうご立腹で、言うことを聞いてくれる状態ではない……。

「汁子ちゃん! お願いだよぉ! 今だけは彼の言うことを聞いて……」

サリーさんが言い終わる前にシルフィさんの無線機が鳴り出した。



 「――こちらシルフィです。はい? なぜですか!? はぁ……。了解しました……」

無線通話中のシルフィさんはなにかを指示されているようだった。

「あれぇ? 汁子ちゃん、どうしたのかなぁ……? なんか様子変じゃない?」

「……stabの上の方から命令があった……。『シルフィだけ管轄のタワーに戻って待機』とな! だから後のことはサリーと村山に任せるぞ……」

意気消沈したシルフィさんに、サリーさんと村山さんも何が起こったか解っていない様子だ。







 座《ざ》していた遊具からすくっと立ち上がって、無言のまま公園を出るシルフィさん……。

「わし、なにが起こってるのかさっぱり解らんのだが……?」

「村さん、追々説明しますから、今は無線機の反応を見逃さないようにお願いします!」

私は無線機の反応を待ちつつ、考えていた。今日は日曜日だったな……と。

「ありゃ!? 今、一瞬だけ青く反応した地点があったけど……、消えちゃったぁ。でも、これは侵入された反応じゃないよねぇ……」

「わしの無線機にも反応したぞ!こんな反応は珍しくない。タイムリーパーが一瞬入り込んだだけで、もう亜空間から出てるだろ?」

どうやらサリーさんと村さんの無線機に反応があったようだ。



 「いいですか? あなた方管理者の管轄エリアは広過ぎるんです。広すぎるが故《ゆえ》に拠点《タワー》周辺の微小な反応を見逃していたんですよ!」

「ん? しかし、普通はすぐ消える反応なんて行っても誰もいないぞ?」

「村さん、亜空間管理局でタイムリーパーに認定している人間は、この町に私以外でたくさんいるんですか? あなた方は私の監視に集中し過ぎたのと、広域を大雑把に管轄していたので盲点になっていたんですよ」

そして、私は公園の出口へ歩き出した。

「盲点? どういうことなのぉ……? あたし、君が言っていることが解らないっ!」









 「サリーさん、村さん、今から一キロ圏内のとある場所へ向かいます。さっき一瞬だけ反応があった場所です。近くでしたから、覚えてますよね?」

そう言うと、無線機を手に持ったままサリーさんと村さんは私の後に続いた。

「確か、反応した地点はタワーの北東の方角だったな……。ん? でも、わしの巡回担当地区だからな、ここは住宅街があるだけだぞ?」

高速移動をしながら村さんは無線機で位置情報を確認している。

「そこでいいんですよ! 行きましょう!」




 「ねぇっ! 今から行く場所に君がさっき言ってた亜空間《このせかい》の根本的な秘密や、強制労働から抜け出せる糸口があるのぉ?」

サリーさんが無線機を確認しながら問い掛けてきた。

「百パーセントとは言えませんが、サリーさんと村さんの死亡時の状況や、私自身の記憶を元に導き出した一つの答えです!」

「記憶って……君がセラピールームで失った記憶? 記憶が戻って思い出したんだねっ!?」

「……すぐ答えが解りますよ! そろそろ着きますからね……」









 タワーから北東に一キロほど離れた住宅街に着いた。数十秒の移動時間だ。

「――それじゃ、行きましょうか……」

スタスタと歩き始める私に暫しぼう然とする管理者二人。

「おい、無線機の反応地点は……って、わしの話を聞けっての!」

なにか後ろで村さんがボヤいているが、今は放っておこう。

「……サリーさん……、歩きづらいので腕組みはやめてくれませんか……?」

そして、やたらとくっついてくるサリーさんも引っぺがしておこうか。




 住宅街をしばらく歩き、やがて一軒の邸宅の前で立ち止まった。

「おい、家の中には入れないぞ。知ってると思うが亜空間は時間が停止してるからな、ここにある建物はオブジェみたいなもんだ」

私は村さんの言葉を聞きつつ、玄関の方へ歩を進めた。









 ――――ガチャッ――――

玄関のドアが音を立てて開いた。

「サリーさん、村さん、この中に入ってもらえますか?」

私は玄関の中に入って二人を誘導した。

「えっ!? ここ、おかしいよねぇ……」

「開かないはずの家の玄関が開く時点で驚いたが……、これはなんだ!? この中はタワーみたいに時間が流れてるじゃねえか!?」

サリーさんも村さんも家の中の違和感に気付いたようだ。



 「うん、ここはタワーと同じように時間が流れているみたいですね」

再び私は驚く二人の間を通り過ぎ、スタスタと歩いて行く。

廊下を真っ直ぐ歩いて、突き当りの部屋のドアの前に立った。

「ここはなにか変だよぉ……。いったいなにがあるのぉ?」

「わし、この辺りは何度も巡回してるはずなんだがな……」

二人の会話をよそに、私は部屋のドアノブに手をかけた。









 部屋のドアを開く……。

――カチャッ――――

薄暗い六畳ほどのフローリングの部屋、部屋の奥にはタワーの一階にある、管理局が使用する監視システムと似たようなコンピューター類が設置されたデスク……。

そして、デスクの前には大きな椅子が置いてある。




――私は背中を向けて椅子に座っている者に声を掛けた……。










 「――まるで、ラスボス気取りだな……」
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