上 下
21 / 25

21話は思ってもいない方向に?

しおりを挟む

 アルパモント殿下は国王の執務室に出向く。

 扉の前に待機している護衛騎士に言う。

 「国王陛下に至急の用がある。時間を頂きたいと取り告げ!」

 すぐに護衛騎士が側近に取次ぎ中に私たちは招き入れられた。

 「どうしたアルパモント?」

 国王は執務机の向こうから聞いた。

 「国王お話があります。事は9年前の話です。まずはこちらにお座り下さい」

 アルパモント殿下は国王をソファーに座らせそれを取り囲むように殿下、私、ヴィオレッテ公爵は拘束されて一番離れた位置に座らされた。

 ルドルフは私の座っている一歩後ろで待機している。


 「一体何事なんだ?それにブリューノがなぜ拘束されている?」

 「彼は妻殺しを告白しましたので拘束しています。そんな事より9年前の事と聞いて何か心当たりはありませんか?」

 「はて?いったい何のことかさっぱりわからんが…」

 国王は首をかしげている。


 そこに扉がノックされた。

 「アルガン殿下と王妃様達が参られました」

 「ああ、入ってくれ」

 アルガン殿下と3人の王妃たちが入って来る。

 「兄上どうしたんです?火急の用とか」アルガン殿下が慌てて聞く。

 「そうです。アルパモント一体何事です?」アンナ王妃も。

 「まあ、皆さんも座って下さい。事実確認をしたいのです」

 ひとり掛けの椅子が用意されてぐるりと囲むように4人が座った。


 アルパモント殿下は9年前の事を王妃たちに聞いた。

 「ええ、よく覚えてるわ。でも、これは箝口令が…」アンナ王妃が言った。

 「では母上は知ってるんですね?ソルティ嬢の話で大まかな事実はわかりました。でもそれが事実かどうかが知りたいのです!あったことをすべて話してください」

 「ええ。あれは国王が…」

 アンナ王妃が国王をちらりと見た。

 「コホン…」

 国王は首を横に振って言うんじゃないぞ!みたいな顔をしてアンナ王妃を睨みつけた。

 「母上。この際父上の事は放っておいていいです。事実を話して下さい!」

 「アンナ!アルパモントの言うことを聞くんじゃない!いいから黙っていろ!」

 「父上。相当都合の悪い事なのですね。いいからあなたは黙っていてください。それともヴィオレッテ公爵のように拘束しますか?」

 「お前は国王に向かって何を言うか!近衛兵。アルパモントを捕らえよ!」

 国王が大きな声で近衛兵を呼びつける。

 緊迫した状況に近衛兵がばたばた入って来て一気に色めき立つ。

 ルドルフも腰の剣に手をかけていつでも対応できるよう構えを取る。


 「近衛兵。お前らは少し下がっていろ。私は父や母と話をするだけの事。これは身内の話だ。いいから下がれ!」

 「ははっ!何かあればすぐに参りますので」

 アルパモント殿下の一声で近衛兵はさっと身を引いた。

 「ああ、わかっている」


 アルパモント殿下は一度大きく呼吸をした。


 「それで母上、話の続きを聞かせて下さい。これはとても大切な話です。国王とはいえ罪を犯すことは許されません。もしそれをうやむやにするような国であればそれはもう司法国家として成り立ちません。この国をそんな国にしていいと思いますか?」

 アンナ王妃の目が大きく見開かれる。

 「そんな事は思っていません。アルパモント私が間違っていました。9年前国王はヴェロリーヌ公爵家の奥様ナーシャ様を辱めたのです。それを知ったのはナーシャが目を覚まして大騒ぎをした時でした。その部屋は王族しか入れない部屋でその部屋から国王が出て行くのを使用人が見たのです。ナーシャ様は薬で眠らされたようで顔や身体には殴られた跡がありました。私は当然陛下に怒りをぶつけました。ですが陛下は事を荒立てれば争いが起こるかも知れんと言ったのです。当たり前でしょう。ヴぇロリーヌ公爵家が反旗を翻すとなれば他の公爵家も黙ってはいない。そうなってはこの国は戦争になるかもしれないのです。私たち王妃は話しをしてこれ以上の事は何も言わないことを決めたのです。そうこうしているうちにナーシャ様が自殺したと知らせがあったのです。私たちは後悔しました。彼女を救えなかった責任は私たちにもあったのですから…」


 「ええ、では、ヴぇロリーヌ公爵夫人の事は事実なのですね?」

 「そうです。国王は罪を犯したんです。きっと他にも黙って耐えるしかなかった女性がたくさんいるはずです」

 「そうでしょうね。では、母上はヴィオレッテ公爵夫人が亡くなった理由を知っていますか?」

 「いいえ、病気だったと伺っています」

 「実はソルティ嬢の話からヴィオレッテ公爵夫人はここにいるブリューノ。あえてヴィオレッテ公爵とは呼びません。彼が首を絞めて殺したというのが事実なんです。話によると彼女はナーシャ様の事を告発しようとしていたそうです。それでブリューノがそれを止めようとして首を絞めて…」


 そこにたまらずブリューノが口をはさんだ。

 「殺すつもりはなかった。ただ、黙らせようとして…私は頭に血が上っていて力任せに首を絞めて…そしたらダイアナ(ブリューノの妻)が動かなくなったんだ。それで仕方なく病死と言う事に…だってそうでしょう?ソルティだって母親を殺したのが父だと知ればどんなに傷つくか…仕事も放りだすわけにはいかなかった。私は国の安全を守るのが務めで…こんなはずではなかったんだ。こんなはずでは…」

 ブリューノは泣き崩れた。

 みんなはそれを固唾をのんで見守る。


 ただ、一人声を荒げたのは私だった。

 「そんなの言い訳よ。母は正しい事をしようとしていた。あなたが間違いを正すべきだったのに…国王は間違いを犯した。それをきちんと償うべきだった。でも、それをしなかったし周りもそれを許したのよ。母はそのせいで犠牲になったのよ。もう、こんな所になんかいられません。私はもう失礼します。この先はアルパモント殿下にお任せしていいですか?」

 私は耐え切れなくなって立ち上がった。


 「いや、ソルティ君も最後まで見届けてくれ。私はこの国を正しい方向に導きたい。そのためには国王には辞してもらうつもりだ。ブリューノにも罪を償ってもらう。そして新たな国を始めたいんだ。私は決めた。君のような人こそこの国の再建に必要な人だ。どうか私に力を貸してほしい」

 「そんな…アルパモント殿下私を買いかぶり過ぎですよ。私にはそんな事無理ですから」

 そこで口を出した男がいた。

 「殿下。ソルティお嬢様は素晴らしい方です。自分の考えをしっかり言うしその考えを貫くんです。こんな女性見たことないです。俺、お嬢様だったら命捧げれますから、そんなお嬢様はこの国の立て直しに必要です。だからお嬢様うんと言って下さいよ」

 ルドルフがソルティにそう言って頼んだ。

 
 アルパモント殿下の視線がルドルフにじっと向けられている。

 「うん?」

 アルパモント殿下が動いた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

旦那様に離婚を突きつけられて身を引きましたが妊娠していました。

ゆらゆらぎ
恋愛
ある日、平民出身である侯爵夫人カトリーナは辺境へ行って二ヶ月間会っていない夫、ランドロフから執事を通して離縁届を突きつけられる。元の身分の差を考え気持ちを残しながらも大人しく身を引いたカトリーナ。 実家に戻り、兄の隣国行きについていくことになったが隣国アスファルタ王国に向かう旅の途中、急激に体調を崩したカトリーナは医師の診察を受けることに。

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

側妃に追放された王太子

基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」 正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。 そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。 王の代理が側妃など異例の出来事だ。 「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」 王太子は息を吐いた。 「それが国のためなら」 貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。 無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。

筆頭婚約者候補は「一抜け」を叫んでさっさと逃げ出した

基本二度寝
恋愛
王太子には婚約者候補が二十名ほどいた。 その中でも筆頭にいたのは、顔よし頭良し、すべての条件を持っていた公爵家の令嬢。 王太子を立てることも忘れない彼女に、ひとつだけ不満があった。

「子供ができた」と夫が愛人を連れてきたので祝福した

基本二度寝
恋愛
おめでとうございます!!! ※エロなし ざまぁをやってみたくて。 ざまぁが本編より長くなったので割愛。 番外編でupするかもしないかも。

28【完結】父と兄が居なくなり、私一人、、、助けてくれたのは好きな人

華蓮
恋愛
父と兄が当然この世からいなくなった。 どうしたらいいかわからなかったけど、 私の大好きな人が、結婚してくれて、伯爵を継ぐことになった。 大好きな人と一緒に過ごせるカルリーナは、幸せだった。 だけど、、、、

心を失った彼女は、もう婚約者を見ない

基本二度寝
恋愛
女癖の悪い王太子は呪われた。 寝台から起き上がれず、食事も身体が拒否し、原因不明な状態の心労もあり、やせ細っていった。 「こりゃあすごい」 解呪に呼ばれた魔女は、しゃがれ声で場違いにも感嘆した。 「王族に呪いなんて効かないはずなのにと思ったけれど、これほど大きい呪いは見たことがないよ。どれだけの女の恨みを買ったんだい」 王太子には思い当たる節はない。 相手が勝手に勘違いして想いを寄せられているだけなのに。 「こりゃあ対価は大きいよ?」 金ならいくらでも出すと豪語する国王と、「早く息子を助けて」と喚く王妃。 「なら、その娘の心を対価にどうだい」 魔女はぐるりと部屋を見渡し、壁際に使用人らと共に立たされている王太子の婚約者の令嬢を指差した。

逃した番は他国に嫁ぐ

基本二度寝
恋愛
「番が現れたら、婚約を解消してほしい」 婚約者との茶会。 和やかな会話が落ち着いた所で、改まって座を正した王太子ヴェロージオは婚約者の公爵令嬢グリシアにそう願った。 獣人の血が交じるこの国で、番というものの存在の大きさは誰しも理解している。 だから、グリシアも頷いた。 「はい。わかりました。お互いどちらかが番と出会えたら円満に婚約解消をしましょう!」 グリシアに答えに満足したはずなのだが、ヴェロージオの心に沸き上がる感情。 こちらの希望を受け入れられたはずのに…、何故か、もやっとした気持ちになった。

処理中です...