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20正義は勝つ?

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 「ソルティ貴様何を言うんだ!そんな出まかせ殿下が信じられるとでも…アルパモント殿下聞いてください。ソルティはアルフォン殿下との婚約を破棄したいがためこんな嘘を言ってるんです。私が妻を…そんな事をする意味がありません。どうかこいつの言うことなどに耳を傾けないで下さい。近衛兵!こいつを連れて行け。頭が混乱しているようだ、しばらく牢にでもぶち込んでおけ!」

 そう喚き散らしたのは父だった。

 まあ、そう言うと思ったが…

 お父様。あなたに取ったら私はこいつ扱いなんですね。おまけに頭が混乱してるですって?

 そっちこそ頭がおかしくなるでしょうね。

 絶対に人には知られたくない真実を突きつけられたんですから。

 私は驚くほど冷静でいた。

 何だか取り乱す父が可哀想にも思えた。


 ばたばたと近衛兵が入って来て私たちを取り囲んだ。

 ルドルフはさっと私の前に来て私には指一本触れさせないと腰に下げた剣の塚に手をかけた。

 「ソルティお嬢様には指一本触れさせない!」

 先に大声でけん制する。

 近衛兵は命令に従うべきだと一歩前に踏み出そうとしたその時。

 「近衛兵一旦部屋から出ろ!」

 そう声を荒げたのはアルパモント殿下だった。

 「ですが陛下」

 「いいから。相手は女ひとり。ここにどれほど男がいると思っている。お前たちの手を煩わせる事もない。そうだろう。いいから部屋から出て待て」

 「はは。仰せのままに」

 近衛兵はさっと後ろに下がって部屋を後にする。

 さすがは王子。父より格が数段上だ。


 私はソファーに座らされる。もちろん何心は冷や冷や物だった。

 ルドルフもまだ肩を怒らせピリピリした気配を漂わせている。

 「ルドルフありがとう。もう大丈夫みたいだから。あなたも、ほら、大丈夫だから…」

 私は自分の握りしめていた手のひらをそっと緩めた。手のひらの中は汗でねっとりしていた。

 「あっ、すみません。お嬢様を怖がらせるつもりはなかったんです。お嬢様こそ大丈夫ですか?」

 ルドルフは大きく退き私の様子を伺う。

 「ええ、平気」

 ルドルフがほっと息を吐き笑みを見せた。

 それだけでさっきまでの殺気だった気持ちがすぅっと凪いだ。

 何これ?ルドルフ効果ってやつ?


 「ソルティ。すまないが確認させてくれないか。さっきの話はソルティが10歳の時見た事で。それを日記に記していたんだな。それは間違いない事なのか?」

 「はい、アルパモント殿下間違いありません。ナーシャ様の事はあの頃の国王の側近か侍女などに確かめて頂ければ嘘ではないことはわかるはずです。母を殺めたあの人の事は本人の自白でしか証明することは出来ないでしょうが…私は嘘は言っておりません。もちろんこの事を婚約破棄の理由にするつもりもありません。私は今日まで貴族とはそういうものと思って来たのです。でも、今回の一件で私に自身の気持ちをはっきり伝える事を学んだのです。そのようなつもりもないことをうやむやにして流されて、いやいやこの先の人生を送るのは私にはどうしても無意味な事に思えるのです。アルパモント殿下はどう思われますか?私は間違っているのでしょうか?」



 「いや、間違ってはいないと思う。私たちも父である国王に言うべきだったと思う。国王だからと言って何をしても許されるという考えはおかしい。悪いことは誰でも悪い。それをきちんと言わずにいたからあのようなことが起きた。また今もそれは続いている。過ちは正さなくてはいけないと私も思っている。そもそも一国の王が取るべき行いではない。そこがすでに間違いなんだ。先日も話したように父にはきちんと話をして議会でどのようにするか話し合わなければならないだろう」

 「アルパモント殿下が公明正大な方で良かったです」

 「いや、もっと早くに対処するべきだったと思う。すまなかったソルティ嬢。婚約の件は君の気持ちを尊重したいと思う。アルフォンは誠実ではなかった。このまま意味のない婚約を続ける意味がない。この場で私が承認しよう。アルフォン。ソルティ嬢との婚約は解消だ。慰謝料はお前の私有財産すべてを当てるように」

 アルパモント殿下はアルフォン殿下にそう言い渡す。


 慌てたのはアルフォンだった。

 「それは…兄上。いくら何でも。確かに私は不誠実でした。でも、ようやく気づいたんです。だからチャンスを下さい。きっと兄上のお眼鏡にかなうようにしますから」

 縋りつくような視線で兄アルパモント殿下を見る。

 「アルフォン。それを私に言うのか?言う相手が違うだろう」

 「あっ、それは…ソルティ嬢。考え直してくれないか。私が悪かった。もう一度チャンスをくれないか」

 横柄だった態度ががらりと変わり私の目の前でアルフォン殿下が私に頭を下げる。

 でも、私の心は一ミリだってなびくことはなかった。

 「申し訳ありませんがそんな都合のいい話なんて無理です。だって4年ですよ。ずっと私の目の前でどれほどの醜態を見せつけられたと思います?殿下だったらどうお考えになるんです。私が他の男性と散々いちゃいちゃしていたら…私がよりを戻したいって言ったらどう思われるんです?」

 アルフォン殿下はうなだれ何やらもごもご言っているがそんなこと知るもんですか!

 「それはそうだが…私は仮にも王族で君は公爵家で…格が違うんだから…」

 彼は聞こえるか聞こえないかわからないくらいの小さな声で言った。


 はっ!何よ!喧嘩を売る気?この期に及んで?ぶっ飛ばしてやりたい。

 「なんです?ひとりでもごもごと?言いたいことがあればはっきりおっしゃればいいじゃないですか?王族?格が違う?どの口がそんな事を?…へぇ~格が違うんですか。でしたら王命とやらで無理やり結婚させますか?いいですよ。その代り初夜は覚悟しておいて下さい。あなたのようなふしだらな下半身が二度と勃ちあがらないように私あそこぶっ潰しますから!」

 「「プッ!!」」

 アルパモント殿下とルドルフがぷっと噴き出す。


 アルフォン殿下がたじろいで立ち上がった。

 「恐ろしい女だ君は。もういい!君との婚約は解消する。俺は君なんか最初から好みでもなかったんだ。そこまでして君と結婚したいと思っていない。慰謝料払うさ。払えばいいんだろう!ったく。とんだ災難だ。俺は失礼する。兄上後はお任せしますから」

 「まったく性のない奴だ。ソルティ嬢これで許してくれるか?」

 「はい、もちろんです」


 「ではヴィオレッテ公爵一緒に同行してもらおうか。あなたや父が9年前に行った事の真相を確かめる必要がある。それによっては罪に問われることもあると覚悟しておけ。近衛兵ヴィオレッテ公爵を捕らえよ」

 「アルパモント殿下。私は神に誓って自分のために罪を犯したことなど一度もありません。国王の身を守ることが私の役目。そのために行う行為はすべてこのアルパード王国のためなのです。どうかわかって下さい。わが妻を殺めたのは国王の身をお守りするため。ただただ私はそのためだけに今日まで来たのです」

 「それは妻を殺めたことは認めると言う事だな?」

 「いえ。それは…」

 「いいから話は国王も交えてからだ。話にはアルガンや王妃にも同席してもらう。いいな!」

 父。いえ、私の事など道具にしか思っていないこの人を父と呼ぶのはもうやめよう。

 ヴィオレッテ公爵はうなだれてもう何も言わなかった。

 私はアルパモント殿下と近衛兵に連れて行かれるヴィオレッテ公爵の後を静かについて行った。 

 もちろんルドルフも一緒に。



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