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19真実を暴くとき
しおりを挟むこのページは今まで開いて見ることさえ出来ずにいた。
でも、もう我慢できないから…今までの自分はもう嫌だから。
私はすべての真実を明らかにする。
大きく息を吸い込む。
そして私はその夜の出来事が書いてあるページに目を落とす。
そして無理やり言葉を押し出し始めた。
「あの夜、私が部屋を覗くと父は母の頬を思いっきり打ちつけていました。
母は床に倒れ込んで父に話をし始めました。
(こんな事を隠し通すなんて出来ません。あなたはわかってるんですか?国王がよりによってヴェローヌ家の奥様を騙して辱めるだなんて!こんな事あってはならない事です。私は彼女から相談を受けてヴェローヌ公爵にお知らせしようと思っていたんです。なのにナーシャは自殺してしまうなんて…)と言いました。
母は泣き崩れていました。
そんな母を父が首元を引っ張り上げて言いました。
(お前は何も聞かなかった事にするんだ。これ以上話を大きくする必要はない。ナーシャも黙っていればいいものを)
母が言いました。
(まさかあなたがナーシャを?)
(それが私の仕事だ。王家にとって都合の悪いことは始末せねばならん。国王を守るにはそうするしかなかった。ナーシャは教会に駆け込む心配があった。
もし、そんな事を教会に相談したら今度は神官がパシオス帝国の教会に知らせ、そしてまた侵略される理由にもなりかねんのだ)
何しろまだ子供難しい話だったと…この部分は最後まではっきりとは覚えておりませんがそんな内容だったと思いながらここに記しました。
そして父は母に怒鳴りつけました。
(始末するしかなかった。それをわかってくれるのがお前の務めだろう。私だって好きでこんな事をしたわけではない)と言いました。
母はまた言い返しました。
(それでもあなたは人間ですか?こんな恐ろしい事を命令して平気な顔をしていられるなんて、いいえ、私は黙りません。
国王の横暴を今こそ暴くときです。何と言ってもナーシャの無念を晴らさなくてはなりません)
母がそこまで言うと‥…父が母の首を両手で絞めつけました。
~私はそこで言葉に詰まる。
脳裏にはあのシーンがありありと蘇る。
涙で日記は見えなくなったがまた話を始めた。~
母はもがいて苦しんでいました。
それなのに私は恐くて身体が動かなくて声も出そうとするのに出ませんでした。
そのうち母は力なくぐったりとなりました。
その時母は死んだんです。父が殺したんです。
今目の前にいるこの人が母を…」
押し殺して来た感情が沸き上がって私は父を指さした。
父の顔が恐ろしいほど崩れ唇はわなわな震え始めた。
私はそれを凝視できなくてぱっと目を反らした、その瞬間身体がかしいだが何とか踏みとどまった。
そしてやっと息もしていなかったと気づく。
何しろ気が張り詰めていて息すらしていなかった。
大きく息を吸い込むと今度は言い知れない罪の意識に私は押しつぶされそうになった。
どうして母を助けに行けなかったのだと後悔が募る。
ぐっと噛みしめた唇。鉄のような味が口の中に広がる。
悔しさや後悔。ぐちゃぐちゃの気持ちのまま私はふっと振り返る。
ルドルフが捨て犬みたいなくしゃくしゃの顔をして私を見つめていた。
蒼翠色の瞳には薄っすらと膜が張ったようになって私と目が合うとその瞳から涙が零れ落ちた。
つかつかとルドルフが近づいて来た。
一瞬のうちにルドルフに抱き締められる。
その腕にすがりつく。
ルドルフは私の耳元でささやいた。
「ソルティ君は子供だった。何も出来ることはなかった。いいか君は悪くなんかない。ずっと苦しかっただろう?こんなつらい記憶をひとりで背負って来たなんて。でも、もう心配ない。何があっても俺が君を守るから何も心配ない」
私はゆっくり彼の顔を見上げた。
心配ないとルドルフがこくんとうなずく。
彼の顔はさっきまでとは全く違っていてとても頼りがいのある逞しい顔つきだった。
私はごく自然に首を折った。私の瞳からは表面張力を失った涙がぽろぽろ頬を伝った。
なんだろう?この心に広がる安ど感。
彼の体温が伝わりじわりと込み上げる熱い気持ち。
そうだ!私にはルドルフがいてくれる。
ここに彼がいる。と思うとほっとした気持ちになった。
ルドルフは私が落ち着いたとみるとふっと微笑んで少し距離を取った。
さあ、ソルティ俺が付いているというように。
私は話の続きを始める。
それから先は日記を見る必要はなかった。
何だか素直に自分のしたことを話してもいいと思えた。
「私はその夜は恐くてなるべく見たことを考えないようにしようとしました。でも、母を助けるべきだったと思ったりそんな事は無理だったと思ったりとずっと悶々として夜を明かしました。翌朝父が何と言うのかも気になっていました。そしてその朝父から母が病気で亡くなったと聞かされて腹が立ちました。
すぐに言い返そうとして私は父の背中が震えている事に気づきました。
そんな父がすごく悲しそうに見えたんです。
だから、私は母を殺したと責めれなくなったんです。どんな父親でもやはり私にはたったひとりの父なんです。
だから…だからこの秘密は死ぬまで私ひとりの心の中に閉まっておくつもりでした。でも、もうきっと無理なんです…」
私はうなだれるように首を垂れた。
次の瞬間勢いよく顔を上げる。
「私は間違ってました。こんな事黙っていては行けなかった。
そのせいで国王はあれからもひどい事をし続けて父は力のない人に権力を押し付けて来たんです。
もう嫌なんです。こんなの間違ってるって言わなきゃ。
誰かが声を上げなきゃいけないんです。
アルパモント殿下。私はアルフォン殿下と婚約解消したいです。
父も責任を取って償ってもらいたいです。
国王にも責任を取ってほしいです。
これっていけない事でしょうか?
そう思うことはそう言うことはだめでしょうか?
そんな国なら私は貴族なんかでいたくありません。
平民になってこの国を出て行きたいです。
アルパモント殿下はどう思われますか?」
日記を握りしめていた手は痛いほど痺れていた。
でも、私はやっと本当の気持ちを言うことが出来たと思う。
アルパモント殿下は真っ直ぐに私を見つめていた。
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