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36プリムローズに求婚者現る

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 プリムローズはその日も仕事に忙しかった。

 (それにしても…アルナンドとのことは一夜の過ちとして片付けよう。私が前世の記憶が亡かったらこんな悠長には思えないのかもしれないけど、幸い私には日本の常識って言う記憶がある。男とのワンナイトはよくあること。そうだ。アルナンドだってあれは間違いだったって思ってる。だってそうじゃない。もし、もし私の事を本気だったならあんな言い方はないだろう。気づかないふり~なんてね。もういいから忘れよう。さあ、仕事仕事!)

 プリムローズは何度もそんな事を思いながら仕事に集中しようとするが、それでもアルナンドがその程度の気持ちだったと思うとショックを隠せなかった。


 昼までに新たな登録者の婚活パーティーの事や昨日のいい感じになったカップルの今後について計画を練ろうとするが、まったく脳は昨日せず…

 「プリムローズ。そろそろお昼にしませんか?」

 「ええ、そうですね。皆さんは今日はどうします?カフェに行くんですか?それとも昼食を買ってきます?」

 昼は各自で好きに過ごす。プリムローズはいつも近くのパン屋で昼食を買って来て食べるのが定番だ。

 それに今日は外でワイワイ食べる気になどなれないがそうとも言えずみんなにはいつものように聞いてみる。

 「そうだな。今日カフェにでも行ってみないか」

 レゴマールがそう言ってみんなを誘った。

 何やら思惑があるのかピックがブレディにひそひそと話をしている。

 「プリムっローズも行かない?実は僕たち、ちょっとカフェで働いている女の子と仲良くなって、食べに行く約束してるんだ」

 「ピック余計なことを言うな!」レゴマールがピックの腕をピシっと叩いた。


 「ああ、そういう事。いいですよ。遠慮せずに行ってきてください。みなさん仲良くなれるといいですね」

 プリムローズは心からそう願って言った。

 「いえ、私はいやだって言ったんですよ。でも…まぁ、そんなうまく行くはずもありませんし取りあえず行ってきますので…」

 ダイルが強張った顔で笑いながら出て行った。

 どうやら全員で行こうと強制されたらしい。


 プリムローズは結局パン屋にもいかず紅茶と残っていたお菓子だけで昼を済ませるとお客がやって来た。

 慌てて応対に出る。

 「いらっしゃいませ」

 「失礼する。ああ、プリムローズやっと見つけた。探したんだぞ!」

 そう言ったのはこの国の第2王太子のせザリオ殿下だった。彼は少し怒っていてプリムローズを見ると一気に近づいて彼女を抱きしめた。

 あっという間の出来事でプリムローズも避ける暇がなかった。

 「ちょっと待って下さい。いいから離していただけませんか」

 「ああ、私としたことが…すまん」

 殿下はプリムローズが驚いていると判断したらしくゆっくり抱きしめた手を緩めた。

 プリムローズはすぐに彼から一歩下がって聞く。

 「セザリオ殿下?どうしてここに?」

 「どうしてって?君に婚約を申し込むために決まってるじゃないか!今まで君にずっと婚約を申し込んでいたがずっとラルフスコット辺境伯に断られていた。それに半年前には生贄になることに議会で決まってしまって…諦めるしかないと思ってた。でも、いきなり生贄の話がなくなったと聞いて驚いたのなんの。すぐに辺境伯に婚約の申し込みをすると君は平民として生きて行きたいと言って出て行ったと…それからいろいろ探してやっとここにいると分かったんだ」


 プリムローズはやっとラルフスコットの屋敷で過ごしていた時の事を思い出す。

 彼女は外に出ることは許されていなかったが、セザリオ殿下が時折訪ねてくることはあった。と言ってもプリムローズは親しい間柄ではなかったが…

 そう言えば来るたびにお土産を持って来ていた。そのせいか一緒にお茶を飲んだりもしたが、婚約の話など聞いた事はなかった。

 「でも、そんなお話始めて聞きましたが」

 「それはそうだろう。辺境伯には君にそのようなことを言うなときつく言われていたから、せめてお茶くらいはと頼み込んで君とお茶をしていたんだ。辺境伯の気分を害したら君とも合わせてもらえなくなると思っていたからずっと我慢していたんだ。そうしていたら生贄に決まってしまっただろう。でも、もう我慢しなくていい。君は平民で辺境伯とは何の関係もなくなったんだ。だからどうか私との婚約を考えてくれないか?」

 「ですが…いきなりそう言われましても困ります。それに殿下と平民の私とでは身分が違いすぎますので、やはり無理だと…」

 「そんな事はどうとでも出来る。君の血筋ははっきりしているんだし、いざとなれば別の公爵家の養女とでもなれば済むことじゃないか」

 何だか今日の殿下はイケイケムードで何とかすぐにでもいい返事を取りたいと執拗に責めて来る。

 「ですが困ります。私殿下と婚約する気はありませんので、とにかくもう、帰ってもらえませんか?」

 「だが…いいじゃないか。私がこうして直々にここまで来ると言う事でどれほど真剣かわかってもらえると思うが…?」


 さすがに高貴なお方。いくら話しても聞く耳もたないと分かって来るとイライラ感が募って来るらしく、プリムローズの腕に手を伸ばして無理やり彼女を引き寄せる。

 「きゃ~、何するんです。バシッ~ン!」

 いきなり引っ張られてプリムローズの平手が殿下の頬を打つ。

 「き、貴様!な、何をする。私が誰かわかっているはず」

 今日の日までこのような暴力を受けたこともない高貴なお方は大きく声を荒げた。

 さすがのプリムローズもたじろいだ。

 

 
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