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2えっ?生贄いらないんですか?

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 いきなり空が暗くなる。

 皆が上空を見る。真上にあるぎらついた太陽を遮るように大きな翼のある黒い影が現れた。

 そしてその影がどんどん大きくなって行くとその姿が竜だとはっきりわかった。

 その場にいた全員がどよめきを上げる。

 「竜だ!」「ゼフェリスの使者が来たぞ!」

 きらきらまるでダイアモンドのように輝く竜はみんなの前に降り立つと一瞬で人の姿に変わった。

 その姿は人より少し大きく逞しい。黒い衣装に煌びやかなマントをはおっている。

 きらきら光る白金の髪をたなびかせ紫水晶のような美しい瞳にこれでもかと思うほどの美形が皆を魅了する。

 プリムローズも皆と同様にその姿に見惚れてしまう。そして気づく。

 (あっ!この人って数日前に見た夢に出て来た男の人じゃない?でも、会った事もない人なのに…もぉ!あんな夢見たって絶対知られたくない。まさか…この人と夢で見たようなことをここでするんじゃ…?)

 プリムローズは慌てる。顔は真っ赤に火照りそれ以上は顔を上げていられない。

 あまりの恥ずかしさに俯いて動くこともままならない。



 大神官が慌てて恭しく首を垂れて使者に挨拶をする。

 「これはこれはゼフェリス国の使者のお方。ようこそメルクーリ国においでいただきました。お約束通り生贄を捧げるため、ここにそのものを用意いたしております。どうかお収め頂きますようお願いいたします」

 その竜人は、へっ?と言う顔をしたと思うとゆっくり頷いた。

 「ああ、そのことだが…もうやめることにした」

 竜人が発した声はそれは美しい低い声色だったが、その言葉は気の抜けたようなものだった。

 「はい?」

 大神官がもう一度おっしゃっていただけませんかとばかりに耳の手を当てて顔を傾ける。


 「ったく。だからその生贄は必要ない。ゼフェリスはそんな野蛮な行為はしないと決まった。今日はそれを伝えに来た。あっ、それからこれからはゼフェリス国への入国も許可するから。その代わりゼフェリス国の竜人の出入りも許可してくれ。話は以上だ。ではこれからもよろしく頼む」

 「あの。では、では、もう300年前の事は水に流すということで?」

 「ああ、そうだ。もういいだろう?俺、これから用があるんだ。じゃあ」

 竜人はそれだけ言うとさっと竜に変化して飛び立って行った。

 皆あっけのとられて口を大きく開いたままだ。


 プリムローズもぽかんと口を開けたままだ。

 脳内では今の出来事の処理が始まった。

 (ちょっと待って!それってもう生贄は必要ないって事。じゃあ、あの夢は何だったの。ああ、でも、よかったぁ。もぉ、正夢かと焦ったじゃない。じゃあ、私はこれで自由って事になるのよね?そうよね。じゃ今すぐにここから離れなきゃ!とにかくこんな事していられないわ。早くここから逃げるのよ!)


 プリムローズはそう判断すると叔父に向かっておずおずと声を出した。

 「あの…私はこれで失礼してもいいでしょうか?叔父様、私これからは平民として生きて行きたいのでラルフスコット家から籍を抜いていただけませんか?これからはそちらとは一切かかわりませんのでお願いします」

 叔父のダリクが大きく目を見開いた。そして、ああ、そうだなという顔をした。

 「ああ、プリムローズがそれを望むならいいだろう。籍は辺境伯家から抜いてやる。そのかわり二度と我が辺境伯家はお前とは関わらないからな。いいな?」

 「はい、もちろんです。ありがとうございます。叔父様」

 プリムローズはそう言うと神殿から走り出た。

 カイトが準備してくれたワンピースを見つけると急いで木陰で着替える。真っ白い服を脱ぎ捨てると真っ直ぐに繁華街に向かった。

 目指すは職業紹介所だった。

 (ずっとどこにも出ることも許されず何の支度も出来ていなかいけどまずは仕事を探さなければ生きてはいけないもの。前世の記憶があって良かった。

 王都セトリアの事など何もわからないけど、吉田あかねの記憶があるからきっと大丈夫。それにカイトと再会できたのも運が良かったし)

 彼女はなるべく大きな通りを歩いて職業紹介所を探した。

 そしてマルベリー通りと書いてある通りに一軒の職業紹介所を見つけた。

 (取りあえずここから行ってみよう。大丈夫よきっとな何とかなる)

 プリムローズは大きく息を吸い込むとその扉を開いた。

 「すみませ~ん。お仕事探してるんですけど…」

 「いらっしゃいませ。仕事ですか?どうぞどうぞ中にお入りになって下さい」

 扉を開いて中に入って驚いた。


 イケメン!イケメン!イケメン!イケメン?ちょっとイケおじ?そんな男前な4人がずらりと揃っている。

 「あの…」

 プリムローズは驚きで言葉に詰まった。

 (えっ?ここってホストクラブとか…もしかしてここって日本?まさかね)

 脳内では日本人の時の記憶が妙に蘇るが、ここがメルクーリ国だと言うことは間違いないはず。

 彼女は思わずふらついて扉につかまるので精一杯だった。



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