3 / 54
2えっ?生贄いらないんですか?
しおりを挟むいきなり空が暗くなる。
皆が上空を見る。真上にあるぎらついた太陽を遮るように大きな翼のある黒い影が現れた。
そしてその影がどんどん大きくなって行くとその姿が竜だとはっきりわかった。
その場にいた全員がどよめきを上げる。
「竜だ!」「ゼフェリスの使者が来たぞ!」
きらきらまるでダイアモンドのように輝く竜はみんなの前に降り立つと一瞬で人の姿に変わった。
その姿は人より少し大きく逞しい。黒い衣装に煌びやかなマントをはおっている。
きらきら光る白金の髪をたなびかせ紫水晶のような美しい瞳にこれでもかと思うほどの美形が皆を魅了する。
プリムローズも皆と同様にその姿に見惚れてしまう。そして気づく。
(あっ!この人って数日前に見た夢に出て来た男の人じゃない?でも、会った事もない人なのに…もぉ!あんな夢見たって絶対知られたくない。まさか…この人と夢で見たようなことをここでするんじゃ…?)
プリムローズは慌てる。顔は真っ赤に火照りそれ以上は顔を上げていられない。
あまりの恥ずかしさに俯いて動くこともままならない。
大神官が慌てて恭しく首を垂れて使者に挨拶をする。
「これはこれはゼフェリス国の使者のお方。ようこそメルクーリ国においでいただきました。お約束通り生贄を捧げるため、ここにそのものを用意いたしております。どうかお収め頂きますようお願いいたします」
その竜人は、へっ?と言う顔をしたと思うとゆっくり頷いた。
「ああ、そのことだが…もうやめることにした」
竜人が発した声はそれは美しい低い声色だったが、その言葉は気の抜けたようなものだった。
「はい?」
大神官がもう一度おっしゃっていただけませんかとばかりに耳の手を当てて顔を傾ける。
「ったく。だからその生贄は必要ない。ゼフェリスはそんな野蛮な行為はしないと決まった。今日はそれを伝えに来た。あっ、それからこれからはゼフェリス国への入国も許可するから。その代わりゼフェリス国の竜人の出入りも許可してくれ。話は以上だ。ではこれからもよろしく頼む」
「あの。では、では、もう300年前の事は水に流すということで?」
「ああ、そうだ。もういいだろう?俺、これから用があるんだ。じゃあ」
竜人はそれだけ言うとさっと竜に変化して飛び立って行った。
皆あっけのとられて口を大きく開いたままだ。
プリムローズもぽかんと口を開けたままだ。
脳内では今の出来事の処理が始まった。
(ちょっと待って!それってもう生贄は必要ないって事。じゃあ、あの夢は何だったの。ああ、でも、よかったぁ。もぉ、正夢かと焦ったじゃない。じゃあ、私はこれで自由って事になるのよね?そうよね。じゃ今すぐにここから離れなきゃ!とにかくこんな事していられないわ。早くここから逃げるのよ!)
プリムローズはそう判断すると叔父に向かっておずおずと声を出した。
「あの…私はこれで失礼してもいいでしょうか?叔父様、私これからは平民として生きて行きたいのでラルフスコット家から籍を抜いていただけませんか?これからはそちらとは一切かかわりませんのでお願いします」
叔父のダリクが大きく目を見開いた。そして、ああ、そうだなという顔をした。
「ああ、プリムローズがそれを望むならいいだろう。籍は辺境伯家から抜いてやる。そのかわり二度と我が辺境伯家はお前とは関わらないからな。いいな?」
「はい、もちろんです。ありがとうございます。叔父様」
プリムローズはそう言うと神殿から走り出た。
カイトが準備してくれたワンピースを見つけると急いで木陰で着替える。真っ白い服を脱ぎ捨てると真っ直ぐに繁華街に向かった。
目指すは職業紹介所だった。
(ずっとどこにも出ることも許されず何の支度も出来ていなかいけどまずは仕事を探さなければ生きてはいけないもの。前世の記憶があって良かった。
王都セトリアの事など何もわからないけど、吉田あかねの記憶があるからきっと大丈夫。それにカイトと再会できたのも運が良かったし)
彼女はなるべく大きな通りを歩いて職業紹介所を探した。
そしてマルベリー通りと書いてある通りに一軒の職業紹介所を見つけた。
(取りあえずここから行ってみよう。大丈夫よきっとな何とかなる)
プリムローズは大きく息を吸い込むとその扉を開いた。
「すみませ~ん。お仕事探してるんですけど…」
「いらっしゃいませ。仕事ですか?どうぞどうぞ中にお入りになって下さい」
扉を開いて中に入って驚いた。
イケメン!イケメン!イケメン!イケメン?ちょっとイケおじ?そんな男前な4人がずらりと揃っている。
「あの…」
プリムローズは驚きで言葉に詰まった。
(えっ?ここってホストクラブとか…もしかしてここって日本?まさかね)
脳内では日本人の時の記憶が妙に蘇るが、ここがメルクーリ国だと言うことは間違いないはず。
彼女は思わずふらついて扉につかまるので精一杯だった。
12
お気に入りに追加
30
あなたにおすすめの小説
兄がいるので悪役令嬢にはなりません〜苦労人外交官は鉄壁シスコンガードを突破したい〜
藤也いらいち
恋愛
無能王子の婚約者のラクシフォリア伯爵家令嬢、シャーロット。王子は典型的な無能ムーブの果てにシャーロットにあるはずのない罪を並べ立て婚約破棄を迫る。
__婚約破棄、大歓迎だ。
そこへ、視線で人手も殺せそうな眼をしながらも満面の笑顔のシャーロットの兄が王子を迎え撃った!
勝負は一瞬!王子は場外へ!
シスコン兄と無自覚ブラコン妹。
そして、シャーロットに思いを寄せつつ兄に邪魔をされ続ける外交官。妹が好きすぎる侯爵令嬢や商家の才女。
周りを巻き込み、巻き込まれ、果たして、彼らは恋愛と家族愛の違いを理解することができるのか!?
短編 兄がいるので悪役令嬢にはなりません を大幅加筆と修正して連載しています
カクヨム、小説家になろうにも掲載しています。
ため息とあきらめ、自分につく嘘〜モヤモヤは幸せのサイン?!〜
帆々
恋愛
高科雅姫(たかしなまさき)36歳、結婚十三年、子供あり。
こじんまりとした家で暮らす普通の主婦、だった。ささやかでも順調だった生活は、夫の失職で変わりつつある。
毎月の出費、家事、子育て…。わたしは日々、ため息が増えていく。
真面目で優しかった夫の変化も悩ましい。モヤモヤもたまる。口論も増えた。夫の仕事はもう一年決まらない…。
パートしつつ思う。
「お金がほしい」
切実に思う。
そんなとき思い出す。昔の同人活動のことだ。
「描いてみようか、またマンガを」
「それで少しでもお金になるかもしれない」
せっぱつまった状況のためだった。でも、あの頃の楽しさを思い出してしまう。もう好きだけで描けない。わかってる。
込み上げるような感情を糧に、薄い同人誌を一冊作った。それが売れ、次も描こうと決意する。
「これでお金を作ろう」
夫の非難の目はあるが、気持ちは固い。同人を再会したことで過去の仲間ともつながれた。合同誌も作り、売り上げは好評だ。
その中には親友でかつての相棒の有名漫画家の千晶もいる。
売れっ子同人時代の知人で、大手出版社の沖田さんとも再会した。出世して男前になったが相変わらず口うるさい。
前向きに活動するが資金も必要だ。売れても、次本を刷るお金が足りない。
そこで、わたしは軽い風俗の仕事を始めることになって…。
マイペースなヒロインがあれこれぶつかりながら頑張る、じれじれ恋愛物語です。
※恋愛要素までが長めです。
※暴力(出血)シーンがあります。
※不倫描写もあります。
苦手な方はご自衛下さいませ。
異世界の赤髪騎士殿、私をじゃじゃ馬と呼ばないで
牡丹
恋愛
歳より若く見える主婦が主人公。
日本庭園で濃霧の中を進むと見知らぬ王城の中庭だった。
いきなり不審者だと騎士に殺されそうに。
迷い込んだ異世界の文化や常識の違いに戸惑ってばかり。
元の世界に帰れない。孤独に押しつぶされそうになって、1人寂しく泣いています。
主人公は元の世界へ帰れるのかな?
この話の続きは独立させています。
「異世界の赤髪騎士殿は、じゃじゃ馬な妻を追いかける」
読んでいただければ嬉しいです。
このお話は題名や主人公の名前などアレンジして「小説家になろう」にも投稿しています。
前世で処刑された聖女、今は黒薬師と呼ばれています
矢野りと
恋愛
旧題:前世で処刑された聖女はひっそりと生きていくと決めました〜今世では黒き薬師と呼ばれています〜
――『偽聖女を処刑しろっ!』
民衆がそう叫ぶなか、私の目の前で大切な人達の命が奪われていく。必死で神に祈ったけれど奇跡は起きなかった。……聖女ではない私は無力だった。
何がいけなかったのだろうか。ただ困っている人達を救いたい一心だっただけなのに……。
人々の歓声に包まれながら私は処刑された。
そして、私は前世の記憶を持ったまま、親の顔も知らない孤児として生まれ変わった。周囲から見れば恵まれているとは言い難いその境遇に私はほっとした。大切なものを持つことがなによりも怖かったから。
――持たなければ、失うこともない。
だから森の奥深くでひっそりと暮らしていたのに、ある日二人の騎士が訪ねてきて……。
『黒き薬師と呼ばれている薬師はあなたでしょうか?』
基本はほのぼのですが、シリアスと切なさありのお話です。
※この作品の設定は架空のものです。
※一話目だけ残酷な描写がありますので苦手な方はご自衛くださいませ。
※感想欄のネタバレ配慮はありません(._.)
【R18】清掃員加藤望、社長の弱みを握りに来ました!
Bu-cha
恋愛
ずっと好きだった初恋の相手、社長の弱みを握る為に頑張ります!!にゃんっ♥
財閥の分家の家に代々遣える“秘書”という立場の“家”に生まれた加藤望。
”秘書“としての適正がない”ダメ秘書“の望が12月25日の朝、愛している人から連れてこられた場所は初恋の男の人の家だった。
財閥の本家の長男からの指示、”星野青(じょう)の弱みを握ってくる“という仕事。
財閥が青さんの会社を吸収する為に私を任命した・・・!!
青さんの弱みを握る為、“ダメ秘書”は今日から頑張ります!!
関連物語
『お嬢様は“いけないコト”がしたい』
『“純”の純愛ではない“愛”の鍵』連載中
『雪の上に犬と猿。たまに男と女。』
エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高11位
『好き好き大好きの嘘』
エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高36位
『約束したでしょ?忘れちゃった?』
エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高30位
※表紙イラスト Bu-cha作
結婚して5年、冷たい夫に離縁を申し立てたらみんなに止められています。
真田どんぐり
恋愛
ー5年前、ストレイ伯爵家の美しい令嬢、アルヴィラ・ストレイはアレンベル侯爵家の侯爵、ダリウス・アレンベルと結婚してアルヴィラ・アレンベルへとなった。
親同士に決められた政略結婚だったが、アルヴィラは旦那様とちゃんと愛し合ってやっていこうと決意していたのに……。
そんな決意を打ち砕くかのように旦那様の態度はずっと冷たかった。
(しかも私にだけ!!)
社交界に行っても、使用人の前でもどんな時でも冷たい態度を取られた私は周りの噂の恰好の的。
最初こそ我慢していたが、ある日、偶然旦那様とその幼馴染の不倫疑惑を耳にする。
(((こんな仕打ち、あんまりよーー!!)))
旦那様の態度にとうとう耐えられなくなった私は、ついに離縁を決意したーーーー。
噂好きのローレッタ
水谷繭
恋愛
公爵令嬢リディアの婚約者は、レフィオル王国の第一王子アデルバート殿下だ。しかし、彼はリディアに冷たく、最近は小動物のように愛らしい男爵令嬢フィオナのほうばかり気にかけている。
ついには殿下とフィオナがつき合っているのではないかという噂まで耳にしたリディアは、婚約解消を申し出ることに。しかし、アデルバートは全く納得していないようで……。
※二部以降雰囲気が変わるので、ご注意ください。少し後味悪いかもしれません(主人公はハピエンです)
※小説家になろうにも掲載しています
◆表紙画像はGirly Dropさんからお借りしました
(旧題:婚約者は愛らしい男爵令嬢さんのほうがお好きなようなので、婚約解消を申し出てみました)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる