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2 桃色のチューリップ
しおりを挟む「ハワードさん。こんにちは。貴方オススメのお花を買わせてください」
作業台に置かれたコインと聞き覚えのある声につられ、顔をあげると以前会話した騎士のケレイブさんがいた。隊服を着ているので仕事が終わって寄ってくれたのかもしれない。
僕は首を小さく振って視界に入ってくる髪を避ける。
「でしたら、具体的でなくともどこに置きたいとか誰か特定の人へあげたいとかありますか?」
「うーん、何も考えてなかったんですよね。ハワードさんに贈るのは、ちょっとな。自分で持って帰ったりしてそうだし……俺の家に置いてみようかな。そうなると、なにがいいですか?」
「じゃあこの花がいいかもしれません。華やかですし、香りも少なくてオススメですよ」
外の1番目立たない所にあった桃色のチューリップを渡す。ここの街は百合や薔薇ばかりが出るからいつも僕の家に置いてあることが多い種類だ。でも、ケレイブさんの目的には丁度いい。
「でしたら、そちらをお願いします。あと、その。この前はすみませんでした。貴方を前にちょっと暴走してしまって」
パチン。茎をラッピングするために切った音が響く。
彼を見あげてみると悲しそうで思い詰めたように口を噤んでいた。
騒がしいこの場所で音が全く聞こえないのは珍しい。息をする音がいつもより大きく聞こえた。
「いえ、驚きましたけど無理やりなにかしてくるという訳ではなさそうなので。はい、出来ましたよ」
白の包装紙に包んだ薄い桃色のチューリップを渡した。
それを受け取ったケレイブさんは嬉しそうにでも怖々と花に触れ、崩れないよう胸元まで持ち上げた。
「そ、それなら良かったです。嫌われてたらもう恋人に、なんて言えないと思って。大丈夫なんでしたらまた言わせてください。俺、ハワードさんのことが好きです」
「……はい。ありがとうございます」
「では、また今度!チューリップもありがとうございました!」
パッと表情をニコニコと嬉しそうな笑みに変えたケレイブさんはお花を抱えて花街とは反対側に歩いていく。
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