上 下
7 / 15

3-1 休息の訪れ

しおりを挟む
 馬車が私を揺らす。ご飯や休憩の時間はあったが特に関係が進むことも会話も無く、数時間かかって街の宿らしき豪奢な建物の前で止まった。
「私たちはここで1晩休んで、明日王城へ向かいます」
「ああ。分かった」
「部屋は5部屋お願いしていますの。ラズ様、貴方様、御者の3部屋、私たち用としては2部屋」
「2部屋?」
「私とエリナ様は同室にいたしましたの。エリナ・フランシュ様がお嫌でしたら私の侍女でありますのでアリナと同室にいたしますけれど」
「……好きにしたらいい」
 王子様はペトラ様を当たり前のようにエスコートされて馬車を降りていく。口調は冷たいが動きは慣れたように綺麗だ。

「あいつらなんなんだよ。ずっと喧嘩腰でいやがって。めんどくさい関係してんな。はぁ……エリナ。手は握らないで置くようにしてくれ」
「あ、うん。ありがとう」
 私たちも彼女たちと同じようエスコートのため、手を取る。こんな服で良かったのだろうか。ソワソワと慣れない感覚をもって彼女たちに着いていく。高級そうな木で出来た家具が置かれ、ふかふかとしたカーペットが敷かれた宿は多分この国の中でも1級品のようだ。何もかもが違う。

「では、ラズ様、フレドリッヒ様、また明日お会いしましょう。私たちは今日は疲れもありますから部屋で夕食にいたしますので」
「そうだったのか。まぁ、それもそうだな。エリナ、おやすみ」
 チカチカと凄い景色に押されていると別れの時間となっていた。ご飯も部屋もそうなんだと何もかもが事後報告だ。

「えっと……うん。おやすみなさい」
「ペトラもしっかりと休息を取るように」
「……っ!え、ええ。もちろん。御手を煩わせるような真似はいたしません」
「それならいい。ではまた明日」
 彼らはくるりと踵を返して部屋へ向かっていく。

 私らそのクラクラとしているまま、ペトラ様とアリナさんに連れられ2階の端にある部屋に着いた。
 パタンと扉を閉じられて漸く3人だけになるとペトラ様は酷く疲れた顔を晒す。

「……エリナ様はここまでの道の何もかもを知らないのですよね。ごめんなさい。ご説明をしなければですよね。私からできる限りのお話をさせていただきますわ」
「え?」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

無理やり婚約したはずの王子さまに、なぜかめちゃくちゃ溺愛されています!

夕立悠理
恋愛
──はやく、この手の中に堕ちてきてくれたらいいのに。  第二王子のノルツに一目惚れをした公爵令嬢のリンカは、父親に頼み込み、無理矢理婚約を結ばせる。  その数年後。  リンカは、ノルツが自分の悪口を言っているのを聞いてしまう。  そこで初めて自分の傲慢さに気づいたリンカは、ノルツと婚約解消を試みる。けれど、なぜかリンカを嫌っているはずのノルツは急に溺愛してきて──!? ※小説家になろう様にも投稿しています

悪役令嬢の嫁、貰ってしまいました!

西藤島 みや
恋愛
アリアス侯爵は苦悩していた。はっきり言って妻が怖いのだ。 美しく、完璧で、できないことのない有能な妻の元に婿に行ったものの、ヒロインのことを諦めきれないでいる。しかも、それがどうやら妻にもバレていて、ヒロインは冷たくされているらしい。 いつかは絶対断罪してやる!…今は怖いからできないけど。 悪役令嬢もの?ですが、主人公は元クズ王子です。二度いいます。クズですし、ヒロインさんはかなり遣り手です。 転生でもやり直しでもない、きっちり悪役令嬢の新妻と、クズ侯爵がもだもだするだけのお話です。

【完結】悪役令嬢に転生したけど『相手の悪意が分かる』から死亡エンドは迎えない

七星点灯
恋愛
絶対にハッピーエンドを迎えたい! かつて心理学者だった私は、気がついたら悪役令嬢に転生していた。 『相手の嘘』に気付けるという前世の記憶を駆使して、張り巡らされる死亡フラグをくぐり抜けるが...... どうやら私は恋愛がド下手らしい。 *この作品は小説家になろう様にも掲載しています

猛禽令嬢は王太子の溺愛を知らない

高遠すばる
恋愛
幼い頃、婚約者を庇って負った怪我のせいで目つきの悪い猛禽令嬢こと侯爵令嬢アリアナ・カレンデュラは、ある日、この世界は前世の自分がプレイしていた乙女ゲーム「マジカル・愛ラブユー」の世界で、自分はそのゲームの悪役令嬢だと気が付いた。 王太子であり婚約者でもあるフリードリヒ・ヴァン・アレンドロを心から愛しているアリアナは、それが破滅を呼ぶと分かっていてもヒロインをいじめることをやめられなかった。 最近ではフリードリヒとの仲もギクシャクして、目すら合わせてもらえない。 あとは断罪を待つばかりのアリアナに、フリードリヒが告げた言葉とはーー……! 積み重なった誤解が織りなす、溺愛・激重感情ラブコメディ! ※王太子の愛が重いです。

魔王様は転生王女を溺愛したい

みおな
恋愛
 私はローズマリー・サフィロスとして、転生した。サフィロス王家の第2王女として。  私を愛してくださるお兄様たちやお姉様、申し訳ございません。私、魔王陛下の溺愛を受けているようです。 *****  タイトル、キャラの名前、年齢等改めて書き始めます。  よろしくお願いします。

不機嫌な悪役令嬢〜王子は最強の悪役令嬢を溺愛する?〜

晴行
恋愛
 乙女ゲームの貴族令嬢リリアーナに転生したわたしは、大きな屋敷の小さな部屋の中で窓のそばに腰掛けてため息ばかり。  見目麗しく深窓の令嬢なんて噂されるほどには容姿が優れているらしいけど、わたしは知っている。  これは主人公であるアリシアの物語。  わたしはその当て馬にされるだけの、悪役令嬢リリアーナでしかない。  窓の外を眺めて、次の転生は鳥になりたいと真剣に考えているの。 「つまらないわ」  わたしはいつも不機嫌。  どんなに努力しても運命が変えられないのなら、わたしがこの世界に転生した意味がない。  あーあ、もうやめた。  なにか他のことをしよう。お料理とか、お裁縫とか、魔法がある世界だからそれを勉強してもいいわ。  このお屋敷にはなんでも揃っていますし、わたしには才能がありますもの。  仕方がないので、ゲームのストーリーが始まるまで悪役令嬢らしく不機嫌に日々を過ごしましょう。  __それもカイル王子に裏切られて婚約を破棄され、大きな屋敷も貴族の称号もすべてを失い終わりなのだけど。  頑張ったことが全部無駄になるなんて、ほんとうにつまらないわ。  の、はずだったのだけれど。  アリシアが現れても、王子は彼女に興味がない様子。  ストーリーがなかなか始まらない。  これじゃ二人の仲を引き裂く悪役令嬢になれないわ。  カイル王子、間違ってます。わたしはアリシアではないですよ。いつもツンとしている?  それは当たり前です。貴方こそなぜわたしの家にやってくるのですか?  わたしの料理が食べたい? そんなのアリシアに作らせればいいでしょう?  毎日つくれ? ふざけるな。  ……カイル王子、そろそろ帰ってくれません?

悪役令嬢に転生したので、人生楽しみます。

下菊みこと
恋愛
病弱だった主人公が健康な悪役令嬢に転生したお話。 小説家になろう様でも投稿しています。

……モブ令嬢なのでお気になさらず

monaca
恋愛
……。 ……えっ、わたくし? ただのモブ令嬢です。

処理中です...