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1-1 突然の一報
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栄養素を考えるとポテトサラダに入れてもいいかと林檎を食材棚から見繕っていると遠くから激しく走る音がした。
「はぁっ、はあ。おい、大変!たいへんだっ!」
キッチンに走り込んで来たのはラズと同い年の騎士のジェダだ。彼は酷く焦っているのか調理台の前に止まったと思うとガターンとうるさく手を置いた。捲られた腕や真っ赤になった顔は汗でビシャビシャだし、息と服は乱れている。
そんな彼の明らかに異様な様子にじゃがいもの下準備をしていた父が声をかける。
「どうしたんだ。そんなに焦って」
「ラ、ラズが!ラズがっ!」
「ラズが?」
「ラズが勇者だって!」
「え?嘘……」
正確な意味を理解できないその言葉に戸惑う。何を言っているんだろう。ラズが。あのラズが?
だが頭の中で、先日見た新聞が過ぎる。早急に悪逆非道な魔王を倒す為、王は秘匿された条件の中、王国騎士が勇者を探していると。
そして、ジェダはお調子者でありながら嘘はぜったいにつかない。それに、今そんな嘘をついても意味が無い。だから、それは多分本当で。
だけど、まさかそんな。
「王子が広場でラズに任命してるんだ!これはエリナちゃんには言わないとと思って」
「な、ラズが勇者?どうして……」
私が声を喉を震わせていると父は息を吐き、私が落としてしまった林檎を拾い戻していた。
私はそこまで気が回らず床の石材を鳴らしながら体を後退させる。
もし、本当の本当にラズが勇者になったらラズはどこに行ってしまうの。ラズはどうなるの。私はなにができるの。
「あ、俺、他の奴にも伝えないとだからじゃあ!」
ジェダはバタバタと音を立てながらまたすごい勢いで去っていく。ただその事実を伝えに来ただけのようでそこの様子やラズ本人については何も教えてくれなかった。
ただ、彼から与えられたラズの情報が不安で怖くて頭から離れなくて。
目の前でジェダを見送った父はぐるぐると考え事を続ける私の肩を掴みくるりと私の体を扉に向ける。
「エリナ、気になるんだろう。ここはいいから彼奴の所に行ってきなさい」
「え……で、でも……」
「あいつもわざわざ呼びに来てくれたんだ。エリナ、行ってこい」
「う、うん。じゃあ、私行ってきます」
私はエプロンを取る事もなく教えてもらったようにラズの元に駆ける。
でも、ラズに会ってどうしたいのかとか、何故こんなに動揺しているのかとか、幼なじみなラズがここから出ていくことへの恐怖とか、それらがぐちゃぐちゃに混ぜられて私に伸し掛る。
そんな自分の中に生み出された不可解な感情が私を動かしていた。
「はぁっ、はあ。おい、大変!たいへんだっ!」
キッチンに走り込んで来たのはラズと同い年の騎士のジェダだ。彼は酷く焦っているのか調理台の前に止まったと思うとガターンとうるさく手を置いた。捲られた腕や真っ赤になった顔は汗でビシャビシャだし、息と服は乱れている。
そんな彼の明らかに異様な様子にじゃがいもの下準備をしていた父が声をかける。
「どうしたんだ。そんなに焦って」
「ラ、ラズが!ラズがっ!」
「ラズが?」
「ラズが勇者だって!」
「え?嘘……」
正確な意味を理解できないその言葉に戸惑う。何を言っているんだろう。ラズが。あのラズが?
だが頭の中で、先日見た新聞が過ぎる。早急に悪逆非道な魔王を倒す為、王は秘匿された条件の中、王国騎士が勇者を探していると。
そして、ジェダはお調子者でありながら嘘はぜったいにつかない。それに、今そんな嘘をついても意味が無い。だから、それは多分本当で。
だけど、まさかそんな。
「王子が広場でラズに任命してるんだ!これはエリナちゃんには言わないとと思って」
「な、ラズが勇者?どうして……」
私が声を喉を震わせていると父は息を吐き、私が落としてしまった林檎を拾い戻していた。
私はそこまで気が回らず床の石材を鳴らしながら体を後退させる。
もし、本当の本当にラズが勇者になったらラズはどこに行ってしまうの。ラズはどうなるの。私はなにができるの。
「あ、俺、他の奴にも伝えないとだからじゃあ!」
ジェダはバタバタと音を立てながらまたすごい勢いで去っていく。ただその事実を伝えに来ただけのようでそこの様子やラズ本人については何も教えてくれなかった。
ただ、彼から与えられたラズの情報が不安で怖くて頭から離れなくて。
目の前でジェダを見送った父はぐるぐると考え事を続ける私の肩を掴みくるりと私の体を扉に向ける。
「エリナ、気になるんだろう。ここはいいから彼奴の所に行ってきなさい」
「え……で、でも……」
「あいつもわざわざ呼びに来てくれたんだ。エリナ、行ってこい」
「う、うん。じゃあ、私行ってきます」
私はエプロンを取る事もなく教えてもらったようにラズの元に駆ける。
でも、ラズに会ってどうしたいのかとか、何故こんなに動揺しているのかとか、幼なじみなラズがここから出ていくことへの恐怖とか、それらがぐちゃぐちゃに混ぜられて私に伸し掛る。
そんな自分の中に生み出された不可解な感情が私を動かしていた。
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