緑色の砂

冬城さな

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「クッソォォ!! 次は絶対勝つ!!」

青い空に その声は響き渡った






「あぁ、そうしてくれ」

「勿論だ!!」
片膝を付きながら少年・アークは思わず拳を固める
一見満身創痍に見えるその体からは、まだ力が余っていることが伺えた

その視線の先には、腕を組んでアークを見下ろす少年・リシード
服にも体にも一切の怪我や汚れはなく、無傷と言うことは言わずもがな


また今日も、リシードとの圧倒的な力の差の前に、アークは敗北した





「ふぅ ってかもうちょっと優しくやってくれよ」
「わがまま言わない」
ピシャリとガーゼの上から叩かれれば、痛ぇと反射的にそこを押さえるアーク
穏やかな日差しの下、アークの怪我の手当ては終了した

「なぁ、姉さん」
「何?」
ふと横を見れば、自分とよく似た女性の顔が微笑む

言葉の合間を埋めるように風がさらさらと吹いた

「どうしたらリシードに勝てるんだろう」
「さぁ、どうでしょうね」

そもそも、アークは私より強いじゃない、と
口を尖らせて言われればそれもそうで

「悔しい」あいつがなんだろうと関係なしに
「うふふ」可愛い

笑ってる場合じゃねぇよ、と突っ掛かるも若干の年齢の差からか
逆にこっちがつっかかられた気分になる

アークは思わず、顔を背けた

「いいんじゃない、別に」
「何が?」
「強すぎて・・・何も目標が持てなくなるよりも」

頭の後ろから投げかけられるその言葉はとても穏やかで
アークの頭の中は興奮が溶け、冷静になりつつあった

「リシード君もそれを望んでる」
「本人が言ってるもんな」

 早く俺に勝て  、と


「こうしちゃいられねぇ」
ヨシッと勢いよく立ち上がるとアークは術の練習を行う中庭へ走っていった


「あのまま天狗にだったらとんだクズ人間になっちゃうと心配してたのに」
リシード君・・・いえ、彼を引き抜いた運命(さだめ)に感謝ね

くすくすと笑うその表情を穏やかな日輪の光が照らしていた






「おおおぉぉぉ!!!」
パチパチパチパチ
中庭から広がる歓声、そして拍手
術を思う存分放てるようにと、広く作られたそれ全体に響き渡っていた


「何だ?どうした?」
いつも以上に多いその人ごみに、アークは違和感を感じながらも
その歓声の中心に視線を集中させる

「あ、アーク様」
感動の面の中に、刹那に見えた困惑の面
言いたい事ははっきりしているのだが、相手を思うと上手く切り出せず、
どう表現したらいいか、どう伝えたらいいか明らかに戸惑っている事がわかる

(・・・まさか)
また、あいつ何かしたのか?

アークの心にさっき自分に圧勝した相手の顔が浮かぶ
「おし、えてくれない、か?」
「あ、はい え・・・っと」


「先ほど、リシード様が放出系、防御系、共鳴系の高位三重魔術に成功しまして・・・」


三重・・・・・・っ
しかも高位だと・・・・・・
高位なんて単発でも難しいのに

先ほど歓声を上げていた群衆もアークの登場を知ったのか
早々とその場を去りつつあった

この家の息子・アークの機嫌をなるべく損ねてはならないというのは、
そこに使える者の暗黙の了解で

厄介ごとに巻き込まれたくないというのも、当然の本音だった



アークの頭の中を色んな思考が駆け巡っている間に、
中庭にはアークとリシードの2人だけになった

さっき戦ったばかりなのに、自分よりも難しい高度な技も使っていたはずなのに
どうしてその後に高位三重魔術などというものができるのか

(俺はまだ下位でも三重なんて時々しかできないんだぞ・・・っ)
この家の血をひいているのは確かに自分なのに
幼いころから毎日(半分以上親の強制だったが)魔術の特訓をしてきたのに

悔しさはとっくに心の殻を破り、表情にまで出てきていた

「・・・・・・言われたから」
「?」
「できるんじゃないか?って言われたから、軽い気持ちでやってみただけだ」
そっけないリシードの言い方に、アークの思考は止まった

あぁ、これが 天才 か・・・

凡人の全ての努力を軽く超えてゆく
そう、凡人が一生懸命壁を登っても、天才は羽でも生えているかのように
簡単に上に上ってしまう



「こんなもの、実戦では使えないな」隙がありすぎる
見た目は派手だが、と独り言をいうようにポツリという彼に全くの疲れの様子はなく

「俺は!!」
「あぁ、頼む」
「まだ何も言ってねぇ」

ん?とリシードはアークを見るとやはりいつもどおりの表情がそこにあった
無理しなくていいのに・・・と思うが、そんなこと言うわけにはいかない事はわかっていた



相手が加減したから勝ったなんて意味がない

勝負にわざと負けるなんてことができず、ついつい本気を出してしまう


結局、アークが実力でリシードを負かす他にないのだ
それは、アークの目標であり、リシードの望みでもある


「明日こそ、お前に勝つ!!」いいや今から勝負だ!!
「あぁ いいぜ」いつでも受けてやる

どうせ負けるならアークに負けたい、とリシードはアークとの距離をあける
術師にとって、相手との距離は重要である

近すぎず、遠すぎず
何度も何度も戦っているうちに、勝負の時の丁度いい開始距離を
お互いが無意識のうちに覚えてしまった


距離をあけてから数秒後、ふたりの呪文が中庭に響き渡った
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